日本の少子高齢化対策と世界および日本の人口問題 強い日本に戻すための安倍政権の現状の少子化対策、これでよいのでしょうか?

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 日本における少子高齢化対策では、現在の日本の労働福祉政策が崩壊される恐れがあります。政府には、何とか、貧しい高齢者への福祉政策の恩恵を維持するための対策に、知恵を絞って頂くことをお願いします

⓶ IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張する温暖化対策の実行を唯一可能にする私どもが提案する「化石燃料の消費の節減対策」の実行には、世界の人口増加が、その実行の足を引っ張ります。人口増加を続ける国には、人口抑制対策が求められる必要があります

⓷ 人類の生存を究極的に制御するのは、食料を自給できる世界の人口問題です。食料を自給できない日本で、食料自給率の向上を図ろうとするのであれば、国力増強を目的として、人口増加比率の値を引き上げるための少子化対策は実行すべきでないと考えます

 

(解説本文);

⓵ 日本における少子高齢化対策では、現在の日本の労働福祉政策が崩壊される恐れがあります。政府には、何とか、貧しい高齢者への福祉政策の恩恵を維持するための対策に、知恵を絞って頂くことをお願いします

日本における少子高齢化とは、人口が、2007年度頃をピークとして減少傾向に入る一方で、医療技術の進歩に伴う平均寿命の高齢化もあり、このままで推移すると、やがて、現在、退職者の年金生活や医療を支えてきた現役の労働人口が大幅に減少することになり、いままで政府が進めてきた労働福祉政策が成り立たなくなることだとされています。

いま、政府は、この日本における少子高齢化の問題を解決するには、現在、進んでいる人口減少に歯止めをかけなければならないとしていますが、果たしてそれは可能でしょうか? 日本におけるこの人口減少の主要な原因は、戦後の民主国家の建設により与えられた男女同権運動のなかで進んだ女性の職場進出にあると言ってよいでしょう。他にも、高度経済成長のなかで、生活費が上昇して、若い男女が結婚しても、かつてのように男性だけの労働収入では、ぜいたくな生活ができないために、子供の数を制限して共稼ぎをしなければならないとの経済的な理由もあるでしょう。さらには、これらの理由に伴う結婚年齢の高齢化も少子化の進行に拍車をかけることになっています。

一方で、この少子化は、主として日本を含む先進諸国で起こっている自然現象と見てよく、アフリカなど、戦後、独立を獲得した貧困なかつての植民地だった途上国の多くでは、人口の急増が進んでおり、そのために貧困から抜け出せない状況が現在も進んでいます。

ところで、この先進諸国における少子化は、かつての第2次世界大戦以前の日本における「産めよ増やせよ」の政治による大号令で、国力の、すなわち、軍事力の増強として現れました。ヒットラーも、人口増加を目的として、女性の職場進出を抑制したと言われています。いまも、日本では、国力の低下を招く少子化を防ぐためとして、政府は、「少子化対策基本法」を制定して、育児施設の拡充や、育児の時間を増やすための労働時間短縮の奨励による子育て支援対策に努めています。しかし、これらの政策的支援による人口減少への歯止めの効果は殆ど現れず、他の先進諸国をしのぐ急速な少子化が進行しています。

結果として、日本は、現在進行中の少子化がこれ以上進まないような政策を続けながらも、何とかして、この少子化の進行による労働福祉政策の破綻に伴う国民生活のマイナスを最小限に止める政策を進める以外にないと政府は考えているのではないでしょか? 具体的には、現在の高齢者への福祉対策制度の一定の改革は止むを得ないとしているようです。例えば、すでにいま、政府は、後期高齢者(75才以上)健康保険制度の自己負担額を現状の1割から2割に引き上げることを決めました。国民の多くは、これも止むを得ない措置と考えているようですが、民主国家であれば、このような措置により、貧困な高齢者の生活が脅かされることのないような追加的政策措置も同時に採用されるべきと私どもは考えます。

すなわち、高齢者でも、収入の多い方には、健康保険金の自己負担率を増やすなどして、貧困な老齢者の負担増を補填して頂く措置も必要になると考えます。さらには、本来、社会福祉制度のさらなる充実に特化されて施行されるとされていたはずの消費税の増税を、低所得者への税負担減免の付帯条項付きで、本来の福祉政策に特化した形に戻すことも、真剣に考えられなければなりません。なお、これらの政策の実行は、専制政治権力維持のための景気回復を目的とした、現行のアベノミクスとしてのさらなる成長戦略の廃止を前提とすることで初めて成り立つことを付記します。

 

⓶ IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張する温暖化対策の実行を唯一可能にする私どもが提案する「化石燃料の消費の節減対策」の実行には、世界の人口増加が、その実行の足を引っ張ります。人口増加を続ける国には、人口抑制対策が求められる必要があります

 1972 年、まさに水より安いと言われた自噴する中東の石油の恩恵で、先進諸国における高度の経済成長が始まっていた中で、それに警告を発したのが、ローマクラブが発表した「成長の限界(文献1 )」です。第2次大戦後、しばらくして始まった経済の高度成長に伴う世界人口の爆発的な増加が、やがて世界の経済成長を制約することになると訴えた、この著書が出版された翌年の1973年と1978年の二度にわたって、中東で起こった軍事紛争によって、その将来的な供給への不安から、バレル2ドル程度だった安価な中東の原油価格が、短期間に10倍以上に跳ね上がりました。これが、世界経済の成長に大きな影響を与えた石油危機です。

結果として、「成長の限界」に対する「人口増加」の影響に心配する人々の恐怖感は退潮したと言ってよいでしょう。すなわち、人口増加の影響に代わって、世界経済の成長を阻害する因子とされたのが、現代文明社会のエネルギー源となっている石油の資源量の限界でした。その後の石油資源に支えられた世界経済成長の継続のなかで、採掘コストの高い重質油までが、石油の確認可採埋蔵量(科学技術の力で、経済的に採掘できる資源量)のなかに加えられました。さらには、シェールガスやシェールオイルの採掘が始まると、人類にとっての化石燃料資源は無限に近く存在し、まだまだ経済成長が継続できるとする楽観的な見方が世界中に広まっているように見えます。

しかし、シェールガスやシェールオイルも、いざ掘ってみると、その採掘コストが予想外に高くつき、私どもの調査結果(文献 2 )に記しましたように、経済性によって決まる石油の確認可採埋蔵量をほとんど増加させることはありませんでした。そのなかで、いま、人類生存の脅威が、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が訴える地球温暖化による生態系の破壊だとされ、これを防ぐために、温暖化の原因とされている温室効果ガス(その主体は二酸化炭素、以下CO2と略記)の排出削減が求められるようになりました。

しかしながら、これも私どもの主張ですが、いま、人類にとって、この温暖化より怖いのは、文明社会を支えているエネルギー源の化石燃料(主として石油)消費の不均衡に伴う貧富の格差の拡大です。この国際間の貧富の格差が宗教と結びついて起こっているのが、タリバンに始まりISに至る国際テロ戦争です。この世界平和の侵害を防ぐ唯一の方法として、私どもが提案しているのが、「化石燃料消費の節減対策」です。具体的には、世界の全ての国の協力で、2050年の各国の一人当たりの化石燃料消費量を2012年の世界平均の値に等しくすることです。この方法は、また、いま、トランプ米大領以外の全ての国の合意で進められている「パリ協定」のCO2排出削減目標を化石燃料消費の節減目標に置き換えることで実行可能となります。この「化石燃料消費の節減対策」が実行されれば、化石燃料消費の節減により、CO2の排出も削減できますから、もし、「地球温暖化に対する懐疑論」による反対の多いIPCCが主張する温暖化のCO2原因説が正しかったとしても、CO2の排出削減で温暖化の脅威も防ぐことができることになります。

この私どもが提案する「化石燃焼費の節減対策」の実行で問題になるのは、世界各国の今後の人口問題です。すなわち2050年の人口が現在(2012年)より増加する国では、化石燃料消費の節減量を増やさなければならなくなります。したがって、経済成長が遅れている、貧困で、人口増加が続いている国には、経済成長の阻害にならないように、可能な限りの人口増加の制限をお願いしなければなりません。それが、その国の経済にとっても利益をもたらしますから、是非、その実行をお願いしたいと考えます。以上、詳細は私どもの近刊(文献 3)をご参照ください。

 

⓷ 人類の生存を究極的に制御するのは、食料を自給できる世界の人口問題です。食料を自給できない日本で、食料自給率の向上を図ろうとするのであれば、国力増強を目的として、人口増加比率の値を引き上げるための少子化対策は実行すべきでないと考えます

上記(⓶)したローマクラブの警告の書「成長の限界(文献 1 )」にもあるように、世界の経済成長を究極的に抑制するのは、増え続ける世界人口を賄うための食料供給の問題です。この世界の食料供給の問題が先ず取り上げられたのは、19世紀末でした。産業革命以来、急激に増加するようになった世界人口を養うために必要な食料の増産を可能にしたのは、単位農地面積当たりの食料(穀物)の生産量を飛躍的に増加させることに成功した窒素肥料(アンモニア)を空気中の窒素から化学的に合成することを可能にした、1918年のハーバー・ボッシュ法のアンモニア合成法の成功でした( 久保田らによる(文献4 )参照)。このアンモニア合成の主原料の水素は、現在、化石燃料(天然ガス)からつくられていますが、天然ガス資源の枯渇後は、再エネ電力からもつくることができますから、世界の食料問題が世界人口を抑制することは当分は起こらないと考えてよいと思います(川島博之の著書(文献5 )参照)。問題は、現在の化学肥料と化学合成農薬に頼る現代農業を、化石燃料の枯渇後の化石燃料に依存しない、持続可能な有機農法(あるいは自然農法)に近づけることに成功するかどうかです。このためには、食品廃棄物や畜産糞尿などのコンポスト化(堆肥化)などのいわば、革新技術とは言えないような有機農法技術を、特に、貧困からの脱出を願う途上国で、実用化・普及する社会構造への変革が求められるべきです。

ところで、世界と日本での人口問題のカギを握る食料自給率について、日本でのカロリーベースの自給率は37 %と、世界の先進諸国に較べて、異常に低いとされています。しかし、この日本で用いられている「カロリーベースの自給率」の値は、日本人の一人当たりの国産食料の熱量(カロリー)を、同じ日本人一人当たりが必要とするカロリーの値で割って求めたものです。しかし、このようなカロリーベースの自給率を用いている国は特異で、日本、韓国、台湾などの少数の国以外の世界の大多数の国は、食料の国内消費仕向け量(金額)に対する国内食料生産額(金額)の比率を自給率としています。この後者の自給率の定義での日本の値は66% とされ、ドイツやイギリスなどの西欧先進国の自給率の値とさほど変わらないとされます。

いずれの定義による自給率の値を用いるにしろ、問題になるのは、この日本の食料自給率の値が、現状の日本における人口の自然減少と密接な関係を持つことです。すなわち、江戸時代の食料の完全自給体制のもとの約3千万の人口が、明治維新後の急激な人口の増加を賄いきれずに、韓国や中国への侵略戦争を起こし、さらには、第2次大戦にまで引き込まれた日本の食料自給率と人口の問題が、いま、世界の一国主義の台頭のなかで、再び、大きな問題になる可能性を残しているのです。上記(①)したように、いま、政府は。少子化に伴う、国内労働力を確保しようとして、何とかして、この自然の人口減少による少子化に歯止めをかけようとしています。もちろん、それが成功するかどうかは判りませんが、もし、食料自給率の向上を図ろうとするのであれば、国力増強を目的として、無理をして、人口増加比率の値を引き上げるための少子化対策を実行しなくてもよいのではないでしょうか?

むしろ、現状の人口の自然減少を、食料自給率の向上のためには好都合だと、素直に受け止めるべきではないかと私どもは考えます。

 

<引用文献>

  1. ドネラ・メドウズ (著), 大来 佐武郎 (翻訳);成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート 1972年
  2. 久保田 宏、平田賢太郎;シェール革命は幻想に終わり、現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます―科学技術の視点から日本経済が生き残るための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年9月
  3. 久保田 宏、平田賢太郎; 温暖化物語が終焉します いや終わらせなければなりません、化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります、 電子出版 Amazon Kindle 版 2019 11 月
  4. 久保田宏,伊香輪男;ルブランの末裔、明日の科学技術と環境のために、培風館、1978 年
  5. 川島博之;世界の食料生産とバイオマスエネルギー、2050年の展望、東京大学出版会、2008年

 

(補遺);

 いま、世の中、新型コロナウイルス問題で大変なことになっていますが、人類が、この地球上に生き延びるためには、この困難な問題の解決が最優先されなければなりません。したがって、この困難な問題が無事解決されることを前提として、人類のさらなる生存を保証するための「人口問題」について考えてみました。

 

ABOUT  THE  AUTHER

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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