科学の非常識としか言いようがない国際政治が求める脱炭素社会の要請は人類の生き残りのための条件でありません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ いま、国際政治が求めている脱炭素社会創造の要請に応えても、地球温暖化を防止できるとの科学的な保証はありません

⓶ 枯渇する化石燃料の代替として期待された原子力エネルギーは、その目的に対しても、また、脱炭素社会のエネルギーとしても、用いられるべきではありません

⓷ 脱炭素社会が求める再生可能エネルギーの利用は、化石燃料の枯渇後のその代替としての利用でなければなりません

⓸ 脱炭素社会のエネルギー源として開発・利用されようとしている「水素エネルギー社会」は、科学の非常識の典型例以外の何ものでもありません

⓹ 科学の非常識と言わざるを得ない脱炭素社会の創造では、この国策に関与して政治に支配されている科学者、科学技術者の責任が厳しく問われなければなりません

 

(解説本文);

⓵ いま、国際政治が求めている脱炭素社会創造の要請に応えても、地球温暖化を防止できるとの科学的な保証はありません

世界中の気象観測データから、近年、顕著になっている地球温暖化を防止するための脱炭素社会を創る国際政治の要請の根拠となっているのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)に所属する世界中の気象学者が主張する地球温暖化の温室効果ガス二酸化炭素(CO2)に原因があるとする、いわゆる「地球温暖化のCO2原因説」です。この「温暖化のCO2原因説」は、科学技術の分野において広く用いられている物理化学現象におけるシミュレーションモデル計算の方法を、地球上の気候変動現象に適用して、スーパーコンピューターを用いて解いた結果から導かれたものです。しかし、この計算結果として得られた地球大気温度の上昇が、大気中のCO2濃度の上昇に起因するとの観測データによる裏付けが得られていません。したがって、IPCCが訴えるように、化石燃料の消費に伴って生じるCO2の排出を削減しても、地球温暖化を防止できるとの科学的な保証はありません。

さらには、このIPCCが主張する、「温暖化のCO2原因説」が正しかったとしても、私どもが主張するように、世界のCO2排出の原因となっている化石燃料の年間消費量を、今世紀いっぱい、現在(2012年)の値以下に保てば、IPCCが人類が耐え得るとしている気温上昇の値、現状からの2 ℃以内に保つことができます。すなわち、いま、人類の生存にとって大事なことは、CO2の排出削減ではなく、化石燃料消費の節減なのです。具体的には、地球温暖化対策としての「パリ協定」のCO2排出削減の目標値を、CO2の排出量から、化石燃料消費の節減量に換えることです。すなわち、昨年来、16才の少女、グレタ・トウーンベリーさんが世界に訴えた、CO2の排出削減の要請は、人類の生存にとって必要の無い科学の非常識と言わざるを得ないのです。詳細は、私どもの近刊(文献 1 )をご参照下さい。

 

⓶ 枯渇する化石燃料の代替として期待された原子力エネルギーは、その目的に対しても、また、脱炭素社会のエネルギーとしても、用いられるべきではありません

上記(⓵)したように科学にとっての非常識としか言いようがない、脱炭素社会への移転が、国連に所属するIPCCの主導によって、地球温暖化の防止対策として国際政治の場で求められています。しかし、いままで、世界経済が求める成長のためのエネルギーとして使われてきた化石燃料は、やがて枯渇の時を迎えます。この化石燃料の代替として、永遠のエネルギーを供給するとして、大きな期待を集めて、国際政治の支援を受けて開発されたのが、第2次世界大戦で軍事兵器として開発された原子爆弾(原爆)に用いられた原子力エネルギーの平和利用でした。太陽を地上に下ろすと言われ、半永久的なエネルギーを供給する夢の原子力エネルギーの利用と言われた核融合反応の利用は、世界中の原子力科学者の国際的な協力のもとで進められていますが、その実用化の目途は全く立っていません。現在、実用化・利用されているのは、第2次大戦でヒロシマで使われたウランを核燃料とする軽水炉とよばれる原子力発電(原発)です。福島で過酷事故を起こしたこの軽水炉では燃料の天然ウランの中に僅か0.7 %しか含まれていないU235のみしかエネルギー利用されませんから、今後も、世界が現状の原発電力消費量を継続するとして、軽水炉原発電力を利用できる期間は、天然ウランの確認可採埋蔵量(現状の科学技術の力で、経済的に採掘可能な資源量)の値から、70年程度に止まると計算されます。したがって、この軽水炉の実用化利用が始まってすぐから、天然ウラン中の不活性なU238を、ナガサキ原爆に使われたプルトニウム239に変換して利用することを目的とした高速増殖炉の開発・利用が、日本でも、実証試験規模で行われました。ところが、相次ぐトラブルで、当面の実用化は断念された状況になっています。これは、世界でも同様で、現状で、実用化されている原子力エネルギーの利用は、軽水炉原発のみです。

しかし、この軽水炉原発も、東電福島第1原発に見られる大きな過酷事故発生で、その事故リスクの大きさが厳しく認識され、この事故時の補償金額や核燃料廃棄物の処理・処分の方法およびこれらの金額の算定の見通しがつかない現状では、化石燃料代替のエネルギー源としての原子力エネルギーの利用は考えられません。したがって、CO2を排出しないとする原子力エネルギーの利用が、化石燃料枯渇後の世界で、温暖化防止のための脱炭素社会の実現ために利用されることはないと考えるべきです。では、何故、このような科学の非常識としか言いようのない原子力エネルギー利用が、科学技術立国の日本で、行われるのでしょうか? それは、原子力村の住人とよばれる先生方が、自分たちの権益を守るために、政治と結託して原発電力の利用を推進しているからです。結果として、世界一高い市販電力料金が国民に押し付けられているのです。

以上、詳細については、私どもの近刊(文献 2 )をご参照ください。

 

⓷ 脱炭素社会が求める再生可能エネルギーの利用は、化石燃料の枯渇後のその代替としての利用でなければなりません

いま、地球温暖化防止のための脱炭素社会を創るために、再生可能エネルギー(再エネ)の利用が言われるようになって、先ず、用いられるようになったのは、石油危機時に、自動車用燃料として大量に用いられているガソリンやジーゼル油などの石油系燃料の代替としての「バイオ燃料」でした。しかし、有限の化石燃料としての石油資源の枯渇が言われるなかで、再生可能とされるバイオマスを原料とした石油代替の「バイオ燃料」は、地球温暖化対策としての脱炭素社会を創るための国策、「バイオマスニッポン総合戦略」として、農林省の官僚主導で、2005 ~ 2010の6年間に約6.5兆円の巨額の国費を注ぎこんで行われましたが、何の有効な成果を上げることなく消滅しました。食料や産業用の木材を輸入に依存する日本だけでなく、世界全体で、現代文明社会を支えるエネルギー源を林業生産物や農作物遺体などのバイオマスに依存することは、産業構造を、産業革命以前のエネルギー供給の時代に戻す科学の非常識以外の何ものでもないのです。以上についての詳細は、私どもの一人の久保田らの著書(文献 3、文献 4 )をご参照下さい。

この幻想に終わったバイオマスエネルギーに代わって出てきたのが、科学技術の発達によって、その生産コストが年次低下して、化石燃料を用いる火力発電の代替として使用が可能となると期待されるようになった、太陽光発電や風力発電などの「再生可能エネルギー(再エネ)電力」です。現状では、未だ、化石燃料を用いた火力発電に較べて、その発電コストが高いこの「再エネ電力」が、いま、政治による「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」を適用して、市販電力料金の値上で消費者(国民)の経済的な負担のもとで、地球温暖化防止に貢献するとして、その利用の拡大が図られています。

しかし、⓵で述べたように、この「再エネ電力」の利用が、地球温暖化防止対策としてでなく、いま、その枯渇が迫って、そのエネルギー価格(単位エネルギー供給量当たりの価格)が高騰している化石燃料の代替として用いられるのであれば、そのエネルギー価格が、化石燃料のそれよりも安くなってからの「FIT制度」の適用無しの利用・拡大でよいのです。すなわち、「FIT制度」の適用で、市販電力の値上で国民に経済的な負担を強いる「再エネ電力」を、いますぐ、生産・利用する必要は無いのです。

 

⓸ 脱炭素社会のエネルギー源として開発・利用されようとしている「水素エネルギー社会」は、科学の非常識の典型例以外の何ものでもありません

いま、科学技術万能の妄想のもとで、脱炭素社会で用いられようとしている科学の非常識の典型例に「水素エネルギー」あるいは「水素エネルギー社会」があります。その利用により温室効果ガスのCO2を排出しない水素を燃料として使えば、地球温暖化が防止できる脱炭素社会が実現できるとするものです。石油を燃料として、CO2を大量に排出している自動車を、水素を燃料とする燃料電池車に変換すれば、脱炭素社会に近づくことができるとしています。世界の自動車産業界をリードするトヨタが開発した燃料電池車の “ MIRAI ” に試乗した当時(2013年)の安倍晋三首相が、これを ”未来の車” だとした宣伝に乗って、マスメデイアが創り出しのが「水素エネルギー社会」です。早速、在来のガソリンスタンドに代わって、”水素スタンド“ まで出現しました。

現在、世界の食料生産に欠かせない窒素肥料のアンモニアの製造の化学工業原料としての水素(H2)は、化石燃料のメタン(CH4) を主成分とする天然ガスから造られています。それが最も安価な水素の製造法だからです。しかし、やがて化石燃料としての天然ガスが枯渇に近づけば、その代替としての「再エネ電力」を用いた水(H2O)の電気分解から水素を造らざるを得なくなります。であれば、直接、「再エネ電力」を使って、電気自動車を走らせる方が、エネルギー消費が少なくて済むと考えるのが科学の常識です。

なお、この「再エネ電力」を、発電効率のよい海外で生産し、それを水素に変換して日本に持ってくることも考えられています。具体的には、中東において、太陽熱発電を利用して生産した「再エネ電力」を水素に変換して、その水素を化学合成反応で有機化合物にくっつけて、日本に輸送して、エネルギーとして利用する計画です。こんな複雑な工程を経て、日本に運ばれる水素のエネルギー価格がいくらになるかの計算がされているのでしょうか? 再エネ電力は、自国で生産・利用することではじめて、化石燃料枯渇後の輸入化石燃料の代替として利用できるのです。この「水素エネルギー」の輸入計画は、私ども科学技術者の目から見れば、信じることのできない科学技術の非常識と言わざるを得ません。

 

⓹ 科学の非常識と言わざるを得ない脱炭素社会の創造では、この国策に関与して政治に支配されている科学者、科学技術者の責任が厳しく問われなければなりません

では、なぜ、このような科学(および科学技術)の非常識と言わざるを得ない脱炭素社会の実現を目的としたエネルギーの開発事業が国策事業として実施されなければならないのでしょうか? 事業利益を目的として行われる民間の開発事業であれば、このようなことは起こりません。それは、民間の開発事業では、それを実施する前に、必ず、費用対効果を考慮した事業化可能性調査(Feasibility study(FS))と呼ばれる事前評価の調査研究が行われるからです。ところが。国策の開発事業では、速やかな開発の推進が優先されるために、このようなFSが省略されるのです。

この典型例を、先の⓶で記述した自動車用の「バイオ燃料」の開発に見ることができます。すなわち、石油危機のときに、石油代替の燃料として、その開発・利用が否定された「バイオ燃料(バイオマスを原料として造られるアルコ―ルなど)」の開発・利用が、地球温暖化防止のための脱炭素社会の創造を目的とした国策プロジェクト、「バイオマスニッポン総合戦略」として進められた時、日本では、この国策プロジェクトの推進をリードしていたのが、最高学府の先生だったために、この「バイオ燃料」の開発の可否を議論する過程が省略されたと考えられます。一方で、この「バイオ燃料」に関連した開発研究費が、政府からこの先生のお弟子さんらに配られていました。

この政治とお金の関係は、実は、脱炭素化社会の創造の要請でも、同様に行われています。IPCCに所属する気象学の専門家と称する先生達による、気候変動のシミュレーションモデル計算による解析には、スーパーコンピューターの使用などで大変なお金が必要です。したがって、このお金を、国連を通して、各国政府から出させるために、IPCCは、どうしても、地球温暖化がCO2に起因しなければ困るのです。このような、政治と科学者の金銭的な結びつきが、この地球温暖化のCO2原因説で、ノーベル平和賞を受賞したIPCCに、地球温暖化を防止して平和な世界を創るためには脱炭素社会の創造が必要だと言わせているのだと主張される、IPCCの国内委員の一人である杉山太志氏は、 IPCCが主張する大気中のCO2濃度の上昇に起因する地球大気温度の上昇は、IPCCに所属する気象学者がつくりあげた「温暖化物語」であるとした上で、“ 温暖化は、ゆっくりとしか起きない。温暖化の理由の一部はCO2だが、その程度も、本当の理由もわかっていない。過去、被害はほとんど生じなかった。今後についてもさしたる危険は迫っていない。技術開発を軸として、排出削減は、安価な範囲に止めることが適切だ ” として、さらに、“ 科学者は、科学を貫いて、時には一身を賭して権威・権力と対決しなければならないことがある。ガリレオやダーウインも然りだ。既存の「温暖化物語」にぶら下がり、安逸をむさぼることは科学に対する犯罪行為だ。” と主張しています。

本稿の⓵でも述べたように、IPCCによる地球温暖化のCO2の原因説が正しかったとしても、脱炭素化によって、温暖化を防止できるとの科学的な根拠は存在しないと訴える私どもは、脱炭素社会の要請を人類の生き残りの条件として、「温暖化物語」にぶら下がり安逸をむさぼる科学者、科学技術者の責任を厳しく追求する、この杉山氏の主張を支持せざるを得ません。

 

<引用文献>

  1. 久保田 宏、平田 賢太郎;温暖化物語が終焉します. いや終わらせなければなりませんー化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります、Amazon Kindle版電子出版。2019年11 月
  2. 久保田 宏 平田 賢太郎; 原発ゼロ実現の道—アベノミクスのさらなる成長の政治目的のための原発維持政策の終焉が求められます。Amazon Kindle版電子出版, 2019年、12月,
  3. 久保田 宏、松田 智;幻想のバイオ燃料―科学技術的見地から地球温暖化対策を斬る、日刊工業新聞社、2009 年
  4. 久保田 宏、松田 智;幻想のバイオマスエネルギー ―科学技術の視点から森林バイオマス利用の在り方を探る、日刊工業新聞社、2010 年
  5. 杉山太志;「温暖化物語」を修正すべし、ieei、2019,07,01

 

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久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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