若者よエネルギーを作れ
|大久保泰邦
再生可能エネルギーは脱炭素社会を実現させるエネルギーと捉えられている。本当に脱炭素社会となるのかは疑問であるが、ともかく世界は脱炭素社会を理由に右肩上がりの経済成長を目指し、再生可能エネルギーの開発を進めている。
太陽光の発電容量は日本においてここ20年で約20倍に増えた、また風力発電においても日本政府は洋上風力の拡大を目指している。再生可能エネルギーの特徴は、エネルギー収支比が低く、またエネルギー量は石油などの化石燃料に比べ小さいことが挙げられる。この特徴の再生可能エネルギー開発は社会に何をもたらすか。著者は2つのことを考えた。一つは産業構造の変革であり、もう一つは社会構造の変革である。
産業構造の変革
日本風力発電協会は、2030年までに累計1000万kWの洋上風力を日本に導入すれば、経済波及効果が13~15兆円程度になると試算している。この数字は現在の自動車産業4分の1にも匹敵する。また、洋上風力発電設備は構成機器・部品点数が多く、サプライチェーンの裾野が広いため、新しい産業と人材の育成に繋がる。
ここでエネルギー収支比について述べる。エネルギー収支比とは、エネルギー生産によって生み出されるエネルギー量(A)と、エネルギー生産のために使うエネルギー量(B)の比(A/B)である。エネルギー収支比が高いほど効率よくエネルギーを確保できる良質のエネルギーである。中東の石油のエネルギー収支比は高く、再生可能エネルギーは一般的にそれに比べ低い。洋上風力発電の場合、調査、風車製造、電気系統設置、風車設置、運営・維持管理、撤去などにBに相当するエネルギーを使う。Bの量が大きく、それに比べAの量が小さいので、エネルギー収支比は小さくなる。
世界は中東などのエネルギー収支比の高い石油によって支えられてきた。石油から化学肥料や農薬を作り、農業生産も飛躍的に伸びた。人類はエネルギー生産、農業生産から解放され、1次産業から2次産業、3次産業へと働く場が移っていった。
エネルギー収支比の低い再生可能エネルギーを開発することの意味は、エネルギー生産に多くのBに相当するエネルギーを注ぐ、ということである。洋上風力発電を例に挙げれば、調査、風車製造、電気系統設置、風車設置、運営・維持管理、撤去などの作業が増えることである。つまり人々の働く場はエネルギー生産の場へと移るのである。これは3次、2次産業から1次産業へと移る逆向きの産業構造の変革である。
日本の江戸時代は1次産業の社会であった。逆向きの産業構造の変革とは江戸時代に戻ることか?いやいや全く違う社会であろう。なぜなら我々は情報通信技術があり、エネルギーをそれほど使わずに生産、流通を効率よく行うことができようになったからである。人々は生産と流通を機械にまかせ、エネルギー生産に専念するのである。
社会構造の変革
再生可能エネルギーは石油などの化石燃料に比べ量が少ないのも特徴である。我々は石油から大量の化学製品、燃料、電気を生み出し、自動車、高速道路、高層ビルが集中する巨大都市を築き上げた。それは生産、流通、消費が一体となった巨大システムでもある。そのシステムは信頼度の高いエネルギー源である石油で支えられている。再生可能エネルギーは量も少なく、大部分は電気であり、石油の真似はできない。つまり巨大都市とは石油の賜物なのである。
エネルギーの塊のような巨大都市を再生可能エネルギーが維持できないのは自明である。では再生可能エネルギーが支える都市とはどのような都市なのであろうか。
再生可能エネルギーの特徴を考えてみよう。まず風力、太陽、地熱は自然のエネルギーであり、天候や地質の条件で変わるので、信頼度が低いことである。またエネルギー密度も石油に比べ小さく、そのため量も少ない。その特徴から考えられる社会は、分散型・リサイクル型都市社会である。
分散型の良い点は、その地域内で生産、消費が完結するので、人の移動、物流に費やすエネルギーが少なくて済むことである。また災害などの非常時には地域間で支援しあうこともでき、リスクに強い国造りができる。一例はヨーロッパの都市である。
リサイクル型とは、大量生産、大量消費ではなく、少量生産、長期間利用である。長期間利用するためには、壊れにくく、修理しやすい製品を作り、修理しながらそれを長く使うのである。
分散型・リサイクル型都市社会は必然と思う。GDPは大量生産、大量消費の場合大きくなる。しかし少量生産、長期間利用となるとGDPは小さくなる。我々はGDPが大きいほどより良い社会だと思い込んでいるが、分散型・リサイクル型都市社会は今より不便で不幸な社会なのであろうか、一度考えてみる必要があると思う。
若者よエネルギーを作れ
これからの働く場はどうなるのか、将来は希望が持てるのか、心配な若者が多いと思う。
これからはエネルギー生産の産業がますます増えると思う。石油はピークに達したとしてもまだまだ生産は続くことを考えると、再生可能エネルギーだけでなく、従来型の石油であっても重要となる。
著者が考えるに、エネルギー生産がこれからの我々の働く場になるはずである。その視点を持てば、これから社会に希望が持てると確信している。