「レジ袋の有料化」の問題に触発された廃プラの処理・処分が、海洋環境汚染対策の問題としてクローズアップされました。プラスチック消費大国日本は、この問題にどう対処すべきかについて考えてみます

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ プラスチック廃棄物(廃プラ)の海洋汚染の問題に関連して、原田環境相が、「レジ袋の有料化」の義務化を言い出しました。しかし、その具体策が示されないままの、日本が、この問題に真剣に取り組んでいますとの国際的な体裁を保つための対応だと言ってよいでしょう

⓶ 現用のプラスチック原料を用いたレジ袋の使用を前提とした「レジ袋の有料化」のみでは、廃プラによる海洋汚染問題の根本的な解決はできません。レジ袋と同じく、大量に使われている食品包装容器等も海洋汚染対策の対象とされなければなりません

⓷ 海洋汚染をもたらすポイ捨て(不法投棄)の対象になるレジ袋を含む食品容器包装用のプラスチックフイルムなどの廃棄の問題を根本的に解決するためには、その原料を生分解性にするとともに、その使用量の最小化を図ることが求められます

⓸ 途上国に輸出された日本の廃プラによる海洋汚染は、本来、自国の責任で処理・処分すべき廃プラを、プラスチック原料として合法的に処理・処分しようとした安易な対応で起こったのです。中国における廃プラの輸入禁止を機会に、日本が、全ての廃棄物について、自国の責任で処理・処分するとの当然の義務を守ることで解決すべきです

⓹ 有限な化石燃料を原料とするプラスチック廃棄物問題の根本的な解決は、廃プラの完全リサイクルを実現する以外にありません。これが、現代文明社会の寵児、プラスチック製品が化石燃料枯渇後に生き残る道でなければなりません

 

(解説本文);

⓵ プラスチック廃棄物(廃プラ)の海洋汚染の問題に関連して、原田環境相が、「レジ袋の有料化」の義務化を言い出しました。しかし、その具体策が示されないままの、日本が、この問題に真剣に取り組んでいますとの国際的な体裁を保つための対応だと言ってよいでしょう

6月1日(2019年)、原田環境相が、全国の事業者に「レジ袋の有料化」を義務付けると発表しました。しかし、その課金の額(具体的には、レジ袋の販売価格)をどう決めるか等は、業者に決めさせるなどの肝心な対応は、あなた任せになっています。したがって、この日本における「レジ袋の有料化」は、いま、大きな国際問題になっているプラスチック廃棄物(廃プラ)の処理・処分と、その不徹底による海洋汚染がどれだけ有効に防止できるかが評価されないままに、他の先進国がやっているから、わが国も、それに追従すべきだとの国際的な体裁を保つための政治的な対応以外の何ものでもないと言ってよいでしょう。

実は、この問題について、私どもは、先に、この「もったいない学会のシフトム」で、

 

日本のエネルギー政策の混迷を正す(補遺その 9 )石油の枯渇が迫るなかで現代文明社会に欠かせないプラスチックの利用を継続させるためには、「レジ袋の有料化」を契機として、プラスチックの完全リサイクルシステムを創ることが求められます  2018,11,4

(以下、「前報」と略記)

 

として私見を述べさせて頂きました。

本稿では、この問題について、この「前報」に若干の補遺的な考察を追加させて頂きます。

 

⓶ 現用のプラスチック原料を用いたレジ袋の使用を前提とした「レジ袋の有料化」のみでは、廃プラによる海洋汚染問題の根本的な解決はできません。レジ袋と同じく、大量に使われている食品包装容器等も海洋汚染対策の対象とされなければなりません

廃プラの減量化を目的とした「レジ袋の有料化」は、2006年頃から、環境問題の政策課題として取り上げられたようです。しかし、この対策での廃プラの削減量が評価できないままに、商店の手を煩わせるだけだとの産業界の反対で、この「レジ袋有料化」の義務付けは実行されませんでした。「前報」でも述べましたように、現用のレジ袋の製造原価は、せいぜい、一枚1 ~ 2円程度と推定されますから、これを消費者にサービスとして無料で提供しているスーパーやコンビニにとっては、殆ど経済的な負担になりません。また、レジ袋を有料化しても、その購入を止める消費者は少ないでしょうから、レジ袋使用量の削減効果は余り期待できません。

もちろん、レジ袋の販売価格を高くすれば、それが商品の値段に転嫁されることを嫌う消費者が、レジ袋の購入を止めて、持参の買い物袋(エコ袋)等を使用するようになればよいのですが、逆に、消費者が、レジ袋価格を無料で、或いは安く提供する店に移ってしまうことになりかねません。これが、いま、「レジ袋の有料化」が義務付けられていない現状では、レジ袋を有料化しても、その同じ店で、レジ袋を安価に提供しているので、レジ袋を購入する消費者の数が思うように減らず、結果として、レジ袋の消費量も余り減らないのではないでしょうか? 今回の原田環境相のレジ袋の有料化素案でも、レジ袋の販売価格は、販売業者に任せるとしていますから、その実施によるレジ袋消費の削減効果は余り期待できないのではないでしょうか?

もう一つ、これも、「前報」で指摘したことですが、レジ袋廃棄物の廃プラ全体の排出量に占める量的な比率があまり大きくないことです。すなわち、「レジ袋の有料化」のみを対象にしたのでは、それによる廃プラ排出の減量効果はしれたものです。また、今回の海洋汚染の原因となっている、不法なポイ捨ての対象となっている廃プラには、レジ袋の他に食品包装容器として多量のプラスチックフイルムが占めています。さらに、レジ袋はその廃プラスチックフイルムの中の1/3程度と推定されますから、海洋汚染防止を対象とした廃ブラフイルムの使用の削減であれば、これらの食品容器包装用のプラスチックの使用量の最小化も図らなければなりません。

 

⓷ 海洋汚染をもたらすポイ捨て(不法投棄)の対象になるレジ袋を含む食品容器包装用のプラスチックフイルムなどの廃棄の問題を根本的に解決するためには、その原料を生分解性にするとともに、その使用量の最小化を図ることが求められます

上記(⓶)したように、廃プラによる海洋汚染はすでに始まっていますが、すでに海洋に入り込んでしまった廃プラは、海洋中で、殆ど分解、消滅することがありませんから、現状の汚染をこれ以上悪化させないためには、不法投棄による廃プラの海洋流入を完全に止めればよいのですが、実際には、それは不可能と考えるべきです。

したがって、不法投棄の対象となるレジ袋等を含む食品容器包装等用に使われるプラスチックを、自然環境中で分解・消滅する、いわゆる生分解性プラスチックに変えることが行われています。しかし、成型品やフイルムへの加工性とともに物性安定性(化学的安定性)が強いことと、安価な石油を原料としてつくられる合成プラスチックの急速な開発・利用が広く行われるようになって間もなくから、その開発が進められるようになった生分解性プラスチックの利用・普及には、いくつかの課題があって、期待通り進んでいるとは言えません。それが、いま、社会問題になっている廃プラによる海洋汚染を招いていると言ってよいでしょう。

この生分解プラスチックの利用・普及を阻んでいる最大の問題点は、その販売価格と言ってよいでしょう。すでに開発・実用化されている生分解性プラスチック原料のPLA(ポリ乳酸)およびPBS(ポリブチレンサクシネート)などの市場価格は、400~600円/kgと、現用の非生分解性の汎用プラスチックの原料価格150円/kgの3~ 4倍程度になります。これらの生分解性プラスチック原料の市販価格は、その利用・普及の拡大による生産量の増加での低下が期待されていますが、生分解性プラスチックの多くが、食料として生産されるバイオマスを原料としてつくられているために、今後の大幅な価格低下は期待できません。

もう一つ、海洋汚染防止を目的とした生分解性プラスチックの利用で問題になるのは、生分解性プラスチックの種類により、その分解性能が異なることです。例えば、上記のPLAやPBSは、バイオマス廃棄物のコンポスト(堆肥)化処理工程での高温・多湿の条件下では、効率よく分解機能を発揮しますが、PLAは、農業用のマルチフイルム等の分解を目的とした土壌環境での利用には不向きとされています。さらに、海洋などの水環境では。PLAもPBSも生分解機能を発揮しないようです。水環境で使われる生分解プラスチックとしては、PHBH(ポリヒドロキシルブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)が用いられるとされていますが、現在は、まだ実用化されておらず、その利用は今後の課題でしょう。

このように見てくると、不法投棄の対象になる廃プラを生分解性プラスチックに変えることで、廃プラによる海洋環境汚染を防止することは、現状では、難しいと考えるべきです。したがって、取り敢えずは、先ず、レジ袋に限らず、不法投棄の対象となるプラスチック製の食品包装容器等の使用を法的に規制すること、あるいは、プラスチック製以外の生分解性のあるものへの変換・使用を促す以外にないでしょう。そのうえで、どうしても、プラスチック製を使わなければならないものについては、早急に、その廃棄後の適正な処理・処分の社会システムをつくるべきです。例えば、食品廃棄物のコンポスト化処理・処分が行われることを条件にした、食品包装容器としての生分解性プラスチックの使用が考えられます。

さらに、大事なこととして、いままでの海洋汚染の主体は、途上国における廃プラの不適正な処理・処分の結果だと考えられますから、廃プラによる海洋汚染の最小化を図るためには、先進国と途上国が協力して、途上国における、適正なプラスチック製品の使用と、その廃棄物の処理・処分の徹底を図るシステムをつくる必要もあります。

 

⓸ 途上国に輸出された日本の廃プラによる海洋汚染は、本来、自国の責任で処理・処分すべき廃プラを、プラスチック原料として合法的に処理・処分しようとした安易な対応で起こったのです。中国における廃プラの輸入禁止を機会に、日本が、全ての廃棄物について、自国の責任で処理・処分するとの当然の義務を守ることで解決すべきです

いま、不法投棄廃プラの海洋汚染と同時に問題になっているのが、先進国から、途上国への廃棄物の輸出の問題です。実は、これは、合成プラスチック製品が広く使われるようになってからすぐ、東南アジア諸国が西欧先進諸国の廃プラを含む廃棄物から有価物を回収しようとして、一般系廃棄物(都市ごみ)を(無料で?)輸入したことで起こったと記憶します。この廃プラ入り廃棄物の途上国への流入が途上国の環境汚染として国際問題になり、この廃プラの海外輸出が国際法で禁止されました。これが、再び問題になったのは、途上国の経済発展につれて、プラスチック製品の製造原料として、安価に購入できる先進国からの輸入廃プラが求められるようになったからです。この廃プラ輸出自体は、国際法上には違法ではなかったのですが、この輸入廃プラ中に混入した異物が、その選別の過程で、地域環境汚染を引き起こした中国で、この廃プラの輸入が全面禁止されました。したがって、この問題は、輸出元の先進国の主として米国と日本の責任で、この廃ブラの輸出の禁止を厳しく規制することで解決できるはずです。もちろん、この輸出禁止が実行されれば、その輸出国の日本での、その処理・処分のための費用は増えますが、それは、いままで、やるべきことをやってこなかった結果です。自国で排出された廃プラは自国で処理・処分するとの当然のことを実行するのが、この問題解決の唯一の道です。

 

⓹ 有限な化石燃料を原料とするプラスチック廃棄物問題の根本的な解決は、廃プラの完全リサイクルを実現する以外にありません。これが、現代文明社会の寵児、プラスチック製品が化石燃料枯渇後に生き残る道でなければなりません

 廃ブラによる海洋汚染の問題の解決を目的とした「レジ袋の有料化」は、レジ袋の原料であるプラスチックの使用量の節減にもつながります。いま、有限の化石燃料からつくられるプラスチックについて、この「レジ袋の有料化」に見られるように、多くの国で、その使用量の節減が求められていますが、この使用量の節減が求められるのは、その使用後の廃棄物が、環境汚染をもたらすとして問題になる一般消費資材としてのプラスチックです。現代文明社会の継続を断念するのであれば話は別ですが、耐久消費資材として用いられている電化製品や電子部品等に大量に使われているプラスチックの使用量を削減することは難しいと考えるべきです。したがって、これらの耐久消費資材に使用されるプラスチック製品用の原料プラスチックの恒久的な確保が求められます。これが、プラスチック廃棄物の処理・処分の方法としてのリサイクルです。

もちろん、その原料を再生可能なバイオマスに求めることも考えられます。しかし、このバイオマス原料の利用は、自動車用の燃料として、大きな期待を集めたバイオ燃料(バイオマスを原料とした燃料用エタノール)の生産を目的とした国策、「バイオマス・ニッポン総合戦略」で見事に失敗しました。多量に使用される自動車用燃料の石油系のガソリンや軽油をつくるための原料バイオマスが、量的に間に合わないだけでなく、製品のバイオ燃料の価格が、石油系燃料に較べて、はるかに高くつくからです。企業における商品開発であれば、必ず行われる事業化のFS(可能性調査、feasibility study)が行われないままに多額の国民のお金を浪費して終わった、この国策「バイオマス・ニッポン総合戦略」の失敗が、メデイアの批判の対象にならなかったのは、この国策を主導していた学識経験者が当時の日本の最高学府の長だったからではないでしょうか? 実は、この国策「バイオマス・ニッポン総合戦略」のなかには、バイオマスプラスチックの開発も入っていました。それが、上記(➂)したように、いまでも、生分解性プラスチックとして生き残っているようですが、生分解性プラスチックは、バイオマスプラスチックである必要性はありません。

話が少し脱線しましたが、有限の化石燃料からつくられる文明社会の寵児、プラスチックを、末永く使うのであれば、その廃棄物を、何とかして、リサイクル利用すべきです。このプラスチックのリサイクルの方法として最も望ましいのはマテリアルリサイクル(プラスチック製品廃棄物を元のプラスチック製品に戻す)ですが、「前報」でも指摘したように、それが難しい場合は、次善の策として、ケミカルリサイクル(プラスチック廃棄物を元のプラスチック原料の化学物質に戻す)の採用を考えるべきです。これが、現代文明社会に。プラスチックが生き残る道です。詳細については、私どもの一人、久保田の著書(文献 1 )をご参照下さい。

 

<引用文献>

1.久保田 宏、松田 智;廃棄物工学 リサイクル社会を創るために、培風館、1995年

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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