原発テロ対策の遅れで、再稼動中の原発が止まるとされています。しかし、この安全対策とは無関係な「原発ゼロ」の実行が求められます。それは、いま、地球温暖化対策として、国際的な合意の下で進められている「パリ協定」のCO2排出削減目標を、私どもが提案する「化石燃料消費の節減」に換えることが、世界平和のなかで、人類が生き残る道だからです
|東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎
(要約);
⓵ 原子力規制員会が、再稼動中の原発に義務付けられたテロ対策施設の設置期限の延長を認めない方針を決めました。これは、いま、アベノミクスのさらなる成長のために、原発の再稼動を進めている政府にとっては一大事です
⓶ テロ対策の遅れで、再稼動中の原発の停止を認めないのは、原子力規制委員会の当然の責務です。再稼動を進める政府の方針に従って、テロ対策期限の延長を求める電力会社の安易な甘えは許されるべきではありません
⓷ テロ対策施設の建設にお金をかけて、再稼動の継続が許されるためには、再稼動した原発が、その法定使用期間を終えるまでの間に稼ぐことができる電力販売金額が、テロ対策施設の建設に必要な金額を上回る必要があります。このような評価計算を行ってみると、再稼動できる原発の数は多くありません
⓸ 化石燃料資源枯渇後、その代替の持続可能なエネルギーとして、その開発・利用が進められてきた原発電力ですが、この原発の稼働により排出される核燃料廃棄物の処理・処分の方法が確立されていない現状では、世界平和の維持のために必要な戦略核の廃絶のためにも、また、その費用が次世代送りされている経済的な理由からも、化石燃料の代替とならない原発電力依存からの脱却、「原発ゼロ」の実現が求められなければなりません
⓹ 原発の再稼動の停止を含む「原発ゼロ」を実行するには、いま、地球温暖化対策として、国際的な合意で進められている「パリ協定」でのCO2排出削減目標を、「私どもが提案する化石燃料消費の節減目標」に換えることを、世界の全ての国の協力で実行することが求められます。この安全対策とは無関係な「原発ゼロ」の実行こそが、世界の平和の中で、人類が生き残る唯一の道です
(解説本文);
⓵ 原子力規制員会が、再稼動中の原発に義務付けられたテロ対策施設の設置期限の延長を認めない方針を決めました。これは、いま、アベノミクスのさらなる成長のために、原発の再稼動を進めている政府にとっては一大事です
3.11福島第一原発の事故以降、原発の安全性に対するリスクから、稼働を停止せざるを得なくなった既存の原発について、政府が決めた新しい安全基準が満たされたと、原子力規制委員会(以下、規制委員会と略記)が認めた原発が、順次、再稼動を許されています。ところで、原発の安全対策として、その設置に時間がかかるとして、その完成までに猶予期間が与えられたのが、いま、問題になったテロ対策施設です。現在、再稼動が許されている原発については、この規制委員会による安全審査後5年以内とされた設置期限がありますが、それが守れなくなって、この設置期限を延長して欲しいとの公式の申請が、原発を所有する電力会社から出されました。これに対して、規制委員会は、それを認めない方針を打ち出したのです。
この問題について、例えば、朝日新聞2019/4/25は、“テロ対策遅れ 原発停止へ” と報じています。この規制委員会の方針が貫かれれば、現在、再稼動が許されている9 基の原発の全てが稼働停止されることになり、原発電力をアベノミクスのさらなる成長の基幹エネルギーの一つと位置付けて、原発の再稼動を進めている安倍一強政権にとっては、現在のエネルギー政策に見直しを迫られる一大事になるのではないかと予想しています。
⓶ テロ対策の遅れで、再稼動中の原発の停止を認めないのは、原子力規制委員会の当然の責務です。再稼動を進める政府の方針に従って、テロ対策期限の延長を求める電力会社の安易な甘えは許されるべきではありません
上記(⓵))の朝日新聞(2019/4/25)の記事によれば、原発テロ対策とは、原子炉がテロリストの大型航空機によって攻撃を受けた時、原子炉建屋から100 m 以上離れたところに設けられた緊急時制御施設から原子炉の冷却用の注水を行うことができるようにすることです。3.11福島第一原発の事故後、運転を停止した原発の再稼動が許される条件として、その建設が義務づけられた、この緊急時制御施設ですが、この施設の建設に必要な土木工事などに時間がかかっており、再稼動が認められている原発で、原子力規制委員会と約束した施設の設置期限が守れそうにないことを、原発を所有する電力会社が、公式に規制委員会に伝えたのが4月17日(2019年)でした。
これに対して、規制委員会は、4月24日の定例会で、テロ対策施設の設置期限を過ぎた原発を稼働停止する方針について、更田委員長は、「規制の根幹にかかわる。利用停止は明確にしたい」と明言しました。これは、原発の安全性をチェックする規制委員会として当然の対応と考えるべきです。いや、本来であれば、規制委員会は、テロ対策として、その設置が義務付けられている緊急時制御施設が完成するまで原発の再稼動は認めるべきでなかったのです。
一方で、設置期限が近くなった今頃になって、その期限の延長を求める電力会社の計画の甘さが指摘されていますが、これは、計画の甘さと言うよりは、この施設の完成が多少遅れても、政府の原発擁護の方針に従って、このテロ対策施設が無いままで、原発の再稼動を許可してくれた規制委員会が、稼働を停止することはないだろうと安易に考えていたのではないでしょうか。いま、小泉元首相らの「原発ゼロ」の訴えに見られるように、多くの国民が脱原発を要望するなかで、このような、電力会社のわがままは許されない行為と言わざるを得ません。
⓷ テロ対策施設の建設にお金をかけて、再稼動の継続が許されるためには、再稼動した原発が、その法定使用期間を終えるまでの間に稼ぐことができる電力販売金額が、テロ対策施設の建設に必要な金額を上回る必要があります。このような評価計算を行ってみると、再稼動できる原発の数は多くありません
いま、3.11福島の事故以降、その稼働を停止せざるを得なくなった原発の所有者(電力会社)が大きな経営的なマイナスを強いられていると言われます。この経済的なマイナスを逃れるためとして、一刻も早い原発の再稼動を支援している政府は、上記(⓵)したように、福島事故の後、新しく制定した安全基準を規制委員会がクリアしたと認めた原発の再稼動を認めています。しかし、この安全基準を満たすための安全対策にはお金がかかりますから、この投資金額を、再稼動した原発電力生産の売り上げ金額で回収しなければなりません。
ここで、
(再稼動後の原発電力の売り上げ金額 円)
=(再稼動した原発の発電量kWh)
×(原発の単位発電量当たりの販売価格 円/kWh) ( 1 )
ただし、
(再稼動した原発の発電量kWh)
=(再稼動した原発の年間発電量 kWh/年)
×(再稼動した原発の再稼働開始時から法定使用期間終了までの稼働可能年数) ( 2 )
(再稼動した原発の年間発電量 kWh/年)
=(原発の最大出力(発電設備容量)kW)〉
×(年間時間8,760 h/年)×(年間平均設備稼働率) ( 3 )
で与えられます。
この ( 1 )式で計算される(再稼動後の原発電力の売り上げ金額 円)が、安全対策に必要な設備投資金額)を上回ったときに、はじめて、その原発での再稼動の経済的なメリットが出てきます。したがって、原発の安全対策に必要な金額が、この ( 1 ) 式で計算される金額を下回る場合、その原発の所有者は、再稼動を断念して廃炉を選択せざるを得なくなります。
したがって、原発の安全対策として行われるテロ対策につても、上記同様の経済的な評価計算が行われなければなりません。テロ対策のための施設の建設費は原発の立地で変化しますが、500 ~1200億円とされていますから、各原発について、それぞれの原発の法定使用年数(40年)まで用いた(再稼動した)ときに得られる発電量に、原発電力の市販価格を乗じて求められる再稼動原発による取得金額が、このテロ対策への投資金額を上回らなければ、その原発を再稼動するメリットはなくなります。
朝日新聞(2019/4/25)に記載のテロ対策施設の設置期限が迫る原発について、エネ研データ(文献 2 )に記載された、設備容量(最大出力)、運転開始年月のデータをもとに、上記の ( 1 ) ~ ( 3 ) 式を用いて、テロ対策設置後の原発電力の販売金額の推定値を試算して表1 に示しました。ただし、再稼動原発の年間平均設備稼働率の値は 80 %とし、電力の販売価格は、現状の電力生産の主体になっている石炭火力発電での市販電力の発電コストのなかの燃料費を参考にして3 円/kWhと仮定しました。
表 1 テロ対策施設の設置期限が迫る原発の設置期限後の稼働可能期間と、その発生電力の販売による取得金額の推定値 (朝日新聞2019/4/25に記載のデータをもとに加筆して作成しました。ただし、・印を付した原発は再稼動中です)
電力会社 最大出力*1 運転開始*1 法定終了*2 設置期限*3 稼働期間*4発電量*5 発電金額*6
注; *1;エネ研データ(文献 2 )から *2;法定使用年数を40年としたときの使用終了年月
* 3. テロ対策施設の設置期限 (朝日新聞2019/4/24の記事から) *4;設置期限年月(*3)から法定終了年月(*2)までの稼働可能期間(年月) *5; (再稼動した原発の稼働可能期間中の発電量)の本文 ( 2 ) 式による計算値、ただし、原発の年間平均設備稼働率は80 % としました。 *6; テロ対策施設設置後に再稼動した原発の稼動可能期間内の電力の売り上げ金額、本文の ( 1 ) 式をもとに計算しました。ただし、電力の販売価格は3円/kWhと仮定しました。
この表1 に見られるように、関西電力所有の高浜 #1、同 #2、美浜 #3、および東海第2(日本原電(株)所有)の4原発は、その設置期限が法定使用年月を超えているとしてその再稼動が認められないはずです。しかし、規制委員会が、運転停止中の期間を法定使用年数に加えないとして、再稼動可能期間を延長する可能性が考えられます。それにしても、この表1に示されている原発の多くは、残された稼働期間内の生産電力で、テロ対策費用を回収することが難しくなっていることが推定されます。これに対して、政府(規制委員会)は、原発の法定使用期間の40年を60年に延長して、再稼動を可能にするかもしれません。
⓸ 化石燃料資源枯渇後、その代替の持続可能なエネルギーとして、その開発・利用が進められてきた原発電力ですが、この原発の稼働により排出される核燃料廃棄物の処理・処分の方法が確立されていない現状では、世界平和の維持のために必要な戦略核の廃絶のためにも、また、その費用が次世代送りされている経済的な理由からも、化石燃料の代替とならない原発電力依存からの脱却、「原発ゼロ」の実現が求められなければなりません
第2次大戦を早く終わらせるためとして、日本人の殺戮のための原子力爆弾(原爆)に使われた原子力エネルギーが、戦後、やがて、確実に枯渇する化石燃料代替の持続可能なエネルギー源として利用されるようになりました。これが、原子力エネルギーの平和利用です。
その最終目標は、太陽を地上に下ろすと言われた夢のエネルギーとしての原子核融合反応の制御・利用でした。しかし、その実用化は、夢のなかの夢と形容されるように、まだ、全く目途が立っていません。結局、いま、実用化されているのは、広島、長崎に投下された原爆に使われた原子核分裂反応のエネルギーを、技術力により制御して、安全性の確保された状態で利用する軽水炉型原子力発電(原発)です。しかし、この軽水炉型原発は、燃料ウランの持つ潜在エネルギーを最大限に利用するための高速増殖炉もんじゅの実証試験の失敗に見られるように、当初から計画されていた核燃料サイクル技術の開発が思うように進まないなかでの実用化でした。結果として、化石燃料の代替の利用とは程遠く、その利用可能年数が、表 2に示す燃料ウランの可採年数に等しいと仮定すると、表 2 に見られるように、化石燃料の補助的な利用に止まることが判ります。
表 2 世界の化石燃料およびウランの確認可採埋蔵量と可採年数、2017年
このような原発の開発・利用の現状のなかで起こったのが、3.11福島第一原発の過酷事故です。この原発技術開発の先進国の日本での過酷事故が、ドイツなど世界の一部の国での脱原発の政策決定を促しました。実は、エネ研データ(文献 2 )に記載のIEAデータから作成した図 1 に見られるように、世界の原発の開発・利用は、3.11の始まる以前の2000年代に入ってから、その利用の伸びが停滞していました。その原因は、原発電力が、電力需要の日間変動への対応力が弱く、一定出力で運転しないと経済性が保てないからです。この電力需要の日間変動に対して、原発は揚水発電を併設して対応していますが、夏季の冷房用の電力需要のピークなどの季節変動に対応するためには、現状では、化石燃料を用いた火力発電に頼らざるを得ません。結果として、現状では、原発電力の利用を早くから進めてきた先進諸国では、発電コストのミニマムを求めるために、発電量合計に占める原発電力の比率が20 ~ 30 % に止まっています。これが、世界の原発電力利用が停滞している主な理由です。したがって、今後、原発電力の利用の伸びが期待できるのは、原発電力の利用の開始が遅れて、この原発比率の値が低い途上国主体になると考えられます。これを言い換えれば、原発電力は、当初目的とした、やがて枯渇する化石燃料に代わる、より安価なエネルギーとして用いられることはないと考えるべきです。
図 1 世界の原発電力(一次エネルギー消費(原子力)の値で表した発電量)の年次変化(エネ研データ(文献 2 )に記載のIEAデータをもとに作成)
このような現状のなかで、化石燃料資源のほぼ全量を輸入に頼らなければならない日本は、原発電力を準国産電力と位置づけ、かつ、その発電コストが、現在、安価で安定した供給が保証される石炭を用いた火力発電より安いと国民をだまして、上記(⓵~⓷)したように、3.11以後、稼働停止を余儀なくされた既存の原発の再稼動にやっきとなっています。それは、既設の原発の再稼動で得られる電力の生産では、その原発の所有者にとっての失われた電力販売利益が回復できるだけでなく、日本にとっては、3.11以後に失われた原発電力の代わりに増加した化石燃料の輸入金額の削減にもつながり、国益になると考えているからと言ってよいでしょう。
しかしながら、この原発の再稼動では、3.11の過酷事故の教訓から上記(⓷)したように、新しく設けられた安全基準を満たすための対策費用とともに、テロ対策の費用までも加算されなければなりません。したがって、その経済性の評価から再稼動を断念せざるを得なくなる原発も出てきています。それだけではありません。地震大国日本における原発の安全性に対する拭い去り難いリスクから、各地で再稼動差し止めの裁判が行われています。この裁判の結果は、下級審で一時的に再稼動が停止されても、上級審では再稼動を許す判決が行われていますが、一時的にでも、再稼動が中止されることは、原発電力の生産による国益が失われることになります。
ところで、いま、問題になっているテロ対策を含めた安全性が確保されれば、日本は、この再稼動とともに、新設を含めた原発を保有してもよいのでしょうか? 私どもは、そんなことはないと考えます。それは、現状では、軽水炉型原発の稼働により生ずる核燃料廃棄物が、その処理・処分の方法が無いまま一時的に、原発敷地内に貯留・保管されているからです。この核燃料廃棄物の中には、原爆原料として用いられるプルトニウムが含まれています。これが、テロによる攻撃の対象になるとも言われています。さらには、この核燃料廃棄物の処理・処分の費用と、実際に行われていないためにその推算の方法がないとされる廃炉の費用を含まない原発の発電コストを、石炭火力発電コストより安価だとして、その利用が進められ、これらの費用が、すべて次世代送りされています。これらの費用を考えると、原発の増加は、安全性のリスクを増加させて、経済的な不利益を招くとして、私どもは、3.11の20年以上も前、原発の保有数31基(その後、57基まで増加、現在(2017年度)40基)の時点で、原発はこれ以上増やすべきでないと主張しました(文献 3 参照)。
⓹ 原発の再稼動の停止を含む「原発ゼロ」を実行するには、いま、地球温暖化対策として、国際的な合意で進められている「パリ協定」でのCO2排出削減目標を、「私どもが提案する化石燃料消費の節減目標」に換えることを、世界の全ての国の協力で実行することが求められます。この安全対策とは無関係な「原発ゼロ」の実行こそが、世界の平和の中で、人類が生き残る唯一の道です
原発の安全性について言えば、その安全対策にいくらお金を使ってみても、絶対の安全は得られません。絶対の安全があるとしたら、それは、原発を持たないことです。すでに持ってしまった原発は動かさないこと、すなわち、停止中の原発を再稼動させないことです。これは科学の原理です。これに対して、この科学の原理を無視して、何としてでも、原発を再稼動させたいとしている日本政府が利用しているのが、地球温暖化対策のための原発電力(原子力エネルギー)の利用と言って良いでしょう。すなわち、上記(⓸)したように。やがて枯渇する化石燃料の代替として役に立たない原発を、いま、地球の温暖化に起因するとされる異常気象による災害の脅威を防ぐために、温暖化を促進するとされるCO2を排出しない原発の利用を求めているのです。これが、日本での政府による停止中の原発の再稼動です。これを言い換えると、いま、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張している地球温暖化の脅威が起こらなければ、原発は不要なのです。
しかし、このIPCCが主張する、化石燃料の消費に伴って排出されるCO2の増加による地球温暖化の脅威には、科学的な根拠がありません。また、例え、このIPCCによる温暖化のCO2原因の主張が正しかったとしても、私ども(文献 1 )が主張するように、化石燃料の消費量を2012年の値に保つ「世界の全ての国の協力による化石燃料消費の節減案」が実行できれば、人類生存の脅威をもたらすような地球気温の上昇は起こりません。
この「私どもが提案する化石燃料消費の節減対策」を実行するための具体的な方策として、私どもは、2050年を目標に、世界中の全ての国が、一人当たりの化石燃料の消費量を、現在(2012年)の世界平均の一人当たり化石燃料消費量の値1.52石油換算㌧/人とすることを提案しています。ただし、世界の化石燃料の消費量は人口に比例しますから、2050年の各国の人口の推定値の2012年の値に対する増減に応じた補正を行います。この「私どもの化石燃料消費の節減対策」の実行は、エネ研データ(文献 1 )に記載のIEA(国際エネルギー機関)のデータをもとに作成した図2 に見られるように、先進諸国にとっては、大幅な化石燃料消費の節減を必要とし、その実行の困難が予想されます。一方で、経済発展の遅れた中国を除く途上国にとっては、化石燃料消費の増加の継続による経済成長が許されます。ただし、人口の増加を継続している途上国の多くには、化石燃料の節減には人口増加を抑制する必要があることを認識して頂き、その抑制に努力して頂く必要があります。
注;2050年の一人当たり化石燃料書費の各国の値は、(2012年の世界平均の一人当たり化石燃料消費の値;1.52石油換算㌧/人)に、それぞれの国の(2012年の人口)/(2050年の私どもによる人口の予想値)比を乗じた値です。
図 2 「私どもが提案する化石燃料消費の節減対策案」の図解
(エネ研データ(文献2 )に記載のIEAデータをもとに作成しました)
この私どもの提言案を実行不可能な理想論だと言われる方が居られるかもしれません。しかし、これと同じことが、実は、地球温暖化対策のCO2の排出削減のための「パリ協定」として、国際的な合意のもとで進められているのです。すなわち、CO2の排出削減は、化石燃料消費の節減で実行可能となりますから、この「パリ協定」の各国のCO2排出削減目標を、「私どもが提案する化石燃料消費の節減目標」に置き換えることで、世界の(地球上)のCO2の排出削減が実行可能となります。
これに対して、IPCCが推奨している、化石燃料の消費の増加を前提とした上で、排出されるCO2を抽出・分離・埋立てるお金のかかるCCS技術の適用や、安全性の大きなリスクを背負った原発電力の利用、さらには、現状では、電力料金の値上げで国民に経済的な負担を強いるいますぐの自然エネルギーの利用を、化石燃料枯渇後の経済成長が抑制せざるを得なくなる世界で実行することは困難と考えるべきです。
すなわち、この「私どもの化石燃料消費の節減提案」の実行こそが、お金をかけないで、原発を用いないで、いま、世界で大騒ぎしている地球温暖化の脅威の問題を解決する唯一の方法なのです。
いま、日本にとって、人類の生存にとって、地球温暖化の脅威を訴えて、絶対安全の保障のない原発エネルギーの利用を進めることではなくて、全ての国が、やがて枯渇する化石燃料を公平に分け合って大事に使いながら、それぞれの国が自然エネルギー(自国産の再エネ)のみに頼り、「原発ゼロ」を実現する貧富の格差のない、理想の平和な世界にソフトランデイングすることこそが、化石燃料枯渇後の社会に日本が、そして人類が生き残る道なのです。
<引用文献>
- 久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月
- 日本エネルギー経済研究所計量ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧 2019、(財)省エネセンター 2019年
- 久保田宏編;選択のエネルギー、日刊工業新聞社、1989年
ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他
平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。