やがて確実にやって来る化石燃料の枯渇による「成長の限界」を素直に受け入れることが、日本と人類が生き延びる道です: それは、化石燃料の枯渇後、その代替としての自然エネルギーに依存する、経済成長が抑制されるが、逆に、成長のためにエネルギー資源を奪い合うことのない平和で、貧富の格差の無い世界への移行を、全ての国の協力で、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使うことで実行可能とすることです

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

① 現代文明社会の成長を支えてきたエネルギー源の化石燃料資源の枯渇は、ローマクラブが警告する「成長の限界」による人類生存の危機をもたらす前に、この化石燃料の配分の不均衡に伴う貧富の格差の拡大が、世界平和の侵害をもたらしています

② ローマクラブが問題にしている成長のエネルギー源の化石燃料の枯渇後、その代替のエネルギー源として、再生可能エネルギー(再エネ)電力の利用で、成長が継続できるとの期待が、「成長の限界」を幻想だとしているのではないでしょうか? しかし、この再エネ電力の利用では、いままで使われてきた化石燃料エネルギーの利用による経済成長の継続が望めないことを厳しく理解して頂く必要があります

③ 一方で、化石燃料資源の枯渇後、全ての国が、自然エネルギー(自国産の再エネ)電力に依存する世界では、経済成長のために必要なエネルギー資源の奪い合いの無い理想の平和な世界の招来が期待できます。いま、日本が、アベノミクスのさらなる成長のために、他国で生産された自然エネルギーを、自国の経済成長のために輸入することは、「成長の限界」がもたらす経済崩壊を早めるだけです

④ 石油危機をもたらした中東の軍事紛争と、その後の原油の先物取引価格を左右する金融市場の介入によって起った高騰時を除いた原油の国際市場価格は、石油危機以後も続いている石油消費の継続により、石油危機後の原油価格が比較的安定していた時(1990年)の原油の確認可採埋蔵量の推定値から、それ以降の原油の消費量を差し引いた残存可採埋蔵量の1990年の確認可採埋蔵量に対する比率aに反比例して、上昇すると推定されます。したがって、この「原油の残存確認可採埋蔵量比率a」の値が、ほぼ半減したと推定されるようになった今後、「成長の限界」をもたらす原油価格の高騰が起こる日が遠くないことが予想されます

⑤ 化石燃料の枯渇後、その代替としての自然エネルギー(国産の再エネ)に依存する世界は、エネルギー資源の奪い合いの無い、貧富の格差の無い平和が期待できる世界です。この平和な世界に人類が生き延びるためには、現在の化石燃料消費の配分の違いによる貧富の格差の大きい世界から、この貧富の格差のない理想の世界に、緩やかに移行(ソフトランデイング)することが求められます。それは、世界の全ての国が協力して、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使うとする私どもの「化石燃料消費の節減対策案」を実行することで実現可能となります

⑥「成長の限界」をもたらす世界人口の増加の問題は、途上国が豊かになるための人口増加の抑制努力で解決して頂く以外にありません

 

(解説本文);

① 現代文明社会の成長を支えてきたエネルギーの化石燃料資源の枯渇は、ローマクラブが警告する「成長の限界」による人類生存の危機をもたらす前に、この化石燃料の配分の不均衡に伴う貧富の格差の拡大が、世界平和の侵害をもたらしています

 世界が第二次大戦の惨禍から立ち直り、敗戦国日本を含めた科学技術先進諸国が、その技術力と、世界中の全ての国に解放された安価で豊富な中東の石油に依存して始まったのが、戦後の現代文明社会での高度経済成長でした。しかし、やがて、この経済の高度成長を支えてきた化石燃料が枯渇を迎えるとともに、産業革命以降の経済成長の結果としてもたらされた世界人口の急激な増加が、食料の供給を制約して、人類の生存にとっての危機が訪れると訴えたのが、1972年に、国際的な有識者の集まりのローマクラブにより発表された現代文明社会への警告の書、「成長の限界(文獻1 )」でした。

この「警告の書」が発表された翌年の1973年と、さらに、1978年の中東での二度にわたる軍事紛争によって起こった石油危機により、この「成長の限界」の脅威は、中東石油の供給の中断と、原油価格の急騰により、一時、世界経済に大きな衝撃を与えました。しかし、その後、中東石油を主体とする化石燃料エネルギー資源の国際市場価格が安定化するとともに、この化石燃料エネルギーに支えられた世界経済は、「成長の限界」など存在しないかのように成長を継続しました。もちろん、2005~2014年にかけて、経済成長のエネルギー源としての化石燃料資源の枯渇への懸念から、中東原油が先物市場の商品とされて、再びその価格が高騰しましたが、リーマンショックの金融危機の終末とともに、この原油価格に連動して上下する化石燃料の国際市場価格は下落し、その後、一応の安定状態が続いています。

とは言っても、この間、中東原油に匹敵するような大規模油田の発見はありません。また、一頃、シェール革命と大騒ぎされたシェールガス・オイルも、いざ、掘ってみると、その採掘コストが高くついて、経済成長のエネルギー源とならないことが明らかになりました。具体的に言うと、現在の科学技術の力で、経済的に採掘できる化石燃料の「確認可採埋蔵量」の値は殆ど増えませんでしたから、この値を、この値が査定された年の生産量の値で割った化石燃料の「可採年数」の値が、年次減少するようになりました。

日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文獻2 )と略記)に記載のBP(British Petroleum)社の2016年末の化石燃料の「可採年数」の値では、石油が56.6 年、天然ガスで52.5年ですから、2015年末の114年から、2016年の153年と急増した石炭を除いて、経済的に採掘可能な石油と天然ガスが今世紀中に枯渇することは確実と言ってよいでしょう。これが、この原油価格に連動する化石燃料資源の国際市場価格が、いまも上昇を続けている理由です。結果として、この成長のエネルギー源としての化石燃料を使えない人や国が出てきて、それに伴う貧富の格差の拡大が国際的に大きな社会問題にまで発展しています。すなわち、化石燃料の枯渇が、人類の生存の危機をもたらす前に、貧富の格差による世界平和の侵害をもたらしたのです。

 

② ローマクラブが問題にしている成長のエネルギー源の化石燃料の枯渇後、その代替のエネルギー源として、再生可能エネルギー(再エネ)電力の利用で、成長が継続できるとの期待が、「成長の限界」を幻想だとしているのではないでしょうか?しかし、この再エネ電力の利用では、いままでの化石燃料エネルギーの利用による経済成長の継続が望めないことを厳しく理解して頂く必要があります

 ローマクラブの報告書が出た1972年頃には、問題にされなかった地球の温暖化が化石燃料のエネルギー利用により大気中に排出される二酸化炭素(CO2)が原因だとされ、いま起こっている地球の温暖化を防ぐために、その使用によりCO2を排出しない、再生可能エネルギー(再エネ)を、いますぐにも利用しなければならないとするのがIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)です。このIPCCの主張が世界各国の政治に取り入れられるようになったのは、1990年代に入ってからですが、化石燃料の枯渇が近づいてきても、その代替として再エネ電力を用いれば、経済成長が継続できるとの錯覚から、いま、ローマクラブが訴える「成長の限界」が無視される状態が続いてきたのではないでしょうか?

現在、再エネ電力の生産設備の製造には、主として、化石燃料エネルギーが使われています。しかし、この化石燃料が枯渇した時には、その代わりに、再エネ電力を用いなければなりませんので、その分、生産される再エネ電力の利用効率が低下します。すなわち、化石燃料の枯渇後、その代替として再エネ電力を用いなければならない社会(世界)では、現在の化石燃料エネルギー主体に依存する世界に較べて経済成長が抑制されることは避けられないのです。とは言っても、化石燃料が枯渇すれば、その代替として再エネ電力を用いる以外にありません。したがって、現在、開発利用されている再エネ電力の種類の中から、最も発電コストの低いもの、すなわち、エネルギー利用効率の大きい再エネ電力の種類を選んで、それが、現用の発電設備の中で最も安価な石炭火力発電のコストより安価になった時に、初めて、その導入を図ればよいのです。ただし、その導入に際しては、現在、いますぐの導入を図るために、市販電力料金の値上げで、国民に経済的な負担をかけている、「再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度」の適用無での導入が行われるべきです。そこで選択されるのは、現在、日本で、多用されている太陽光発電、特に、家庭用以外のメガソーラではなく、海外で最も広く用いられている風力発電が主体となるべきです。

 

③ 一方で、化石燃料資源の枯渇後、全ての国が、自然エネルギー(自国産の再エネ)電力に依存する世界では、経済成長のために必要なエネルギー資源の奪い合いの無い理想の平和な世界の招来が期待できます。いま、日本が、アベノミクスのさらなる成長のために、他国で生産された自然エネルギーを、自国の経済成長のために輸入することは、「成長の限界」がもたらす経済崩壊を早めるだけです

上記(②)したように、化石燃料の代替として、自然エネルギー(自国産の再エネ)電力を用いなければならなくなれば、現在の化石燃料主体のエネルギー源に依存する社会に較べて、経済成長が抑制されることになります。一方で、化石燃料の枯渇後、全ての国が、自国の経済を支えるエネルギーとして、化石燃料の代わりに、自国産の再エネ電力に頼らなければなりませんから、いままでのように、経済成長のためのエネルギー資源としての化石燃料を奪い合うような戦争が起こることはありません。

もちろん、経済力の大きい先進国が、再エネ電力の生産余力の大きい他国から、そこで生産された再エネ電力を輸入することが考えられますが、それは、世界平和が維持されるなかでの自由貿易の形での化石燃料資源の輸入におけると同様、この再エネ電力の輸入が、その国に貿易収支の黒字をもたらすことが前提とならなければなりません。ところが、いま、日本では、化石燃料の枯渇後の世界に備えて、化石燃料の代替として、サンベルト地帯とよばれる中東地域で、太陽熱を使って発電(太陽熱発電)し、その電力で水素を製造し、この水素を化学的に有機化合物にくっつけて、石油のように日本まで運び、この有機化合物から剥がした水素を使って、燃料電池を用いて電力に再変換して利用するとの、信じられないような手の込んだことを国策として、税金を使って進めようとしています。

しかし、日本でも、化石燃料枯渇後、その代替の再エネ電力は、十分、国産できるのです。それは、いま日本で優先的に利用されようとしている太陽光発電ではなくて、先(②)にも、一寸、触れたように風力発電です。エネルギー政策の立案を担っている資源エネルギー庁の担当者には無視されている環境省の「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、2011年3月」のデータをもとに私どもが試算した結果では、日本における再エネ電力種類別の導入可能発電量は、2010年の発電総量に対し、太陽光発電では、家庭用と非家庭用を合わせても僅か12.9 % なのに対し、風力発電では陸上・洋上を合わせて471% (4.7倍)もあるのです。日本では、この風力が、その発電の適地が、需要地を遠く離れているために、既設の送電線が無いので、利用できないとされています。ただし、化石燃料が枯渇するのは大分先のことだと考えれば、これからゆっくり送電設備を整備しても、十分間に合うのです。すなわち、国内の風力発電が利用できれば、再エネ電力を水素にして、はるばる中東の地から持ってくる必要は、何処を探しても見つからないのです。なお、この海外でつくった水素の利用では、オーストラリアの褐炭をエネルギー源として利用するために、これを水素化して輸入することも計画されています。この褐炭の水素化利用では、地球温暖化を促進するCO2が増えるのですが、それを防止するためのCCS技術(化石燃料の燃焼ガス中のCO2を分離、回収し、地中に埋め立てる技術)の開発も同時に行われています。このエネルギー資源としての褐炭は、そのまま輸送する場合、自然発火するので、これを水素化する必要があるとされているのですが、上記したように、再エネ電力として国産の風力発電が利用できれば、その必要はないのです。ところで、この褐炭は、現在、エネルギー源としてしての利用の対象とされていませんが、化石燃料としての石油の枯渇後、この石油の利用先であるプラスチック等の化学工業製品の製造のための最も安価な炭素源としての利用が考えられるのです。ただし、その利用は、石油が枯渇する大分先の話です。

 いま、何故、この水素エネルギーの利用のような、常識では考えられないエネルギー政策が、国策として、国民のお金を使って行われているのでしょうか?それは、この国のエネルギー政策の諮問に預かっている学識経験者とされる学者先生方が、広い視野に立って正しいエネル政策を指導する力が無いからです。それだけではありません。この無用な国策研究に参画することで自分たちの研究費を稼いでいるようです。

 

④ 石油危機をもたらした中東の軍事紛争と、その後の原油の先物取引価格を左右する金融市場の介入によって起った高騰時を除いた原油の国際市場価格は、石油危機以後も続いている石油消費の継続により、石油危機後の原油価格が比較的安定していた時(1990年)の原油の確認可採埋蔵量の推定値から、それ以降の原油の消費量を差し引いた残存可採埋蔵量の1990年の確認可採埋蔵量に対する比率aに反比例して、上昇すると推定されます。したがって、この「原油の残存確認可採埋蔵量比率a」の値が、ほぼ半減したと推定されるようになった今後、「成長の限界」をもたらす原油価格の高騰が起こる日が遠くないことが予想されます

ローマクラブの訴える「成長の限界」による経済崩壊の原因となるのは、成長のエネルギー源となる化石燃料、なかで最も重要な役割を果たしている原油の国際市場価格の高騰です。この原油の国際市場価格として、わが国の原油の輸入CIF価格の年次変化を図1に示しました。この図1に見られるように、原油価格には大きな乱高下があるものの、1973年に始まり1986年にほぼ終結を見たとしてよい中東の軍事紛争に伴う石油危機による高騰と、2005年から2015年頃まで続いた原油が金融市場の商品化された異常高騰時を除けば、原油の国際市場価格は、比較的緩やかな年次上昇曲線を示しているとみてよいでしょう。

 図 原油の輸入CIF価格の年次変化

(エネ研データ(文獻2 )に記載のエネルギー価格データをもとに作成)

 

したがって、今後、原油の安定供給を妨げるような、中東地域における軍事的な紛争や、原油価格の変動を利用して投機マネーが暗躍する金融市場の介入などがなければ、原油およびこの原油の価格に連動する化石燃料の国際価格は、比較的ゆっくりと上昇し、ローマクラブの訴えるような「成長の限界」による世界経済の崩壊をもたらすような化石燃料の国際市場価格の大幅高騰は、当分、起こらないと考えられます。ではこのような異常変動をもたらさない原油の国際市場価格は今後どう変わるかについて、私どもは、図1に見られる原油の国際市場価格が比較的安定していた1990年の原油の確認可採埋蔵量の推定値を基準として、この値からその後の石油の消費量を差し引いた残存可採埋蔵量の推定値の1990年度の可採埋蔵量の値に対する比率を「残存埋蔵量比率a 」として、異常高騰を含まない原油の国際市場価格は、1990年度の値の1/a倍になると仮定して、これを図示したのが図2 です。この図2 に見られるように、1990年の確認可採埋蔵量の値を基準にした「残存可採埋蔵量比率a」の値が半分(0.5)以下になった今後の「原油の輸入CIF価格の対1990年度比率」の値1/aの値の急速な上昇が予想されます。すなわち、原油資源量の枯渇に伴う「成長の限界」が近づいたことを覚悟しなければなりません。

注; 「原油の残存可採埋蔵量比率a」={(1990年の確認可採埋蔵量の推定値) – (1990年からの消費量)}/(1990年の確認可採埋蔵量の推定値)

図 2 原油の国際原油価格が「残存可採埋蔵量比率a 」の逆数に比例すると仮定したプロット(エネ研データ(文獻2 )に記載の国内原油輸入CIF価格と、IEAデータの石油消費量データをもとに計算して作成、ただし、国内の年度と国際の年を同じとしました)

 

⑤ 化石燃料の枯渇後、その代替としての自然エネルギー(国産の再エネ)に依存する世界は、エネルギー資源の奪い合いの無い、貧富の格差の無い平和が期待できる世界です。この平和な世界に人類が生き延びるためには、現在の化石燃料消費の配分の違いによる貧富の格差の大きい世界から、この貧富の格差のない理想の世界に、緩やかに移行(ソフトランデイング)することが求められます。それは、世界の全ての国が協力して、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使うとする私どもの「化石燃料消費の節減対策案」を実行することで実現可能となります

ところで、この化石燃料の国際市場価格の高騰による「成長の限界」は、経済成長のエネルギー源となっている一人当たりの化石燃料消費量の違いによる貧富の格差を、さらに拡大させることになり、世界の平和を侵害させることになります。これを防ぐには、化石燃料の枯渇が迫るなかで、世界の全ての国が協力して、残された化石燃料の消費量を節減する以外にありません。具体的な方策として、私どもは、2050年を目標に、各国の一人当たりの化石燃料消費量を、現在(2012年)の値、1.54石油換算トンと同じにすることを提案しています。ただし、2050年の各国の一人当たりの化石燃料消費の目標値ついては、2012年からの人口の増減に応じた補正を行います。すなわち、人口が増えた国には、化石燃料消費量を、その分節減して貰います。この化石燃料消費の節減案を、さらに、2050年以降も続けることができれば、化石燃料の確認可採埋蔵量を、ほぼ、今世紀いっぱい使い続けることができます。

この私どもの提言案の実行を図示したのが図3です。この図3 に見られるように、この提言案では、いままで、化石燃料を大量に消費してきた先進諸国にとっては、この化石燃料消費の節減による経済成長の抑制が強いられることになりますが、いままで、大量の化石燃料を消費してきた先進諸国には、この節減義務は避けられないと考えるべきです。一方で、経済的な理由から成長のために化石燃料を使えないでいる途上国には、まだ、成長のためのエネルギー源の化石燃料消費の増加の余地が残っています。すなわち、この私どもの化石燃料消費の節減対策案は、残された化石燃料を、世界の全ての国が協力して、公平に分け合って使う方法と言えます。したがって、これが、化石燃料の枯渇後の貧富の格差の無い平和な世界にソフトランデイングできる唯一の方法だと言えます。

注;2050年の十字印は、私どもの「化石燃料消費の節減対策」で目標とする2050年の各国の一人当たりの化石燃料消費の値で、2012年の世界平均の一人当たりの化石燃料消費の値1.54石油換算トン/年です。ただし、各国の目標値には、人口の増減による補正を加えます。

3 各国の一人当たりの化石燃料消費量の年次変化と、私どもが提案する世界の「化石燃料消費の節減対策案」(エネ研データ(文獻2 )に記載のIEAによる世界の化石燃料消費のデータをもとに作成)

 

この私どもの「化石燃料消費の節減対策案」に対して、これは、非現実的な理想論と批判される方が居られるかもしれません。しかし、そんなことはありません。これと同じことが、いま、地球温暖化対策のための温室効果ガス(CO2)の排出削減対策の「パリ協定」として、トランプ米大統領を除く世界の全ての国の協力の下で進められているのです。ただし、いま、この「パリ協定」での各国のCO2排出削減の各国の目標値は、各国の自主的な申告にまかされていますから、これでは、この「パリ協定」の実行を政治に訴えているIPCCのCO2排出の削減目標が達成できるとの保証は得られません。

これに対して、私どもの「化石燃料消費の節減対策案」が実行されれば、2012年の世界のCO2排出量(32,081百万トン/年)が、今世紀末までの88 ( = 100 – 12) 年間継続されることになり、今世紀末までのCO2の累積排出量は、2.82兆CO2トンとなります。IPCCの第5 次評価報告書をもとに、私どもが、推定したCO2排出総量Ct(兆トン)と地球気温上昇幅 t(℃)の間の関係式、

t(℃)= 0.48 Ct (兆トン)                  ( 1 )

から推定される地球気温上昇幅はt = 1.35 (=0.48 ×2.82 ) ℃ と概算され、IPCCが、世界各国の政治に求めている地球気温の上昇幅1.5 ℃を下回ります。

すなわち、「パリ協定」が求めるCO2の排出削減目標を、化石燃料消費の節減に代えることで、図3 に示す各国の節減目標の達成が図られ、人類が化石燃料の枯渇後に、自国産の再エネ電力に依存する貧富の格差の無い理想の平和な世界に移行する道が拓かれることになります。

以上、詳細については、私どもの近刊(文獻3 )をご参照下さい。

 

⑥「成長の限界」をもたらす世界人口の増加の問題は、途上国が豊かになるための人口増加の抑制努力で解決して頂く以外にありません

ローマクラブが訴える「成長の限界」による世界経済の破綻のなかには、世界人口の増加による食料危機の問題も入っています。産業革命以来の世界人口の急増がこのまま継続すれば、いずれは、その人口増加を支える食料の供給ができなくなるかもしれません。しかし、川島博之の著書(文獻4 )が指摘するように、当分は、現在の人口増加に対処できる食料の増産は可能とされています。いま、一部の途上国において飢餓を伴う食料供給の危機が起こっているのは、その国の政情の不安定による貧困のための国内農業生産の停滞が主な原因です。したがって、世界の平和が維持され、先進国と途上国の間の貧富の格差が無くなれば、世界の食料危機の問題は解決できるはずです。

世界人口の年次変化を図4 に示しました。この図 4 に見られるように、世界人口は、ローマクラブによる「成長の限界」の警告があった1972年以降もほぼ直線的に増加しており、1971年から2015年までの44年間に、2倍近く(1.95倍)増加しています。しかし、この人口の増加の大部分は、特に増加比率の大きいアフリカやインドなどの開発途上国(非OECD)です。具体的には、2015年の非OECDの人口は、1971年の人口の2.14倍に増加し、2015年では、世界人口の82.5 %を占めるに至っています。これに対して、先進諸国(OECD35)の2015年の人口は、1971年の1.42倍で、世界人口に対する比率は、1971年の24.0%から2015年では17.5 %まで減少しています。

世界人口の年次変化(エネ研データ(文獻2 )に記載のWorld Bankのデータをもとに作成)

 

一方で、経済的な豊かさを表わす指標として、一人当たりの実質GDP(国内総生産)の値があります。 OECD 35と非OECDの一人当たりの実質GDPの値の年次変化を図4 に示しました。

4 一人当たりの実質GDPの年次変化(エネ研データ(文獻2 )に記載のWorld Bankデータをもとに作成)

 

この図4 に見られるように、一人当たりのGDPの値のOECO35対 非OECD比率の値は、1971年の12.4倍が2015年の8.03倍と、多少縮小していますが、非OECDの人口増加が今度も継続すれば、絶対値で表わされる非OECDとOECD 35の貧富の格差は、今後、さらに拡大すると見てよいでしょう。今後、経済成長のエネルギー源である化石燃料の枯渇が迫るなかで、世界の貧富の格差を縮小するには、OECD 35の諸国は、経済の成長を抑制するために化石燃料消費の節減努力を継続するとともに、非OECD諸国では、何とかして人口の増加を抑制する努力をして貰う以外にありません。       これが、「成長の限界」がもたらす人類の危機からの脱出の道です。

 

<引用文献>

1.D. H. メドウス、D.L.メドウス他 著、大喜多佐武郎 訳;「成長の限界」ローマクラブ「人類の危機」レポート、ダイヤモンド社、1972年
2.日本エネルギー・経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2018年版、省エネセンター、2018年
3.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月
4.川島博之;世界の食料生産とバイオマスエネルギー、2050年の展望、東京大学出版会、2008年

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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