COP 25 で、日本の石炭火力発電新設計画が不当なパッシングを受けています。地球温暖化が CO2に起因するとしたら、それを防ぐ道は、化石燃料消費の節減以外にありません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

 

(要約);

⓵ 16才の少女グレタさんが COP 25 が開かれるマドリードまで、太平洋をヨットで渡って、リスボンに到着したことの報道とともに、この COP 25 で、日本の石炭火力の新設計画が、気候変動対策への日本の後ろ向きな姿勢を表すものとして、パッシングされています

⓶ いま、世界で、気候変動対策として、IPCCの主張に従って、CO2 の排出削減が強く要請されていますが、この要請を唯一実現可能とする方法は、世界の全ての国の協力により、化石燃料消費を節減することです

⓷ 世界各国の CO2 の排出削減量の値で見る限り、日本は、気候変動対策に背を向ける」反逆者だとパッシングされる理由は見当たりません。「パリ協定」の CO2 排出削減目標を、お金をかけないでも CO2 の排出を削減できる「化石燃料消費の節減目標」に替えることが COP 25 を成功に導く唯一の道です

⓸ COP 25 において日本が世界に向かって訴えること、それは、化石燃料の枯渇後の経済成長が抑制される世界に、全ての国が協力して。経済成長のエネルギー源の配分の不均衡による貧富の格差が解消される平和な理想社会を創るための「パリ協定」の新しい「化石燃料消費の節減目標の創設」を世界に向かって訴えることです

 

(解説本文);

⓵ 16才の少女グレタさんが COP 25 が開かれるマドリードまで、太平洋をヨットで渡って、リスボンに到着したことの報道とともに、この COP 25 で、日本の石炭火力の新設計画が、気候変動対策への日本の後ろ向きな姿勢を表すものとして、パッシングされています

ニューヨークの国連気候変動行動会議に参加したグレタ・トウンベリーさんが、12月4日、スペインのマドリードで開催されている COP 25 に参加するために、ヨットで大西洋を渡って、リスボンに到着したことが、ヨットを降りるグレタさんの写真入りで、大々的に報道されました。この COP 25 の開催に当たって、国連事務総長のアントニオ・グテーレスさんは、温室効果ガス(その主体は二酸化炭素(CO2)で、以下、CO2と略記)を大量に排出する「石炭からの脱却」を訴えました。これに呼応して、COP 25 の協議では、日本政府が進めている石炭火力発電の新設計画が、「科学を無視して、パリ協定を軽視し、人々を危険にさらすものだ」として非難されており、国際的な環境NGOがつくる「気候行動ネットワーク」から、不名誉な「化石賞」が送られたとも報道されています。今回の COP 25 には、小泉新次郎環境相が政府の代表として参加し、気候変動に対する日本の立場を説明するとされていますから、その対応が注目されます。

最近、熱波や洪水などの異常気候が頻繁に起こっていることは否定できない事実です。しかし、この気候変動が、産業革命以降、その排出量を年次増加させている CO2 のせいだとしているのは、現在起こっている地球温暖化が CO2 に起因すると主張して、ノーベル平和賞を受賞した IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)がつくり出した「科学の仮説」に過ぎません。

と言うことは、いま、IPCC が主張する「脱炭素社会」の実現で、温暖化を防ぐことができるとの科学的な保証は得られないのです。すなわち、温暖化を防ぐとして、その実行にお金のかかる(国民に経済的な負担を強いる)CO2 排出削減の方法を用いるのではなく、お金をかけなくとも確実に CO2 の排出量を減少することができる「化石燃料消費の節減」を行うべきなのです。その詳細については、私どもの近刊「温暖化物語」が終焉します。いや終わらせなければなりません(文献1 )」をご参照下さい。

以下、本稿では、この「脱炭素社会」実現を阻んでいるとしてジャパンパッシングの対象になっている、COP 25 における「石炭火力発電の廃止」の問題について、その非合理性を、科学的に明らかにすると同時に、いま、世界中で大騒ぎされている地球温暖化問題を解決するための正しい方法を、今世紀中に迫っている化石燃料の枯渇後の世界に、日本が、そして人類が生き残る道として、提案させて頂きます。

 

⓶ いま、世界で、気候変動対策として、IPCCの主張に従って、CO2 の排出削減が強く要請されていますが、この要請を唯一実現可能とする方法は、世界の全ての国の協力により、化石燃料消費を節減することです

いま、地球温暖化の CO2 原因説を主張している IPCC は、温暖化を防止する方法として、CO2 の排出源である化石燃料の燃焼廃ガス中から CO2を抽出、分離して、地中深く埋立てる「CCS技術」の採用を世界のエネルギー政策の担当者に推奨しています。しかし、世界の経済成長を支えてきた化石燃料資源が枯渇して、世界の経済成長が抑制されるなかで、このような国民のお金を使う CO2 排出削減の方法は、特に、途上国では実行不可能です。すなわち、世界の全ての国の協力で実現可能な地球温暖化対策は、私どもが提案するように世界の「化石燃料消費を節減する」以外に方法がありません(私どもの近刊(文献 2 )参照)。

日本エネルギー経済研究所分析・計量ユニット編;エネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献 2 )と略記)に記載のIEA(国際エネルギー機関)データの一次エネルギー消費(石炭、石油、天然ガス)の値に、同じエネ研データ(文献 2 )の{解説}に記されている

化石燃料種類別の CO2 排出量原単位 t-CO2/toe(石油換算㌧):石炭 3.96、石油 3.07、天然ガス 2.35 を、2016 年の各化石燃料の一次エネルギー消費(石炭、石油、天然ガス)量の値に乗じて計算される CO2 排出量は、

一次エネルギー消費(石炭);  3,731 Mtoe ×3.96 t-CO2/toe  = 14,745 Mt-CO2

同     (石油) ; 13,477  ( = 4,390 × 3.07 ) Mt-CO2

同(天然ガス)  ;  7,132 (= 3,035 × 2,35 )Mt-CO2

合計        35,384 Mt-CO2

となります。これに対して、同じエネ研データ(文献 2 )に記載のIEAデータに与えられる 2016 年の CO2 排出量は、32,314 Mt-CO2 です。

同じ方法で、日本の同じ2016年の化石燃料(石炭、石油。天然ガス)からの CO2 排出量の合計は 1,234.5 Mt-CO2 で、これに対して、IEAデータに与えられた値は、1,147 Mt-CO2 です。

上記の世界および日本の化石燃料種類別の CO2 排出量原単位を用いて計算される CO2 排出量の値と、IEAデータに与えられる値、両者の間には 10 % 程度の違いがあります。その理由については説明できませんが、ここでは、この違いを我慢して、化石燃料消費の節減で、CO2の排出が削減でき、IPCCが主張する温暖化のCO2原因説が正しかったとしても、化石燃料消費の節減で、確実に CO2 排出量を削減でき、IPCC が主張する温暖化の脅威が防ぐことができると考えました。

 

⓷ 世界各国の CO2 の排出削減量の値で見る限り、日本は、気候変動対策に背を向ける」反逆者だとパッシングされる理由は見当たりません。「パリ協定」の CO2 排出削減目標を、お金をかけないでも CO2 の排出を削減できる「化石燃料消費の節減目標」に替えることが COP 25 を成功に導く唯一の道です

IPCCの主張に従って、地球温暖化の脅威を防ぐための世界各国の CO排出削減努力について検討してみます。エネ研データ(文献 2 )に記載の IEAデータから、世界の主な CO2 排出国における CO2 排出量の年次変化を 図1a および 図 1 に示しました。

注; 2050年の各国の CO2 排出量の値ゼロは、IPCCが主張する温暖化対策としての「パリ協定」での CO2の排出量削減目標の値です。

図 1a 世界の CO2 排出量の年次変化、排出量の大きい国 (中国、米国、インド)

(エネ研データ(文献 2 ) に記載の IEA データをもとに作成)

注; 2050年の各国の CO排出量の値ゼロは、IPCCが主張する温暖化対策としての「パリ協定」での CO2 の排出量削減目標の値です。

図 1b 世界の CO排出量の年次変化、排出量の余り大きくない国 (日本、ドイツ、ブラジル) (エネ研データ(文献 2 )に記載の IEA データをもとに作成)

 

図 1 a に示す CO2 排出量の多い順に、現在(2016年)、第 1 位の中国(世界の排出量合計の 28.0 %)、第 2 位の米国(同 14.9 %)、第 3 位のインド(同 6.4 %)を合計すると、世界の CO2 排出量の 49.3 % を占めます。したがって、いま、2050 年の CO2 排出量ゼロを主張するIPCC の削減目標を達成するには、今世紀に入り米国を追い抜いて世界第 1 位の CO2 排出大国になった中国の今後の格段の削減努力求められることになります。これに対して、米国の CO2 排出量の年次変化では、2000年代以降、かなり大幅な CO2 排出努力が続けられており、今後の努力次第で、2050年の CO2 排出ゼロの目標達成は必ずしも夢とは言えないようにも思われます。しかし、この米国のトランプ大統領が、温暖化対策のための CO2 排出量を決める「パリ協定」からの離脱を決めたのです。このトランプ大統領の「パリ協定」離脱の理由は、いま、「パリ協定」で求められている途上国の CO2 排出削減に必要とされるお金を、世界一の経済大国米国が過剰に負担させられるためとされています。したがって、CO2 の排出にお金を必要としない「化石燃料消費の節減」であれば、トランプ大統領の離脱の理由がなくなることになるはずです。

この中国や米国に較べて、先進国の一員としての日本やドイツは、CO2 排出の絶対量が相対的に非常に小さく、同一のスケールでの年次変化の比較は見難いため、縦軸のスケールを変えて示した 図 1b に見られるように、ドイツの削減努力に較べて、日本の削減努力は、小さいようですが、私どもが主張する、本来の「パリ協定」の目標を、科学的な合理性を持った化石燃料消費に替えるべきことが明らかにされれば、几帳面な国民性から十分それを守る努力をするであろうことが期待されます。いや、そうしないと、化石燃料のほぼ全量を輸入に依存する日本が、「化石燃料の枯渇が迫る」厳しい世界に生き残れません。

図 1a および図 1b は、各国の CO2 排出量の年次変化の値ですが、それぞれの国の CO2 排出努力目標を、より明瞭に表すには、同じエネ研データ(文献 2 )記載の IEA データに与えられている各国の一人当たりの CO2 排出量の年次変化を調べるのが妥当だと、私どもは考え、それを 図 2 に示しました。

注; 2050年の CO2 排出量の値は、私どもが主張する、世界の全ての国の一人当たりの化石燃料消費量を 2012 年の世界平均の値に等しくするとしたときの各国の一人当たりの CO2 排出量の値 4.63 t-CO2です。ただし各国の今後の人口の増減予測による補正は行っていません(本文参照)。

図 2 世界各国の一人当たりの CO2 排出量の年次変化

(エネ研データ(文献 2 ) に記載の IEA データをもとに作成)

 

この図 2 では、IPCCによる気候変動シミュレーションモデルから計算される地球気温の上昇の値を、現状からの1.5℃以内に止めるために必要な化石燃料消費量、すなわちCO2の排出量の 2050 年の値を、2012 年の世界平均の一人当たりの CO2 排出値に止める必要があるとする私どもが主張する CO2 の排出削減目標値を、IPCCが訴える2050年のCO2排出量のゼロの代わりに記入してあります。ただし、各国の今後の人口の増減予測による補正は行っていません。この図 2 に見られるように、この新しい「パリ協定」の CO2 排出目標に向かって各国が協力することが、IPCCが主張する温暖化の CO2 原因説が正しいと仮定した時の、唯一の実現可能な温暖化対策だと考えます。詳細については、私どもの「ただしい日本のエネルギー政策の提言(文献 3 )」をご参照下さい。

 

⓸ COP 25 において日本が世界に向かって訴えること、それは、化石燃料の枯渇後の経済成長が抑制される世界に、全ての国が協力して。経済成長のエネルギー源の配分の不均衡による貧富の格差が解消される平和な理想社会を創るための「パリ協定」の新しい「化石燃料消費の節減目標の創設」を世界に向かって訴えることです

COP 25 の協議の場に、日本政府を代表して出席する小泉環境相に突き付けられる課題は、日本における石炭火力発電の新設計画によるCO2の排出量の増加と推定されます。エネ研データ(文献 2 )に記載の IEAデータの世界の電源構成の各国の石炭消費量(石油換算㌧)の最近(2005年以降)の値を図 3 に示しました。

図 3 石炭火力発電の石炭消費量(石油換算㌧)、世界と日本の年次変化(参考として中国、米国の値を含む)  (エネ研データ(文献 2 )に記載の IEAデータをもとに作成)

 

途上国での年次増加量から、先進国の年次減少量を差し引いた値と考えられる世界の石炭消費量の増加量に較べて、日本における石炭火力発電で消費される石炭量は、せいぜい 10 % 程度です。いまの日本の石炭火力の新設計画は。3.11福島の事故で失われた原発電力を補うためのものであり、さらに、日本の優れた(高い発電効率を持つ)石炭火力発電技術の海外(途上国)への移転による石炭消費の節減効果を考慮すると、いま進められている日本の石炭火力発電所の新設計画による石炭消費量の増加が、温暖化を増進させるとは、到底、考えられません。なお、今回のCOP 25 の場で、「石炭からの脱却」を訴える理由の一つとして、石炭の燃焼排ガスによる大気汚染が報じられています。しかし、これは、主として冬季の途上国の大都市における暖房用の熱源としての石炭の利用によるものと考えられます。石炭火力発電の排ガスによるものだとしても、日本の石炭火力発電技術では、排ガスの湿式洗浄設備が完備しているので、この技術が途上国に移転されれば、この問題も解決できることを付記します。

もし、日本の現在のエネルギー政策が、今後、CO2 の排出量を増加させるとすれば、それは、いま、安倍政権により進められているアベノミクスのさらなる成長による化石燃料消費の増加ではないでしょうか?

「パリ協定」での温暖化対策としての各国の CO2 排出削減目標を決める COP 25 で、日本が世界をリードして訴えなければならないことがあるとしたら、それは、現在の CO2 排出の削減目標が、各国の自主的な申告に任されており、この目標の達成による世界の温暖化防止効果が保証されていないことです。これに対して、私どもが主張する「化石燃料消費の節減方策」では、「パリ協定」での世界の全ての国の化石燃料消費の節減目標が、2050年の一人当たり化石燃料消費量を、2012 年の世界平均の一人当たり消費量の 1.54 石油換算㌧( = CO2排出量 4.63 CO2㌧)と明確に定量化されて示されています。

実は、この私どもの提案は、先の「パリ協定」CO2排出削減目標を協議する COP 21 の場に提案して頂くことを、この COP 21 に参加された国際環境経済研所の方にお願いしました。今回は、このような依頼をお願いできる伝手がありませんでしたが、この私どもの提案が、日本政府代表の小泉環境相の目に入り、日本政府の提案とされることを切に願って止みません。

 

<引用文献>

1.久保田 宏、平田 賢太郎 ; 温暖化物語が終焉します、いや終わらせなければなりません、化石燃料の枯渇後に、日本が、いや人類が生き残る道を探ります Amazon 電子出版、Kindle、2019年11月

2.ネルギー経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2017 ~ 2019、省エネセンター、2017~ 2019年

3.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――

電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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