温暖化物語の終焉(その3 ); 電力自由化のなかでも、電力の安定供給を目的とした化石燃料枯渇後の自然エネルギー社会への移行は、旧電力会社の責任でスムースに行う責任と義務があります

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 混迷するエネルギー政策のなかでの電力自由化が、持続可能性のない自然エネルギー100 %の電力生産企業を生み出しました

⓶ 化石燃料枯渇後に求められている現用の火力発電主体の電力供給体制から、再エネ電力のみの電力供給体制へとスムースに移行するために、旧電力会社が、その責任と義務を果たして頂くことをお願いします

 

(解説本文);

⓵ 混迷するエネルギー政策のなかでの電力自由化が、持続可能性のない自然エネルギー100 %の電力生産企業を生み出しました

2016年4月、いままでの東京電力や関西電力などの9電力会社により地域独占事業とされていた電力の製造・販売事業に、さまざまな業種が参加できるようになりました。この電力の自由化のなかで、自然エネルギー(再生可能エネルギーともよばれる)電力(以下再エネ電力と略記)のみを生産する電力生産事業会社(企業)が、数多く輩出しました。これら再エネ電力(自然エネルギー)100 %生産の事業が、資本主義経済社会のなかで、収益事業として成立するためには、いま、地球温暖化対策として求められている再エ電力の生産が収益事業として成立するために設けられた「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」適用の資源エネルギー庁による認定を受けて、生産電力を継続的に国に購入して貰う必要があります。

ところが、このFIT制度が成立して(2012年7月)から7年半経ったいま、この制度の見直しが始まったのです。具体的には、この「FIT制度」の認定時に決められた電力の買取価格が年次減少されるようになりなした。理由は、この「FIT制度」の買取金額が市販電力の電力料金に上乗せされる仕組みになっているため、現在、すでに2兆円を超える額に達した市民からの徴収額をこれ以上増やさないための止むを得ない措置だと考えられます。FIT制度の買取価格は、この制度の制定時以降、見直し(値下げ)が行われていて、最も高い電力の買取価格が認定されて、国内再エネ電力発電量の7割程度を占めている太陽光発電の買取価格は、現在、「FIT制度」制定時の半額近くまで低下しました。それだけではありません。家庭用以外の太陽光発電(メガソーラー)では、「FIT制度」の適用自体が廃止されることになりました。同時に、太陽光発電に較べれば、その発電量が数分の一と小さい風力発電への「FIT制度」の適用も廃止されることになりましたが、その理由の説明はありません。いずれにしろ、国内再エネ電力生産の大半を占める太陽光と風力発電の「FIT制度」適用の除外が決まったことは、温暖化対策としての再エネ電力のいますぐの利用量の拡大を目指してきたこの国のエネルギー供給政策のなかの「FIT制度」自体が崩壊したことになります。

この「FIT制度」を廃止せざるを得なくなった理由のもう一つは、「FIT制度」の認定を受けた再エネ電力の生産事業では、電力生産への投資金額が、この電力生産設備の使用期間の 20 年程度の長期間にわたって回収されなければならないことにあります。したがって、再エネ電力の生産事業者には、資本力が必要とされます。もちろん、「FIT制度」制定時の高い買取価格で認定を受けた再エネ電力生産事業者は、設備の維持管理上のトラブルがなければ問題が無いのですが、トラブルの発生等で、発電量が落ちてしまった場合は、企業が倒産に追い込まれるケースも出てきています。これが、今回の「FIT制度」自体が廃止されるようになった、もう一つと言うよりも、主要な原因になっているのではないかとも考えられます。

もともと、「FIT制度」の適用を前提として開始された温暖化対策としての再エネ電力の生産事業ですから、「FIT制度」が適用されない自由経済競争の市場のなかで、すなわち、最近始まった電力自由化のなかで、再エネ電力生産のみを収益事業として、自然エネルギー100 %の事業が生き延びていくことは難しいのではないでしょうか? そこで問題になるのは、現状の日本の化石燃料を用いる火力発電を主体とする電力供給体制から、やがて化石燃料資源が枯渇して、再エネ電力を主体とする電力供給体制にスムースな移行ができるかどうかの懸念が出てくることです。

以下、本稿では、やがて確実にやってくる化石燃料枯渇後の電力供給体制についてのこのような懸念をどうやって払拭すべきかの問題について、私どもの考える具体策を提案させていただきます。

 

⓶ 化石燃料枯渇後に求められている現用の火力発電主体の電力供給体制から、再エネ電力のみの電力供給体制へとスムースに移行するために、旧電力会社が、その責任と義務を果たして頂くことをお願いします

電力の自由化が始まってから、消費者は、新電力事業者とよばれる事業者から、その価格と好みの電力の種類を選んで購入できるようになりました。この電力の自由化の引き金になったのが、3.11福島第一原発の事故でしたから、多くの国民は、沖縄電力を除く旧8電力会社が所有する原発が、福島第一のような過酷事故を起こすことを懸念して、これら旧8電力会社に脱原発を促すとの期待を込めて、原発を所有しない新電力会社との電力の買取契約を結びました。

それは結構なことだと私どもは思いますが、問題は、その新電力が自然エネルギー 100 %が主な対象とされた場合です。現在、この再エネ電力の製造・販売事業では、「FIT制度」の適用により、製造原価より高い電力の買取価格が保証されていますが、上記(⓵)したように、この「FIT制度」が廃止されると、この自然エネルギー100 % の新電力事業が収益事業として成立たなくなります。したがって、国の今後の再エネ電力を含めた電力供給計画が予定通り進まくなり、化石燃料枯渇後の電力の供給計画に大きな齟齬が生じることになります。

それは、正しいエネルギー政策を計画していない国の責任なのですが、迷惑を被るのは国民です。したがって、現状の化石燃料を用いる火力発電を主体とする電力供給体制から、やがてやって来る化石燃料枯渇後の再エネ電力のみに依存する電力供給体制へのスムースな移行のためにも、国内の電力の需要量の変化に応じて、電力供給計画を制御できる統合的な電力供給システムを創ることが求められることになります。具体的な方策として、私どもは、旧8電力会社が、将来の化石燃料枯渇後に求められる再エネ電力の製造と供給に責任をもつて対処できる体制をつくることを提案します。この体制の基本的理念は、今回の電力自由化以前に存在していた、かつての旧9電力会社による、安価で需給バランスを保証するための地域独占の電力供給制度の復活です。したがって、電力の自由化以後にも、この旧制度の利点が引き継いだ電力の供給体制がつくられるべきだと、私どもは考えました。

具体的には、沖縄電力を除く旧8電力会社は、先ず、直ちに、原発電力への依存計画を放棄するとともに、いまから、化石燃料枯渇後に向けた再エネ電力による地域電力供給計画を作成すべきです。やがて、確実にやって来る化石燃料の枯渇による火力発電コストの上昇に備えて、現用の火力発電電力と再エネ電力をミクスさせて、最も安価な電力を消費者に安定的に供給する万全の体制を創ることが求められます。そのためには、再エネ電力の種類別に、その導入可能量を考慮した上での発電コストの最小を目的とした電源構成の最適構成が技術的に追及されなければなりません。これが、日本のエネルギーの基本計画のなかで言われている本当の電源構成のベストミクスでなければなりません。旧電力会社には、このベストミクスを実現させる責任と義務があります。同時に、これを実現できる技術力と資本力を持ち合わせているのは、旧電力会社だけです。

これが、電力の自由化後の混迷するエネルギー政策を正す基本でなければなりません。旧電力会社は、いままでのしがらみを捨て、この新しい体制つくりに全面的に協力するとともに、政府は、その指導に努めることともに、この計画つくりの前提となる、速やかな原発ゼロの実現をお願いします。

なお、本稿も、いま、国民の原発ゼロの希望と、安価な電力供給を無視して進められている「温暖化物語」の終焉を促すための私どもの提案として、表題を、「温暖化物語」(その3 );とさせて頂きましたことを付記します。

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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