中国が経済成長を抑制できるかどうかが、世界の化石燃料枯渇防止の鍵を握ります。化石燃料の枯渇後の世界に、人類が生き延びるためには、途上国を脱しようとしている中国にも、現在の再生可能エネルギーの生産コストより安価な化石燃料(石炭火力)発電に当分依存することで、経済成長を抑制することが求められます

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約):

⓵ 石炭消費の多い中国でも化石燃料の枯渇が始まっています

⓶ 中国はいま単位GDP当たりのCO排出量(CO2 / GDP比)を低減することで、地球温暖化対策としてのCO2の排出量を削減しようとしていますが

 地球温暖化対策としても、化石燃料消費の節減対策としても、経済成長の抑制こそが求められなければなりません

⓸ 化石燃料の枯渇後の世界に、人類文明が生き延びるためには、途上国を脱しようとしている中国にも、現在の再生可能エネルギーの生産コストより安価な化石燃料(石炭火力)発電に当分依存することで、経済成長を抑制することが求められます

 

(解説本文);

⓵ 石炭消費の多い中国でも化石燃料の枯渇が始まっています

 日本エネルギ―経済研究所編;エネルギー経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献1 ) と略記)に記載のIEA(国際エネルギー機関)データから、最新(2018年)の中国におけるエネルギー源種類別の資源量で表した一次エネルギー消費量(石油換算質量)とその比率を図 1 に示しました。この図 1 に示すように、2018年で、化石燃料としての石炭が、63.5 %と圧倒的に多く使われています。この中国での石炭消費量は世界の51.5 % (=(1,980石油百万トン)/(3,838石油百万トン)) にもおよび、また、電源構成の78.4 % ( = (1,141石油百万トン) / (1454石油百万㌧)) が発電用に使用されています。まさに、石炭大国と言ってよいこの石炭の消費が、中国の最近の高度経済成長を支えてきました。

  

注;括弧内数値は対合計百分率  :

図 1 中国におけるエネルギー源種類別の一次エネルギー消費量(石油換算質量で表した)とその比率、2018 (エネ研データ(文献 1 )に記載のIEA(国際エネルギー機関)のデータをもとに作成しました)

 

最近(2010年価格の実質GDPの値で)、日本を抜いて世界第2位の経済大国に発展した中国ですが、その経済成長のエネルギーを賄っていた石炭は、今後の中国経済の成長を維持できるだけ、十分にあるのでしょうか? BP(British Petroleum)社のデータ(エネ研データ(文献 1 )から中国における2018年末の化石燃料の種類別の可採埋蔵量R、および、その値をもとに計算される2018年の可採年数R/P(可採埋蔵量Rを生産量Pで割った値)を表 1 に示しました。

この表 1 に見られるように、化石燃料について、中国は決して資源大国とは言えないことが明らかです。とは言え、世界一の人口を抱える化石燃料消費大国の中国は、世界の化石燃料資源の保全のためにも、率先して、可能な限り、化石燃料消費節減のための努力をする責務がある、と言うよりも、中国が今後も経済成長のためのエネルギーとして化石燃料の消費を増大させると、今世紀中の比較的早い時期に、化石燃料資源の過半を占める石炭までをも輸入に依存しなければならないことになり、自国の経済自体を苦境に陥れるだけでなく、世界経済を混迷に追い込む危機を孕んでいることが厳しく認識される必要があります。

 

 1  中国における化石燃料種類別の可採埋蔵量Rおよび自給可採年数R/Pの値、

2018年末 (BP社のデータ(エネ研データ( 文献1 )から)

注; *1 ;中国における値を世界の合計量で割って求めた百分比率、*2 ;中国の可採埋蔵量Rを中国の生産量Pcで割った自給可採年数の値

 

⓶ 中国はいま単位GDP当たりのCO排出量(CO2 / GDP比)を低減することで、地球温暖化対策としてのCO2の排出量を削減しようとしていますが

 化石燃料のなかの石炭の比率が高い上に、人口が多いために、CO2排出量が世界第1位(2018年に、世界合計の28.5 %、次いで米国の14.7 %(第2位)、インドが6.9 %(第3 位))の中国は、高度経済成長の結果として、2018年には、一人当たりのCO2排出量が6.84 トン/人と、世界平均の4.42トン/人をかなり上回っています。

したがって、いま、世界の大きな問題になっている地球温暖化対策としてのCO2排出量の削減に対しても大きな責任が負わされているとして、2030 年に国内総生産(GDP)当たりのCO2排出量を2005 年比で60 ~ 65 % 削減し、排出量のピークとするとのCO2の削減目標を発表しました(2015年、7月)。

新興途上国としての中国における実質GDP(購買力平価ベース、2010年の米ドル換算の為替レートで)当たりのCO2排出量(CO2 / GDP比)の値を、先進諸国並みの値に低減することで、下記するように、成長を継続しながら、CO2の排出量を削減できるとしていると見てよいでしょう。

この目標を達成した場合の2030年のCO2排出量の推定値は、今後のGDP成長率をどのように想定するかで、下記の試算例に示すように、その値が大きく変わってきます。

2005年のCO2排出量5,377×106 トン-CO2、GDP 3,486×109 US㌦から、(CO2 / GDP比)の値は1.542×10-3 トン/US㌦となります。.

2012 ~ 2020年までの8年間の平均GDP成長率を7 %、2020 ~ 2030年のそれを5 % とすると、2030年の対2012 年の成長比率は、(1.07)8 ×(1.05)10 = 1.718×1.629 = 2.80倍と概算されます。

一方、(CO2 /GDP比) の対2005年比60 ~ 65 %(平均62,5 %とする)減の値は、(1.542×10-3)×( 1 – 0.625 ) = 0.578×10-3トン-CO2/US㌦となります。

したがって、

(2030 年の一人当たりCO2排出量)

=(2012年の一人当たりGDP 5,166㌦/人)× ( 2030年の対2012年の成長比2.80)

×(30年の(CO2 / GDP比)0.578×10-3 トン-CO2/US㌦)= 8.35トン-CO2/人

と試算されます。

注; 2020年、2030年の値は推定値、2050年の値は、私どもが提案した目標値(本文参照)

図 2  中国におけるGDP当たりのCO2排出量と一人当たりのCO2排出量の年次変化(IEAデータ(エネ研データ (文献 1 ) に記載)をもとに計算、作成しました)

 

中国における一人当たりのCO2排出量、および (CO2 /GDP比) の年次変化を表す曲線の延長線上に上記の2030年の試算結果を載せて図2 に示しました。なお、2050年の値は、世界が化石燃料の保全を考えるのであれば、全ての国が今世紀中の化石燃料の平均の消費量を2012年の値以下に抑えるべきで、そのためには2050年における各国の一人当たりの化石燃料消費量を2012年の化石燃料の消費量の世界平均値に抑えることを目標にすればよいとして、私どもが提案するCO2排出量(世界平均4.53トン/人)に置き換えた値です。

中国政府は、この2030年におけるCO2排出量の目標値を達成するためには、一次エネルギーに占める再エネ比率を20 % 程度に増やしたり、CO2を吸収する森林蓄積量を増やしたりするとしています。しかし、それだけで、今までの経済成長率を余り下げないで、2030 年のCO2 / GDPの提案目標を対2005年比で60 ~ 65 % 削減できるとの保証はありません。 むしろ、いま、中国経済のバブル崩壊が言われているなかで、経済成長率を低下させることで、はじめて、CO2の排出量を削減することができると考えるべきです。

 

 地球温暖化対策としても、化石燃料消費の節減対策としても、経済成長の抑制こそが求められなければなりません

中国の単位GDP当たりのCO2排出量、(CO2 / GDP 比)の値を他の国と比較して図 3 に示しました。他の先進諸国と較べて、中国における(CO2 / GDP比)の値は、異常に高い値から急速に年次減少していることが判ります。

各国の(CO2 / GDP 比)の年次変化(エネ研データ(文献1 ) に記載のIEAデータをもとに計算、作成しました)

上記(⓶)したように、中国においては、地球温暖化対策としてのCO2排出削減のためには、この(CO2 / GDP 比)を低下させることを有効な方法だとして、中国政府は、2005年を基準にして、2030年までに、この(CO2 / GDP比)を、さらに、60 ~ 65 % 低下させるとしています。果たして、それが可能でしょうか?

エネ研データ (文献 1 ) に記載のIEAデータから、中国の2005年の(CO2 / GDP比) (1.534×10-3 トン/USドル) の62.5 %(60 %と65 %の平均値)減の値は、0.578(=1.543×(1 – 0.625)×10-3 トンCO2/USドル となりますが、この図 3  に見られるように、これでもまだ、先進諸国の値と比較較べれば、かなり高い値を示します。。

このように、中国における(CO2 / GDP比)の値が大きくなるのは、上記したように、使用化石燃料の種類源別消費量のなかで石炭の比率が圧倒的に高いためです。さらには、いま、産業のグローバル化の流れのなかで、世界の工場の役割を果たしているように、経済成長当たり(GDP当たり)の化石燃料消費量、すなわちCO2排出量が高くならざるを得ません。これらの因子が影響して、図 3 に示す中国の(CO2 / GDP 比) の値が、2000年以降は、余り減少しなくなっています。

もちろん、上記したように、中国政府はCO2の排出削減のために、2030年までにCO2を排出しない再生可能エネルギー(再エネ)電力の比率を総発電量の20 % まで上昇させるなどとしています。実際に、いまや、中国は、再エネ電力の開発利用量で世界一であると言ってもよく、この再エネ電力の利用比率の20 % 程度への増加で、どれだけ、(CO2 / GDP比)の値を減少できるかの予測は困難と考えるべきです。したがって、図 3 の(CO2 / GDP 比)の年次変化を表す曲線の延長で考えた値として、2030年の (CO2 / GDP 比) の値を0.80 ×10-3 トンCO2/USドルと見積ることにします。

この値を用いた場合、2030年の一人当たりのCO2排出量の目標値を達成するために必要な2013 年から2030年の間のGDP成長率の目標値を次のように設定します。

2013 ~ 2015 年; 平均7 %、2016 ~2020 年; 平均5 %、2020 ~ 2030 年; 平均3 %

この設定条件下での2030年の対2012 年の成長比率は、( 1.07 )3 ×( 1.05 )5 ×(1.03 )10 = 2.10 倍と概算されますから、

(2030 年の一人当たりのCO2排出量)=(2012年の一人当たりのGDP 5,166ドル/人)

×(2030 年の対2012 年の成長比率 2.10 )

×(2030 年の(CO2 /GDP 比)0.80×10-3 トンCO2/USドル)= 8.71トンCO2/人

と計算され、上記に試算した目標値とほぼ一致します。

したがって、できればこのように、積極的に経済成長を抑制することで、化石燃料消費の節減、すなわち、CO2の排出量削減の努力をして頂くことを中国政府にお願いしたいと考えます。

新興途上国としての中国における一定の成長の継続は、高度成長の結果生じた国内の貧富の格差を是正するためにも必要だとされています。であれば、成長の抑制のなかで、この貧富の格差を是正する経済政策が工夫され、使用されればよいはずです。いや、このような成長の抑制による化石燃料消費の節減策が採られない限り、いま、化石燃料エネルギー(石炭)に大きく依存する中国経済が混迷の危機に陥る日がそう遠くないと考えるべきです。

すでに、世界経済に大きな影響力を及ぼすまでに発展した中国には、自国の経済の安定化とともに、世界平和の維持のためにも、化石燃料消費の枯渇に備えて、その節減に努力する責務が背負わされているはずです。

 

⓸ 化石燃料の枯渇後に、人類文明が生き延びるためには、途上国を脱しようとしている中国にも、現在の再生可能エネルギーの生産コストより安価な化石燃料(石炭火力)発電に当分依存することで、経済成長を抑制することが求められます

いま、世界第2のCO2排出大国の米国のトランプ前大統領に代わって新大統領に就任したバイデン氏は、地球温暖化対策としての世界のCO2排出削減に必死と言ってよいでしょう。この地球温暖化対策としての世界のCO2排出削減対策ついては、世界第 1のCO2排出大国の中国も、習近平総統の主導下で、米国と同一の歩調を取ろうとしています。しかし、ここで問題になるのが、バイデン米大統領の米国と、習近平総統下の中国の間で、いま、経済成長の競争が激化されようとしていることです。上記(⓷)したように、中国が温暖化対策のためにCO2排出量を削減するためにはGDPの値で表される経済成長をマイナスにせざるを得ないのです。すなわち、発展途上国としての中国は、まだ、経済成長継続の維持が必要と考えられていますから、CO2排出削減のための化石燃料の代わりに、現状ではエネルギー生産コストが化石燃料(石炭)火力発電より高い再エネ電力が、いますぐ、CO2を排出しないとして使用されているのです。したがって、発展途上国としての中国では、当分の間、再エネ電力の発電コストが、化石燃料、なかで最も安価な石炭火力発電のコストより安くなるまで、再エネ電力の使用が延期されるべきなのです。実は、これは、中国だけに限ったことではありません。私どもが主張している(文献3 )ように、化石燃料資源の可採埋蔵量の制約から、先進諸国が経済力にまかせて、化石燃料消費を増加させなければ、IPCCが訴える地球温暖化の脅威は起こらないと考えるべきです。したがって、日本を含めた先進諸国においても、温暖化対策としてのCO2の排出削減のための、いますぐの高価な再エネ電力の利用は必要が無いのです。化石燃料(石炭)の枯渇が近づき、石炭火力の発電コストが、再エネ電力の生産コストがより高くなった時に、初めて、安価な再エネ電力を、その種類を選んで利用すればよいのです。日本では、それは、その利用可能量の大きさも考慮して、現在、多用されている太陽光発電ではなく、風力発電と考えられます。

 

<引用文献>

  • 日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2021年版」、省エネルギーセンター、2012 ~2021 年

久保田宏平田賢太郎; 再生可能エネルギーの次段階導入はどうあるべきでしょうか? 学術会議主催の公開シンポジウム「再生可能エネルギー次段階の導入に向けて」を聴講させていただいてシフトムコラム、2019,3,19

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久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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