(続) 日本国民は、世界一高い電力料金を払って、アベノミクスのさらなる成長による政治権力の保持を目的とした原発電力の利用を継続する必要はありません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 3.11 福島事故で稼働を停止した発電コストの高い原発の再稼動を、温暖化対策に有効だとして、同じ、温暖化対策の目的で進められている再エネ電力の利用拡大のために用意されていたお金を使う政府法案は必要ありません

⓶ 原発電力利用の国策に協力するためなら、何でも許されるとしてきたのが、関電幹部と地元有力者との泥沼の「共犯」問題です。この関電事件の真犯人は、その発電コストが安価だと国民をだまして原発電力の利用を進めてきた日本のエネルギー政策だと私どもは考えます

⓷ いま、「新型コロナウイルス問題」が世界経済成長の抑制を加速しています。世界の政治にとっての最重要課題は、人類の生存の危機をもたらしかねないこの問題の解決への全世界の協力です。自国の政治権力の保持のための景気の回復策の実行ではありません

 

(解説本文);

⓵ 3.11 福島事故で稼働を停止した発電コストの高い原発の再稼動を、温暖化対策に有効だとして、同じ、温暖化対策の目的で進められている再エネ電力の利用拡大のために用意されていたお金を使う政府法案は必要ありません

朝日新聞(2020/3/18)の記事です。その第1 面の見出しに、

原発事故処理に再エネ財源 政府法案 目的外使用可能に

とあり、さらに、同紙の第3面の見出しに、

「原発=安い」論に疑問符 福島の事故処理に再エネ財源 

とありました。

実は、この記述内容は判り難いので、以下、私どもの推定を加えて解説します。

東京電力福島第一原発の事故処理費用としての汚染土や放射性廃棄物の中間貯蔵の費用が、当初(2014年度)の予定金額より大幅に増加して、その費用を、国がエネルギー対策に特化して支出する「エネルギー対策特別会計」のなかの電気料金に上乗せされる税金で賄うことが難しくなったようです。一方で、地球温暖化対策のためとして、その利用の拡大が進められてきた再生可能エネルギー(再エネ)や省エネの普及に使う「エネルギー需給勘定」の予算が余っているので、この予算からの借金で賄おうとするもののようです。

このように、福島第一原発の事故処理費の支出が困難な国家財政状況のなかで、政府は、現在、電力生産コストが最も安いとされている石炭火力発電に較べて発電コストが大幅に増加した原発を新設することは難しいとして、事故後に稼働を停止した原発のなかから、再稼動によって採算の取れる原発30基程度(事故前に稼働していたのは47基)を再稼動させることを計画しているようです。

しかし、この原発の再稼動には、新しく制定された安全対策基準に合格したことを原子力規制員会に認めて貰うための設備改善を行わなければなりませんが、このための設備投資金額を、原発の法定稼動年数40年から既に稼働した年数を差し引いた残りの年数内に生産される電力の売上金額で賄わなければなりません。これでは、30基の原発を稼働できないとして、法定年数を20年延長するとしています。さらには、原発の再稼動では、テロ対策のための設備も建設しなければならないとされましたから、そのための発電コストがさらに増加し、採算の取れる再稼動可能な原発の数が減少します。

すなわち、石炭火力発電より安いとして進められてきた原発の再稼動政策に大きな疑問符がついているのです。したがって、やがて枯渇し、その価格が高くなった化石燃料の代替としての再エネ電力は、その発電コストが、化石燃料を用いる火力発電のコストより安くなったものを、その種類を選んで利用すればよいのです。

いずれにしろ、いま、温暖化対策に有効だとされる原発の再稼動に必要なお金が足りないとして、同じ温暖化対策として進められている再エネ電力の利用拡大のために用意されていたお金を使う政府法案は必要ありません。

 

⓶ 原発電力利用の国策に協力するためなら、何でも許されるとしてきたのが、関電幹部と地元有力者との泥沼の「共犯」問題です。この関電事件の真犯人は、その発電コストが安価だと国民をだまして原発電力の利用を進めてきた日本のエネルギー政策だと私どもは考えます

少し前の朝日新聞(2020/3/15)に、関西電力の役員らに対する金品受領問題の第三者委員会報告書の記事が、次のような見出しで載っていました。

関電泥沼の「共犯」 元助役からの金品 原資は電気料金

国策として進められてきた原発電力利用の推進には、その立地の地元の協力が欠かせません。この地元の原発対策の担当者として、関電に協力してくれた高浜町の元助役が、退職後も地元の原発関連企業の役員として、関電との利害関係を一致させるなかで、関電役員に金品贈与を行ってきました。結果として、3.11福島の過酷事故が起こる前(2010年度)の関電におけるの原発発電量の発電量合計に対する比率は、国内平均の約23 % の2倍以上に引き上げられました。まさに、関電は、原発利用の電力会社のなかの優等生でした。もちろん、そのなかで、高浜町の元助役と関電幹部の間の金品受領の問題は、関電内部だけでなく、國の原発関連部門にも、うすうす知られていたはずですが、これは、原発優等生の関電内部の問題だとして放置されてきたのではないでしょうか? 今回、関電内の第三者委員会による内部調査結果が明らかになって、はじめて公にされて、国も、放っておけないとして。経産省から関電に業務改善命令が出されたのではないでしょうか?

確かに、今回の問題で、悪いのは元助役による関電幹部への金品授与に使われた原資が、日本国民が支払わされた世界一高い電気料金だったことになります。とすると、この関電幹部と地元有力者の間の金品授受問題の真犯人は、3.11福島の事故により、国の経済に大きなマイナスを与えた、また、いま、再稼動により、大きな事故リスクを与えようとしている日本の原子力エネルギー政策だと言わざる得ません。

すなわち、政府は、先ず、勇気を持って、政治権力を保持するために、再稼動を含めた国の原発政策の継続に終止符を打たなければなりません。今回の関電事件の問題で、悪かったのは関電内の原子力関連事業を担当していた一部幹部と、この事件を見て見ぬふりをしていた原子力村のお役人なのです。さらに、関電について言えば、かつての黒四ダムの開発に見られるように、戦後の日本の高度経済成長のエネルギー(電力生産)を支えてきた技術力を生かして、今後の日本の原発に依存しないエネルギー政策を引っ張って行くことで、今回の贖罪を果たして頂きたいと考えます。

 

⓷ いま、「新型コロナウイルス問題」が世界経済成長の抑制を加速しています。世界の政治にとっての最重要課題は、人類の生存の危機をもたらしかねないこの問題の解決への全世界の協力です。自国の政治権力の保持のための景気の回復策の実行ではありません

 中国の武漢市を発生源とする新しい感染症の「新型コロナウイルス問題」は、いまや、ヨーロッパやアメリカ、さらには、全世界に爆発的に拡散し、その収束の目途が全く立っていません。したがって、当初、中国経済の落ち込みに影響されるとされた世界経済の落ち込みが心配された時に較べて、今や、この「新型コロナウイルス問題」は、果たして、人類が生存できるかどかのより深刻な問題になってきました。すなわち、いま、世界の政治が当面する最重要課題は、世界の各国と協力して、何としても、このコロナウイルス問題を終結させることでなければなりません。

とは言え、国民の生活と産業を守る政治には、資本主義経済社会の成長のエネルギーを支えてきた化石燃料資源の枯渇が迫り、世界経済が抑制されようとしているなかで発生したこの「新型コロナウイルス問題」の世界経済への影響(以下、「コロナショック」と略記)が、国民の生活と産業を崩壊させることのないような政策対応も要求されなければなりません。

これに対し、世界の政治は、いま、例えば、リーマンショックの時のように、超低金利政策をとって、世界の先進諸国が協力して、グローバルな自由貿易政策による経済成長政策をとることで問題が解決できると考えているのではないでしょうか? しかし、今回の「コロナショック」は、安倍首相が言うように、何時終わるかが判らないのです。すなわち、次世代に国家財政の赤字を積み残す景気対策のための財政出動を行ったのでは、日本のように、経済成長のためのエネルギーとしての化石燃料資源のほぼ全量を輸入に依存しなければならない国では、何時までもそんなことは続けられないのです。

確かに、今回の「コロナショック」による観光事業や外食産業などが経営危機に陥り、失業に追い込まれる人も沢山出てくるでしょう。したがって、これらの企業に対する無条件の融資や、失業者に対する支援金の支出は必要でしょう。しかし、このような、財政出動による経済的な支援は、あくまでも、今回のコロナショックにより、直接的な被害を受けた特に人や企業に限って行われるべきです。アベノミクスのさらなる成長のための政治権力の保持を目的とした、安倍首相が言う経済のV字回復を目的とした景気対策のための財政支出は絶対に避けるべきです。

繰り返して政治にお願いします。いま、世界の政治に、最優先で求められているのは、人類の生存を脅かしかねない、また、再びやって来ることが予想される新型コロナウイルスのような感染症を防御する国際的な協力態勢を創ることです。

 

ABOUT  THE  AUTHER

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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