原発と関電マネー; 関電の原発マネーの還流事件を起こさせたのは、政府の誤った原子力エネルギー政策です

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 関電幹部20名に原発マネーが、高浜町元助役の手を通して還流されていました。いま、これが、不正行為だとして、政治を揺るがす大きな社会・政治問題に発展しています

⓶ いま、政府と関電は、今回の原発の関電マネー還流事件を、関電内部での企業モラルの欠如による関電幹部の責任問題として片付けようとしているようですが、関電側トップに、この事件を起こさせたのは、政府の誤った原発電力政策です

⓷ 今回の原発と関電マネー事件の原因になった、国の誤った原発エネルギー政策を正す道は、原発再稼動の停止を含む無条件のいますぐの原発ゼロ社会の実現以外にありません

 

(解説本文);

⓵ 関電幹部20名に原発マネーが、高浜町元助役の手を通して還流されていました。いま、これが、不正行為だとして、政治を揺るがす大きな社会・政治問題に発展しています

関西電力の役員ら20名が、3.11福島原発事故後の運転停止から再稼動が許された高浜原発が立地する高浜町の元助役森山栄治氏(故人)から、常識はずれ(とされる)多額の金品を受け取っていたことが、関電の社内調査の結果として報告されました。この金品の供与が、原発事業関連の役員に集中しており、原発マネーの還流ではないかと大きな社会・政治問題になっています。

もともと、原発の立地に際しては、その稼働に地域住民の同意を得る必要があるために、その見返りとして、原発立地給付金が、国から、地域住民や企業に交付されています。この給付金の原資は、原発電力を利用することによる電力料金の値上げで賄われますから、この値上がり分の金額が迷惑料として、原発立地およびその近隣の市町村の住民や企業に、電力会社から現金で支給されています。その結果、地球温暖化対策として、再生可能(再エネ)電力の利用・拡大のために設けられた「再エネ電力固定価格買取(FIT)制度」が先行導入されたEU諸国での電力料金が急騰して、日本が追い抜かれるまで、日本の電力料金は世界一でした。しかし、当時の日本には、この高い電力料金に耐え得る経済力がありました。

この原発立地給付金の交付額は、対象の原発の発電量に比例して決められますから、原発の立地を認めた市町村は、電力会社の原発事業の一層の進展を願うことになります。これが、今回、関電が求めた原発立地の場を提供することに貢献した高浜町の助役だった森山氏が、退職後も高浜町の有力者として君臨し、原発所有者の関電幹部をも恐れさせる存在になっていた理由です。

この森山氏が関わる関電の原発マネーの還流事件について報じている朝日新聞(2019/10/2 ~10/4)のコラム “ 関電と原発マネー(上、中、下)” には、この原発の誘致についての森山氏の関与を詳細に報じています。すなわち、かつては、労働人口が流出する貧しい寒村だった高浜地域が、原発の誘致に伴う原発立地給付金の交付と原発関連企業の誘致で、豊かな町に変貌していったのです。そのなかで、収入役や助役として、原発の誘致に辣腕を振るった森山氏が、町内でも天皇とよばれるほどの権力者になって行き、やがて、原発所有者の関電幹部にも恐れられる存在になっていったことが、このコラムで紹介されています。

今回、問題になっている関電幹部への森山氏の多額の金品贈与は、3.11福島の事故後に停止した原発の再稼動に関連した安全対策設備建設の受注について、助役を退職後、地元の原発関連企業の顧問を務めていた森山氏の要請の見返りとみなされるものでした。それを受け取れないとして返却を要求する関電幹部を叱りつけて、しゃにむに受け取らせたとされています。それは、この事件が公になってからの関電側トップのメデイアに対する説明にあったように、この森山天皇のご機嫌を損ねたのでは、高浜原発の再稼動に地域住民の同意が得られなくなるとの懸念から、この原発マネーを返却できずに、この問題を隠蔽せざるを得なかったのだと考えられます。

この関電幹部への金品贈与に関わるお金の流れが、最近になって、森山氏に関わる税務調査から問題になったようで、関電側の内部調査が行われ、その結果を公表せざるを得なくなったのが今回の事件の発端とみてよいでしょう。9月29日に行われた関電社長の岩根茂樹氏による内部調査結果の説明では、この問題を関電の内部問題として片付けようとする意図からのいろいろの矛盾点が明らかになりました。これが、いま、今回の原発と関電マネーの問題を、社会的に、さらには政治的な問題として、大きな事件にまで発展させた理由です。

 

⓶ いま、政府と関電は、今回の原発の関電マネー還流事件を、関電内部での企業モラルの欠如による関電幹部の責任問題として片付けようとしているようですが、関電側トップに、この事件を起こさせたのは、政府の誤った原発電力政策です

関西電力の幹部、特に、原子力部門の幹部が、高浜町元助役の森山氏から、金品の贈与を受け取るようになったのは、関電の現会長の八木誠氏が、原子力事業本部長代理になった2006年頃からで、八木氏が、副社長、原子力事業本部長になった2009年までの間だったようです。この時期は、日本エネルギー経済研究所編;エネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献1 )と略記)に記載の電力需給データをもとに私どもが作成した、関電および全国の原子力発電量の年次変化を示した図1に見られるように、関電にとっての原子力事業は停滞期にありました。

図 1 関西電力および全国の原子力発電量の年次変化

(エネ研データ(文献 1 )に記載の電力需給データをもとに作成)

 

と言うことは、高浜町にとっては、原発電力の発電量が、2000年頃から殆ど増加しなくなり、原発立地給付金の増額も見込まれなくなった時期と考えられます。

実は、この関電の原子力事業の停滞は、関電だけの問題ではありませんでした。発電コストが、高価な原発設備の建設コストに依存する原発は、その利用での経済性から、できるだけ高い一定の稼働率(80 % 程度)で運転される必要があるため、出力変動への対応力のある火力発電を主体とする国内総発電量の25 % 程度に抑えられていたのです。エネ研データ(文献 1 )に記載の電力需給データから私どもが求めた2000年度代の原発電力の総発電量に占める比率が50 %程度(全国平均の約25 %の倍程度)だった関電には、もはや、原発電力(発電量)の増加は難しかったのです。このような原発電力利用での技術的課題を知らない森山氏が、関電幹部に、原発事業のさらなる進展を願って、金品の贈与を行ったと考えてよいでしょう。

このような状況のなかで、たまたま起こったのが、3.11福島の原発事故です。稼働中の原発が、定期検査により、その稼働を停止した後、その再稼動の条件として新しく設けられた国の安全基準を満たす安全化対策設備の建設が求められました。これを、原子力事業の再発展による原発マネー取得のチャンスと捉えたのが、森山氏ではないでしょうか?

今回の原発と関電マネーの事件を伝える朝日新聞(10/2~10/4)によると、この原発の再稼動のための安全対策設備等の建設を、森山氏が顧問を務めていた地元の吉田開発が受注しました。過去6年間の関電の吉田開発への発注金額は64億円に達したとされ、その見返りとして、 3.2億円もの金品が、森山氏から関電の原子力部門の幹部に贈与され、その約一割の3.2千万円の未返還分を除いた大部分は、すでに返却したと報じられています。この金品の返却がスムーズに進まなかったのは、上記(⓵)したように、この関電側の金品返却要求に対して、森山氏が無礼者呼ばわりして、拒否したからとされています。すなわち、原発の立地に関連して森山氏に弱みを握られていると考えた関電側が、返却の時期を狙って、一時、保管せざるを得なかったとして、今回の事件についての責任を、今年の1月に亡くなった森山氏の特異な性格のせいにしているようです。

今回の事件が公になった後の関電の内部調査結果を説明した9月27日の岩根茂樹社長に続く10月2日の八木会長と岩根社長の両氏によるメデイアに対する説明でも、関電と吉田開発の受注契約について、契約自体には問題がなく、その金額も適切で、自分達には責任がないとしたうえで、今後、この事件の真相を解明し、再びこのようなことが起こらないようにするのが、自分達の役目だと主張していました。

 

⓷ 今回の原発と関電マネー事件の原因になった、国の誤った原発エネルギー政策を正す道は、原発再稼動の停止を含む無条件のいますぐの原発ゼロ社会の実現以外にありません

今回の関西電力による原発マネー還流の問題は、どうやら、関電トップの会長と社長他が責任をとって辞職することと、事件の真相を、第三者委員会で徹底的に解明し、再びこのような事件が起こらないようにすることで幕が引かれようとしています。しかし、この「原発と関電マネー」の事件では、この事件発生の根底にある3.11福島の事故後、国が進めてきた原発再稼動のエネルギー政策の是非が問題にされなければなりません。と言うのは、関電が所有する高浜原発を再稼動するとの国の要請がなければ、すなわち、小泉純一郎元首相らが主張する、原発ゼロに、国のエネルギー政策が変更されていれば、高浜原発の再稼動のための安全対策工事に関する関電の原発マネー還流事件は起こらなかったのです。

ところが、いま、小泉元首相ら原発ゼロを訴える人々の多くは、原発電力の代替には自然エネルギー電力を使えばよいと訴えています。すなわち、小泉元首相らが所属する自然エネルギー財団などが主張する原発電力代替の再エネ電力(発電量)の7割近くを占めている大規模太陽光発電(メガソーラー)の利用・拡大のためには、その高い発電コストをカバーするために「再エネ電力固定価格買取制度(FIT施度)」の適用が必要とされています。しかし、いま、このFIT制度での買取金額による市販電力料金の値上げ金額の総計が3兆円を超えたとの理由で、国のエネルギー政策を与る資源エネルギー庁は、このメガソーラーに対するFIT制度の適用を廃止することを決めました。と言うことは、このメガソーラーを主体とする再エネ電力の利用・拡大を待っていたのでは、原発ゼロが実現できないことになります。

いま、日本のエネルギー政策にとって、より重要な問題は、原発ゼロが実現できないと、その処理と最終処分の方法が決まっていないために、そのコストも推定できない使用済み核燃料廃棄物の処理・処分が次世代送りされることです。例えば、現在、関電の再稼動原発の使用済み核燃料廃棄物は原発敷地内燃料プール内に一時保管されていますが、このプールの空き容量が高浜原発で6年、同じ関電の大飯原発で8年とされています。したがって、再エネ電力の利用とは無関係に、いますぐ原発の再稼動を止めなければ、この使用済み核燃料廃棄物の持って行き場がなくて、大変なことになるのです。

さらにまた、原発の再稼動で、いま、裁判沙汰になっている安全性の問題について言えば、技術的な絶対の安全は、原発を持たないこと、持ってしまった原発は動かさないこと以外にないのです。これが「科学技術の常識」なのです。

原発の再稼動をめぐる、このような状況のなかで、今回の関電の原発マネーの還流の事件が起こったのです。この事件が、いま、政府が進めている3.11福島事故以降の原発の再稼動に影響を及ぼしかねないとの危機感から、政府関係者は、関電に対し、厳しい対応をとっています。菅義偉官房長官は「言語同断だ」と言い、原子力規制委員会の更田豊志委員長も、「情けないと言うか、憤りを感じた」と発言したと報じられています。

しかし、今回の、関電による原発マネーの還流事件を引き起こしたのは、日本の電力需要のためには、運転停止中の原発の再稼動が必要だとする政府のエネルギー政策なのです。すなわち、いま、日本の電力は、事故リスクのある原発を再稼動しなくとも、不足していないのです。

これを電力会社の側から見れば、確かに、再稼動ができれば電力料金の形での収入が増えるかもしれません。しかし、そのためには多額の安全対策設備強化のための費用が必要とされますから、本当に、プラスの利益が得られるかどうかは不明です。それは、多くの原発が法定使用年数(現状では40年)までの残りの年数が少なくなっているからです。この問題について、政府は使用年数の延長を認める方針をとっています。しかし、上記したように、使用済み核燃料廃棄物保管の空き容量の不足が、この使用可能年数を大きく制約するはずです。

このように考えると、政府と電力会社が、タッグを組んで進めてきた原子力エネルギー政策は、いま、終焉の時を迎えなければなりません。再稼動の廃止に導かれる原子力エネルギー政策からのいますぐの完全撤退こそが、日本が、そして、人類が、化石燃料の枯渇後の世界に生き残る唯一の道なのです。

この原発の再稼動の廃止を含む原発ゼロ実現の具体策の詳細については、私どもの近刊(文献2 )の

第4 章 3.11 後の国民の多数が願う脱原発を実現するために

をご参照下さい。

 

<引用文献>

  1. 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧、省エネルギーセンター、2008 ~2019年
  2. 久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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