“2030年半ばまでに脱ガソリン車の使用が迫られる日本“ が、菅首相の2050年脱炭素社会の実現のために求められています。しかし、地球温暖化対策としての脱炭素社会の実現の必要がなければ、脱ガソリン車への変換時期は、最も安価に自動車を走らせるための市場経済原理に従って決められるべきです

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 2030年代半ばには、日本でもガソリンやジーゼル油で走るエンジン車が使えなくするとの菅首相の宣言は、脱炭素社会を求める世界の流れに便乗した、科学的な根拠のない訴えです

⓶ エンジン車に代わる再生可能エネルギー(再エネ)電力を利用する電気自動車 (EV)とともに、水素エネルギーを用いる電動車、燃料電池車(FCV)への変換を求めている地球温暖化対策のための水素エネルギー社会は幻想に終わります

⓷ エンジン車の燃料として用いられる化石燃料の枯渇が迫るなかでは、エンジン車に代わる電気自動車(EV)への変換の時期は、市場経済原理によって決められるべきです

 

(解説本文);

⓵ 2030年代半ばには、日本でもガソリンやジーゼル油で走るエンジン車が使えなくするとの菅首相の宣言は、脱炭素社会を求める世界の流れに便乗した、科学的な根拠のない訴えです

“ 脱ガソリン車 迫られる日本 欧米、中国、「脱炭素」へ販売禁止 次次 ” 朝日新聞(2020,12,04)の見出しです。 いま、世界中が大騒ぎしている地球温暖化を防止するために、この温暖化の原因とされている温室効果ガス(その主体はCO2)の排出ゼロ、すなわち、「脱炭素」を目的とした、脱ガソリン車が 世界の流れになっています。英国が30年まで、米国のカリホルニア州は35年、中国も35年までにガソリン車の販売を停止するなどと報道されています。

ただし、ここで、ガソリン車とあるのは、ガソリンを燃料として走るガソリンエンジン車だけではなく、ジーゼル油(軽油)で走るジーゼルエンジン車も含む、化石燃料から造られる燃料を用いた内燃機関(エンジン)で走る車を指しています。なお、上記と同様の記事を社説として掲載している同じ朝日新聞(2020,12,9)では、上記のガソリン車をエンジン車と記していますので、以下、ここでも、エンジン車と記します。

このエンジン車が使えなくなる時期を2030年代とする世界の流れを引き起こしているのは、いま、地球温暖化対策のための脱炭素化社会を創るために、世界中の政治が、今回の大統領選に敗北したトランプ氏以外が、温室効果ガスCO2の排出ゼロを目指しているからです。この米国でも、今後、民主党のバイデン新大統領の誕生によって、近い将来、脱エンジン車の時代が目標とされるようになるでしょう。

日本でも、この世界の流れに取り残されまいとしている菅新大統領の2050年CO2ゼロの宣言が、今回の日本の2030年代半ばのエンジン車ゼロに繋がっています。

 

⓶ エンジン車に代わる再生可能エネルギー(再エネ)電力を利用する電気自動車 (EV)とともに、水素エネルギーを用いる電動車、燃料電池車(FCV)への変換を求めている地球温暖化対策のための水素エネルギー社会は幻想に終わります

いま、この世界の脱エンジン車の時代をもたらそうとしているのは、国連の下部機構であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が主張する「地球温暖化のCO2原因説」が、世界中の殆どの人に妄信され、何としてもCO2の排出を削減しなければならないとしているからです。しかし、私どもに言わせれば、いま、世界中で起こっている温暖化が、現代文明社会を支えるエネルギーの主体として用いられている化石燃料の消費に伴って地球大気中に排出される温室効果ガス(CO2)に起因するとのこの「地球温暖化のCO2原因説」は、科学的な根拠を持たない科学の仮説なのです。したがって、もし、将来、地球大気温度の観測データから、この温暖化のCO2原因説が正しくないことが判った時には、現在、エンジン車より車体価格が高い電気自動車((EV)を、ガソリンやジーゼル油より高価な再エネ電力を使って走らせる必要は無くなるのです。

もちろん、いま、有限資源としての化石燃料の枯渇が迫るなかで、ガソリンや ジーゼル油の価格は、今後、次第に高騰します。一方、科学技術の進歩により、EVの車体価格と再エネ電力の価格は確実に低下することが予測されましたから、いずれは、EVの時代がやって来るだろうと、私どもも、考えています。

このような、エンジン車からEVへの変換が起ころうとしていたなかで、トヨタ自動車は、在来のガソリン車の一回の燃料(ガソリン)充填当たりの走行距離をガソリン車並みに保ちながら、これにEVの省エネ機能を複合(hybrid)させたハイブリッド車(HV)を開発して、自動車の国際市場での大きなシェアを獲得しました。これからの車の動力種類の変遷は、このような科学技術の進歩に依存する経済最適を追求する市場経済原理に任せるべきなのです。

温室効果ガス(CO2)を排出するエンジン車の代替として、それ自身ではCO2を排出しないとされる電気自動車(EV)としては、再エネ電力をリチウム電池に蓄電して直接用いるEVのほかに、再エネ電力を用いて水 (H2O) を電気分解して造った水素(H2)を燃料として造った電力により車を走らせる電動車としての燃料電池車(FCV)があります。自動車の種類の選択に際して、地球温暖化対策のためのCO2排出ゼロが目的とされるのでなければ、エンジン車の代替として、再エネ電力を直接用いるEV、あるいは、再エネ電力から造られた水素を燃料とした電動車のFCVのいづれを用いるのが、経済的により有利かが問題にされなければなりません。しかし、地球温暖化対策として、CO2を排出しない国産の再エネ電力を用いる限り、そのエネルギーの利用効率の比較から、これを水素エネルギーに変換して用いる必要はないと私どもは考えます。

私どもは、これを、敢えて「水素エネルギー社会の幻想」と呼んでいます。すなわち、2014年の暮れに、トヨタ自動車が、燃料電池車 (FCV) のミライの市販を始めたとき、それに試乗した安倍晋三前首相が訴えた「水素エネルギー社会」は幻想に終わるとしていました。この水素エネルギー社会が幻想に終わらなければならない理由は、他にもあることが判ってきました。

朝日新聞(2020,12,8)の記事ですが、“ 鉄鋼「CO2 ゼロ」は難題 水素・再生エネ活用 険しい道 “ とありました。地球温暖化対策としての「CO」ゼロを、再エネから造った水素を用いて鉄鉱石を還元するのは、現用の石炭を還元剤に用いる方法より、コスト高になるとの鉄鋼産業の訴えです。すなわち、再生可能(再エネ)電力を現用の石炭火力発電の電力として使い、節減できた石炭を製鉄用に使う方が経済性が高いとするものです。

 

⓷ エンジン車の燃料として用いられる化石燃料の枯渇が迫るなかでは、エンジン車に代わる電気自動車(EV)への変換の時期は、市場経済原理によって決められるべきです

現代文明社会の象徴とも言える自動車の始まりは、電力によって走る電気自動車(EV)だったと言われています。このEVとして始まった自動車が、先進諸国では、各家庭に一台近く用いられるようになったのは、化石燃料としての石油から照明用の灯油を生産するときの廃棄物であったガソリンをエネルギー源とする内燃機関(エンジン)車が開発・利用され、さらに、そのガソリン製造用の石油が、中東地域で大量に発見され、水より安いと言われる価格で国際市場で販売されるようになったからです(以上、詳細は、私どもの一人、久保田らの著書(文献2 〉をご参照下さい)。

しかし、その後の世界経済の発展で、このエンジン車の燃料として使われる石油を主体とする化石燃料は、やがて、枯渇の時を迎えます。この化石燃料の枯渇までの年数を表す指標として用いられている確認可採埋蔵量(現在の科学技術の力で経済的に採掘可能な資源量)を現在の生産量で割って得られる「可採年数」の値は、表 1 に示すように、石炭以外は、今世紀中に枯渇するだろうことを教えてくれます。これに対してシェール革命が起こったから化石燃料が枯渇することがないと言われる方が居られますが、それは、経済性を無視して採掘を行った場合です。例えば、シェールガスではありませんが、日本近海の深海底には、現在の消費量で使ったとして、その埋蔵量が現在の日本の天然ガス消費量の100年分に近い量のメタンハイドレートが存在すると推定されていますが、この量は、表1 のなかに含まれていません。このように考えると、化石燃料の枯渇後に使える自動車は、地球温暖化対策としてのCO2排出量ゼロを目的として使われようとしている電動車のなかから、その使用での経済性のない再エネ電力から造られる水素を燃料とする燃料電池車(FCV)は排除されなければならないことになります。

 

表 1  化石燃料の種類別の可採年数の値(2018年末の値)

(日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;エネルギー経済統計要覧(文献 3 )に掲載のBP社のデータから)

 

石油; 50.6年   天然ガス; 50.9年   石炭; 132 年

 

では、同じ水素でも、国産の再エネでなくて、安価に生産できるとされているオーストラリアの未利用資源の褐炭から造られる水素の利用であればよいのではないかとして、いま、オーストラリア産の水素を用いる「ハイドロジェンロードプロジェクト」が日豪協力のエネルギー開発事業として進められています。しかし、このオーストラリア産の水素を液化して、はるばる日本まで運んでくる費用を考えたら、それが成り立たないことは、容易に判って頂けると思います。詳細は私どものシフトムコラムの前報(文献2 )をご参照頂きます。

 

<引用文献>

  1. 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧、2020年版、省エネセンター、2020 年
  2. 久保田 宏、伊香輪 恒男;ルブランの末裔 明日の科学技術と環境のために、東海大出版会、1978年
  3. 久保田 宏、平田 賢太郎;オーストラリアの豊富な資源量の褐炭から造られる安価な水素を、いま、世界が大騒ぎしている地球温暖化対策としての脱炭素社会創設のためのエネルギー源として日本に持ってくる必要はありません、シフトムコラム、2020,12,10

 

ABOUT  THE  AUTHOR

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

Add a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です