化石燃料の枯渇後、その代替として利用される再生可能エネルギー(再エネ)電力の主体は、日本で開発利用が進められ、中国がそれを引き継いだ太陽光発電ではありません。現在、最も安価に利用が進められている石炭火力発電の発電コストより低くなった時の風力発電が、再エネ電力の主体として用いられることになるでしょう

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ いま、日本では化石燃料枯渇後、この化石燃料代替の再生可能エネルギー(再エネ)電力として、その発電コストが安くなった太陽光発電が利用されるべきとされていますが、、これにより、大きな国費が浪費されることになるでしょう

⓶ いま、世界で地球温暖化対策として、カーボンニュートラルの妄想によって利用されている太陽光の発電素子の製造には、中国国内での大きな人権問題を抱えて進められているようです

⓷ 世界の化石燃料枯渇後に利用されるべき再エネ電力は、発電コストが、石炭火力発電より安くなった時の再エネ電力で、その主体は風力発電になるでしょう

⓸ IPCCは、自分たちが主張する地球温暖化の脅威を「人間が生んだ危機」と断定し、地球温暖化を防止するために「カーボンニュートラルの実現」を世界の政治に強制しています。化石燃料資源の枯渇後の世界に人類が生き残るには、私どもは、科学の犯罪を許すべきではありません

 

(解説本文);「

⓵ いま、日本では化石燃料枯渇後、この化石燃料代替の再生可能エネルギー(再エネ)電力として、その発電コストが安くなった太陽光発電が利用されるべきとされていますが、、これにより、大きな国費が浪費されることになるでしょう

いま、世界では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)の主張に従って、地球温暖化対策として、化石燃料代替のいますぐの再生可能エネルギー(再エネ)電力の利用が推進されています。この目的に、早くから再エネ電力の利用を進めてきたEU諸国では、単位発電量当たりの発電コストをできるだけ安価にする目的で、風力発電方式の利用が主体として利用されています。

これに対して、日本では、需要端の近くで、電子産業で開発された発電素子を組み立てれば、すぐにでも発電ができる太陽光発電が家庭用に利用され、それが、家庭用以外の産業用の電力供給にも、非家庭用の太陽光発電(メガソーラ)として広く用いられるようになっています。しかし、人口当たりの国土面積の狭い日本におけるこのメガソーラの利用では、その利用可能量に大きな制約があることが、政府のお役人には認識されていません。

実は、再エネ電力の利用可能量については。2011年の3月に発表された環境省の調査報告書(文献 1 )があります。この調査報告書を基に、私どもが国内における再エネ電力の利用可能量を試算した結果(文献 2 参照)では、太陽光発電の発電量は、家庭用と非家庭用を合わせても、現状の国内発電量の20 % 程度に過ぎないと推定されました。再エネ電力の導入政策を担当している資源エネルギー庁の担当者に、この環境省の調査報告書の内容を把握しているか尋ねたところ、その存在自体を知らないと聞いて驚きました。これが、日本における縦割り行政の欠点でしょう。いずれにしろ政府は、地球温暖化対策のためとして、現状で最も安価な石炭火力発電の代替として、再エネ電力導入のために、EUにおいて導入されていた「再エネ電力固定価格買取制度(FIT制度)」を適用して、市販電力の値上で、国民に経済的に大きな負担を掛けて、地球温暖化対策として、発電コストの高い太陽光発電のいますぐの導入が盲目的に進められてきたのです。

その結果として、いますぐの非家庭用の太陽光発電(メガソーラ)の建設用地として、地域環境保全に重要な役割を果たしている里山林の崩壊が起こり、各地で、メガソーラの建設反対運動が起こっています。この問題について、科学技術に疎い小泉新次郎環境相は、発電設備の建設用地は、探せばいくらでもあるなどとのんきなことを言っています。困ったことです。

さらに、政府は、IPCCが主張する地球温暖化対策のための石炭火力発電代替の再エネ電力のいますぐの太陽光発電の導入で、最近、その発電設備の建設コストが安価になったとして、いますぐの導入を一層促進しようとしています。しかし、この太陽光発電設備価格が安くなったのは、安価な中国製の製品が用いられているためです。現在、国内で、太陽光発電設備の80 % が中国製で賄われているとされます。特に、メガソーラは、全て中国製で、そのために、貴重な外貨が使われているのです。本来、貿易収支を考えるとエネルギー利用比率の低い再エネ電力設備は国産品で賄われるべきで、安価だからと言って中国製を輸入・利用することは、そのために貴重な外貨を浪費する国益を損なう行為だと言わざるを得ません。IPCCの国内委員を務めておられる杉山大志氏は、この政府の行為を、「亡国の危機」と非難しておられます(杉山氏による文献 2 参照)。

 

⓶ いま、世界で地球温暖化対策として、カーボンニュートラルの妄想によって利用されている太陽光の発電素子の製造には、中国国内での大きな人権問題を抱えて進められているようです

 いま世界では、IPCCの主張に洗脳された経済先進国は、EU諸国を主体に、地球温暖化対策のための温室効果ガスCO2の排出ゼロを目的としたカーボンニュートラル実行の妄想に従って、石炭火力発電の代替としての再エネ電力のいますぐの導入に盲目的な努力を行っています。このEU諸国が、主体的に導入を進めているのが風力発電です。これに対して、日本では、発電素子を購入して設備を組み立てれば、容易に発電ができ、その電力を既存の電力会社に買い取って貰えば、電力の生産が収益事業として成立する家庭用の太陽光発電事業が環境ビジネスとして成立し、さらに旧電力法の改正により、産業用の電力を生産する非家庭用太陽光発電(メガソーラ)の生産事業に発展しました。

 日本エネルギー経済研究所編のエネルギー・経済統計要覧(文献 3 )に記載のBP (British Petroleum) 社の「世界の新エネルギー供給」のデータから、世界の風力発電と太陽光発電の年末累積設備容量(KW)の年次変化を、図 1 および図2 に示しました。

なお、エネルギー・経済統計要覧(文献 3 )には、いま、世界で実用化・利用されている再エネ電力として、地熱発電の設備容量が記載されています。火山列島と言われる日本では、その発電量に大きな期待が持たれており、利用可能なものは利用すべきですが、環境省調査報告書(文献 1 )のデータから試算されるその利用可能量は、残念ながら、現在の国内発電量に2.4 % 程度に過ぎません。

 図 1 世界の風力発電の年末設備容量の年次変化

(エネルギー・経済統計要覧(文献 3 )に記載のBP社による「世界の新エネルギー供給」のデータをもとに作成しました)

図 2 世界の太陽光発電の年末設備容量の年次変化

 (エネルギー・経済統計要覧(文献 3 )に記載のBP社による「世界の新エネルギー供給」のデータをもとに作成しました)

 

⓷ 世界の化石燃料枯渇後に利用されるべき再エネ電力は、発電コストが、石炭火力発電より安くなった時の再エネ電力で、その主体は風力発電になるでしょう

再エネ電力の発電量は、

(年間発電量kWh)=(発電設備容量kW)×(年間平均設備稼働率)

×(年間設備使用時間 h)              ( 1 )

で与えられます。(年間平均設備稼働率)は、再エネ発電方式の種類と、その使用条件によって異なりますが、太陽光発電では0.1、風力発電では0.2、地熱発電では 0.8、いずれも程度の値が推定されます。

したがって、この(年間平均設備稼働率)が低い太陽光発電では、その利用のために、安価な設備建設費用が求められることになります。この安価な再エネ発電の利用を求めてEU諸国では、(年間平均設備稼働率)が太陽光発電に較べて高く、上記(⓵)したように、単位発電量当たりの発電コストが安価になる風力発電が多用されています。これに目を付けたのが、急速な経済発展の結果、世界の工場になったと言われる中国での安い人件費です。この安価な労働力を使って、太陽光発電設備に用いるシリコン発電素子の製造に、強制的に従事させられている人が居るとのことです。それが、いま、大きな騒ぎを引き起こしている新疆イーグル地区で起こっている人権問題のようです。

 

⓸ IPCCは、自分たちが主張する地球温暖化の脅威を「人間が生んだ危機」と断定し、地球温暖化を防止するために「カーボンニュートラルの実現」を世界の政治に強制しています。化石燃料資源の枯渇後の世界に人類が生き残るには、私どもは、科学の犯罪を許すべきではありません

上記(⓶)の図1 と図2の比較に見られるように、いま、IPCCが主張する地球温暖化対策としての世界の再エネ電力の利用の主体は風力発電です。しかし、この風力発電を主体とする再エネ電力の利用は、IPCCが主張するカーボンニュートラルの妄想に基づいた、国費を使ったいますぐの利用である必要はありません。現代文明社会のエネルギー源の電力の主体を担う地球上の化石燃料(石炭)資源が枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰した時に、その代替として用いられるべきで、当面は、現在で最も安価な石炭火力を、その消費量を節減することを条件として利用すべきです。詳細は、私どもの著書(文献 4をご参照下さい。

本稿の執筆中、朝日新聞の記事に、“「人間が生んだ危機」断定 気候影響 数千年続くと断定 ” の大見出しの記事がありました。人類が、温室効果ガスのCO2排出ゼロ、すなわち、カーボンニュートラルを実行しなければ、IPCCが主張する地球温暖化が千年も継続するとIPCCが報告したとするものです。この温暖化の脅威を防ぐために、世界の全ての国が協力して、いますぐカーボンニュートラルの実行のための「パリ協定」のCO2排出削減を実行しろと世界の政治に訴えているのです。

これに対して、 IPCCの国内委員のお一人である杉山大志氏は、IPCCが地球温暖化のCO2原因説を主張するのは、このCO2原因説によって地球温暖化が進行することを説明するためのスーパーコンピューターを用いたシミュレーションモデル計算には莫大な費用が必要で、その予算を獲得するための行為は、その意図するところに反した、科学における犯罪行為に当たると厳しく批判しています。私どもは、そこまでは考えたくありませんが、結果として、そのようなことになると考えます。

さらに、最近、杉山氏は、いま、世界の政治を支配しているIPCCによる気候危機を防ぐための脱炭素化の推進(カーボンニュートラルの実行)を徹底的に批判しています。いま、世界各国が協力して、2050年までのCO2排出ゼロを実行しても、いま起こっているとされる地球温暖化を防止できるとの科学的な根拠はないのです。それがあるとしたら、私どもが、その著書(文献 2 )で主張しているように、全ての国が、残された有限の化石燃料(石炭)を公平に分け合って大事に使いながら、やがて、その石炭資源が枯渇して、その国際市場価格が高騰し、石炭火力発電のコストより安価に生産できる風力発電に依存する世界へとソフトランデイングすればよいのです。それが、現代文明社会を支えてきた化石燃料の枯渇後のエネルギー資源の奪い合いのない平和な世界に人類が生き残ることのできる唯一の道です。

いま、世界は、コロナ問題で大騒ぎしています。地球の問題、世界の問題は、世界の全ての国の協力無しには解決できません。いま、地球上で進行しているとされる地球温暖化が、適正な対応を採らないと、千年続くと、いわば恫喝によって、それを防ぐためのカーボンニュートラルの実行を世界の政治に訴えてみても、それが実際の問題の解決に繋がらなければどうしようもないのです。地球上の人類にとって、その文明生活を支えている有限の化石燃料資源が枯渇を迎えようとしているいま、私ども科学者にとって、現実的な対応として、人類の生き残りのための科学の貢献の方法について、真剣に考える道はIPCCが訴える、実現不可能なカーボンニュートラルの実行を科学的に批判し、その妄想の廃棄を世界の政治に訴えることでなければならないと考えます。

 

<引用文献>

  1. 平成22年度環境省委託事業;平成22年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成23年3月
  2. 杉山大志;「CO2ゼロ」は亡国の危機だ、ieei (国際環境経済研究所のウエブサイト)、2021,1,27
  3. 久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る 日刊工業新聞社、2012年
    日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、理工図書、2021年
  4. 久保田 宏、平田賢太郎;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する—アマゾン電子出版Kindle 版、2017年、2月

 

ABOUT  THE  AUTHOR

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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