皆でエネルギーを考えよう―笠間講演会にて―
|大久保泰邦 もったいない学会会長
2022年3月6日(日)10時より、笠間市地域交流センターともべ(〒309-1735 茨城県笠間市友部駅前1番10号)で「皆でエネルギーを考えよう」をテーマに講演を行いました。
これは、会員の山野辺浩平様が笠間市市民団体の方々、笠間市役所の方々と協力して企画していただいたものです。コロナの影響で何度か延期されておりましたが、関係者のご努力で開催の運びとなりました。参加者は30名程度と少なかったのですが、しかしコロナ禍のことを考えると多くの方が集まったと思います。
山野辺様は、かさま環境を考える会会員、ごみを考える会会員、茨城県地球温暖化防止活動推進センターの推進員、水戸市植物公園薬草ボランテア会員でいらっしゃいます。
このようなネットワークを通じて人集めをしていただいたのだと思います。
また笠間市では多くの市民団体が活動しており、ボランティア活動への意識の高さが感じられます。さらに市役所の方々が手際のよい会場運営をされ、市民活動への支援体制も充実していることに感心しました。
冒頭、かさま環境を考える会会長の吉村和治郎様がご挨拶をされました。引き続き司会役であるごみを考える会会長の菊地寿代様から、講演者である著者の紹介があり講演会がはじまりました。
写真 講演会の風景。
講演の内容は以下の通りです。
- エネルギーって何だろう
- 石油より優れたエネルギーは有るのでしょうか
- シェールオイル メタンハイドレードの存在
- エネルギー収支比とは何でしょう
- エントロピー第2の法則って何でしょう
- 再生可能エネルギーの役割
- 手賀沼物語
以下概要です。
1.エネルギーって何だろう
エネルギーには、石炭、石油、原子力、再生可能エネルギー、電気、ガス、ガソリン、灯油などなどがある。これらのエネルギーは何に使うのか?
エネルギーの使い道
石井前会長は、資源の3つの要素として、(1)濃縮していること、(2)大量にあること、(3)経済的な位置にあることを挙げていた。エネルギーとはこの資源の要素を満たす、社会を動かすもの。
2.石油より優れたエネルギーは有るのでしょうか
出所:石油連盟「石油Q&A」
石油は古代の生物の遺骸が、還元状態で分解し、水、油、ガスに分離したもので、それが堆積層を移動し、不透水層である帽岩の下に溜まったもの。油、ガスができるためには適度な温度と圧力、時間が必要。
日本には大油田はない。なぜなら広く厚い堆積層がないから。中東は中生代のころ温暖な浅い海であったテチス海があった。そこに広く厚い堆積層が形成され、石油、ガス層ができあがった。
石油の層をボーリングで掘ると、石油は勢いよく噴出する。これは「石油より優れたエネルギーは有るのか?」の答えの一つ。
3.シェールオイル メタンハイドレードの存在
下の写真は、産総研地質標本館に展示されているオイルシェール。
また下の写真は同じく産総研地質標本館に展示されている原油。原油は「在来型石油・天然ガス」の一つに数え上げられている。
一方オイルシェール、シェールオイル、メタンハイドレードは「非在来型石油・天然ガス」と呼ばれている。「在来型石油・天然ガス」と「非在来型石油・天然ガス」の違いは何か?この写真を見るとオイルシェールは固体で、原油は液体である。この違いが在来型と非在来型を分ける一つである。
下はシェールオイルの説明図である。石油は堆積層を移動してできる、と言ったが、シェールオイルは移動せずに堆積層にそのまま残ったものである。これは石油の源になる地層ということで、根源岩と呼んでいる。根源岩を掘っても油は出ない。そこで何らかの工夫をしなければならない。
米国ではもともと大量にシェールオイル・ガスがあることは知られていた。1970年代のオイルショックを契機に中東依存を脱却することを目指し、シェールオイル・ガスの開発技術を開発した。それが水を圧入して地層に割れ目を作るフラクチャリング技術である。これが成功し、現在シェールオイル・ガスが市場に出回っている。
メタンハイドレードは海底面付近や永久凍土の下に存在する。しかしまだ実用化に至っていない。メタンハイドレードは日本においても周辺海域で発見されており、大量にあると予想されている。開発ができるかはこれからだが、難しいことは間違いない。
つまり、非在来型石油・天然ガスとは、開発するためには従来の技術に加え、新しい技術が必要である、ということである。
4.エネルギー収支比とは何でしょう
石油を開発する時、ボーリングを掘る。また蓄えるタンクも必要である。このように石油を採取する過程においてエネルギーが投入される。採取された石油が持つエネルギー(回収エネルギー)から投入エネルギーを差し引いたものが正味エネルギーで、これが社会に供給される。エネルギー収支比は回収エネルギーを投入エネルギーで割り算することにより得られる。エネルギー収支比が1以下であるとエネルギー的に無駄をしていることになる。その意味でエネルギー収支比はエネルギーの質を表わす。
過去において中東の石油のエネルギー収支比は高く、他のエネルギーは低かったが、近年はエネルギー収支比が高い石油の生産量は少なくなり、また技術開発によって非在来型石油・天然ガスや再生可能エネルギーのエネルギー収支比は高くなってきている。
5.エントロピー第2の法則って何でしょう
これは熱力学の法則の一つだが、他の言葉に置き換えると、「エントロピーは常に増大する」、「エネルギーは使えば、拡散し元には戻らない」ということである。
例えば、自動車にガソリンを入れ、走るが、ガソリンの持つエネルギー量と走行のエネルギー量を比べてみた場合、遥かにガソリンの方が大きい。ではガソリンのエネルギーはどこにいったかといえば、大部分はエンジンから発する熱になって逃げてしまったのである。そこで、逃げた熱と走行のエネルギーから元のガソリンに戻ることはあるかといえば、それは絶対にあり得ない。
エネルギーはエントロピーが小さい状態から、大きい状態に変化する過程で仕事をする。つまりエントロピーは、エネルギーが仕事をする過程で常に増大する。またこの流れは逆行しないのである。
6.再生可能エネルギーの役割
再生可能エネルギーには地熱、太陽光、風力、バイオマスなどがある。何に使うのかを考えると、その役割が理解できる。
再生可能エネルギーは石油に比べ、量が少ないこと、ほとんどが電気として使うこと、生産できる場所や時間に制約があることなどが特徴として挙げられる。欠点はいくつかあるが、著者は以下の2点で大変意味があると考えている。
1.地産地消のエネルギー
2.働く場を提供する
7.手賀沼物語
これについては著者のブログ「たいほう2」に以下の話が掲載してあり、それを参照してほしい。
手賀沼に繁殖したコブハクチョウ。
地球物理学者が語る手賀沼物語その1 -手賀沼ができるまで-
手賀沼の向こうに見えるダイヤモンド富士。
およそ5千年前の縄文時代、海面が上昇し、関東平野の多くは海となった。富士山から噴出した火山灰で関東ローム層ができた。縄文時代、手賀沼は関東ローム層台地の縁辺に位置した低地だったので、海であった。
地球物理学者が語る手賀沼物語その2 ―香取の海から住宅地へ―
手賀沼北東にある「はけ」、湧水池と田んぼ。
右奥に見える住宅は湖北の高級住宅街。湧水池には昔ホタルがいたそうである。
手賀沼、手賀大橋と新興住宅街。
手賀沼湖畔は干拓で田んぼになり、さらに一部は住宅化が進展した。湖岸線は徐々に後退し、手賀沼は小さくなっていった。
地球物理学者が語る手賀沼物語その3 ―日本一汚い沼から白鳥の沼へ―
手賀沼西南にある北千葉導水ビジターセンター横の第2機場。
左は手賀沼。右は利根川から地下水路を通って送られてきた水を溜め込む着水井。中央の建物は着水井から溢れだした水を手賀沼に流す注水樋管。
菜の花を食べる白鳥。
地球物理学者が語る手賀沼物語その4 ―手賀沼に大噴水を―
手賀沼に大噴水を入れてみた。
講演終了後の質疑応答の一部。
***
質問:エントロピーを零にする方法があると聞く。
答え:人間活動そのものがエントロピーを増大させることになる。エントロピー増大則を考えると恐ろしくもなる。つまり生きていくことがエントロピーを増大させるので、増やさないということは人を増やさない、活動をしないということになる。
質問:昔は水車を使って、電気を作るのではなく、脱穀などの力作業に使っていた。このような使い方を見直すべき。
答え:その通りと思う。国や企業は大規模なエネルギー開発を目指すので、このような使い方は我々一人一人が考える必要があると思う。
質問:水力も再生可能エネルギーではないか。
答え:水力も再生可能エネルギーである。大水力は開発がされているが、小水力はまだ十分に開発の余地がある。小水力は地元が推進することが望ましい。
質問:水素は無限にあると聞く。利用は可能か。
答え:水素は何かのエネルギーを使って水の電気分解で作られる、いわゆる二次電池。利点は、貯蔵しにくい再生可能エネルギーなどのエネルギーを蓄えることができること。例えばサウジアラビアで大規模な太陽光発電を行い、その電気を水素に変換し、その水素を日本に輸送することが考えられる。現在は、従来の再生可能エネルギーや石油などが社会のエネルギーとなっており、それでなんとかやっている。将来技術革新が起こり、水素社会が成立する可能性はある。
質問:エネルギーを増やすことだけでなく、省エネルギーも重要ではないか。
答え:その通り。ただし、省エネルギーはエネルギー消費を抑えることになるので、経済の停滞にもつながる。経済成長を目指す政府は省エネルギーも推進しているが、企業と一緒にエネルギー開発の方も努力している。
質問:「しょう」には「省」と「小」がある。小エネルギーはどうか。
答え:大規模なエネルギーは国や企業が行っている。小さいエネルギーの開発は、企業は儲けが少ないこともありなかなか手を出さない。そこで、地元が地元密着のエネルギー、例えば川が多いのであれば小水力などのポテンシャルを評価し、開発することが重要。そのためには人材も必要か。
質問:石井前会長は、資源は有限であることを強調されていた。近い将来、電気自動車(EV)が普及するようだが、それに対応供給できるリチウム等のレアメタルは地球上に存在するのか。
答え:リチウムイオン電池がEVなどの蓄電池として利用されている。調べたところ、しばらくはリチウムは枯渇しないようである。しかしレアメタルを含め資源は有限なので、常に枯渇のことを念頭に入れて考える必要がある。
質問:手賀沼の浄化活動を行っていた。効果はあったと思うが、いかがか。
答え:我孫子では各個人の家に浄化槽を備え付けている。また利根川の水を導水道を通して上流側の手賀沼まで運び、利根川の綺麗な水をまぜることによって浄化させていると理解いる。
***
講演終了後、山野辺様が挨拶され、講演会は終了。