何故、2050年までに脱炭素化社会(CO2 ゼロ社会)を実現しなければならないのでしょうか?その理由についての科学的な説明がないままに、電力料金の値上で国民に経済的な負担を押し付ける2050年のCO2ゼロ社会の実現が、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)によって世界の政治に求めれています。いま人類の生存にとって、世界の政治にとって求められる大事なことは、世界の全ての国が協力して、貧富の格差を最小限に止める平和な世界を創設することではないでしょうか?

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約):

⓵ 地球温暖化防止のための再エネ電力利用社会の電力料金が、「再エネ電力の買取価格制度(FIT 制度)」の適用での市販料金の買取金額として、国民に不必要な経済的な負担を押し付けています

⓶ 地球温暖化防止のための再エネ電力利用のためのFIT制度適用での買取金額が、市販電力料金の値上げとして、国民に経済的な負担を押し付けています  

⓷ 地球温暖化防止のために、再エネ電力の利用の必要が無ければ、2050年までにCO2ゼロを実現しなければならない再エネ電力を利用する必要はありません

         

(解説本文);

⓵ 地球温暖化防止のための再エネ電力利用社会の電力料金が、「再エネ電力の買取価格制度(FIT 制度)」の適用での市販料金の買取金額として、国民に不必要な経済的な負担を押し付けています

地球温暖化防止のために用いられる際世可能エネルギー(再エネ)電力の設備1 kW当たりの、その設備の使用期間中の発電量(kWh)は、次式で計算されます。

(再エネ電力発電設備の発電量 kWh)

=(発電設備容量kW)×(設備使用年数)×(24 h)×(365 d/y) ×(設備稼働率)

この値に再エネ電力の「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の適用による買取価格を乗じた値が、再エネ電力設備の買取金額になります。

地球温暖化対策用の再エネ電力としては、太陽光発電や風力発電が用いられており、世界では、圧倒的に風力発電が利用されていますが、日本では太陽光が主体です。しかし、環境省の調査報告書(文献1 )から私どもが計算して求めた日本での太陽光発電の利用可能量は、家庭用と産業用のメガソーラを合わせたても、現在の国内総発電量の20 %程度以下に止まり、現用の火力発電主体の発電の代替として利用可能な発電方式は、洋上と陸上を合わせて、現在の国内総発電量の数倍程度の利用可能量がある風力発電が、日本でも利用の主体にならざるを得ないと考えられます。しかも、発電コストの面からも、風力発電の利用が圧倒的に有利と言わざるを得ません。

 

⓶ 地球温暖化防止のための再エネ電力利用のためのFIT制度適用での買取金額が、市販電力料金の値上げとして、国民に経済的な負担を押し付けています

 温暖化対策のための再エネ電力の利用では、政府によるFIT制度の適用で、現在、最も安価に供給される石炭火力の発電コストを上回る市販電力料金の値上が、国民に経済的な負担を強いています。具体的には、この再エネ電力を用いて製造される水素をエネルギーとした燃料電池を使った水素エネルギー社会の実用化も計画されています。この科学的な不条理に対して、IPCC(気候変動に対する政府間パネル、国連の下部機構)の国内委員のお一人の杉山大志氏は、この水素エネルギー社会の実現を目的とした脱炭素化社会の実行を亡国の危機と訴えておられます(文献 2 参照)。

上記(⓵)したように、菅政権によって決められたエネルギー政策では、グリーンエネルギーとして、地域で生産される再エネ電力の風力発電や太陽光発電の電力を、FIT制度の適用無しで、産業用や都市生活用に利用しようとしていますが、そのようなことは実現不可能です。現在、国民にとっての経済的な負担のない、最も安価な電力の供給体制は、温暖化の脅威をもたらすとして嫌われ者になっている最も安価な石炭火力発電の利用以外にありません。やがて、有限の化石燃料資源が枯渇に近づき、その国際市場価格が高騰した時に、はじめて、石炭火力に代わって風力発電が利用されるようになるのです。何故か、このような、科学の常識を無視したグリーンエネルギー政策が、IPCCの主導で世界で進められており、日本政府もそれに盲従しているのです。これが、IPCCによる脱炭素化社会の実現です。

 

⓷ 地球温暖化防止のために、再エネ電力の利用の必要が無ければ、2050年までにCO2ゼロを実現しなければならない再エネ電力を利用する必要はありません

いま、IPCCは2050年までに脱炭素化社会の実現が図られなければ、地球温暖化が進行して、地球上に人類が住めなくなると訴えています。しかし、何故、このような期限を設けなければならないのか、その理由は明らかにされていません。その理由が、地球温暖化の防止であれば、例えば、シベリヤのツンドラに含まれる温室効果ガスとしてのメタン(CH4)ガスが、大気中に放出されると、CO2の20倍以上も温室効果があるとされるCH4ガスによる影響で温暖化が加速されるとして、この温暖化の加速を止めるためのCO2排出削減に必要な期限を、IPCCが2050年と設定したことも考えられます。しかし、この温暖化防止に必要な脱炭酸化社会の実現の設定に別な理由があるならば、それを、科学的な根拠とともに、明らかにされるべきです。

結局は、地球温暖化防止のための再エネ電力利用の必要がなければ、2050年までにCO2ゼロを実現しなければならない再エネ電力を利用する必要はありません。

いま、スウエーデンの少女グレタ・トウンベリーさんが世界を騒がせている地球温暖化が、大気中へのCO2の排出の増加に起因しているとの説が、世界の政治を支配しています。しかし、これは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)による科学の仮説ですから、グレタさんには責任がありません。グレタさんだけでなく、世界中の多くの人が、世界の気象学者の集まりであるIPCCが主張することだから間違いないと思い込んでいるのです。したがって、もし、このIPCCの温暖化の仮説が正しくて、CO2の大気中への排出量を削減することで、確実に温暖化の脅威を防止できるのであれば、私どもも、このグレタさんの主張を全面的に支援したいと考えました。

しかし、残念ながら、科学技術者としての私どもは、このIPCCの主張に科学的な正当性を見出すことができませんでした。産業革命以降の現代文明社会を支えている化石燃料資源の枯渇が迫るなかで、その代替としての使用が期待されている再生可能エネルギー(再エネ電力)の正しい利用の在り方を政治家を含む世界中の人々に知ってもらう義務があると考えている良心的な科学技術者を自任する者の責任として、私どもは、純朴なグレタさんの名誉を守るためにも、敢えて、世界の流れに逆らって、エネルギー政策の正論を述べさせて頂きまました。

 

<引用文献>

  1. 平成22年度 環境省委託事業「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」、株式会社エックス都市研究所、アジア航測株式会社、パシフイックコンサルタンツ株式会社、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社、平成22年3月
  2. 杉山太志;「CO2ゼロ」は亡国の危機だ、ieei (国際環境経済研究所のウエブサイト)、2021,1,27

 

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久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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