「温暖化物語」は終焉します。  大規模停電(ブラックアウト)は分散型再エネ電力のメガソーラー(大規模太陽光発電)で防ぐごとはできません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 北海道胆振東部地震後の大規模停電(ブラックアウト)が分散型再エネ電力の強化を促すことになりました

⓶ 台風による大規模停電が、分散型再エネ電力の有無とは無関係に起こります。太陽光発電の利用では、この台風対策についても考える必要があります

⓷ 電力の地産地消を目的として、いますぐの分散型再エネ電力を供給する目的で開発・利用が進められてきたメガソーラーも、その目的を果たせず、消え去ろうとしています。これが、「温暖化物語」の終焉です

 

(解説本文);

⓵ 北海道胆振東部地震後の大規模停電(ブラックアウト)が分散型再エネ電力の強化を促すことになりました

2018年9月6日の北海道胆振東部地震に伴って、大規模停電(ブラックアウト)が発生しました。道内の発電量の5割程度を担っている苫東厚真石炭火力発電所が、震源地の近くにあったために、地震による被災からの復旧に手間取ったからです。また、3.11福島事故以前の2010年度、道内発電量の45 %を担っていた泊原発が、その稼働を停止したまま、新しい安全基準を満たすことができず、再稼動できないでいたのも痛手でした。さらには、北海道が、本土と離れているために、本土との間の電力を融通する送電線の容量が小さく、このブラックアウトに対応できませでした。

このような条件のなかででてきたのが、ブラックアウトを防ぐためには、分散型電力設備の強化が求められるとの主張でした。いくつかの新聞が社説でも取り上げた、この分散型電力設備とは、いま、地球温暖化対策として、政府がその開発・利用が進めている再生可能エネルギー(再エネ)電力でした。しかし、この新エネルギー(新エネ)ともよばれる再エネ電力を、現状で電力生産の主力を占めている化石燃料(石炭)火力発電の代替として、いますぐ利用するには、お金がかかります。そこで、政府は、この再エネ電力の開発・利用の拡大のために、EU諸国で、先行して導入されていた、「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」を導入して、必要なお金を市販電力料金の値上の形で、広く全ての国民から徴収する方法を採用しています。すなわち、温暖化防止に国民のお金を使うことの不当性を訴えているIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)の国内メンバーの一人である杉山太志氏が、その論考

杉山太志;温暖化物語は修正すべし、ieei、2019/07/01

のなかで厳しく批判している、温暖化の防止に国民に無駄なお金を使わせている「温暖化物語」の一つとして、「ブラックアウト防止のための分散型再エネ電力の利用」が新たに加えられることになるのです。また、いま、脱原発のための自然エネルギーともよばれる再エネ電力の利用・拡大を主張している「NPO法人 自然エネルギー財団」も、この事業推進目的に、このブラックアウト防止のための分散型再エネの利用を加えています。

ところで、国民のお金を使うFIT制度を適用して、その利用・拡大が進められている再エネ電力は、果たして、ブラックアウトの防止を可能にする分散型電力と言えるのでしょうか? 実は、分散型電力と言えるのは、いま、FTT制度適用の対象になっている再エネ電力のなかでは、太陽光発電だけなのです。この、大規模太陽光発電(メガソーラ)の大幅導入には、大きなお金がかかるとして、その利用・拡大を図るためのFIT制度の適用が除外されました。すなわち、ブラックアウト防止の目的での再エネ電力の利用・拡大のためのFIT制度適用の道は閉ざされたのです。

 

⓶ 台風による大規模停電が、分散型再エネ電力の有無とは無関係に起こります。太陽光発電の利用では、この台風対策についても考える必要があります

今回(2019年9月)の第15号台風の関東地方直撃で、千葉県のほぼ全域にわたって、大規模な停電が発生しました。原因は、台風による50m/hを超す記録的な強風で送電網が破壊されたためでした。連日のテレビニュースでは、高さ50mの高圧送電用鉄塔が倒壊したり、市街地の電柱が折れたり、電線が倒木や飛んできた建築物の一部や、鉄板などにより切断したり、いままで見たことのない惨状が写し出されました。高圧送電線では、災害に備えて、複数の迂回路が設けられており、比較的速やかに復旧するようですが、市街地の送電網は、被害箇所が広域にわたったため、この地域の電力供給を担う東京電力の手に余り、他の電力会社の応援を受けても、当初の2、3日での復旧可能との予測を大幅に上回り、完全復旧には2 週間以上もかかるとされています。停電による生活用水の供給遮断が、何時までも続き、厳しい残暑のなかでの冷房不能による高齢者の熱中症による死亡事故も起こりました。

いずれにせよ、今回の千葉県の大規模停電は、上記(⓵)した、分散型再エネ電力の利用により回避できるものではありません。それどころか、今回の台風被害をテレビで見ていたら、ダム湖の湖面に設置されたメガソーラ設備が火災を起こしていました。この火災の原因は判らないとされていましたが、メガソーラーは、その構造から見て、今回のような台風には弱いのではないでしょうか。しかも、この台風に弱いメガソーラーが、今回、台風被害が大きいとされて、しょっちゅう名前が出てきた水族館で有名な鴨川市の山林に設置される計画が地域住民の反対を受け、その設置反対運動に、広く日本中に支援が求められていたの野です。

 

⓷ 電力の地産地消を目的として、いますぐの分散型再エネ電力を供給する目的で開発・利用が進められてきたメガソーラーも、その目的を果たせず、消え去ろうとしています。これが、「温暖化物語」の終焉です

上記(⓵)したように、北海道の胆振東部地震時のブラックアウトを教訓として、その対策のために推奨された、分散型再エネ電力の主体とされるメガソーラーの利用・拡大を図る目的で導入されたFIT制度の適用除外が、近く(2020年度中)実施されることが決められました。これは、同時に、化石燃料(石炭)を用いた火力発電の代替としての電力の地産地消を目的としたメガソーラ―の利用が断念されたことを意味します。

このメガソーラのFIT制度適用除外を政府が決めた理由としては、このメガソーラー電力が、2017年度で、7割程度を占める再エネ電力が。国内総発電量の僅か7 % 程度しか占めない現状で、FIT制度による再エネ電力の買取金額を賄うための市販電力の値上に伴って国民から徴収される金額が2.4兆円以上にも昇っています。実は、この他に、FIT制度適用での発電を生業としているメガソーラー事業での倒産数が2016年頃から急増しているのです。

再エネ電力の生産が収益事業として成立するためには、電力生産設備の投資金額が、FIT制度での契約期間(メガソーラ―では20年)内に、生産電力の売り上げ金額(=FITでの電力買い上げ金額)で回収されなければなりません。ところが、この期間内に設備のトラブルなどで、電力生産量が、当初の計画通りにいかなければ、この再エネ電力の生産が、収益事業として成り立たなくなります。したがって、この再エネ電力生産事業を、容易に経済的利益の得られる事業だとして、技術的なスキルを持たない事業体が、最初の投資金額を借金に頼った場合、その技術的な問題で、或いは、上記(⓶)の自然災害による設備のトラブル等で、目的の発電量が得られないために、借金の返済ができなくなり、事業が倒産に追いやられることになっているようです。

ところで、FIT制度を適用して、再エネ電力の利用を拡大するとき、その再エネ電力の生産が収益事業として成り立つためには、次の経済収支式が成り立つように、生産電力の買取価格が決められなければなりません。

 

(再エネ電力の売上金額)

=(再エネ電力発電量)×(FIT制度での電力買取価格)

={(再エネ電力生産設備の製造コスト)+(設備維持費)}×(事業利益率)                 (1)

ただし、

((再エネ電力発電量)= ( 再エネ電力設備容量) ×(再エネ電力設備利用率)    (2)

再エネ電力として、太陽光や風力など、出力の時間変動の大きい再エネ電力を用いるときには、これら再エネ電力の実操業での設備利用率の実績値を用いて、これら再エネ電力の生産が収益事業として成り立つように、それぞれの再エネ電力の設備利用率の値に比例した買取価格が決められなければなりません。

しかし、FIT制度導入時(2012年)には、各再エネ電力種類別の設備利用率の信頼できる実績値が判っていなかったはずで、このFIT制度での再エネ電力買取価格を決めるためにどのような設備利用率の値が用いられるべきかが不明でした。私どもは、環境省の「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書(文献1)」に記載の再エネ電力種類別の設備容量と発電量のデータから、上記の ( 2 ) 式を用いて、設備の利用率の値を推定しました。その値を表1 に示します。詳細については、私どもの近刊(文献 2 )を参照して下さい。

 

表 1  FIT制度適用の対象になっている再エネ電力種類別の再エネ電力設備利用率の値(「環境省;再生可能エネ導入ポテンシャル調査報告書(文献1 )」に記載の再エネ電力関連の調査データをもとに、私ども(文献2 )が推定・計算した値)

これに対して、日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献 3 )と略記)に記載の新エネルギー等のFIT制度導入後の認定設備容量、発電量のデータから、( 2 ) 式を用いて、各再エネ電力種類別の年度別年間平均設備利用率の値を求めて、表 2 に示しました。ただし、計算に用いた数値が小さくて、得られた値が異常な場合は除外しました。

 

表 2 FIT制度導入後の各再エネ種類別の年間平均設利用率 % の値の計算値

(エネ研データ(文献 3 )に記載の新エネルギー等のFIT制度導入後の設備容量、発電量のデータをもとに、本文中の ( 2 ) 式を用いて計算した値1)です)

注 1);具体的な各年度の設備利用率の値は、(設備利用率)=(各年度の発電量 kWh)/ (8,760 h/年)/(FIT制度開始時からの年度別運転設備容量の累積値kW) として計算しました。 2) ;FIT制度適用の対象となった太陽光発電には、家庭用と家庭用以外の2種があります。エネ研データ(文献3 )には、両者を区別した値の記述がありませんが、その大半が、家庭用以外のメガソーラーです。 2);風力発電には、陸上と洋上の2種類があります。ここでの風力は、両者を合わせた値です。

 

この表2 に見られるように、国内で、「温暖化物語」が目指している脱炭素社会の実現を目的とした、いますぐの再エネ電力の導入のためのFIT制度の適用で、その利用・拡大が図られているメガソーラーの実際の設備利用率の値が、表1に示した当初予定の設備利用率の値の半分程度の5~6%に止まっています。これが、FIT制度適用のメガソーラーの多くで、予定通りの発電量が得られず、借金をして、メガソーラー事業を始めた事業者の多くが倒産した原因ではないかと考えます。

すなわち、国民に大きな経済的負担をかけるだけで、地球温暖化の防止に貢献しないだけでなく、また、化石燃料の枯渇後、その代替にもならず、さらには、災害時の大規模停電の予防にもならないメガソーラーは、やがて消え去るでしょう。

「温暖化物語」の終焉と言わざるを得ません。

 

<引用文献>

  1. 平成22年環境省帷幄事業「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成23年3月」
  2. 久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月
  3. 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧、省エネルギーセンター、2008 ~2019年

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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