安倍晋三首相の退陣で終焉を迎えるアベノミクスの継承からの決別が、日本経済を破綻の淵から救う唯一の道です。その理由を、伊東光晴氏の著書「アベノミクス批判」に見ます。(その4 )安倍改憲のもくろみの終焉
|東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎
はじめに;
安倍晋三首相の退陣が決まって、アベノミクスが終焉を迎えます。しかし、いま、安倍以後の政治は、このアベノミクスの継承を既成事実として進められようとしています。
このアベノミクスが始められた当初、これを厳しく批判しておられた著名な経済学者の伊東光晴氏の著書
伊東 光晴 著; アベノミクス批判、四本の矢を折る
―― 安倍首相の現状認識は誤っている、幻想につつまれた経済政策、その正体とは?
岩波書店、2014 年
の内容について、私どもの一人、久保田による同書の内容の概要を記した未発表の「論評(2014,10,15)」を、紹介させて頂くとともに、いま、世界経済に大きな苦難をもたらしている「コロナ禍(新型コロナウイルスの蔓延による世界経済の落ち込み)」に苦しむ日本経済の現状から見て、この伊東氏の主張の正しさを示す「考察」を付記させて頂きました。
に続いて、この著書の第7章および おわりに について、内容の紹介と現時点での「考察」を
(その4 )安倍改憲のもくろみの終焉
として、記述させて頂きます。
第7 章 安倍政権が狙うもの、隠された第4の矢を問題にする
アベノミクスの「隠された第4の矢」として、安倍首相が唱える「戦後レジーム(戦後体制)からの脱却」を取り上げています。欧米のマスコミが書くように、安倍政権は、戦後の日本で例外的な極右政権で、日本が戦前に中国を侵略した事実を認めていません。2013 年9月の訪米時の発言「私を右翼の軍国主義者とお呼びになりたいのであれば、どうぞお呼び頂きたい」をとりあげ、戦前の体制を是とする彼の本心と去勢が混ざり合っている、としています。尖閣列島の問題では、その帰属に関する歴史的な経緯から、中国の主張を無視して行われた野田元首相の対応を厳しく批判したうえで、この問題は、国交正常化時の周恩来総理と田中首相の間で取り決められた「棚上げ」以外に策がないことを、事件発生時の丹羽元中国大使の発言を引用するなどして主張しています。満州国の建設に始まる日本の戦争責任問題と安倍首相の歴史認識を厳しく批判し、側近にも伝えず靖国神社に参拝した安倍首相には、対中国侵略を反省する心はないと、日本経済にとってもマイナスの影響しか与えない安倍首相による対中国強硬姿勢を厳しく批判しています。このような安倍首相の政治の目的は、国民のためにあるべき国家を自己の権力欲のための所有物として、戦前を戦後に持ち込んだ祖父、岸信介の平和憲法改正の怨念を達成することであるとして、“ 弱者に対する思いやりや想像力を決定的に欠いている。“ との精神科医の所見を引用して、安倍首相の政治家としての資質を問題視しています。
「考察」;
本章は、アベノミクスを掲げる安倍首相の政治姿勢の問題点として、伊東氏が特に国民に訴えたかったことだと考えられ、全7章のなかでも、最も多くのページ数を費やしています。
この著書の「はじめに」で、この第7章について、伊東氏は、“私は、従来自らに課していた経済の枠を超えて、日中問題に言及した。”として、当時の新日鉄社長の稲山嘉寛氏とともに日中国交回復に努力された著者の願いが安倍首相に踏み躙られつつある著者の無念を訴えています。私ごとになりますが、定年退職の少し前から、日本の中国侵略への贖罪として、日中技術協力に微力を尽くしてきた私(久保田)にも強い共鳴を覚える記述です。
おわりに――21世紀の理想を翻そう:
このまま安倍政権に政治を任せておけば、日本は「戦前社会」に回帰して、大変なことになるとの危機感から、” 歴史の流れは、やがて国家間の紛争解決の手段としての武力が無力であることを知らしめるに違いない。その時、日本国憲法の先見性は明らかになる。”として、本書のおわりを「甦れ、21世紀の理想-憲法九条」と結んでいます。
「考察」;
この「おわりに」に、伊東氏は、日本国憲法について、“ それは普遍の価値を持っている ” とした上で、大西洋上のモロッコ沖にあるカナリア諸島のラス・パラマス島には、1996 年に建てられたひとつの碑がある。市長が日本の憲法九条に感動し、「憲法九条の碑」を建て、広場の名を「ナガサキ・ヒロシマ」にしたという。“ と記しています。2014年にノーベル平和賞の候補にノミネートされた「憲法九条にノーベル平和賞を」の署名運動など、憲法九条を守る運動に微力を尽くしている私どもにも、大きな励ましになる「伊東氏の平和への思い」です。
結言;
本稿(その1 )に記した水野和夫氏の朝日新聞紙上のこの伊東氏の著書に対する書評にもどると、その最後に、本書における安倍政権による「戦後レジーム(戦後体制)からの脱却」、「戦前体制への志向」に対する伊東氏の厳しいアベノミクス批判について、 ”命を削ってまで、世を正そうとする伊東氏の魂の叫びを政治家は真摯に受け止めるべきだ”と結んでいます。
因みに、戦後日本の経済政策に大きな影響を与えてきた著名な伊藤光晴氏も、1927年生まれとあり、私どもの一人 久保田(1928年生まれ)と同年代です。以前から聞いていましたが、本書の「はしがき」にもあるように、伊東氏は、“ 倒れて以降リハビリ中で、執筆も思うようにならないなかで、原稿の一部を口述によった ”とあります。健康を回復されて、今後ともご活躍されることを心から祈っています。
なお、本書の奥付きに、2014年7月30日第1刷発行、9月5日第3刷発行とありました。私が買ったときにも、同じ本が多数積んである書架の最後の一冊でした。一人でも多くの方が、本書を読んで、日本経済を破綻の淵に導くアベノミクスの隠された第4の矢の恐怖を知っていただき、いま、安倍首相の退陣に当たって、この恐怖のアベノミクスが継承されないことを心から願っています。
ABOUT THE AUTHOR
久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。
著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。
E-mail:biokubota@nifty.com
平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。
E-mail: kentaro.hirata@processint.com