「脱炭素社会の実現」で地球温暖化の脅威を防ぐことを目的とした国策「パリ協定長期成長戦略」は、化石燃料枯渇後の世界に、日本経済と、そして人類の生き残りの道を閉ざします(その1) この「パリ協定長期成長戦略案」として、国民に経済的な負担を強いる地球温暖化対策をビジネス(収益事業)にするとのイノベーション(技術革新)は、科学技術の常識を無視した夢物語です。国民に経済的な負担をかけないで、「脱炭素社会」を実現するには、私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減対策」の実行以外にありません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約):

⓵ いま、トランプ米大統領以外の世界の全ての国の合意の下で進められている「パリ協定」での地球温暖化対策としての「脱炭素社会の実現」のために日本の貢献が求められるとして、「パリ協定長期成長戦略案」なる国策が推進されようとしています。しかし、地球温暖化対策は、地球の、すなわち、世界の問題です。世界の全ての国の協力で実行可能な温暖化対策を、世界に訴え、その実行を求めるのが、温室効果ガス(CO2)排出量の少ない日本の役目でなければなりません

⓶ 「パリ協定」が求める「脱炭素社会の実現」要請の根拠となっているIPCCの「地球温暖化のCO2原因説」には科学的な根拠がありません。したがって、CO2の排出削減を目的とした「脱炭素社会を実現」しても、温暖化が防げるとの保証はありません。この脱炭素化事業がビジネス(収益事業)にならないだけでなく、化石燃料が枯渇が近づき、世界経済の成長が抑制されるなかで、この事業に無駄に国民のお金を使うことは許されません

⓷ 「パリ協定長期成長戦略案」としての地球温暖化防止を目的とする「脱炭素社会の実現」のためとして、その実施での「費用対効果」の評価が行われないままに、国民に経済的な負担が強いられている温暖化対策をビジネス(収益事業)にするとのイノベーション(技術革新)が求められています。しかし、それは、科学技術の常識を無視した夢物語です。お金をかけないで、すなわち、国民に経済的な負担をかけないで、「脱炭素社会」を実現する方法としては、私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減対策」の実行以外にありません

⓸ 「パリ協定長期成長戦略」のなかの「日本の石炭火力のフェーズアウト」は、化石燃料枯渇後の世界での日本経済と、人類の生き残りの道を閉ざします。私どもが提案する「世界の化石燃料の節減対策」が実行されれば、地球温暖化対策としての石炭火力の廃止は不要となります。3.11以後の原発代替の電力としては、当面、安価な石炭火力が用いられるべきです

⓹ 地球温暖化を防止するために必要な化石燃料消費を節減するためにも、国民のお金を使わないと成り立たないCO2排出削減のための「技術革新」や「再エネ電力」のいますぐの利用・拡大、さらには、「国内石炭火力のフェーズアウト」まで実行して「脱炭素社会の実現」を図ろうとする国策「パリ協定長期成長戦略」は、化石燃料枯渇後の世界に、日本経済と、そして人類が生き残る道を閉ざすと言わざるを得ません

 

(解説本文);

⓵ いま、トランプ米大統領以外の世界の全ての国の合意の下で進められている「パリ協定」での地球温暖化対策としての「脱炭素社会の実現」のために日本の貢献が求められるとして、「パリ協定長期成長戦略案」なる国策が推進されようとしています。しかし、地球温暖化対策は、地球の、すなわち、世界の問題です。世界の全ての国の協力で実行可能な温暖化対策を、世界に訴え、その実行を求めるのが、温室効果ガス(CO2)排出量の少ない日本の役目でなければなりません

産業革命以来、対立関係にあるとされてきた「自然環境破壊と経済」が、この自然環境破壊を防ぐこと、すなわち、環境保全対策を講じることによって、産業革命以来の経済発展を継続できるとするのが、本来の「環境と経済の調和」だったはずです。例えば、水質や大気の汚染では、この汚染の防止にお金を使っても、健全な水環境や大気環境を取り戻すことができれば、それによって、産業活動が活発になり、さらなる成長が可能となります。ただし、この経済発展を促す化石燃料エネルギー供給の継続が前提条件になります。

この本来の「環境と経済の調和」のなかの「環境」として「地球環境」が入ってきました。すなわち、何としても、この地球温暖化の問題を解決しなければならないとするのが、いま、世界で大騒ぎされている「地球温暖化問題」ではないでしょうか?

いま世界の問題になっている地球温暖化は、その脅威を訴えるIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張するように、世界経済の発展に伴う温室効果ガス(その主体は二酸化炭素CO2で、以下CO2と略記)の排出量の増加により起るとされています。したがって、このCO2の排出削減に、世界各国の協力を求めることが「パリ協定」として進められています。

しかし、この地球温暖化の防止対策として進められている方法の実行には、お金がかかります。と言うことは、この温暖化対策の実行は、いままでの経済成長の継続が困難になると考えざるを得ないはずです。そこで考え出されたのが、「地球環境の保全」と「経済発展」の両立、すなわち、調和を求める「環境経済学」ではないでしょうか?この地球温暖化対策がビジネス(収益事業)になって経済発展を促すとする環境経済学者と称する人たちの著書、「低炭素経済への道(文献 1 )」では、その帯封には、「選択の余地はない、CO2の大幅削減がもたらす新たな経済成長戦略とは」とあります。

しかし、地球温暖化対策としてお金のかかるCO2の排出削減が世界の経済成長につながりません。にもかかわらず、いま、この「地球環境と経済の調和」なる「環境経済学」の迷論を妄信して、「脱炭素社会の実現」のために、CO2排出削減対策をビジネスとして事業化するためのイノベーション(技術革新)による「環境と経済の好循環」を図ることを目標として計画され、安倍首相の指示により、有識者懇談会での協議結果としてまとめられたのが、この国策「パリ協定長期成長戦略案」です。

もう一つ、指摘されなければならないことがあります。それは、地球温暖化の問題は、地球の問題、すなわち世界の問題だということです。したがって、実際に起こるかどうか判らない地球温暖化の脅威を防止するために世界のCO2排出削減を目的とした「パリ協定」の「脱炭素社会の実現」に、世界のCO2排出量の3.5 % しか排出していない日本だけがお金のかかる対応策を実施してもどうにもなりません。

いま日本が、地球温暖化対策として、この世界の温暖化を防止するために、なすべきことがあるとしたら、それは、世界の全ての国が協力して実行できる、地球上のCO2排出の原因になっている「世界の化石燃料消費の節減」の具体的な方策を提案し、その実行を世界に訴えることでなければなりません。具体的には、いま、地球温暖化対策として世界の全ての国の協力で進められている「パリ協定」のCO2排出削減の目標を、そのCO2の排出原因となる化石燃料消費の節源に換えることです。これが、私どもが訴える「世界の化石燃料消費の節減対策案」です。詳細は私どもの近刊(文献 2 )を参照して頂くことにして、以下に、その概要を記すとともに、若干の補足を行わせて頂きます。

 

⓶ 「パリ協定」が求める「脱炭素社会の実現」要請の根拠となっているIPCCの「地球温暖化のCO2原因説」には科学的な根拠がありません。したがって、CO2の排出削減を目的とした「脱炭素社会を実現」しても、温暖化が防げるとの保証はありません。この脱炭素化事業がビジネス(収益事業)にならないだけでなく、化石燃料が枯渇が近づき、世界経済の成長が抑制されるなかで、この事業に無駄に国民のお金を使うことは許されません

上記(⓵)でも触れたように、「パリ協定」が求める「脱炭素社会の実現」要請の根拠になっているのは、IPCCが主張する「地球温暖化のCO2原因の仮説」です。ここで、「仮説」としたのは、このIPCCの温暖化のCO原因説は、地球上の気候変動現象のシミュレーションモデルをスーパーコンピュータ用いて解いた予測結果だからです。この予測結果が妥当だと証明する観測結果が存在しない限り、これは、IPCCが訴える科学の原理ではなく、「科学の仮説」と言わざるを得ません。これは、化学技術の研究開発において、シミュレーションモデル解析を仕事にしてきた私ども科学技術者にとっての科学の常識です。

一方、この温暖化のCO2原因説に対しては、いわゆる懐疑論があります。地球温暖化の原因には、CO2の排出増加による人為的な原因以外に、太陽活動の変動など、私どもが人為的に介入できない原因があるとするものです。しかし、このような懐疑論も、「CO2原因説」と同様に「科学の仮説」です。なによりも、このような懐疑論が導く温暖化であった場合、これを防止する方法がありません。

これに対して、上記(⓵)した、私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減対策」は、地球上の化石燃料資源量には制約があるから、その現在(2012年)の確認可採埋蔵量(現在の科学技術力により経済的に採掘可能な資源量)を全て使い尽くしたとしても、そのCO2排出総量が、IPCCが訴えるような温暖化の脅威を起こす量にはならないことを根拠にしています。もちろん、化石燃料の確認可採埋蔵量は、経済性を無視すれば増やすことができます。しかし、世界の全ての国が協力して、今世紀中の世界の年間化石燃料消費量を現在(2012年)の値に止めれば、今世紀中の累積CO排出量は、現在の確認可採埋蔵量を使い尽くした時の値を下回ります。したがって、IPCCが訴える地球温暖化のCO2原因説が正しかったとしても、IPCCが主張する温暖化の脅威を起こす累積CO2排出量には達しないのです。

この世界の全ての国の協力による世界の今世紀中の化石燃料の年間平均消費量を、2012年の値に止める具体的な方法として、私どもは、さらに、「2050年の世界各国の一人当たりの化石燃料消費量(石油換算㌧)を、2012年の世界平均の値1.52石油換算㌧に止めることを提案しています。ただし、2050年の世界および各国の一人当たりの化石燃料消費の目標値に対しては、2050年の対2012年の人口増減の推定値に対する補正が必要だとしています。すなわち、世界の化石燃料消費の節減のためには、世界人口を抑制することも必要となるからです。

この私どもの「世界の化石燃料消費の節減対策案」の実行は、先進諸国(OECD 35諸国)には、大きな化石燃料消費の削減が要請される一方で、現在、一人当たり化石燃料消費量が2012年の世界平均値を超えている中国を除く途上国(非OECD諸国)では、経済成長のための化石燃料消費の増加が許されます。すなわち、国際的な貧富の格差が是正されることも求められるべきです。

いずれにしろ、この私どもが主張する「世界の化石燃料消費の節減対策」では、世界の経済成長のために用いられている化石燃料消費が節減されるのですから、お金がかからない、すなわち国民に経済的な負担を強いることのない方策です。と言うよりも、世界の経済成長の抑制を前提としたCO2の排出削減のための「パリ協定の長期戦略」と言うことができるでしょう。さらに言えば、日本経済を破綻の淵に陥れようとしているアベノミクスのさらなる成長戦略と真っ向対立する、国民のためのエネルギー政策と言ってよいでしょう。

 

⓷ 「パリ協定長期成長戦略案」としての地球温暖化防止を目的とする「脱炭素社会の実現」のためとして、その実施での「費用対効果」の評価が行われないままに、国民に経済的な負担が強いられている温暖化対策をビジネス(収益事業)にするとのイノベーション(技術革新)が求められています。しかし、それは、科学技術の常識を無視した夢物語です。お金をかけないで、すなわち、国民に経済的な負担をかけないで、「脱炭素社会」を実現する方法としては、私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減対策」の実行以外にありません

トランプ米大統領以外の全ての国の合意で進められている「パリ協定」でのCO2排出削減の目的が、地球温暖化の防止のためであれば、この地球温暖化による被害金額と、温暖化を防ぐためのCO2の排出削減に必要な金額を比較した上で、後者の金額が前者の金額を上回らないことを条件として、いくつかある温暖化対策のなかから、最も安価に利用できるものを選択することで、その利用にお金を使う意味が出てくるのです。

しかし、実際には、温暖化の被害金額を、地球大気温度の上昇幅の関数として推定することは困難ですから、このような「費用対効果」の評価が行われないままに、CO2の排出削減対策技術が選択・利用されていると言ってよいでしょう。いま、政府により、国策として進められようとしている「パリ協定の長期成長戦略案」の「脱炭素社会の実現」のためのビジネスになると期待されている代表的な脱炭素化技術としては、現実的な実行可能性が大きいとしてIPCCが推奨しているCCS技術があります。これは、化石燃料の燃焼排ガス中からCO2を抽出・分離して埋め立てる技術ですが、この技術単独の利用ではビジネスとして収益を上げることができません。そこで、このCCS技術で捕獲された(Captured) CO2を有効利用(Utilization)するCCUと呼ばれる技術と組み合わせた方策が用いられようとしています。このCO2利用のCCU技術の一つとして、人工光合成による食料や工業製品としての有機化合物の製造が計画されているようです。しかし、これは、科学技術の何たるかを知らない人達の夢物語に過ぎません。先ず、化石燃料が枯渇すれば、この光合成原料のCO2は無くなります。また、もしこの原料CO2を大気中から捕獲するとしたら、そのために必要なエネルギーはどこから持ってくるのでしょうか? 化石燃料が枯渇しても、自然エネルギー(再生可能な電力、以下、「再エネ電力」)があるとおっしゃるのかもしれませんが、だったら、「再エネ電力」を直接、化石燃料の代わりに使えばよいのです。これが、科学技術の常識でなければなりません。

さらに、また、この国策「パリ協定長期成長戦略」のなかでビジネスの対象とされているのが、「エネルギーの転換」としての化石燃料代替の「水素エネルギー」の利用です。2016年の暮れに、トヨタが市場に出した、水素をエネルギー源とする燃料電池車(FCV)                                   ミライが市販されたのを機に、安倍首相がこれに試乗して、将来の車は、これだと、セールスマンの役割を果たしていました。しかし、国の補助金200万円を加えて700万円もする車に、いったい誰が乗るのでしょうか? また、「水素エネルギー」は二次エネルギーですから、一次エネルギーとしての化石燃料が枯渇後の水素は、一次エネルギーとしての「再エネ電力」を用いた水の電気分解でつくる以外にありません。であれば、この「水素エネルギー」の利用として期待されているFCVの利用よりは、「再エネ電力」を直接用いる電気自動車(EV)が利用されるべきです。いますでに、温暖化対策のためのCO2を排出しないとして、在来の内燃機関自動車の代わりのEVの普及が世界の潮流になっています。また、いま、日本で、一つとして、出力変動の大きい太陽光や風力などの「再エネ電力」からつくられる「水素のエネルギー」の利用の方法として、「再エネ電力」の出力を平滑化する蓄電作用を担わせることも考えられているようです。具体的には、「再エネ電力」を用いて水素を製造し、これを、燃料電池を用いて、電力に再変換して利用することです。こんなことをするよりは、いま、開発が急がれている、効率の良い固体蓄電池を利用するほうがエネルギーの変換工程が一段で済み、エネルギーの利用効率が良いとするのが科学技術の常識なはずです。

以上に見られる「パリ協定長期成長戦略」のなかで取り上げられている非連続的なイノベーション(技術革新)を前提としたビジネス課題は、科学技術の常識を大きく逸脱した、実現不可能な夢物語だと断定せざるを得ません。これを言い換えると、化石燃料の枯渇が迫り、世界経済がマイナス成長を強いられるなかで、資源小国日本が、「脱炭素社会の実現」の夢物語に、なけなしのお金を使う意味は何処にも見出すことができません。トランプを大統領とする米国をはじめ、世界各国が、自国の経済成長を優先する一国主義に走るなかで、日本が、そして人類が、全ての国の協力のもとで生き残る道は、私どもが提案する上記(⓶)の「世界の化石燃料消費の節減対策」を世界に示し、その実行を求める以外にありません。

やがて確実にやってくる化石燃料の枯渇後の社会は、経済成長の継続を前提とした、市販電力料金の値上げで国民に経済的な負担を強いる、理不尽な「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の適用無しでの、国産の自然エネルギーからつくられる再エネ電力のみに依存する社会でなければなりません。すなわち、世界の経済成長を支えてきたエネルギー源としての化石燃料がやがて存在しなくなり、「再エネ電力」の利用では、私どもが主張する(文献 2 )現在の成長が継続できないとの厳しい現実を率直に受け止めて、マイナス成長のなかで、真の豊かさが求められるべきなのです。なお、この化石燃料の枯渇後、全ての国が自国産の自然エネルギーとしての「再エネ電力」のみに依存しなければならない世界は、経済成長が抑制される反面で、成長のためのエネルギー資源の奪い合いのない、平和が期待できる世界です。問題は、どうやって。この平和な世界にゆっくりと移行(ソフトランデイング)できるかです。その実行可能な方策こそが、いま、求められています。

 

⓸ 「パリ協定長期成長戦略」のなかの「日本の石炭火力のフェーズアウト」は、化石燃料枯渇後の世界での日本経済と、人類の生き残りの道を閉ざします。私どもが提案する「世界の化石燃料の節減対策」が実行されれば、地球温暖化対策としての石炭火力の廃止は不要となります。3.11以後の原発代替の電力としては、当面、安価な石炭火力が用いられるべきです

今回の「パリ協定長期成長戦略」のなかには、もう一つ、「国内石炭火力発電のフェーズアウト」が含まれるはずでしたが、この方策は、どうやら、産業界の反対で盛り込まれなかったようです。日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献2 )と略記)に記載のデータから作成した表 1 に示すように、石炭火力の単位発電量当たりのCO2排出量は、石油火力に較べ1.3倍、天然ガス火力発電に較べて1.9倍と大きくなりますが、本稿のはじめ(⓵)にも述べたように、日本が石炭火力の使用を廃止してみても、地球温暖化対策としての世界のCO2排出削減には殆ど効果がありません。

 

表 1 日本の火力発電における単位発電量当たりのCO2排出量

(エネ研データ(文献 2 )に記載のIEAデータをもとに作成)

注  *1;エネ研データ(文献2 )に記載のIEAデータの世界の電源構成データから、投入ベースの値(石油換算百万㌧)を、発電量(TWh)で割って求めた2016年の値です。 *2; エネ研データ(文献 2 )2018年版の「解説」に記載の値です。 *3; 単位発電量当たりの燃料消費量(*1 )にCO2排出量原単位(*2 )の値を乗じて求めました。

 

また、エネルギー源としての石炭の使用では、同じエネ研データ(文献 2 )から作成した 表 2 に示すように、日本は、先進諸国(OECE 35)のなかでは、やや多いとは言え、世界のなかでは、石炭火力を含めて、石炭の使用が少ない国と言えます。

 

表 2 世界および先進国(OECD 35、途上国(非OECD)および日本のエネルギー源としての石炭の利用比率の値、2016年、%

(エネ研データ(文献 2 )に記載のIEAデータをもとに作成)

注; *1; エネ研データ(文献 2 ) に記載のIEAデータから、世界の一次エネルギー消費のなかの一次エネルギー消費(石炭)の比率 %   *2; IEAデータの世界の電源構成(2016、投入ベース)の値から計算した値です。

 

また、いま、国内では、3.11 福島原発事故の後、稼働停止を余儀なくされた原発の代わりに経済産業省の主導で石炭火力発電所の新増設が計画されていますが、環境省や地球環境保護団体の反対もあり、この経産省の計画は思うように進んでいないようです。しかし、地球上の化石燃料資源量の枯渇が迫り、世界経済の成長の抑制が強いられるなかで、私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減対策」が実行されれば、温暖化対策としての石炭火力の廃止は不要ですから、火力発電用燃料としては、表3に示すようにコストの安価な石炭火力が用いられるべきと考えられます。

 

表 3 日本における火力発電用燃料種類別の単位発電量当たりの発電コスト

 (エネ研データ(文献 2 )に記載のIEAの一次エネルギー消費データ等をもとに作成)

注; *1: エネ研データ(文献2 )記載のIEAデータの世界の電源構成データから、投入ベースの値(石油換算百万㌧)を、発電量(TWh)で割って求めた2016年の値です。  *2; 化石燃料種類別の石油換算量当たりの燃料消費量の値です。化石燃料種類別で、燃料消費量の単位が違っていますので、単位の記述に工夫がしてあります。  *3;単位発電量当たりの化石燃料消費量(*1 )に、(化石燃料消費量/同石油換算量)(*2 )を乗じて得られる単位発電量当たりの化石燃料種類別の消費量の値で、化石燃料種類ごとに単位が違います。単位の表現に工夫をしてあります。 *4;化石燃料の国内輸入CIF価格を用いました。単位の表現に工夫をしてあります。 *5;単位発電量当たりの化石燃料消費量の値(*3 )に、化石燃料輸入CIF価格(*4 )を乗じた化石燃料種類別の発電コストの値です。

⓹ 地球温暖化を防止するために必要な化石燃料消費を節減するためにも、国民のお金を使わないと成り立たないCO2排出削減のための「技術革新」や「再エネ電力」のいますぐの利用・拡大、さらには、「国内石炭火力のフェーズアウト」まで実行して「脱炭素社会の実現」を図ろうとする国策「パリ協定長期成長戦略」は、化石燃料枯渇後の世界に、日本経済と、そして人類が生き残る道を閉ざすと言わざるを得ません

今回、化石燃料枯渇後の世界で、日本が生きのびるためのエネルギー政策の指針をつくることを目的とした国策「パリ協定長期成長戦略」のなかから、先ず、「成長」の文字を削除することが求められるべきです。そのうえで、いま、全ての国の合意で進められている「パリ協定」の「脱炭素化の要請」を「世界の化石燃料の節減」に換えた「長期エネルギー戦略」の立案と実行を、IPCCとともに、世界のエネルギー政策立案の担当者にお願いすることこそが、日本のエネルギー政策にとっての重要な責務となるべきです。その具体的な方策については、本稿(その2)に追記させて頂きます。

 

<引用文献>

  1. 諸富 徹、浅岡美恵;低炭素社会への道、岩波新書、2010年
  2. 久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月
  3. 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧 2019、(財)省エネセンター 2019年

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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