安倍晋三首相の退陣で終焉を迎えるアベノミクスの継承からの決別が、日本経済を破綻の淵から救う唯一の道です。その理由を、伊東光晴氏の著書「アベノミクス批判」に見ます。(その3 )アベノミクスの経済政策批判

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

はじめに;

安倍晋三首相の退陣が決まって、アベノミクスが終焉を迎えます。しかし、いま、安倍首相退陣後の政治が、このアベノミクスの継承を既成事実として進められようとしています。

このアベノミクスが始められた当初、これを厳しく批判しておられたのが著名な経済学者の伊東光晴氏による下記の著書です。

 

伊東 光晴 著; アベノミクス批判、四本の矢を折る

―― 安倍首相の現状認識は誤っている、幻想につつまれた経済政策、その正体とは?

岩波書店、2014 年

 

この著書の内容についての私どもの一人、久保田による未発表の「論評(2014,10,15)」を紹介させて頂くとともに、いま、世界経済に大きな苦難をもたらしているコロナ禍(新型コロナウイルスの蔓延による世界経済の落ち込み)に苦しむ日本経済の現状から見た、この伊東氏の主張の正しさを示す「考察」を付記させて頂きました。

今回は、 (その 1 )金融緩和政策と円安・株高の功罪 

(その 2 )アベノミクスが求める経済成長の終焉を

に続いて、この伊東氏の著書の第5章および第6章について、

(その3 )アベノミクスの経済政策批判

として記述させて頂きます。

 

5 章 予算から考える;

アベノミクスの経済成長を財政的に支える税収がありません。基幹3 税として、法人税、所得税、付加価値税がありますが、これからの少子高齢化社会を支える社会福祉政策の推進に必要なお金を確保するためには、脱税行為を避けて確実に税収を上げることのできる付加価値税に頼る以外にありません。ただし、この付加価値税は、いま、日本政府が実施している消費税とは異なります。EUで実施されている付加価値税では、低所得者への経済的な負担を軽くする措置が前提となっています。このような措置がとられていない日本の消費税は、不公平税制であると言わざるをえません。これから少子高齢化が進行するなかで、いま問題になっている、福祉保障4経費のなかの年金の支給年齢ついて、伊東氏は、70才まで働く社会に近づくのは必然だと考えています。

 

「考察」; 多くの国民の批判で、各種アンケート調査での支持率が30 % 台まで落ち込んだなかで、健康上の理由で退陣することになった安倍首相ですが、本章で伊東氏が訴える税制上の問題点が、一切、認識していませんでした。

なお、安倍首相退陣後の日本の財政を支える税制について、いま、消費税の減税(さらに廃止)と、その逆の増税が大きな政治問題になろうとしています。いづれが選択されるにしても、いま、「コロナ問題」で落ち込んだ経済の再生のために予定されている大幅な財政赤字の積み増しにならない形での消費税への対応でなければならないと私どもは考えます。

すなわち、私どもが提案する「PCR検査の徹底」により「コロナ問題」が速やかに収束すれば、この「コロナ問題」による財政赤字の積み増しを最小限に抑えることができますから、「コロナ問題に関連した消費税の増減は、政治の問題になりません。

 

6 章 三つの経済政策を検討する

⓵. 安倍首相がこだわる原子力発電、そして、廃棄物の捨て場が地震国日本にはないこと、原子力発電所で働く労働者の安全問題、原発建設のためのコストデータが政治的に操作されていることを具体例に基づいて指摘した上で、“いずれにしろ、原発は廃止に向けて動かねばならないのに、逆に、安倍首相は、原発の再稼動とともに、インド、トルコなどの途上国への売り込みに躍起である”と強く批判しています。

⓶  労働政策の逆転、では、民主党が進めてきた「日雇い派遣の禁止」などの非正規雇用を縮小する政策を旧に戻して、企業にとって労務費をできるだけ安く抑えるための政策が押し進められているとしています。この日本の非正規雇用の労務形態は、同一労働、同一賃金を労働政策の基準とする欧米とは違って、企業利益を確保するために、労務費を安く抑えるだけを目的としています。小泉政権の下での規制緩和がつくり出した現在の労働政策は、あってはならないものだと断じています。

⓷ いま、国際経済政策で重要なこととして、アベノミクスの第1~ 第3 の矢として、安倍首相が掲げている経済政策は、いずれも誤りと断ぜざるを得ない”としたうえで、これらは、国際経済政策課題として、第7章で扱う「隠された第4の矢」、“戦前の日本の政治体制へ戻すための改革 ”への政治的な野望につながると厳しく批判しています。

 

「考察」; 本章で「三つの経済政策を検討する」として、原子力発電、労働政策の非正規雇用の問題とともに、国際経済とも関係する安倍首相の日中関係の歴史認識の違い(本稿の(その 4 )参照)に現れる国際政治の問題をとりあげた伊東氏の見識は、高く評価されなければなりません。企業の利益の追及のみを目的として、国民、あるいは労働者の利益を無視して行われている原子力発電、労働政策での非正規雇用の問題は、本稿(その 1 )の緒言に記した、この著書の書評(朝日新聞)を書かれた水野和夫氏が言う「資本主義の終焉(文献 1)」につながるものです。さらには、個人的な権力欲からの「戦後レジームからの脱却」の政治的な意図を達成させる政治勢力の結集のために、アベノミクスの欺瞞で国民の支持を集めることに狂奔してきた安倍首相の誤った現状認識が、過剰人口のはけ口と軍事力の強化のためのエネルギー資源(石油)の確保を求めて第二次大戦に突入した反省から、戦後、戦争放棄の平和憲法を掲げて、敗戦の苦しみから復興をとげた日本経済を、再び破綻の危機に陥れかねないとしています。この危機からの脱却を図るためにも、誤った経済政策を掲げて猛進してきた安倍政治の継承は、絶対に許されるべきでありません。

 

<引用文献>

  1. 水野和夫;資本主義の終焉と歴史の危機、集英社、2014年

 

ABOUT  THE  AUTHOR

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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