科学技術者として、日韓関係について考える

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

 戦時中の徴用工の賠償訴訟問題に始まり、日本政府による韓国のホワイト国からの除外、さらには韓国の対日本のGSOMIAの廃止で、もともと慰安婦問題でぎくしゃくしていた日韓関係が戦後最悪の状態に追い込まれたと言われています。メデイアも、特に、テレビは連日この報道を流していて、この問題で、余り騒ぎ立てないで欲しいと願っている私どもは、当惑しています。

この日韓問題は、韓国の文政権と日本の安倍政権との間の、それぞれの政権の自国内での権力保持のための争いだと言ってよいでしょう。韓国の文政権は、来春の総選挙を控えて、選挙の票を集めるために、日本に強く当たる必要があるとされているようです。一方、日本側の安倍政権も、参議院選の直前に、この問題を取り上げて、内閣支持率を上げることに成功したと言われています。

ところで、戦後の朝鮮半島の人々にとっての最大の悲劇は、第2次大戦の日本の敗戦の結果、日本の植民地支配から独立してできた北朝鮮と韓国の間の、同じ民族間で争われた朝鮮戦争でした。この戦争の休戦協定の結果できた北緯50度線の両側での北朝鮮と韓国のにらみ合いが、いまも続いています。

朝鮮戦争の休戦後、技術系の教育職にあった一民間人として、在日の北朝鮮系(総連系)の学生と、韓国系(民団系)の学生にわけへだて無く接してきた私どもの一人(久保田)には、韓国政府が派遣するKCIAが尾行しているとのうわさが立ちました。実際に、韓国の友人からの手紙が、韓国内で検閲を受けるとの理由で、直接受けとれなくなりました。また、久保田の研究指導を受けるためにやってきた韓国の先生が、久保田の指導を受けたのでは、帰国後、人事面で不利になるとの本国からの指示で、他の先生に指導をお願いせざるを得ませんでした。一方で、大きな希望をもって北朝鮮に戻って行った、いわゆる朝鮮総連系の学生諸君の帰国後の消息は絶たれたままになっています。

今回の日韓政府間のいがみ合いに、産業界の人々は表立って意見は公表されていないようですが、これらの人は、困ったことになったと思っているはずです。この問題の発端になったとされる韓国内での徴用工裁判の問題でも、裁判の原告の人々と、日本側の企業とが、直接、話し合えば、中国におけると同様に、問題が解決できたはずで、日本政府の介入が、この解決を妨げているとの話も聞きます。また、半導体製造原料のフッ化水素等の輸出での韓国のホワイト国扱い(輸出手続き上の優遇措置)の中止でも、日本政府は、韓国だけを不利にするものでないとしていますが、韓国における半導体製品の世界の産業界に占める位置を考えると、結局、日本にも撥ね返って来る問題です。

韓国が提案するGSOMIAの問題も含めて、いま、日本が韓国といがみ合う必要は何処にもありません。それどころか、私どもの目から見ても、あまり信用のおけない金正恩を説得して、北朝鮮の非核化を実現し、朝鮮半島の人々の悲願である南北統一実現のための文在寅韓国大統領のお手伝いをするとともに、北東アジアの安全保障を守り、無駄な防衛費の支出を避けるための日朝間の平和条約の締結を急ぐべきです。これは。かっての小泉元首相の下で官房副長官として、日朝平和条約のためのピョンヤン宣言の約束を北朝鮮側から取り付けた安倍首相にとって、この約束の履行こそが、拉致問題の解決のためにも、何としても果たさなければならない重要な責務ななずです。

ところで、今回の日韓両政府間のいがみ合いの根底には、歴史認識の問題があると言われていますが、韓国にとって、それは、日本の明治政府による韓国併合の問題でしょう。日露戦争に勝利した日本政府にとって、この韓国併合は、東欧の大国ロシアの南下政策を食い止めるために必要な対策でした。しかし、日本政府の支配下に入った朝鮮の人々にとっては、大きな屈辱でした。私(久保田)も、子供の頃、朝鮮半島からの出稼ぎ労働の人々に向かって、、日本の大人たちが、「チヨウセン、チヨウセンとパカにするな」とからかっていたのを覚えています。日本政府は、戦時中の慰安婦や徴用工に対する賠償問題は、1965年の日韓請求権協定で解決済みだと主張しますが、私どもは、そんな簡単な問題ではないと考えます。

もちろん、今回の徴用工の賠償の問題でも、日本政府が言うように、国際法的には韓国の主張は、不当かもしれませんが、日本の外相が韓国大使に向かって無礼者呼ばわりする態度には納得できません。また、貿易問題でのホワイト国扱いは、日韓関係の歴史を考えた優遇措置であって、それを、もとに戻しただけかもしれません。しかし、韓国にとっては、徴用工問題に対する日本政府の対抗措置としか見られない、このような措置を強行する必要があったのでしょうか? さらには、これらの問題を話し合いで解決したいとする韓国側の呼びかけを無視する日本政府の態度は、国際的にも、日本国の品位を落とすことになるのではないでしょうか。いずれにせよ、今回の両国政府間のいがみ合いは、日韓両国民にとって何の利益ももたらしません。

いま、韓国内では、日本製品の非買運動や、観光客の来日の中止などが起こっているようですが、これらは、必ずしも、韓国国民の総意ではないでしょう。幸いにも、日本では、政府や一部のメデイアの対応とは反対に、国民の多数が、日韓両国民の友好を願って、比較的冷静に対応しているように見えます。

いま、世界経済の成長のエネルギーを支えてきた化石燃料が枯渇して、その国際市場価格が高騰し、世界の経済成長の抑制が迫られています。そのなかで、米国のトランプ大統領に代表される、自国さえよければよいとの一国主義が、国際間の貧富の格差を拡大し、世界の平和を脅かしています。世界各国が安全保障のためとして、軍拡競争を始めたら、いや、すでに始まっていますが、真っ先に経済大国の座を降りなければならなくなるのが、化石燃料のほぼ全量を輸入に依存してきた日本です。これは、日本より先に経済的な不況に陥っている韓国でも同じです。この両国政府が、子供の喧嘩みたいなことをしている余裕はありません。力を合わせて、経済成長は抑制されるが、平和な世界を求めて、できる限りの努力をしなければならないと私どもは考えます。

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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