日本のエネルギー政策を混迷に陥れている地球温暖化対策としての「低炭素化」のための国策が、国民に大きな経済的な負担を押し付けて、幻に終わろうとしています (その3)「はじめに燃料電池車ありき」で始まった「水素エネルギー社会(水素社会)」は間違いなく幻に終わります

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

① 化石燃料の枯渇後、再エネ電力からつくられる水素を使って走る燃料電池車(FCV)が、未来の自動車とされ、今まで通り、日本の輸出産業を支えるとして始まったのが「水素エネルギー社会(水素社会)」です。この「水素社会」のエネルギー源の水素は、再エネ電力による、無限に存在する水からつくられます

② しかし、再エネ電力からつくられる水素を使って自動車を走らせるよりも、再エネ電力を直接使って電気自動車(EV)を走らせる方が、エネルギーの利用効率がよく経済的だとするのが科学技術の原理です

③ 余りにも高価な車体価格、液化のコストを考えない液体水素を用いる水素ステーションなど、どう考えても、水素をエネルギー源としたFCVが、未来の車社会の主役になるとは考えられません。 国が決めたエネルギー政策のなかの「水素基本戦略(2017年12月26日)」は根本的に見直しが必要です

④ FCVの市販で始まった「水素元年」以降、「水素社会」の利器に加えられるようになった「エネファーム」も、化石燃料枯渇後の再エネ電力からつくられる「水素」の利用では、その使用の経済的利益となる家庭給湯用の温排水が出てきません 

⑤ この「水素社会」のための水素を海外でつくって日本に持ってくることが計画されています。しかし、化石燃料枯渇後、その代替の再エネとしての水素の輸入では、そのお金は何処から持ってくるのでしょう? また、水素エネルギーを用いる燃料電池の利用の方法として、出力変動の大きい再エネ電力の蓄電システムとしての利用も考えられているようです。しかし、その実用化にあたっては、在来の蓄電池との効率の定量的な比較で、その実用化の可能性が評価されるべきです

⑥ 化石燃料の枯渇後、その代替のエネルギー源と期待される「水素」の利用による「水素社会」は幻に終わります。それは、この「水素社会」が、化石燃料がなくとも、イノベーション(科学技術の進歩)によって経済成長が継続できるとの「成長神話」に乗っかって出て来たものだからです。成長の終焉がこの「水素社会」を終焉に導きます

⑦ 補遺;東京オリンピック・パラリンピックでの安倍内閣による世界に先駆けた「水素基本計画」宣伝の不可思議

 

(解説本文);

① 化石燃料の枯渇後、再エネ電力からつくられる水素を使って走る燃料電池車(FCV)が、未来の自動車とされ、今まで通り、日本の輸出産業を支えるとして始まったのが「水素エネルギー社会(水素社会)」です。この「水素社会」のエネルギー源の水素は、再エネ電力による、無限に存在する水からつくられます

気体の水素を燃料とした燃料電池車(FCV)のトヨタの「MIRAI」が市販され、それに安倍首相が試乗している姿がTVに映し出されました。3年前(2015年)の正月のことです。これが、「水素元年」としてメデイアが一斉に騒ぎたてた「水素エネルギー社会(水素社会)」の始まりです。

市販価格700万円の車に200万円の補助金(国民の税金)がついたFCVが、輸出産業の主役になって、日本の経済を支える日が来るはずだとして、このFCVの利用・普及を推進するエネルギー政策が国策として推進されるようになりました。産業界でも、多くの企業が、この「水素エネルギー」に、ビジネスチャンスがあるとして、われ遅れじと、この「水素社会」に夢を託しています。

もし、この国策「水素社会」が実現する日が来るとしたら、それは、いまエネルギー源の主役を担っている化石燃料に代って、「水素」がエネギー源の主役になる時でしょう。本稿(その1 )から(その2 )まで繰り返し述べたように、有限の資源としての化石燃料資源が枯渇する日は確実にやってきます。この化石燃料代替のエネルギー源として用いられるのは国産の再エネ(自然エネルギー)電力でなければなりません。これに対して、「水素社会」のエネルギー源は、この再エネ電力を使って、地球上に無限に存在する水(H2O)を電気分解してつくられる水素(H2)です。

 

② しかし、再エネ電力からつくられる水素を使って自動車を走らせるよりも、再エネ電力を直接使って電気自動車(EV)を走らせる方が、エネルギーの利用効率がよく経済的だとするのが科学技術の原理です

では、現代文明社会の利器、自動車を走らせるのに、この水素を使うのと、この水素をつくるための再エネ電力を直接使うのと、どちらが省エネになり、経済的に有利になるのでしょうか? 答えは簡単です。やがてやってくる化石燃料枯渇後の自動車は水素で走るFCV(燃料電池車)ではなく、この水素をつくる再エネ電力を蓄電池に貯め、その蓄電池からの電力で走るEV(電気自動車)になるはずです。それは、再エネ電力を使ってEVを走らせる場合のエネルギーの利用効率に較べて、その同じ再エネ電力で水素をつくり、その水素を燃料とした燃料電池からの電力でFCVを走らせる方が、電力を水素に変換する工程が余分に加わる分、エネルギー利用効率の面から不利になることは、容易に判って頂けると思います。

現用の自家用車について、そのエネルギー源の利用効率は、通常、「燃費」で表わされますが、その値は、内燃機関車(ガソリン車としてGV)ではkm/ℓ-ガソリン、電気自動車(EV)では km/kWh-電力 で表され、両者の直接の定量的な比較ができません。さらに、燃料電池車(FCV)では、この「燃費」の値が示されていません。そこで、私どもは、これら3種の自動車について、そのエネルギー利用効率の違いによる経済性を表わす指標として、次式で定義される「新燃費」の概念を提案しています。

「新燃費」={ 1 /(燃費)}×(エネルギー源価格) 円/km     ( 3 – 1 )

ただし、FCVの燃費については、km/kg-H2 の値を用います。

ほぼ同じ走行性能をもつGV、EV、FCVについて、この「新燃費」の計算値を表3 – 1に示しました。

 

3-1 自家用車の車種別の単位走行距離当たりのコストで表わす「新燃費」の試算値

(私どもの近刊(文献3 – 1 )の「第5章 経済成長を訴える政治によってつくられた水素エネルギー社会は幻想に終わる」から)

注; *1;GVの燃費 25 km/ℓ、ガソリンの市販価格 130 円/ℓとして計算 *2 ;日産リーフの燃費 6 km/kWh、電力価格(蓄電コストを含む)28.6 円/kWh として計算 *3 ;トヨタMIRAIの燃費(満タン時の水素質量4.6 kgでの走行距離650 km として)141 km/kg-H2、水素ステーションにおける水素の市販価格1,080 円/kg として計算

 

この表3 – 1に見られるように、FCVの「新燃費」の値は、電気自動車(EV)に対してだけでなく、燃費の良い最近のガソリン車(GV)よりも高くなっていて、その現在における使用は、経済的にも不利なことが判ります。

 

③ 余りにも高価な車体価格、液化のコストを考えない液体水素を用いる水素ステーションなど、どう考えても、水素をエネルギー源としたFCVが、未来の車社会の主役になるとは考えられません。 国が決めたエネルギー政策のなかの「水素基本戦略(2017年12月26日)」は根本的に見直しが必要です

また、現在の車体の価格でも、FCVのトヨタのMIRAIの価格はEVの日産のリーフの約2.5倍もします。将来、この差が、増産による市場拡大で簡単に縮小できるとは考え難いでしょう。したがって、化石燃料の枯渇後の再エネ電力をエネルギー源とする自動車としてのEVのFCVに対する優位性は、現在はもちろん、将来も変わることはないと考えるべきでしょう。

ところで、いま、現在のFCVが、現在のEVに較べて優れているところがあるとしたら、その航続距離(一回のエネルギー源(FCVの場合、水素)の充填当たりの走行距離)の違いでしょう。FCVのMIRAIでは、ガソリン車と同じように、水素を短時間で車の高圧ボンベに充填した後650 km走行できるとされています。これに対して、最新のEVでも、航続距離の値は300 km程度とされています。しかし、これは、私どもの考えですが、運輸システムのエネルギー消費の節減がより強く要求される未来社会では、長距離輸送は鉄道(電車)が担い、自動車を短距離輸送用とする棲み分けを図れば、FCVの出番は無くなるのではないでしょうか?

現にいま、EUが主体で、明日の自動車として、2030年を目標に、液体燃料(石油)を用いる内燃機関自動車(エンジン車)を全てEVに取り換えるとのエネギー政策が採られようとしています。さらに、この動きに拍車をかけているのが、いまや、世界第一の自動車生産大国に躍り出た中国の動きです。EUと同様、EVへの全面的な変換が計画されているようです。

もう一つ、FCVがEVに較べて優れているとされるのは、エネルギー源の水素の車への供給時間が、ガソリン車のように短くて済むことです。しかし、これには、逆に、いわゆる自動車用のガソリンスタンドに代る「水素ステーション」まで水素をどうやって運ぶかの問題があります。現在、水素は液化して運ぶこととしているようです。この液化水素を用いる水素ステーションでの水素の市販価格は、1,080円/kg-H2 ( = 96.4円/Nm3 )とされていますが、この約半分(50円/Nm3程度)が液化のコストとみなすことができます。一方、資源エネルギー庁が決めた「水素基本戦略(2017年12月26日)」では、「水素社会」の推進のためには、現在の水素の価格100円/Nm3を2030年には30円/Nm3、将来は20円/Nm3にするとしています。しかし、上記したように、液化に50円/m3程度かかるとすれば、液化水素が「水素社会」のエネルギー源となることはないと考えるべきでしょう。すなわち、「水素が大量に製造され、大量に輸送、大量に利用される」ことで、燃料コストの問題が解決されるとしている「水素基本戦略」は根本的に見直される必要があります。

 

④ FCVの市販で始まった「水素元年」以降、「水素社会」の利器に加えられるようになった「エネファーム」も、化石燃料枯渇後の再エネ電力からつくられる「水素」の利用では、その使用の経済的利益となる家庭給湯用の温排水がで出てきません 

もう一つ、「水素元年」以降、この「水素社会」の利器に加えられるようになったのが、都市ガスや石油ガス(LPG)の販売事業者が、電力会社に対抗して進めている「エネファーム」です。これは、都市ガスやLPGを原料として、各家庭で水素をつくり、燃料電池を用いて電力を生産し、供給する設備です。この設備では、同時に、天然ガスやLPGから水素をつくる際に発生する温排水が家庭の給湯用や暖房用に利用されることで、省エネが図られています。「水素元年」の7年も前に市販され、利用が進められてきたこの「エネファーム」が、「水素元年」以降、メデイアによって、燃料電池車(FCV)とともに、「水素社会」の利器に加えられました。

しかし、「水素社会」が、化石燃料枯渇後に、化石燃料の代替として用いられるようになると考えられている再エネ電力からつくられる水素をエネルギーとする社会だとするのであれば、現在、化石燃料の天然ガスや石油からつくられる水素を用いた「エネファーム」の利用には大きな問題があります。と言うのは、私どもの試算では、現在、都市ガスを原料とした水素からの電力の生産のコストは、現状の火力発電を主体とした家庭用電力料金とほとんど変わりません。したがって、もし、エネファームの利用が家庭にとって経済的な利益があるとしたら、それは、都市ガスから水素を製造する際に派生する温排水の家庭の給湯用の利用です。ただし、それが経済的な利益になるためには、電力の生産量と給湯用の温排水の利用量の間にバランスがとれなければなりません。しかし、実用のエネファームでは、通常、給湯用の温排水に余剰が生じるために、その暖房用としての利用が、このエネファーム設備の標準仕様になっています。しかし、日本の気候条件では、温水暖房は、家庭暖房用の標準になっていませんから、一般的な家庭では、このエネファームへの投資金額を温排水利用の利益で回収することは困難になります。そこで、政府は、このエネファームの利用・普及を図るために、その利用者に、上記のFCVにおけると同様、購入代金の一部を、国民の税金から補助金として支給しています。

ただし、これらの補助金の支給は、本稿(その2)の再エネ電力の利用・拡大のためのFIT制度における再エネ電力の買取価格のように、高額なFCVやエネファームの購入者にとっての経済的負担を、広く、貧しい人々を含めた国民に押し付けることになります。これは、民主主義社会では、あってはいけないことだと私どもは考えます。すなわち、現在のFCVやエネファームの利用が、化石燃料の輸入金額の節減につながる場合にのみ、その節減額の一部が、これら省エネ機器の利用者に還元されるべきです。

より問題になるのは、このエネファームの生産に、現在、輸入化石燃料の都市ガス(天然ガス)や石油が使われていることです。化石燃料の枯渇後に想定される「水素社会」の水素は、上記(①)したように再エネ電力による水の電気分解でつくられる水素でなければなりませんが、この水素を使った電力の生産では、現状のエネファーム使用のメリットである家庭用の温排水の利用ができません。それだけではありません。電力の生産に燃料電池を用いる本来の目的は、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減であったはずですから、水素の製造原料に都市ガスや石油を用いたのでは、この目的が何処かへいってしまいます。

さらに、付け加えなければならないことがあります。それは、石油危機の後、家庭給湯用のエネルギーの約7.7 %を供給していた太陽熱温水器の復活、利用です。現在でも、家庭給湯用のエネルギー供給には、それが最も安価な方法なのです(文献3 – 2参照)。

 

⑤ この「水素社会」のための水素を海外でつくって日本に持ってくることが計画されています。しかし、化石燃料枯渇後、その代替の再エネとしての水素の輸入では、そのお金は何処から持ってくるのでしょう? また、水素エネルギーを用いる燃料電池の利用の方法として、出力変動の大きい再エネ電力の蓄電システムとしての利用も考えられているようです。しかし、その実用化にあたっては、在来の蓄電池との効率の定量的な比較で、その実用化の可能性が評価されるべきです

さらに、いま、日本では「水素社会」のための水素を海外でつくって、それを日本に持って来ようとする不可思議なことが計画されています。その一つは、中東のサンベルト地帯と呼ばれる地域で、太陽熱発電の電力でつくった水素を、もう一つは、オーストラリアの褐炭からつくった水素を、日本にもって来ようとする計画です。いづれも、その実証試験が行われています。この水素を運ぶ手段として、水素をトルエンなどの有機化合物にくっつけて持ってきて、日本でそれをはがして使おうとするものです。この水素の運搬の方法の是非はともかく、このように再エネを海外から輸入したのでは、現行の化石燃料の輸入と変わりません。その輸入代金をどうやってつくるか、貿易収支の問題が出て来ます。また、オーストラリアの褐炭からつくられる水素は再エネではありません。化石燃料の枯渇後、国産の再エネとしての水素の生産・利用が必要であれば、上記の風力発電の電力によりつくられる水素を利用すべきでしょう。

なお、化石燃料枯渇後の再エネ電力からつくられる水素をエネルギー源とする燃料電池の利用の方法として、出力変動の大きい太陽光や風力発電の生産電力を平滑化する蓄電システムとしての利用が考えられているようです。しかし、これについても、現在、同じ目的で開発研究が進められている在来の蓄電池システムとのエネルギー利用効率、さらには、経済性の定量的な比較で、その実用化の可能性が評価・検討されるべきと考えます。

 

⑥ 化石燃料の枯渇後、その代替のエネルギー源と期待される「水素」の利用による「水素社会」は幻に終わります。それは、この「水素社会」が化石燃料がなくとも、イノベーション(科学技術の進歩)によって、経済成長が継続できるとの「成長神話」に乗っかって出ていたものだからです。成長の終焉がこの「水素社会」を終焉に導きます

以上から判って頂けますように、本来、化石燃料の枯渇後に、その代替として用いられるべき再エネ電力からつくられる水素を、地球温暖化対策のための低炭素化を目的として今すぐ利用することは、その原料が化石燃料であれ、再エネ電力であれ、現在においても、また、将来においても、国民にとって、また、国家にとっても、マイナスのエネルギー利用の効果、さらには、マイナスの経済効果しかもたらしません。これは、IPCCが主張する「地球温暖化の脅威」がもたらした、日本のエネルギー政策に混迷をもたらしている典型例と見ることができます。

では、何故こんなおかしなことが起こるのでしょうか? それは、本稿のはじめ(①)にも述べたように、世界で初のFCVトヨタのMIRAIに試乗して得意になっていた安倍首相の姿が象徴的に示されています。すなわち、世界経済が、化石燃料の枯渇とは無関係に永遠に成長するとの成長神話に乗っかったアベノミクスのさらなる成長のための政治主導で出てきた「水素社会」が、企業にとっての新しいビジネスチャンスとして捉えられたためと言ってよいでしょう。

いや、企業だけでありません。本来、政治が主導する国策などを監視、批判すべき立場にあるメデイアの多くが、手放しで、この水素社会の国策の推進を後押ししています。このメデイアがつくった3年前の「水素元年」に、この「水素社会」を支援する記事を連載し、それに対するコメントを求めていたA新聞社に対する私どもの一人(久保田)の応募のコメントは、先の本稿(その1 )のバイオ燃料の時と同様、無視されました。さらには、3.11以降、エネルギー政策に関連する論考を掲載させて頂いていたNPO国際環境経済研究所(ieei)のウエブサイトにも、この「水素社会」を批判する久保田の論考の掲載が断られただけでなく、やかて、投稿自体ができなくなりました。理由は、企業の広告に支えられているこのウエブサイトが、企業の事業を批判する記事は掲載できないとのことでした。私(久保田)としては、この「水素社会」批判の論稿は、世界初のFCVを市販したトヨタを批判したものではなく、このFCVを未来の車と位置付けて、その開発・研究に国民の大事なお金を浪費している日本のエネルギー政策の混迷を批判したものでしたから、これらのメデイアの対応は無念と言わざるをえません。

なお、この「水素社会」の幻想のより詳細については、私どもの近刊(文献3 – 2 )の「第4章;経済成長を訴える政治によってつくられた「水素エネルギー社会」は幻想に終わる」 をご参照下さい。

 

⑦ 補遺;東京オリンピック・パラリンピックでのアベ内閣による世界に先駆けた「水素基本計画」宣伝の不可思議

いま、東京都は、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催に際して、この水素エネルギーの利用モデルをつくろうとしています。その概要は、テレビや新聞で知らされていましたが、その詳細は把握していませんでした。たまたま、この件について、エメルギーフロントライン編集部から、私どもの一人(久保田)が意見を求められ、改めて、この東京都の計画の内容について調査して、ただ驚くばかりでした。

具体的には、燃料電池バスを100台導入する、選手村にエネファームを導入するなどとし、この水素を3.11原発事故で被害を受けた福島県浪江町につくられる再エネ電力による水素製造プラントの水素で賄うとしています。しかし、東京都が掲げる水素エネルギー利用推進の意義としては、① 環境負荷の低減(低炭素化の推進)、② エネルギー供給の多様化(水素は、水、化石燃料、バイオマスなど多様な原料からつくれる)、③ 経済波及効果(水素の利用は、産業の裾野が広い。日本の高い技術が集約されている)、④ 非常時対応(燃料電池車が災害時の非常用電源になる)の、いずれも、科学技術の視点から見て、およそ的外れの4項目が挙げられています。この東京都の計画は、世界に先駆けて水素社会を実現しようとする安倍内閣の「水素基本戦略」を、このオリンピック・パラリンピックを機会に、海外に宣伝しようとするものです。その実行に多額の国民のお金を無駄に使うこの宣伝事業にどれだけの意味があるのでしょうか?

 

<引用文献>

3-1. 久保田 宏、平田賢太郎、松田智;「改訂・増補版」化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――、Amazon 電子出版、Kindle、2017年

3-2.久保田 宏;脱化石燃料社会、「低炭素社会へ」からの変換が日本を救い地球を救う、化学工業日報社、2011年

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

 

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