電力自由化のなかに入り込んで、日本のエネルギー政策に混迷をもたらしている「温暖化物語」は終焉のときを迎えなければなりません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 電力自由化の制度改革が行われて以後、自治体に入り込んでいた新電力からの旧大手電力への回帰が起こっているようです

⓶ 電力の自由化の目的が、「温暖化物語」が求めるお金のかかる再エネ電力の供給の増加にされてしまっています

⓷ 電力自由化の目的のなかに入り込んで、日本のエネルギー政策に混迷をもたらしている「温暖化物語」は終焉のときを迎えます。これでは、化石燃料枯渇後の経済成長が抑制される世界に日本が生き残れなくなります

 

(解説本文);

⓵ 電力自由化の制度改革が行われて以後、自治体に入り込んでいた新電力からの旧大手電力への回帰が起こっているようです

11月5 日(2019年)の朝日新聞の朝刊第1面に、

自治体電力 進む大手寡占 24道府県、新電力から回帰

を表題として、下記の要約を付した記事がありました。

“朝日新聞と一橋大学などが、都道府県と政令指定市の本庁舎の電力調達先を調べたところ、新電力会社から大手電力会社に戻った自治体が、半数以上あった。大手電力が新電力より約2割安値で落札したケースもある。調達先を変えていない自治体を含めると大手が8 割を占め、寡占化が進んでいる。専門家からは電力自由化の進展を危ぶむ声も出ている。”

この表題と要約、さらに、その内容を読んだ一般の人には、何の目的で書かれた記事なのかが、判らなかったと思います。

先ず、問題になるのは、電力の自由化が何を目的として始まったかについて、この記事の執筆者には、一定の思い込みがあることではないでしょうか? この記事にあるように、日本での電力の小売りは、大口向けでは、2000年に始まりましたが、家庭向けには2016年4月から始まりました。この家庭向けの小売りが始まったことによって、旧9電力会社の独占体制が崩れ、その結果、100社を超える新電力会社が出現しました。これらの新電力会社が販売する電力の主体は、新エネルギーともよばれる再生可能エネルギー(再エネ)電力でした。それは、いま、世界で、地球温暖化の脅威が叫ばれるなかで、それを防ぐために再エネ電力の利用・拡大を期待する政治の要請があって、この要請に、電力小売りの自由化が利用されたと考えてよいと思います。すなわち、新エネルギーともよばれている再エネ電力の生産が、新しい収益事業として、産業界で期待されるようになったのです。

この再エネ電力の利用・拡大の新事業を支援しようとして、政治やメデイア、産業界までが、大騒ぎを始めました。そのなかで起こったのが、地方自治体による公共施設の所要電力の購入契約先を再エネ電力を販売する新電力会社へ切り替えることでした。地球温暖化対策に貢献することが地球環境の保全につながるとする不思議な大合唱に釣られた新電力会社支援事業でした。一方で、電力販売収益の既得権益を失うことを懸念した、旧大手電力会社が、巻き返しを狙って、自治体との間の契約の再更新を迫ったのです。電力小売りの完全自由化が始まって、僅か3年で、入札制度による契約の更新で、一度、自治体における新電力会社に移った電力の小売り契約が、より大幅に安価な価格を提示する旧大手電力会社との契約へと回帰したのです。

しかし、私どもから見れば、この電力のより安価な調達先への回帰は、いま、財政難に苦しむ自治体にとって、市場主義経済社会のなかでの当然な行為だと考えます。地球温暖化の脅威を訴えて、温室効果ガス(CO2)の排出削減のための再エネ電力の利用・拡大を訴えるIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)の主張に従って、高い電力代のために住民のお金を使うことは合理性を欠いた行為だと言わざるを得ません。さらには、この自治体の行為を、電力自由化の進展の危機としてとらえた今回の朝日新聞社の記事には、大きな疑念を呈さざるを得ません。

 

⓶ 電力の自由化の目的が、「温暖化物語」が求めるお金のかかる再エネ電力の供給の増加にされてしまっています

上記⓵の朝日新聞の記事が示すように、2016年に行われた電力の小売りの自由化の目的が、旧大手電力会社の独占体制の廃止にあるとされたのは、どうやら、政治が、IPCCが主張する、地球温暖化を防止するCO2排出削減のための再エネ電力の利用・拡大の要請に盲目的に追従した結果と考えることができます。上記(⓵)と同じ日の朝日新聞の第3面の

電力の入札 環境配慮も 東京都など 再エネ利用を評価

との表題の記事では、

“都道府県や指定都市の一定額以上の電力調達には、一般競争入札が行われているが、その際、価格だけでなく、エネルギーの地産地消や発電の際の環境影響が考慮されている自治体がある” とされた上で、その代表例として、“東京都の第一庁舎で使う年間3千万キロワット時の電力の全てを再生可能エネルギー由来に切り替えている” とあります。

さらに、“ 都は、再エネの利用率や利用量などを評価して、点数化して、価格以外も評価する総合評価方式を導入しており、結果として、再エネ電力が、最も安い入札価格の1.7倍もの価格で入札された” とあります。なお、この総合評価の方法では、同じ再エネでも、

“大規模水力の評価を低くし、地元のエネルギーの評価を高くするなどの工夫をしている” とあります。

ところで、この地元のエネルギーとは、大規模太陽光発電(メガソーラー)です。しかし、このメガソーラーの発電コストは、最近、導入当時より大幅に安くなったとは言え、未だ現在使われている再エネ電力のなかで、最も高価な電力です。それが、この都の新電力会社からの購入電力の価格を高いものにしているのです。その高い電力は、都民の税金で支払われているのです。金持ちな東京都だからできることなのでしょう。

 

⓷ 電力自由化の目的のなかに入り込んで、日本のエネルギー政策に混迷をもたらしている「温暖化物語」は終焉のときを迎えます。この「温暖化物語」が継続すれば、化石燃料枯渇後の経済成長が抑制される世界に日本が生き残れなくなります 

日本における2016年の家庭用電力の小売りの自由化による電力の完全自由化は、地球温暖化の脅威を防止することを目的としたCO2の排出削減のための再エネ電力のいますぐの利用・拡大とされたようです。結果として、既成の発電設備を組み立てれば、簡単に、いますぐの発電が可能となる大規模太陽光発電(メガソーラー)が、その高い発電コストを、電力料金の値上で、国民に経済的な負担を押し付ける「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の適用を受けた新電力販売事業会社を林立させることになりました。

しかし、出力負荷変動の大きいメガソーラー電力を主体とする再エネ電力のFIT制度の適用による急速な利用の拡大では、電力事業化後、その送配電業務を担当している旧大手の電力会社の不興を買い、結果として、需要者側の要求に応えるために、新電力会社より安い入札価格で需要者との契約を結ぶ旧大手電力会社への電力調達への回帰が起こったのです。

FIT制度の施行後、僅か7年の現在、総発電量中の再エネ電力の比率が10 % 程度にしかならないなかで、電力料金の値上げで国民に経済的な負担をかけるFIT適用での再エネ電力の買取金額が3兆円を超えました。このFIT制度の施行を所轄する資源エネルギー庁は、たまりかねて、メガソーラーに対するFIT制度の適用除外を決めました。と言うことは、国民の経済的な負担で、再エネ電力のいますぐの利用・拡大を訴える「温暖化物語」が終焉を迎えることになったのです。

これは、いま、温暖化防止の「パリ協定」のCO2排出削減を声高に訴える世界政治の流れに押されて、FIT制度の適用による再エネ電力の利用・拡大のための「温暖化物語」を実行させようとしているアベ政権にとっては困ったことです。しかし、私どもが繰り返し主張しているように、、地球温暖化の脅威を防止するCO2の排出削減のための再エネ電力を利用すべきとのIPCCの主張には、科学的な根拠はないのです。すなわち、「温暖化物語」の間違った考えに支配されて、電力自由化の目的を、このメガソーラーを主体とする再エネ電力で、都道府県や政令指定市の公共施設の電力を賄うべきとしている専門家の考えに盲目的に追従するもうメデイアには、もう少し勉強をして頂くことをお願いせざるをえません。こんなことをしていたら。日本が、化石燃料枯渇後の世界に生き残ることができなくなります。

最後に誤解のないように、付記します。私どもが否定しているのは。温暖化防止には役立たないいますぐの再エネ電力の利用なのです。化石燃料枯渇後の経済成長が抑制される社会では、全ての国が、自国産の再エネ電力に依存した、エネルギー資源の奪い合いをあう必要とする貧富の格差の無い平和な世界を創らなければならないのです。

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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