科学の常識に反する水素エネルギー社会の実現による地球温暖化対策としての脱炭素化を目的とする「パリ協定」の実行は幻想に終わります

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 科学的な根拠のない地球温暖化の脅威の到来論が世界の流れになって、脱炭素化社会実現のための水素エネルギー社会の推進が政治に求められています

⓶ やがて確実にやってくる化石燃料枯渇後のエネルギーは、石炭火力発電のコストより低くなった将来において、自国内で生産される再生可能エネルギー(再エネ)電力が用いられるべきです

⓷ 化石燃料枯渇後の水素エネルギー社会の到来は、日本経済を破綻の淵に導きます

⓸ 科学技術の視点からどうしてもおかしい地球温暖化対策としての脱炭素化を目的とした水素エネルギー社会の到来は幻想に終わります

 

(解説本文);

⓵ 科学的な根拠のない地球温暖化の脅威の到来論が世界の流れになって、脱炭素化社会実現のための水素エネルギー社会の推進が政治に求められています

いま、地球温暖化の脅威を防止するために必要だとされる温室効果ガス(その主体はCO2)の排出を2050年までにゼロにするとのIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)、によりつくられた主張が、世界の政治の流れになっています。この世界政治の流れを創るのに貢献したとも言えるのが、2016年暮れに、日本におけるトヨタ自動車による燃料電池車(FCV)MIRAI の市販開始でした。この水素ガスを燃料とした燃料電池で造られる電力で走るFCVに試乗した当時の安倍晋三元首相が言い出したともされる「水素元年」が、日本国民の多くに大きな期待を持って迎えられました。

これに対して、私どもの一人、久保田は、「水素元年」などとはしゃいでいるのは、水素がエネルギーとして重要な役割を果たしている化学工業の歴史について知らない人達の無知によるもので、「はじめに燃料電池ありき」から導かれる「水素エネルギー社会」は、やがて、幻想に終わるだろうとの批判的な意見を、当時、私(久保田)が「エネギーや環境問題」に関連した意見を投稿させて頂いていた「国際環境経済研究所」のウエブサイトのieei に投稿したところ、このieeiの発行を経済的に支援している産業界の意向に反するとして、この論考の掲載が拒否されました。その後、間もなく、私(久保田)の論考のieeiへの投稿が許されなくなりました。

止むを得ず、私(久保田)は、私(久保田)が所属する「もったいない学会」が発行する「シフトムコラム」に、その内容を下記の四つの論考で掲載することにしました。すなわち、水素エネルギーは化学工業において重要な役割を果たしており、家庭用、産業用、運輸用に、再エネ電力から造った水素を用いる余地はない (文献1 )、燃料電池車(FCV)は、すでに開発・利用が進められている電気自動車(EV)よりエネルギー利用効率が悪い(文献2 )、都市ガスから造られる水素を用いたエネファームは、再エネ電力から造られる電力では実用化できない(文献3 )として、以上から「はじめに燃料電池ありき」から、導かれる「水素エネルギー社会」は幻想に終わる(文献 4 )として結びました。

この論考は、あくまでも科学技術的な視点から、将来の世界のエネルギー政策のなかで、「水素エネルギー社会」の未来を否定するもで、ieeiへのその掲載が拒否されるべきではなかったと考えています。これは、私どもだけの独自の考えでありません。最近、私(久保田)に代わって、ieeiのエネルギーや環境問題についての執筆者となられた杉山太志氏が、この地球温暖化対策としての脱炭素化社会の不合理について、下記(⓷)するように、私(久保田)とほぼ同様の意見を発表しています。

 

⓶ やがて確実にやってくる化石燃料枯渇後のエネルギーは、石炭火力発電のコストより低くなった将来において、自国内で生産される再生可能エネルギー(再エネ)電力が用いられるべきです

いま、世界の政治の流れとして、世界の殆どの国で、国民に経済的な負担を強いているのが、世界の経済成長を支えてきた化石燃料の枯渇後、その代替として利用されるべき、再生可能エネルギー(再エネ)電力の利用で適用されている「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」です。2012年7月以降、当時の民主党菅直人首相の下で、政治的に適用されるようになった、このFIT制度によって、当時、電力の生産の主力として用いられていた石炭火力よりも発電コストの高い太陽光発電や風力発電を導入するためのFIT 制度の適用によって、国民に高い電力料金が不当に押し付けられてきたのです。すでに、EU諸国で廃止されたFIT制度の適用での市販電力料金の利用で、より安価に供給される再エネ電力が用いられるようになるまでは、長期間にわたって、最も安価で、安定した国際市場価格で使用されてきた一般炭を燃料とした石炭火力発電が、当分はエネルギーの主力として用いられるべきです。

図1に示すように、化石燃料の種類別の可採年数(確認可採埋蔵量を、その年の生産量で割って求められる値)が、石油や石炭に較べて2倍以上以もある石炭を燃料とする石炭火力発電が、IPCCよって、科学的に根拠のない地球温暖化の元凶として、世界各国で、その利用のいますぐの廃止が求められているのは、余りにも非合理的、かつ非科学的な世界の政治の流れと言わざるをえません。

図 1 化石燃料種類別「可採年数」の年次変化 (EDMCエネルギー経済統計要覧

(文献 5 )に記載のBP社のデータをもとに作成しました)

 

⓷ 化石燃料枯渇後の水素エネルギー社会の到来は、日本経済を破綻の淵に導きます

上記(⓵)したように、いま、世界のエネルギー政策の流れは、IPCCが訴える地球温暖化の脅威を防ぐための「パリ協定」の2050年までのCO2排出ゼロを目標とする脱炭素化の目標を掲げています。具体的には、CO2の排出量の大きい石炭火力発電を廃止して、その代わりに自然エネルギーとしての太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー(再エネ)電力を利用して、それにより水素エネルギー社会を創設することで、経済成長のためのエネルギー生産のコストを増加させています。これを、日本の場合について見れば、菅義偉首相による「グリーンエネルギー生産」による日本経済のマイナス成長を招くことになるだけなのです。

上記(⓵)したように、IPCCの国内委員の一人で、現在、キャノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山太志氏は、地球温暖化問題について、独自の科学的な解析を加えた結果を多数発表しておられます。この杉山氏は、最近、私(久保田)がエネルギー・環境問題についての意見を投稿させて頂いていた国際環境経済研究所のウエブサイト(ieei)に、「温暖化の政策科学」として、「CO2ゼロは亡国の危機だ」などの地球温暖化の脅威を避けるための脱炭素化を求める世界の政治の流れを批判した一連の論考を多数発表しています。詳細は杉山氏のieei の論考(文献 6 )および関連のieeiへの杉山氏の論考を参照して頂きますが、その内容は、いま、世界の流れになっている地球温暖化の脅威を防止するための「パリ協定」の「CO2ゼロ」目標の実行努力が、現状で最も安価な石炭火力発電を廃止し、高価な再エネ電力(自然エネルギーとしての太陽光発電や風力発電)のいますぐの利用のための水素エネルルギー社会の創設を推進するために、世界経済のマイナス成長を導くとするものです。

この杉山氏の主張は、上記(⓵,⓶)した私どもの主張とほぼ同じで、いま、世界のエネルギー政策を混迷に陥れているIPCCの主張、すなわち、やがてやって来る化石燃料枯渇後の再生可能エネルギー社会の到来を完全に否定するもの言ってよいでしょう。

 

⓸ 科学技術の視点からどうしてもおかしい地球温暖化対策としての脱炭素化を目的とした水素エネルギー社会の到来は幻想に終わります

 現在、生活用、産業用、運輸用に使われているエネルギー源の殆ど全ては、化石燃料により供給されています。上記(⓶)したように、これらの化石燃料資源は、やがて確実に枯渇します。したがって、地球上に存在する化石燃料の枯渇後のエネルギー源は、原子力か再生可能エネルギー(自然エネルギー)でなければなりません。

しかしながら、この両エネルギーとも、その実用化のエネルギーとしての有効な形態は電力です。この電力エネルギーを使って、水を電解して造った水素を、再び電力に変換して使おうとするのが「水素エネルギー社会」です。であれば、この原発電力や再エネ電力をそのまま電力として利用する方が、そのエネルギーの利用効率が良いと考えるのが科学の常識でなければなりません。これが、IPCCが訴える、2050年の脱炭素化を目標とした水素エネルギー社会の到来でなければならないなのです。しかし、地震国日本での原子力エネルギー利用は、先の東日本大震災での東電福島第一原発の過酷事故の苦しい経験による、安全性へのリスクから,できたらその利用は避けるべきです。より重要な問題として、核燃料廃棄物の処分場を国内に求めることができない日本では、原発は使用できないのです。したがって、化石燃料枯渇後、その代替のエネルギー源は、再エネ電力以外にないと考えるべきです。これが、私どもが訴える科学技術の視点から考えて、どうしてもおかしい「はじめに燃料電池ありき」から導かれる「水素エネルギー社会の幻想」なのです。詳細については私どもの論考(文献4 ) をご参照下さい。

もう一つ、日本における「水素エネルギー社会の幻想」のなかに加えられなければならないのは、日本におけるエネルギー用の水素を輸入する非常識があります。具体的には、中東地域での太陽熱発電の電力で造った水素をトルエンと化学反応させ、液体として日本まで輸送して、これを日本で水素ガスに戻し、さらに燃料電池を用いて電力に変換して利用するものです。また、オーストラリアで、未利用の褐炭を原料として造った水素を加圧・冷却・液化して、液化水素輸送船で、日本に輸送することも考えられています。確かに、日本国内において経済的な再エネ電力の生産可能量が存在しないのであれば、このような海外産の安価な水素エネルギーの利用について考える必要が存在するかも知れません。しかし、再エネ電力の利用は、あくまでも、国産の電力を送電線で運んで、電力のまま、直接利用する以外に、その利用での経済性が成り立たないと考えるべきです。ただし、ここで利用可能な再エネ電力は、いま、日本で積極的な開発・利用が進められている太陽光発電ではありません。

平成22年度の環境省委託事業「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成22年3月」の調査研究結果から、私どもが国内の発電可能量に換算して求めた再エネ電力種類別の発電量を表1 に示しました。

 

表 1 「再エネ電力種類別の導入ポテンシャル」の推定値 (環境省報告書(2011年)の設備容量のデータをもとに発電量に換算して作成したものを私どもの近刊(文献 7 )から再録しました)

注 *1;((バイオマス発電)のデータは、環境省調査報告書には記載がありません。国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、用材の生産、使用の残りの廃棄物を全量発電用に利用した場合の私どもによる推算値です  *2 ;各再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの値の国内合計発電量(2010 年)1,156,888百万kWhに対する比率です。

 

ここで重要な問題が指摘されなければならないことがあります。それは、この表1に示すように、狭い国土の日本では、太陽光発電の利用可能量量は、現状の国内同電量のせいぜい10 %余りにしかならないことです。単位面積当たり発電可能量量が小さい太陽光発電(非住宅)の発電用地として、環境保全のために重要な役割を果たしている里山林が次々と破壊されているのです。これに対して、風力発電であれば陸上と洋上を含めた発電可能量の合計は、国内総発電量の4.6 倍程度もあります。以上について、詳細は、私どもの著書(文献 7 )を参照して頂きますが、このような再エネ電力の生産コストを考慮した利用可能量がより正確に定量的に評価・解析されれば、海外で生産されるエネルギーを水素に変換して、日本に持ってくる必要がないことが明らかにされると考えられます。これが、私どもが訴える「はじめに燃料電池き」から導かれる「水素エネルギー社会は幻想に終わる」べきと言わざるを得ないもう一つの理由です。

 

<引用文献>

  1. 久保田 宏;  「水素元年などとはしゃいでいるのは、化学工業の歴史を知らない人の妄想である、シフトムコラム(もったいない学会)、2015,3,24
  2. 久保田 宏; 水素社会のフロントランナーFCVはどうやら見果てぬ夢で終わる、シフトムコラム(もったいない学会)、2015,3,24
  3. 久保田 宏; エネファームは、「家庭用のオール電化」訴えている電力会社に対抗する都市ガス会社の企業戦略であった、シフトムコラム(もったいない学会)、2015,3,24
  4. 久保田 宏; 「はじめに燃料電池ありき」から導かれる「水素社会」の幻想、シフトムコラム(もったいない学会)、2015,3,24
  5. 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧、省エネルギーセンター、2020年
  6. 久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネるギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012 年

 

ABOUT  THE  AUTHOR

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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