いま、「温暖化物語」が終焉を迎えようとしています。「温暖化物語」からの脱却が、化石燃料枯渇後の世界に、日本と人類が、生き残る唯一の道です

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

 

(要約);

⓵ 温暖化の脅威を防ぐために、不必要なお金を国民に使わせるのが、「温暖化物語」です。温室効果ガス(CO2)排出削減に国民のお金を使っても、温暖化の脅威を防げるとする科学的な保証はありません

⓶ お金をかけなくともCO2の排出を削減できる方法があります。それには、CO2の排出源である化石燃料消費を節減すればよいのです。この方法を世界の全ての国が協力して実行すればよいのです

⓷ 地球温暖化の恐怖を防ぐ唯一の方策は、世界の全ての国の協力による化石燃料消費の節減対策を実行することで、具体的には、今世紀中の全ての国の一人当たりの化石燃料消費量を等しくすることです。この方策を実行可能とする具体策は、現在、トランプ米大統領以外の全ての国の合意で進められている「パリ協定」のCO2排出量の削減目標を化石燃料の消費の節減目標に替えることです

⓸ 制度開始後7年、その目的が達成されないまま、「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」は、実質的に廃止されようとしています。この「FIT制度」は、即時の廃止が求められるべきです

⓹ 化石燃料枯渇後の自国産の再エネ電力に依存しなければならない社会は、経済成長が抑制される社会ですが、反面、各国が成長のためのエネルギー資源の奪い合いのない平和な世界です。日本が、そして人類が、この平和な社会に生きのびるには、残された化石燃料を分け合って大事に使うことが求められます

⓺ いま、世界の政治が、「温暖化物語」を実行しなければならないとしているのは、化石燃料の消費が無くとも、経済成長が継続できるとの非科学的な無知が政治権力を支配しているためです。政治が主導する「温暖化物語」からの脱却こそが、日本が、そして人類が、化石燃料枯渇後の世界に生きのびる唯一の道です

 

(解説本文);

⓵ 温暖化の脅威を防ぐために、不必要なお金を国民に使わせるのが、「温暖化物語」です。温室効果ガス(CO2)排出削減に国民のお金を使っても、温暖化の脅威を防げるとする科学的な保証はありません

いま、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張する温暖化の脅威が、人類が経済成長のために、その消費を増大させてきた化石燃料の消費に起因する温室効果ガス(その主体は二酸化炭素で、以下CO2と略記)の排出を削減することで防止できるとして、世界の政治を動かそうとしています。しかし、このCO2の排出削減に多額のお金が使われなければならないことが国民には知らされていません。

具体的には、CO2 の排出削減のためとして、化石燃料消費を増加させる、お金のかかる方法を使用することを政治が決め、それを実行に移しました。それが、いま、世界の政治を動かそうとしている低炭素社会、或いは脱炭素社会の実現で、温暖化の脅威を防ぐために国民にお金を使わせる「温暖化物語」です。

この「温暖化物語」として、先ず用いられたのが、自動車用の液体燃料としての石油代替の「バイオマス燃料」の開発・利用でした。日本での国策としての「バイオマス・ニッポン総合戦略」が、多額の国民のお金を浪費して、消え去りました。文明社会で大量に使われている自動車を走らせる液体燃料の原料となる石油代替のバイオマスは地球上に存在しないからです。不思議なことに、世界中で、このような科学的な予測解析計算が行われないままに進められたバイオ燃料の開発・利用が、幻想に終わることを、科学技術の視点から主張したのは、私どもだけでした(文献 1 、文献 2参照)。

このバイオ燃料とともに、地球温暖化対策として、その実行での経済性を無視して、政治が、何としてでもCO2の排出を削減しなければならないとして成立させたのが、「温暖化対策基本法案」でした。永年の自民党の独占から政権を奪い取った民主党が、鳩山25 % とよばれた、経済的な裏付けのないCO2排出削減政策を国連の会議で発表して、産業界の反撥を招きました。この低炭素あるいは脱炭素社会の実現のためのCO2排出削減の技術開発が、貿易立国日本の経済成長を促す産業に発展すると囃し立てる環境経済学者と称する人々さえ現れました。いまでも続いている、この「低炭素社会へ」の流れに対して、私どもは、この「低炭素社会へ」のために国民のお金を使うことの誤りを指摘するとともに、その対案としての「脱化石燃料社会」の実現のための「化石燃料消費の節減」の具体策を提言しました(文献3 参照)。

「地球環境保全=温暖化対策のため低炭素社会」への世界中の多くのメデイアを含む大合唱のなかで、たまたま起こったのが、3.11福島の原発事故です。化石燃料の枯渇後の将来、半永久的に使えると、原子力村と電力会社がタッグを組んで、大々的に宣伝してきた、原爆のエネルギーの平和利用としての原子力発電が、一時的に失われたのです。地球温暖化対策のための脱炭素社会のエネルギーとしても期待されるようになっていた原発電力の将来に、安全性についての事故リスクの問題ととともに、使用済み核燃料廃棄物の処理・処分の面からも、その利用の拡大には、日本だけでなく世界でも大きな疑問が投げかけられるようになりました(文献4 参照)。

他に、この「温暖化物語」の実行例として、IPCCが推奨しているCO2排出削減の方法としては、CCS(化石燃料の燃焼排ガス中からCO2を抽出、分離、埋め立てる方法)とCCUS(化石燃料排ガス中から分離されたCO2を食料や燃料などの有機化合物合成用に利用する方法)とよばれる方法があります。しかし、これは、私ども科学技術者の常識を外れたとしか言いようのない方法です。

さらには、やがて、確実にやってくる脱炭素社会の本命とされているのが、地球温暖化が問題になってから、その開発が進められてきた風力や太陽光などの再生可能エネルギー(再エネ)電力の利用です。しかし、この再エネ電力のいますぐの利用・拡大にはお金がかかります。このお金を、広く国民から集めようとして設けられたのが「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」です。このFIT 制度の導入時(2012年7月)から7年後の今年、この{FIT制度}の適用で導入された再エネ電力の主体を占めていた大規模太陽光発電(メガソーラー)の「FIT制度」からの適用除外が発表されました。これは、温暖化防止のCO2排出の削減を目的として導入された「FIT制度」の事実上の廃止です。もともと、温暖化防止のため再エネ電力のいますぐの利用では、その発電コストが現用の火力発電のコストに較べて大幅に高いことから、このようなことになることは、はじめから判っていたことです。

すなわち、地球温暖化対策として、CO2の排出削減に国民のお金を使う「温暖化物語」は、やがて終焉します。いや、終焉させなければならないのです。

 

⓶ お金をかけなくともCO2の排出を削減できる方法があります。それには、CO2の排出源である化石燃料消費を節減すればよいのです。この方法を世界の全ての国が協力して実行すればよいのです

いま、IPCCが訴える地球温暖化の脅威は、地球上の人類が経済成長のために消費している化石燃料の燃焼排ガス中のCO2に起因しているとされています。IPCCは、自分たちがつくったこの温暖化のCO2原因説を科学の原理だとして、地球大気中へのCO2の累積排出量と、地球大気温度の上昇の関係を、シミュレーションモデル計算の結果として求めています。2013~2014年に発表されたIPCCの第5次評価報告書によると、今世紀中のCO2の排出による地球気温の最大上昇幅は4.8 ℃ に達するとされています。しかし、この値は、IPCCの気候変動のシミュレーションモデルで、今世紀末までの最大のCO2排出量のシナリオが成立すると仮定した場合の気温上昇の値です。

これに対し、へそ曲がりな私どもは、地球上に、このようなCO2排出量を与える化石燃料資源量が存在するだろうかとの素朴な疑問を抱きました。地球上の化石燃料資源量を表す指標には、現状の科学技術力で、経済的に採掘可能な資源の「確認可採埋蔵量」の概念があります。日本エネルギー経済研究所編;エネルギー・経済統計要覧(以下。「エネ研データ(文献5)」と略記)」に記載の信頼性が高いとされているBP(British Petroleum)社の2011年末の化石燃料の確認可採埋蔵量の値から、これを全量使い尽くした時の累積CO2排出量の値は、3.23兆トンと計算されました。

一方で、IPCCの第5次評価報告書に与えられている前世紀末から今世紀の初めの地球気温の異常昇温時の観測データから、累積CO2排出量(Ct 兆㌧)の推定計算値と気温上昇幅( t ℃)の観測値の相関関係を表す式として、私どもは、次式を導いています。

t (℃)= 0.48 (℃/兆㌧)× Ct (兆㌧)                ( 1 )

この( 1 )式は、実際の観測データに基づいて導かれたものですから、IPCCがシミュレーションモデルをもとに、多額のお金をかけて求めた、Ctとt の相関関係よりは、信頼度が高いと私どもは考えました。

この ( 1 ) 式から、上記の化石燃料の確認可採埋蔵量を使い尽くしたときの累積CO2排出量Ct = 3.23 兆㌧に対する地球大気温度の上昇幅の予測値を計算してみると、t =1.55 ℃と与えられ、人類の歴史から、何とか温暖化に耐えられる値とされる2 ℃ 以下でした。すなわち、IPCCが主張する温暖化のCO2原因説が正しかったとしても、化石燃料資源量の制約から、IPCCが訴えるような温暖化の脅威は起こらないと考えることができるのです。

もちろん、上記のCO2の累積排出量を与える化石燃料の確認可採埋蔵量の値は、今後の科学技術の進歩で増加する可能性があります。そこで。私どもは、2012年の化石燃料消費量を、今世紀いっぱい継続した時に排出される累積CO2排出量の値を計算してみた場合の累積CO2排出量はCt = 2.90兆㌧となりました。この値を ( 1 ) 式に代入して得られる気温上昇幅は、 t = 1.39 ℃ となります。

したがって、世界が協力して、今世紀いっぱいの化石燃料の平均年間消費量を2012年の値に保つことができたとすれば、地球温暖化の脅威は起こらないことになります。

 

⓷ 地球温暖化の恐怖を防ぐ唯一の方策は、世界の全ての国の協力による化石燃料消費の節減対策を実行することで、具体的には、今世紀中の全ての国の一人当たりの化石燃料消費量を等しくすることです。この方策を実行可能とする具体策は、現在、トランプの米大統領以外の全ての国の合意で進められている「パリ協定」のCO2排出量の削減目標を化石燃料の消費の節減目標に替えることです

 上記(⓶)したように、IPCCが主張する温暖化のCO2原因説が正しかったとしても、その温暖化の脅威を防ぐためには、CO2の排出源である世界の化石燃料の消費量を節減して、2012年の値に抑制すればよいのです。その具体的な方策として、私どもは、今世紀中の全ての国の一人当たりの化石燃料消費量を等しくすることを提案しています。この方策は、いま、米トランプ大統領以外の全ての国の合意の下で進められている、「パリ協定」での世界中の全ての国の2050年CO2 排出削減目標の達成を、各国の一人当たりの化石燃料消費の節減目標を、2012年の世界平均の一人当たりの化石燃料消費量に替えることで、実行可能となります。ただし、各国の将来の人口の増減に応じた補正を行います。この私どもの提案を示す図1に見られるように、将来的な人口減少が予想される国では、2050年の一人当たりの化石燃料消費量は大きくて済みますが、逆に、人口増加が継続する国では、一人当たりの化石燃料消費量を小さくしなければなりません。さらに、2100年の全ての国の化石燃料消費の値はゼロになるとします。すなわち、今世紀末の世界では、各国の経済を支えるエネルギーは、自国産の再生エネルギー(自然エネルギー)に依存するとします。

注; 1) 2050年の世界および各国の一人当たりの化石燃料消費量の目標値は、2010年までの世界および各国の人口の変動データ(エネ研データ(文献5 )に記載)に基づいた、対2010年の人口増減比率の推定値による補正を行った値です(本文参照)。 2) 各国の一人当たりの化石燃料消費量の2100年の値が、ゼロになるようにしてあります。

図1 世界および各国の一人当たりの化石燃料消費量の年次変化と、私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減対策」の今後(2050年)の目標値

 

この図1に示すように、文明社会の経済成長を支えてきたエネルギー源の化石燃料の枯渇に備えて、世界の化石燃料消費の節減を実行するために私どもが提案する方策では、先進諸国の多くでは、今後、大幅な化石燃料消費の節減が要請される一方で、すでに、一人当たりの化石燃料消費量が、2050年の目標値を超えている中国を除く途上国では、今後の経済成長のための化石燃料消費の増加の継続が許されることになります。

いま、トランプ米大統領以外の各国政府が、基本的に合意して進められている「パリ協定」を成功に導くためには、この私どもが提案する、「世界の化石燃料消費の節減」の方策を実行する以外にありません。これが、国内では、アベノミクスのさらなる成長の断念であるとともに、世界では、経済成長の抑制のための省エネルギー社会に人類が生き伸びる唯一の途と言わざるを得ません。

 

⓸ 制度開始後7年、その目的が達成されないまま、「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」は、実質的に廃止されようとしています。この「FIT制度」は、即時の廃止が求められるべきです

温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減のために、その利用・拡大を促す目的で導入された「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」が、いま、大きな転換点を迎えようとしています。この「FIT制度」では、温暖化を防止するためのCO2排出削減を目的として、電力会社に購入を義務付けられた再生可能(再エネ)電力の買取金額は、市販電力料金の値上げの形で、広く国民から徴収されることになっています。しかし、このCO2排出削減のための再エネ電力の利用・拡大を図る「FIT制度」の適用が開始された2012年7月から7年後のいま、再エネ電力の発電量が、国内総発電量の10 %程度で、FIT制度での買取金額、すなわち、電力料金の値上金額が年間3.5兆円程度に達します。すなわち、現在の、総発電量の全てを、「FIT制度」の適用のもとで、再エネ電力で賄おうとすると、約70年かかると計算されますから、IPCCが訴える2050年のCO2排出目標を達成できないだけでなく、予想される電力料金の大幅値上げで日本経済が破綻してしまいます。

これが、今回、この「FIT制度」の導入を決めた資源エネルギー庁が、再エネ電力のなかで最も買取価格の高い大規模太陽光発電(メガソーラー)を「FIT制度」適用から除外することを決めた理由と考えられます。しかし、これでは、現在、日本で使われている再エネ電力(発電量)のなかの7割程度を占めるメガソーラーが「FIT制度」の適用から除外されることになり、この「FIT制度」導入の目的とされたCO2排出削減のための脱炭素社会の実現の目標達成が実質的に断念されたことになります。

もっと判らないことがあります。それは、環境省の調査報告書で、日本での再エネ電力導入可能(ポテンシャル)量が、現在の国内総発電量の4.7倍もあると評価されている(私どもの著書(文献4 )参照)風力発電が、このメガソーラーとともに「FIT制度」除外の対象とされたことです。

もともと資源エネルギー庁は、この再エネ電力の利用・拡大だけでは、CO2の排出削減ゼロを実現できないと考えていたと推測されます。それは、化石燃料枯渇後のエネルギー源として、原子力エネルギー(原発電力)の開発・利用が進められてきたからです。それが、3.11福島の原発事故後、国民の多数の反対で原発電力への依存の縮小が求められるようになりました。ところが、小泉純一郎元首相らによる原発ゼロの運動では、原発ゼロの実現のためのいますぐの再エネ電力の利用が必要だとされています。しかし、3.11福島の事故は、逆説的に、原発電力がなくとも、省エネ努力をすれば、すなわち、政治が求めるアベノミクスのさらなる成長を求めなければ、国民は、電力に不自由しないことを教えてくれました。したって、原発ゼロは、「FIT制度」の適用による再エネ電力の利用・拡大とは無関係に、いますぐ実行できるし、実行すべきです。

いずれは、必ずやってくる化石燃料枯渇後の現代文明社会を支えると期待される再エネ電力の利用・拡大を促す「FIT制度」は、国民に無駄なお金を使わせるだけの間違ったエネルギー政策だったのです。世界に先駆けてこの「FIT制度」を導入したEUでは、その適用による電力料金の値上げへの国民の反対から、すでにその廃止が決まったようです。「温暖化物語」の実行のためとしか言いようのない日本の「FIT制度」は。資源エネルギー庁による見直しではなく、即時、廃止されるべきです。

 

⓹ 化石燃料枯渇後の自国産の再エネ電力に依存しなければならない社会は、経済成長が抑制される社会ですが、反面、各国が成長のためのエネルギー資源の奪い合いのない平和な世界です。日本が、そして人類が、この平和な社会に生きのびるには、地球上に残された化石燃料を分け合って大事に使うことが求められます

現代文明社会に生きる人類にとって怖いのは、温暖化による生態系の破壊の脅威ではなくて、化石燃料資源の枯渇に伴う、その配分の不均衡による貧富の格差に基づく世界平和の侵害です。この化石燃料の枯渇による貧富の格差を最小にするには、世界の全ての国が協力して、地球上に残された化石燃料を分け合って大事に使うことが求められます。

この化石燃料のなかで、最も、早く枯渇するのは、化石燃料種類別の単位発熱量当たりの国際市場価格が最も高価な石油です。したがって、石油危機(1973年から1980年代のはじめ)による原油価格の急騰以後に始められた石油需要量の節減対策としての内燃機自動車から、電気自動車(EV)へのシフトが重要な省エネ(石油消費の節減)対策の課題になっています。

次いで、シェール革命として、その資源量の増加に大きな期待が寄せられた天然ガスですが、その使用でのCO2の排出量が化石燃料のなかで最も少ないとして、温暖化対策が問題になった1999年代以降、その需要量が急増しました。その結果、2017年の「可採年年数」の値も53年となり、かつ、その年次減少率も石油とほぼ同じです。また、この天然ガスの日本国内での利用では、これを液化したLNGとして輸入しなければならないため、その単位発熱量当たりの輸入価格が石油とほぼ同じになります。

より大きな問題を抱えているのが石炭です、石油や天然ガスに較べて、その現状での可採年数が2.5倍程度と大きく、したがって、単位発熱量当たりの輸入CIIF価格が半分以下の石炭は、経済成長のためのエネルギー源として、特に、途上国では、その消費量が増加を継続しています。この石炭が、いま、「温暖化物語」での嫌われ者になっているのです。なかでも、3.11福島の原発事故後に、その稼働を停止されている原発の代替電力の代わりとされている日本の石炭火力発電所の新設計画が槍玉に挙げられています。もちろん、IPCCが主張する温暖化のCO2原因説が正しいとしたら、CO2の排出削減のためにも、石炭の消費の節減は必要でしょう。しかし、現状で、世界のCO2排出量の3.5 % 程度の日本が、多少の石炭消費を節減しても「温暖化物語」を阻止する効果は限られています。すなわち、世界の石炭の化石燃料消費の節減の実行のなかで、途上国での石炭火力発電は、重要な役割を果たさなければなりません。

 

⓺ いま、世界の政治が、「温暖化物語」を実行しなければならないとしているのは、化石燃料の消費が無くとも、経済成長が継続できるとの非科学的な無知が政治権力を支配しているためです。政治が主導する「温暖化物語」からの脱却こそが、日本が、そして人類が、化石燃料枯渇後の世界に生きのびる唯一の道です

化石燃料の枯渇後、その代替としての自然エネルギー(国産の再エネ)に依存する世界は、エネルギー資源の奪い合いの無い、貧富の格差を最小限に止める平和が期待できる世界です。この平和な世界に人類が生きのびるためには、現在の化石燃料消費の配分の違いによる貧富の格差の大きい世界から、この貧富の格差のない理想の世界に、緩やかに移行(ソフトランデイング)することが求められます。それは、世界の全ての国が協力して、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使うとする私どもの「世界の化石燃料消費の節減対策案」を実行することで実現可能となります

この化石燃料枯渇後の格差のない理想の世界への移行が求められるなかで、温暖化対策のために国民のお金を使う「温暖化物語」の実行を政治に訴えているIPCCは、世界の気象学者の集まりです。この人たちが訴える温暖化のCO2原因説の正当性を科学的に証明するためのシミュレーションモデルをスーパーコンピューターを用いて計算・解析するためには、多額の国民のお金が必要とされます。IPCCは、このお金を稼ぐために、どうしても、温暖化を起こさなければならないと考えているのではないでしょうか?

一方で、政治にとっての「温暖化物語」の実行の要請では、それが、世界の気象学者の大部分が言うことだから間違いのない科学の原理だとしています。しかし、私どもが訴えるように、「世界の化石燃料消費の節減」が実行できれば、化石燃料消費の配分の不均衡による格差の拡大を防ぐことができるのです。

いま、日本で、政治が「温暖化物語」の実行を訴えるのは、この実行に伴い、国民のお金を使うこと、すなわち、アベノミクスのさらなる成長で、国民にとっての無駄な消費を煽り、いわゆる国内景気を刺激するための政治の要請からです。現状でのその代償は、成長のエネルギーとしての化石燃料の輸入量を増加させまることになりますから、日本の貿易赤字を増やすととともに、世界一と言われる財政赤字を積み増して、日本経済を破綻の淵に追いやることになるでしょう。

政治が主導する「温暖化物語」からの脱却こそが、日本が、そして人類が、化石燃料枯渇後の世界に生きのびる唯一の道です。

最後に、いま、化石燃料の枯渇が迫るなかで、「温暖化物語」にしがみついて、この国の経済を破綻の淵に導こうとしている、日本のエネルギー政策の諮問に与っておられる、有識者とよばれる科学技術者の責任が厳しく問われなければならないことを付記します。

引用文献>

  1. 久保田 宏、松田 智;幻想のバイオマスエネルギー、科学技術の見地から地球環境保全対策を斬る、日刊工業新聞社、2009年
  2. 久保田 宏、松田 智;幻想のバイオマスエネルギー、科学技術の視点から森林バイオマスの在り方を探る、日刊工業新聞社、2010年
  3. 久保田 宏; 脱化石燃料社会、「低炭素社会へ」からの変換が日本を救い。地球を救う、化学工業日報社、2011年
  4. 久保田 宏; 科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年
  5. 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧、2019年版、省エネセンター、2019年

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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