憲法改正を訴える安倍前首相の強権政治を継承した菅新総理による日本学術会議の人事への介入は、学問の自由を奪い、戦後の日本が創り出した平和憲法に守られた民主主義政治を崩壊しようとしています

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

 戦前の科学者の戦争協力を反省して、戦前の軍事国家への回帰を防ごうとして設立された日本学術会議の存在が、平和憲法を改正して、日本を戦前の軍事国家に回帰させようとする安倍晋三前首相の野望を継承した菅新首相の学術会議への人事介入により危機を迎えようとしています

 学術会議の人事に介入する理由に説明を求められた菅新首相は、それを首相に与えられた当然の権利として主張して、学術会議が要求する学問の自由を奪い、戦後の日本の民主義政治を崩壊に導こうとしています。恐ろしいことです

 いま、「新型ウイルコロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」に苦しむ人類にとって大事なことは、世界の全ての国の協力による「コロナ問題」の収束です。この目的を達成するには、日本の平和憲法の理念を世界に移転するために、日本が、軍事力の最小化でつくりだしたお金で福祉国家のモデルとなることが求められます

(解説本文);

 戦前の科学者の戦争協力を反省して、戦前の軍事国家への回帰を防ごうとして設立された日本学術会議の存在が、平和憲法を改正して、日本を戦前の軍事国家に回帰させようとする安倍晋三前首相の野望を継承した菅新首相の学術会議への人事介入により危機を迎えようとしています

日本学術会議の会員任期6年の終了による3年ごとの半数改選の人事で、学術会議が推薦した105人のうち、6人が、菅新首相により任命されなかったことの可否が、いま、大きな社会問題にまで発展しています。

この学術会議の人事問題に対し、学術会議側は、これを、学問の自由を脅かす政治による不当な介入だとして、菅首相に対し、今回、学術会議が推薦した新会員候補者の任命拒否の理由の説明を求めるとともに、改めて任命を拒否された6名の新会員候補者の任命を求める要望書を提出しました。これに対して、菅首相は、学術会議の会員の任命は、総理による法的に認められた当然の権利であり、任命拒否の理由を説明する必要は無いし、6名の新会員候補を会員に任命することはないとの見解を表明しています。

ところで、第2次大戦の終了後、間もなくの1949年に設立された学術会議には、戦前、日本の科学者が、戦争の遂行のために時の政府に協力させられた苦い経験から、再び、このようなことが無いようにしようとの多数の科学者の強い願望から、科学者による軍事研究への協力を阻むことが、この行動目的の一つとされていました。実は、それが、今回の政府の会議への人事介入の原因とされた、学術会議の会員有志による、大学の研究者に対する防衛庁の軍事研究への参加自粛を要請する声明につながっていると考えられます。

政府から独立した機関として設立された学術会議ですが、その活動のための経費が国費から支出されている以上、会員の任命権が、会議が所属する内閣府の長である首相にあるべきだとして、1983年の学術会議法の改正で、会員の任命権が総理に委ねられるようになりました。しかし、政府は、この総理による任命権は、形式的なもので、その後も学術会議が推薦した人事には介入しないとの態度を維持してきました。

それが、日本経済が、戦後の高度成長によって、中国に追い抜かれるまでの一時、世界第2の経済大国にまで成長したなかで、アベノミクスの成長戦略を掲げて、首相の座につい安倍晋三前首相は、戦後に制定された日本の平和憲法を改訂して、経済力に相応した軍事力を持てる普通の国にしようと思うようになりました。そのなかで、防衛省が軍事研究の科学者への委託金額が大幅に増加されました。これに大きな危機感を感じた日本学術会議会員の有志が、上記したように、学術会議設立の趣旨に沿って、科学者は、防衛省による軍事研究の委託に応ずるべきでないとする声明を出したのです。結果として、安倍政権と学術会議の対立が表面化するようになりました。これが、今回、安倍前首相から首相の座を引き継いだ菅新首相による学術会議への6名の新会員候補者の任命拒否の理由です。

 学術会議の人事に介入する理由に説明を求められた菅新首相は、それを首相に与えられた当然の権利として主張して、学術会議が要求する学問の自由を奪い、戦後の日本の民主義政治を崩壊に導こうとしています。恐ろしいことです

今回、自身の健康上の理由から退任を余儀なくされた安倍前首相は、国会で獲得した過半数の与党勢力をバックにして、強引な「解釈改憲(憲法改正の手続きをとることなく、憲法の条項に対する解釈を変更することにより、憲法の意味や内容を変更すすること)」により集団的自衛権行使の安保法制などを国会で強硬採決することで、多くの国民の反撥を買ってきました。今回、学術会議会員への任命を拒否された6名は、このような安倍前首相による強権政治に反対の意見を表明されておられた方々です。すなわち、この安倍前首相の強権政治を継承して、新首相の座に就いた菅義偉氏にとっては、邪魔者以外のなにものでもありません。

しかし、菅首相は、これらの学者は政府に対する科学技術政策での提言を行う学術会議の会員として相応しくないから任命を拒否したと、正直に言えませんから、今回の学術会議への人事介入は、同会議の活動に対して10億円の国費を支出し、さらに、会員に対して、特別公務員としての手当てを支給している政府にとっては、法的に認められた当然の権利行使であるとして、6名の任命拒否は撤回できないとしています。しかし、これらの国費は、学術会議の活動の主な目的である、大学の研究者への科学研究費の支給配分を決めるために支出されているはずです。

問題は、一般の国民が、今回の学術会議の人事問題をどう見るかです。これを単なる学術会議と政府の間の問題で、自分達には関係のないことだと思っておられる方も多いかもしれません。しかし、今回、菅首相によって任命を拒否された6名の学者の先生方は、いずれも学術的に優れた業績があるとして、学術会議が推薦された先生方です。この先生方を、安倍政権の進めてきた集団安全保障法や秘密保護法などの政策に反対の意見を持つからといって、その任命を拒否することは、戦後、守られてきた日本の民主政治の歩みを破壊する許しがたい暴挙と言わざるを得ません。すなわち、戦前の軍国主義に反対する学者を国家権力が追放して、開戦へと突き進んだ日本の歴史上の悪夢を思い出させる恐ろしいことだということを、広く一般の方にも知って頂くことが、菅新政権による、このような暴挙を防ぐ唯一の道だと、私どもは考えます。

⓷ いま、「新型ウイルコロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」に苦しむ人類にとって大事なことは、世界の全ての国の協力による「コロナ問題」の収束です。この目的を達成するには、日本の平和憲法の理念を世界に移転するために、日本が、軍事力の最小化でつくりだしたお金で福祉国家のモデルとなることが求められます

安倍前首相の後を引き継いだ菅義偉氏が首相の座に就くとともに、それまで36 % 程度まで落ち込んでいた内閣支持率が 70 % 近くまで急上昇しました。これは、首相が変わるたびに起こる現象で、決して珍しいことではありません。国民が、新しい首相にこれまでとは違った新しい政策を期待するからです。菅新内閣の成立にも、そのような国民の期待があったと考えられますから、菅新内閣が、安倍内閣と同じ政策を継承したのでは、たちまち、国民の支持を失い、内閣支持率の低下を招くことになりかねません。

したがって、菅新内閣が、高い支持率を保つためには、先ず、安倍内閣の支持率を下げる原因になった森友・加計問題、および、桜を見る会での安倍前首相の官房長官としての菅氏の責任について謝罪するとともに、今回、ご自身が責任を負うべき学術会議の人事介入の問題についても、その理由について、“ 総合的、俯瞰的に判断した ” などの国民の多くが納得しない説明を撤回し、今回の人事介入の誤りを正して頂く以外に解決策はありません。

もう一つ、菅新首相が取り組むべき、安倍内閣と違った新しい政策としては、今回の学術会議への人事介入の問題とも関係しますが、国民の多くが反対していた国家安全保障政策の見直しがあります。すなわち、いま、「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」で苦しむ日本だけでなく、人類の生存にとって最も大事なことは、この「コロナ問題」による世界経済の落ち込みを何とかして最小限に止める政策を実行すべきです。そのためには、私どもが提唱する、コロナウイルスへの感染の有無を調べる「PCR検査の徹底」を実行して、「コロナ問題」をできるだけ速やかに収束させる必要があります。具体的には、「PCR検査」を世界中の全ての人に実施できる体制をつくることですが、そのためには、全ての国の協力の下での国際平和の確立による、現存する国際間の貧富の格差の解消が求められなければなりません。

この国際間の貧富の格差を解消するためには、安全保障のためには各国が、他国からの侵略を防ぐために軍事力を拡大しなければならないとする世界の常識を破棄しなければなりません。世界の全ての国が、自衛のための最小限の軍事力しか持たなければ、国際間の軍事紛争は起こりようがありません。スイスに、その典型例を見ることができます。戦後、東洋のスイスを目指すと言われた日本も、安倍政権が出現するまでは、曲りなりにも、この最小限の条件を満たしていたと考えてよいのではないでしょうか? それは、今回、問題になっているような、軍国主義国家への回帰にブレーキをかけて下さる先生方が居られたからです。

では、この世界の安全保障のための常識を打ち破るには、具体的にどうしたらよいのでしょうか? それは、日本が、第2次大戦敗戦の反省から創り出した “日本国憲法” の平和の理念 “憲法九条” を世界の全ての国に移転して、“戦争のない平和な世界” を創ること以外にないと私どもは考えます。

これは、理想論かもしれませんが、現在、世界第3の経済大国日本が、軍事力の縮小で、平和国家の模範を世界に示せばよいのです。この軍事力の縮小で、軍事力の増強に使うお金が節減できることになります。また、いま、資本主義経済社会が終焉を迎えようとしている世界で、日本が、戦争ができる軍備を保有しなければ、資源小国日本を軍事的に占領しようとする国は存在しないと考えるべきです。

さらに、いま、国内でも、「コロナ問題」で失業や休・廃業に追い込まれて、生活に苦しむ人と、コロナ問題を利用して大きな利益を得ている人との貧富の格差が拡大しています。この貧富の格差の解消には、上記したように、「コロナ問題」を速やかに収束して、軍事力の強化に使うお金を最小化することが求められます。この軍事力の増強に使われるお金を福祉国家をつくるお金に利用することが、資本主義の終焉後の世界に日本経済が生き残る唯一の道です。

 

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久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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