科学的根拠のない地球温暖化のCO2原因説を政治的に支持する菅首相の「温室効果ガス2050年ゼロ」が求める日本の「2050年グリーン成長戦略」のなかで開発・利用されるとする「水素エネルギー社会の創設」は幻想に終わります。いや、終わらせなければなりません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 地球温暖化対策としての温室効果ガス(その主体は二酸化炭素(CO2))の削減のための「水素社会の創設」がEU諸国を中心に世界で求められるようになりました

⓶ 枯渇する化石燃料代替のエネルギー源として用いられる再生可能エネルギー(再エネ)電力では賄えない鉄鋼生産での石炭の代替としての水素が求められています

⓷ 国産の再エネ電力では国内のエネルギー需要が賄えないとする水素の輸入が、国策事業として進められています。いま、「新型コロナウイルス問題」での第3波の収束の目途が立たず、緊急事態が宣言されるなかで、日本が、世界各国に向かって訴えるべきことは、「水素社会の創設」を含む「2050年グリーン成長戦略」に代わって、世界の全ての国が、残された化石燃料を、公平に分け合って大事に使い、貧富の格差のない平和な世界を創ることを世界に訴えることです

 

(解説本文);

⓵ 地球温暖化対策としての温室効果ガス(その主体は二酸化炭素(CO2))の削減のための「水素社会の創設」がEU諸国を中心に世界で求められるようになりました

科学的根拠のない「地球温暖化のCO2原因説」を政治的に支持する菅首相の「温室効果ガス2050年ゼロ」が求める日本の「2050年グリーン成長戦略」のなかで、日本のエネルギー基本計画として、いま、盛んに喧伝されているのが、「水素社会の創設」です。

ところで、水素が、未来のエネルギー源として用いられるようになるだろと言われるようになったのは、産業革命以降、エネルギー源の主役となってきた化石燃料の枯渇が迫ることが明らかになってからでしょう。私どもの一人、久保田が編集した書、『選択のエネルギー(文献 1 )』の 第6章 「エネルギー開発技術の限界」 のなかで、化石燃料資源の枯渇後、“水素はエネルギー資源ではない” ことを、下記のように記述しています。

“ 水素は未来のエネルギー源になるであろうとよくいわれる。 原料は無尽蔵にある水に求められ、これを分解して得た水素燃料では資源の枯渇を心配する必要がない。水素は燃やせば元の水に戻るだけなので無公害の燃料として、クリーンなエネルギー・システムが構成できるという。しかし、ここで間違ってならないことは、この場合の燃料としての水素はあくまでもエネルギー伝達の媒体にすぎず、水素を製造するためのエネルギー源を他に求めなければならないことである。”

「水素エネルギー社会の創設」が幻想に終わる理由が、1987年に発行されたこの書(文献 1 )の上記の記述から必要十分に明らかにされたのです。

しかし、2013年の暮れに、トヨタ自動車が、水素を燃料とする燃料電池車(FCV)「ミライ」を市販すると、これに試乗した安倍晋三元首相は、このFCVが、彼が主張するアベノミクスのさらなる成長を実現可能とする「未来の車」だとして、大はしゃぎしたのです。これに対して、私どもの一人、久保田は、当時、環境問題についての執筆者の一人に加えさせて頂いていた国際環境経済研究所のウエブサイトieei に、この「水素社会の創設」は幻想であるとの論考の掲載をお願いしたところ、この研究所が経済的な支援を受けている経団連の方針に反するとして、掲載を断られました。止むを得ず、久保田が所属する「もったいない学会」のウエブサイト「シフトムコラム」に、「どう考えてもおかしい水素社会」として、この「水素社会の創設」を批判する論考4 報(文献 2 – 1 ~文献 2 – 4 )を発表しました。

これらの久保田の論考が発表された当時は、この私の主張に反対する意見は余りありませんでした。この時から、国内でこの「水素社会の創設」を訴えていたのは、水素社会のなかで重要な役割を占めるFCV用の水素燃料ステーションを国の補助金を貰ってつくっている企業などでした。「水素社会の創設」に熱心だった安倍元首相は、東日本の大震災による原発事故の被災地の福島に原発電力代替の温室効果ガス(CO2)フリーを目的とした再生可能エネルギー(再エネ)電力の生産基地を作りました。さらに、2017年には、「水素基本戦略」を制定し、この福島の再エネ電力生産事業などをNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー産業技術総合開発機構)の国策事業として、「水素社会の創設」に関わる民間企業を国費で支援しています。このような、安倍元首相による「水素社会の創設」は、国費の支給が無ければ成り立たない国策事業だったので、この事業に従事している企業の人々も、私どもが訴える「水素社会の幻想」に反対するには、遠慮があったのではないでしょうか?

ところで、最近、国内でも、この「水素社会の創設」の必要性が盛んに訴えられるようになったのは、EU諸国で、その流れがつくられたからといってよいでしょう。それは、昨今、スウエーデンの少女グレタさんを英雄に祭り上げてつくられた世界の流れ「地球温暖化の脅威」です。いま、日本で「水素社会の創設」を訴えるようになったメデイアも、このEU諸国の現状を紹介して、日本がその流れに乗り遅れるなと訴えています。それが、国内では、昨年(2020年)暮れに菅政権により発表された「エネルギー基本計画」としての脱炭素化社会を求める「2050年グリーン成長戦略」のなかの「水素社会の創設」に繋がっているのです。

 

⓶ 枯渇する化石燃料代替のエネルギー源として用いられる再生可能エネルギー(再エネ)電力では賄えない鉄鋼生産での石炭の代替としての水素が求められています

 EU諸国で、温暖化対策として、CO2排出量が多いとして、真っ先に槍玉に挙げられた石炭火力発電を廃止するための再生可能エネルギー(再エネ)電力のいますぐの利用とともに要請されるようになったのが、鉄鋼産業における鉄鉱石の還元のための石炭(原料炭)の利用です。この製鉄用の原料炭の代替としての水素の利用です。

上記(⓵)したように、本来であれば、未来のエネルギー源となり得ない水素が、現用のエネルギー源の主体を担う化石燃料の代替として、やがてやってくるその枯渇後の世界で用いられる必要があるとしたら、それは、この製鉄用の鉄鉱石の還元用の水素の利用です。

いま、地球温暖化対策としての脱炭素化の流れのなかで、この製鉄用の石炭の代わりに水素を用いるべきとのとの話が、上記(⓵)の化石燃料の代替のエネルギー源としての水素の利用が問題になった頃からありました。化石燃料が無くなるのですから、その代替の原子力エネルギーを利用して、水を高温で熱分解して水素を製造する高温ガス原子炉の開発が、原子力エネルギー技術開発の課題として取り上げられ、いまでも継続しています。それは、この高温ガス炉は、現在、用いられている軽水炉のように、炉心溶融のような過酷事故を起こさないからとされています。

いずれにしろ、私どもの前報(文献3)に記しましたように、化石燃料としての石炭を使用しても、その使用量を節減すれば、地球温暖化の脅威が起こらないことが明らかになった以上、鉄鋼生産用の石炭の使用では、脱炭素化が目的とする地球温暖化の脅威は起らないと考えることができます。したがって、今後、世界が鉄鋼生産量を増加させるような経済成長を求めない限り、製鉄用の石炭の代替の水素の利用は不要と考えてよいでしょう。なお、日本エネルギー研究所編のエネルギー経済統計要覧(文献 4 )に記載されている化石燃料としての石炭の、現在の技術力で経済的に採掘可能な「確認可採埋蔵量」の最新(2018年末)の値は、113年で、原料炭を含む石炭が、同年の石油の50.0年や天然ガスの50.9年の2倍以上の比較的豊富な資源量を持っていることを付記します。

 

⓷ 国産の「再エネ電力」では国内のエネルギー需要が賄えないとする水素の輸入が、国策事業として進められています。いま、「新型コロナウイルス問題」での第3波の収束の目途が立たず、緊急事態が宣言されるなかで、日本が、世界各国に向かって訴えるべきことは、「水素社会の創設」を含む「2050年グリーン成長戦略」に代わって、世界の全ての国が、残された化石燃料を、公平に分け合って大事に使い、貧富の格差のない平和な世界を創ることを世界に訴えることです

以上から判って頂けるように、やがて枯渇するエネルギー源としての化石燃料の石油や天然ガスの代わりに海外でつくった水素を輸入するような科学技術の常識からは考えられない無駄なことをやろうとしているのは、日本だけだと考えてよいでしょう。具体的には、オーストラリアにある採掘コストがゼロに近いとされる褐炭を原料としてつくった安価な水素を液化して、日本がつくった液化水素専用の輸送船で日本にもってくる計画が、国策事業として進められています。

確かに、オーストラリアで、褐炭から造られた水素は、日本で再エネ電力による水の電気分解で造られる水素より安価かも知れません。しかし、それを液化して液化水素専用船で運んでくる際の液化や運搬のコストを加算すると、合計のコストは、決して安いとは言えないでしょう。したがって、もし、国内で石油や天然ガスの代わりに、再エネ電力を使わなければならないのであれば、国内で生産される再エネ電力を、そのまま電力として使うための蓄電池を搭載した電気自動車(BEV)を走らせた方が、再エネ電力で造った水素で、燃料電池車(FCV)を走らせるより、遥かにエネルギー利用の総合効率が良いはずです。ただ、燃料あるいは電力の一回充填当たりの走行距離で、FCVがBEVを上回るという利点があるかも知れませんが、その問題でいうなら、石油で走る内燃機と蓄電池付きの電動機を組み合わせた、トヨタが開発したハイブリッド車(HV)を当分の間使うことが、エネルギー効率も、経済性もよいと考えられます。したがって、最終的な蓄電池を用いる電気自動車(BEV)への移行は、市場経済原理に任せればよいのです。

さらに、この海外からの水素の輸入の計画には、中東のサンベルト地帯で、太陽熱発電の電力による水の電気分解で造られる水素を、トルエンに化学反応により結合して、日本にもってくることが実証試験を含めて行われようとしています。中東諸国にとっては、石油や液化天然ガス(LNG)が枯渇後の輸出製品になるとの期待を持たせることになると考えられていますが、それも幻想に終わるでしょう。

では、どうして、このような、日本経済にとってマイナスしか与えないような、「水素社会の創設」が、国策事業の「2050年グリーン成長戦略」として菅政権によって進められようとしているのでしょうか? それは、日本が世界に誇るべき平和憲法を改正して、国家安全保障のためとしての軍備の増強を図ってきた安倍晋三元首相のアベノミクスのさらなる成長戦略を盲目的に継承している菅義偉首相が、経済成長とは両立しない地球環境(地球温暖化)問題にお金を使うことが、「新型コロナウイルス問題」による経済の落ち込みと重なって、大幅な国家財政の赤字を積み増している厳しい現実を無視しているからです。

いま、突然起こった「新型コロナウイルス問題」での感染者数の増加が継続するコロナ問題の第3波の収束の目途が立たず、政府が緊急事態宣言を発せざるを得なくなったなかで、日本が、世界各国に向かって訴えるべきことは、日本経済に大きな無駄をもたらす「水素社会の創設」を含む「2050年グリーン成長戦略」に代わって、世界の全ての国が、残された化石燃料を、公平に分け合って大事に使い、貧富の格差のない平和な世界を創ることを世界に訴えることでなければなりません。

これが、いま、技術立国を唱えて、化石燃料のお陰で、経済成長を続けてきた日本が、やがて確実にやって来る化石燃料枯渇後の世界での人類生存の危機を救う唯一の道でなければなりません。

 

<引用文献>

1.久保田 宏 編;選択のエネルギー、日刊工業新聞社、1987年

2-1.久保田 宏; 「水素元年」などとはしゃいでいるのは、化学工業の歴史を知らない人の妄想である、シフトムコラム、2015,3,24

2-2.久保田 宏; 水素社会のフロントランナーFCVはどうやら見果てぬ夢で終わる、シフトムコラム、2015,3,24

2-3.久保田 宏; エネファームは、「家庭用のオール電化」訴えている電力会社に対抗する都市ガス会社の企業戦略であった、シフトムコラム、 2015,3,24

2-4.久保田 宏; 「はじめに燃料電池ありき」から導かれる「水素社会」の幻想、シフトムコラム、2015,3,24

3.久保田 宏、平田賢太郎;科学的根拠のない地球温暖化のCO2原因説を政治的に支持する菅首相の「温室効果ガス2050年ゼロ」が求める日本の「2050年グリーン成長戦略」は幻想に終わります。現代文明社会を支えてきた化石燃料の枯渇が迫るなかで、日本が、人類の生き残りのために貢献できる道は、全ての国が、地球上に残さされた化石燃料を、公平に分け合って大事に使い、貧富の格差の無い平和な世界を創ることを世界の政治に訴えることです シフトムコラム、2020,1,6

4.日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧、省エネルギーセンター、2020年

 

ABOUT  THE  AUTHOR

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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