「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)より怖い選挙の票を重視した菅義偉首相は、あれだけこだわっていたGo toキャンペーンを、急転直下、一時停止しました。これで「コロナ問題」は収束し、日本経済は再生できるのでしょうか?

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の先生方が、医療崩壊をもたらそうとしている感染者数の増加に寄与している政府のGo toキャンペーンの一時停止を提言していましたが、菅首相は、これに応じない態度に固執していました

⓶ 菅首相がGo to キャンペーンにこだわるのは、コロナ問題で落ち込んだ経済を再生させることが、日本にとって、「コロナ問題」を収束させることより、重要だと考えているためでしょう

⓷ 「コロナ問題」で落ち込んだ日本経済を再生する唯一の方法は、「PCR検査の徹底」で「コロナ問題」を速やかに収束させることです

 

(解説本文);

⓵ 「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の先生方が、医療崩壊をもたらそうとしている感染者数の増加に寄与している政府のGo toキャンペーンの一時停止を提言していましたが、菅首相は、これに応じない態度に固執していました

「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」の第1波を、緊急事態の宣言の発令による3密回避対策への国民の協力で、急速に感染者数を減少させたことで、一時、「コロナ問題」の優等生と言われた日本でした。これに安心した政府(当時の安倍政権)は、「コロナ問題」の完全な収束が得られないままに、「コロナ問題」による経済の落ち込みを再生するためとして、緊急事態宣言を解除して、3密回避措置を緩和した後に招いたのが、「コロナ問題」の第2波でした。この第2波のなかで、第1 波の時のような緊急事態宣言は出さずに、国民に自主的な3密回避努力を要請することで、感染者数の減少を図ってきましたが、感染者数が増加に歯止めがかからない状態が続いています。いま、北海道、東京都、大阪府などでは、医療崩壊の危機を招くとされ、日本全体でも、パンデミック(感染爆発)が頻発する「コロナ問題」の第3 波の襲来が懸念される状況にあると言われています。

このような、「コロナ問題」の危機的な現状のなかで、12月11日(2020年)、感染症の専門家を含む政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下、「コロナ対策分科会」と略記)」は、感染拡大が続く地域での県境超えの3 密回避対策として、「コロナ問題」による経済の落ち込みからの再生を図るために政府が行っているGo to キャンペーンの一時停止を政府に提言しました。これに対して、安倍前首相の突然の退任で、首相の座を引き継いだ菅義偉首相は、「いまのところ、その必要はない」と答えていました。

 

⓶ 菅首相がGo to キャンペーンにこだわるのは、コロナ問題で落ち込んだ経済を再生させることが、日本にとって、「コロナ問題」を収束させることより、重要だと考えているためでしょう

実は、上記(⓵)の日本におけると似たような状況が。第 1 波の収束に成功した西欧諸国でも起こっているのです。第 1 波の収束の成功に気を緩めた西欧各国でも、経済の再生のために、第 1 波の完全収束が得られない状況のなかで、3密回避措置の大幅な緩和を行ったので、日本に較べて、人口当たりの感染者数がはるかに大きな第2波が起こりました。そこで、いま、西欧諸国で行われている対策は、第1波の時と同様の強制的なロックアウト(都市封鎖)を含む「PCR検査の徹底」です。すなわち、それぞれの国の人口に近い数のPCR検査を行って、陽性と判断された感染者を隔離することで、感染者数の増加を防ごうとするものです。しかし、現在のPCR検査の精度は70 % 程度に止まることもあり、第 1 波での検査で、陰性と判断された潜在的な感染者を感染源とする感染者数が増加した(と考えられる)ため、この「PCR検査の徹底」の方法でも、第2波の感染者数の増加を効果的に抑えることは難しいようです。とは言え、日本とは異なり、感染者の増加に歯止めがかからない第3 波の襲来を何とかを抑えることができている国が増えているようです。

これに対して、上記(⓵)したように、第 1 波での人口当たりのPCR検査数が、西欧諸国に較べて二桁程度少ないなかで、感染防止に成功した日本では、第 2 波への対応においても、「PCR検査の徹底」に熱心でないために、感染者数の増加に歯止めがかからない第3波の襲来が懸念される状態が継続しているのではないかと私どもは推定します。

ところで、いま、日本で、第3波の入り口にあるとされるなかで、感染者数が増加が止まらない原因の一つには、感染者の減少対策と逆行する政府によるGo to キャンペーンの進行があります。特に、Go to トラベルは、感染者の増加の止まらない地域から、感染者の少ない地域の感染者の移動を促進する原因になっています。上記(⓵)したように、感染病の専門の医師を含む政府のコロナウイルス感染症対策分科会による、このGo to キャンペーンの一時停止を含む見直しの提言に対して、菅首相が耳を貸そうとしなかったのは、菅首相が日本の「コロナ問題」の現状をさほど深刻なものと捉えていないためではないからではないかと思われる事実があります。

それは、世界および各国のコロナウイルスの感染者数および死者数の累積値のそれぞれの人口当たりの比率を示した表 1 に見られるように、日本での値が圧倒的に少ないことに起因しているためではないでしょうか? この表 1に見られるように、ばらつきはありますが、感染者数当たりの死者数の比率が、国によりさほどの違いが見られないなかで、人口当たりの感染者数の比率の値が、国別に、このように大きな違いが出る理由は明らかにされていません。一部の感染症の専門家により言われているように、コロナウイルに対する抗体に、人種的な違いがあるのではないかとも考えられ、アジアの国での人口当たりの感染者数が少ないようです。したがって、そんなことは考えたくありませんが、菅首相をはじめ政府の関係者は、この表 1 が示す事実から、いま日本経済にとって大事なことは、感染防止に逆行することがあっても、経済再生に必要なGo to キャンペーンを停止することはできないと考えているのではないでしょうか?

 

表1 世界および各国の新型コロナウイルス感染者数および死者数(累積値)とそれぞれの人口当たりの比率

(朝日新聞(2020/11/10)に記載のジョンス・ホプキンス大による集計値(2020.11.9の値)を用いて計算しました。ただし、世界および各国の人口は、2018年の値です。

もう一つ、菅首相が「コロナ問題」の収束を、難しい問題と考えていない理由に、ワクチンの利用の問題があるためではないかと考えられます。確かに、英国や米国では、すでに実用化が進められています。しかし、これらのワクチンがその安全性を確認して、日本で実用化されるまでには時間がかかります、

それに較べて後述(⓷)する「PCR検査の徹底」のほうが、短時間で、「コロナ問題」の完全収束が図れるし、コスト面でも安上がりにつきます。

 

⓷ 「コロナ問題」で落ち込んだ日本経済を再生する唯一の方法は、「PCR検査の徹底」で「コロナ問題」を速やかに収束させることです

安倍前首相の突然の退陣で、思いがけなく、首相の座に就いた菅首相は、安倍前首相が掲げたアベノミクスのさらなる成長戦略を継承するのに一生懸命です。それは、官房長官として仕えてきた安倍前首相が果たすことのできなかった、このアベノミクスのさらなる成長戦略を達成するために最適であるとして、自民党の幹部から首相の座を任された菅氏の責任とも言えるでしょう。これが、菅首相が、今回の「コロナ問題」による経済の落ち込みを再生するために始められたGo toキャンペーンの継承に固執する理由です。

しかし、このGo to キャンペーン実行で経済的な恩恵を受けるのは、観光業や飲食業の従事者だけです。したがって、このキャンペーンの実行で、日本経済の落ち込みが再生できるとの保証はないのです。それに対して、いま、「コロナ問題」の第3波が進行していて、感染者の増加に歯止めがかからない原因が、このGo to キャンペーンに起因することは、確実と言ってよいでしょう。また、このキャンペーンの実施には多額の国費が使われることになり、その実施に必要な国家財政の支出は、赤字国債の発行で賄われることになります。世界経済の成長を支えてきた化石燃料の枯渇が迫るなかでは、この次世代送りされる財政赤字を償却できる見通しはないのです。

したがって、この菅首相肝入りともいわれたGo toキャンペーンの継続には、政府の「コロナ対策分科会」の専門家の先生方の間からも強い批判がありました。この「コロナ問題」の第3 波の襲来で感染者の増加を抑えることができない現状で、政府により、ここ3週間が勝負だと言われた最後の週に入った12月14日、菅首相は、やっと、いままでの方針を急転直下変更して、年末12月28日から年始 1月11日までのGo to キャンペーンの一時停止を全国一律で実施することを決めました。

この菅首相の突然の変心の最大の理由として、これが発表された翌朝の朝日新聞(12/15)の総合2 面の見出しに、“ Go To 転換 世論に押され 後手の政府 支持率も低下 “ とありました。具体的には、この菅首相のかたくなな態度が原因して、毎日新聞による最新の世論調査で、菅内閣の不支持率が、支持率を上回ったのです。これは、感染症の専門家の先生方も指摘しておられるように、すでに、北海道の旭川市と大坂府では、自衛隊の災害派遣要請による看護師の派遣が行われるなど、各地で医療崩壊が進行しています。この厳しい状況のなかでの菅首相によるGo to キャンペーンの一時停止は遅すぎると国民の多くが判断した結果です。国民の多数が。菅首相の「コロナ問題」対策に疑問を持っていることを示していることの証です。

「コロナ問題」による経済の落ち込みを回復したいのであれば、それは、「コロナ問題」の速やかな収束が求められなければなりません。これは、あくまでも私どもの意見ですが、「コロナ問題」で落ち込んだ日本経済を再生するためには、先ず、いま、日本で、第3波の襲来をもたらしているGo to キャンペーンの停止を行ったうえで、感染症の専門家の多くの先生方も推奨しておられる「PCR検査の徹底」を実行することです。詳細は、私どもの提言(文献1 、文献 2 )を参照して頂きますが、これが、「コロナ問題」を速やかに収束し、「コロナ問題」で落ち込んだ日本経済を再生する唯一の方法なのです。

 今回のGo to キャンペーンの停止で、政府(国)と地方自治体と、いずれがイニシアティブを取るかについて、東京都と政府との間で責任のなすり合いと見られたのは非常に残念に思います。確かに、感染者数の増減等の実態を知っているのは自治体ですが、この自治体ごとの緊急事態宣言の発令をきめるのか、全国一律の宣言にするかを最終的に決めるのは、「コロナ対策分科会」の意見を尊重すべき国(それを代表する首相)の責任でなければならないことを私どもは訴えさせて頂きたいと考えます。すなわち、失敗した時は、潔く、その座を退く覚悟をもって頂きたいと考えます。いま、「コロナ問題」の速やかな収束は、首相の座を左右するほど重要な問題なのです。

 

<引用文献>

  1. 久保田 宏、平田賢太郎; 「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」による世界経済の落ち込みを防ぐ道は、「PCR検査の徹底」による「コロナ問題」の速やかな収束以外にありません。この「PCR検査の徹底」による「コロナ問題の」の収束は、世界の貧富の格差を解消し、世界の平和を守り、人類の生存を保証します、シフトムコラム、2020,9,29
  2. 久保田 宏、平田 賢太郎; 「Go toキャンペーン」による経済成長優先対策を実施しながら、「新型コロナウイルス問題(以下「コロナ問題」と略記)」を収束させる手品師でなければ詐欺師の菅氏が、日本経済を破綻の淵に追いやろうとしています、シフトムコラム、2020,12,4

 

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久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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