世界一のエネルギー消費大国になった中国は、地球上の化石燃料資源の枯渇に備えて、経済成長を犠牲にしても、化石燃料消費の節減に協力することで、エネルギー資源の奪い合いのない、人類が生き残るための恒久的な平和な世界を創るカギを握っています
|東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎
(要約);
① 世界第2 の経済大国に成長した中国は、世界第1 位のエネルギー消費大国になりましたが、それは、世界第1 の人口を抱えるせいです。一人当たりのGDPの値では世界平均を下回り、さらなる成長の継続が必要だとしている中国ですが、一人当たりのエネルギー消費の値でも、世界平均を上回りましたから、化石燃料の枯渇が問題になっている世界では、エネルギー消費の節減が求められる国になっています。
② 世界の経済成長を支えてきたエネルギーの主体である化石燃料資源量が枯渇の時を迎えようとして、その国際市場価格が高くなり、これを使えない人や国が出てきて、貧富の格差が顕著になってきています。この貧富の格差が、宗教と結びついて起こっているのが、アルカイダにはじまり、ISに至る国際テロ戦争です。これを軍事力の強化によって、防ぐことはできません。唯一の解決の途は、世界の全ての国が協力して、経済成長を支えているエネルギー資源の主役である化石燃料消費量の節減とその公平な配分でなければなりません。エネルギー消費大国中国には、その役割を果たして貰う必要があります。
③ 高度経済成長によって、世界第1 の化石燃料消費大国になった中国は、その資源の枯渇に備えた化石燃料資源の保全を目的にしても、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減を目的としても、先進諸国におけると同様、経済成長を抑制しない限り、化石燃料消費を節減することができません。なお、この経済成長の抑制による化石燃料消費の節減は、中国だけでなく、世界の全ての国が、「パリ協定」が求めるCO2排出削減の国際的な合意を達成するためにも求められるのです。
④ 化石燃料の枯渇後、その代替として用いられる自国産の自然エネルギーのみに依存する世界は、現在の化石燃料に依存する世界に較べて、経済成長が抑制される世界です。反面、各国が、自国の経済成長のために必要な化石燃料エネルギーを奪い合うことの無い平和が期待される世界です。現在の国別の一人当たりの化石燃料消費の大きな違いによる貧富の格差の大きい世界から、この格差の無い平和な世界へのソフトランデイングのためには、化石燃料消費の削減を目的とした私どもの提案の実現こそが求められます。その実現のカギは中国が握っています。
(解説本文);
① 世界第2 の経済大国に成長した中国は、世界第1 位のエネルギー消費大国になりましたが、それは、世界第1 の人口を抱えるせいです。一人当たりのGDPの値では世界平均を下回り、さらなる成長の継続が必要だとしている中国ですが、一人当たりのエネルギー消費の値でも、世界平均を上回りましたから、化石燃料の枯渇が問題になっている世界では、エネルギー消費の節減が求められる国になっています。
いま、20世紀末の高度経済成長によって、日本を抜いて世界第2の経済大国になった中国は、経済第一、アメリカ第一を唱えるトランプ大統領の米国との間で大きな貿易摩擦の問題を抱えています。
(財)日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー経済統計要覧(以下エネ研データと略記)に記載のWorld Bankのデータをもとに、現在、世界第1 ~ 3位を占める米国、中国、日本の2010年価格米ドルで表わした実質GDPの値の年次変化を図1 に示しました。
この図1 に見られるように、最近のGDPの値の急増が目立つ中国ですが、いま、バブルの崩壊が言われています。それは、世界経済が低迷するなかで、中国経済の高度成長を支えてきた輸出産業にも陰りが見えてきたためと考えられます。特に、米国の対中国貿易赤字の増加が、トランプ大統領の対中国攻撃の大きな標的になっているようです。
図 1 中国、米国、日本の実質GDPの値の年次変化
(エネ研データ(文獻1 )に記載のWorld Bank のデータをもとに作成)
このように、今後の経済成長の継続に赤信号が灯っている中国ですが、この国別のGDPの値をそれぞれの国の人口で割った一人当たりの実質GDPの値で、世界各国と比較してみると、表1 に示すように、中国の値は、とても上位にランクできないどころか、世界平均にも及びません。これが、いまでも、中国政府が、成長を継続しなければならないと主張する理由です。この表1 で、さらに注目すべきは、この一人当たりの実質GDPの値で上位ランクされているなかに都市国家のシンガポールが入っていることです。すなわち、いま、世界の経済成長を支えているのは都市中心の産業なのです。
表 1 世界の一人当たりの実質GDP 、2010年価格米ドル/人、2015年
(エネ研データ(文獻1 )に記載のWorld Bank のデータをもとに作成)
注;括弧内数値は、各国の世界平均に対する比率です
いま、高度の経済成長を遂げた中国においても、その成長を支えているのは、世界第1位の13.7億(2015年の値)の人口の約3 割程度を占める都市住民なのです。そこで、安い賃金で働いているのが都市戸籍を取得できない農民戸籍の地方からの出稼ぎ農民なのです。これが、川島博之の著書(文獻2 )の言う、戸籍アパルトヘイト国家、中国の実態なのです。食料の生産は、増加を続ける世界人口を支える基本でした。その農業生産での収率(単位農地面積当たりの農作物の収量)を飛躍的の増加させるようになった化学肥料、特に、空中窒素の固定によるアンモニアの利用によって、増え続ける世界人口を支えるための食料供給の問題は、政治の混乱による貧困からの脱却を免れない一部の国以外では問題にならなくなりました。しかし、主要穀物を自給できるようになった中国では、図1 に示す経済発展を支えた都市住民と、それに取り残された農民との間の所得格差が大きな社会問題になっています。
② 世界の経済成長を支えてきたエネルギーの主体である化石燃料資源量が枯渇の時を迎えようとして、その国際市場価格が高くなり、これを使えない人や国が出てきて、貧富の格差が顕著になってきています。この貧富の格差が、宗教と結びついて起こっているのが、アルカイダにはじまり、ISに至る国際テロ戦争です。これを軍事力の強化によって、防ぐことはできません。唯一の解決の途は、世界の全ての国が協力して、経済成長を支えているエネルギー資源の主役である化石燃料消費量の節減とその公平な配分でなければなりません。エネルギー消費大国中国には、その役割を果たして貰う必要があります。
ここで、経済成長を支えるエネルギー源イコール化石燃料としましたが、化石燃料資源の枯渇が迫るなかで、いま、世界では、その代替として、原子力(原発電力)や、再生可能エネルギー(再エネ)の中の古くからある水力発電を除く風力や太陽光発電などの新エネルギー(新エネ)とよばれるエネルギーが使われようとしています。しかし、これらの原発電力や新エネ電力を使えるのは、経済力のある先進諸国で、多くの途上国では、経済的な理由から、これらを使うことができません。安価な化石燃料(石炭)を用いた火力発電すら満足に使えないのですから、貧困の継続を余儀なくされているのです。
いま、世界で、人類の生存にとって問題になること、それは、経済力のある大国が、自国第一の経済発展を願って、経済成長に必要な化石燃料消費の増加を継続していることです。エネ研データ(文獻 1 )に記載のIEAのデータをもとに作成した図 2 に示すように、いま、中国が、この世界第1のエネルギー消費大国になり、さらにその増加を継続しようとしています。この図2 で、エネルギー消費を一次エネルギー消費とし、その単位を石油換算トンとしたのは、エネ研データ(文獻1 )に記載の国内のエネルギーデータでは、その単位を、熱量(kcal)で表わしていますが、同じエネ研データに記載のIEA(国際エネルギー機関)のデータでは、エネルギー量を、現在その主体を占める化石燃料、なかで最も利用価値の大きい石油換算の質量で表わしているからです。IEAが用いている一次エネルギー消費の百万石油換算トン、Moe は、ほぼ、国内のエネルギー単位では1013 kcal になります。ここで、ほぼとしたのは、電力の一次エネルギー換算では、国際(IEA)と国内(日本エネルギー経済研究所)では計算の方法に多少違いがあるからです。詳細は私どもの近刊(文獻3 )をご参照下さい。
図 2 中国、米国、日本の一次エネルギー消費の年次変化
(エネ研データ(文獻1 )に記載のIEAのデータをもとに作成)
いま、地球上の化石燃料の枯渇が言われるなかで、化石燃料の種類別に、それぞれの確認可採埋蔵量(現在の科学技術と経済力で採掘可能な資源量)を、その量の与えられた年の生産量の値で割って与えられる化石燃料種類別の可採年数の値を、エネ研データ(文獻1 )に記載のBP(British Petroleum)社のデータから表2 に示します。
表 2 地球上の化石燃料種類別の確認可採埋蔵量、生産量、および可採年数、2016年末の値 (エネ研データ(文獻1 )記載のBP社のデータおよびIEAのデータから)
注; * 1 ;石炭の確認可採埋蔵量1,139.3十憶トンを0.605原油トン / 石炭トン として換算 *2 ;原油の生産量92,150 千b/d を51.5千石油トン / 原油b/dとして換算 *3 ;天然ガスの生産量3551.6十億立方メートルを 0.900石油換算トン/ 天然ガス立方メートルで換算した値 *4;エネ研データ(文獻1 )に記載のIEA データの2015年の値 *5;BP社に与えられたデータをそのまま記しました。ただし、合計量については、確認可採埋蔵量の合計量を、化石燃料消費量の合計量で割って求めました
表2 に示すように、2016年の化石燃料(石油、天然ガス、石炭)の確認可採埋蔵量の合計量を、2015年の化石燃料(石油、天然ガス、石炭)消費量の合計量で割って求めた化石燃料合計の可採年数は98.8 年と求められます。これが、私ども(文獻3)が、世界の全ての国が協力して、化石燃料の消費量を、現在の値に止めることができれば、今世紀いっぱい、何とか使うことができると主張する理由です。
しかし、それは、各国が、化石燃料を、現在の消費量のまま使い続けてよいとするものではありません。と言うのは、世界各国の一人当たりの化石燃料消費量の値は、表3 に示すように、国別に、特に先進国と途上国の間で大きく違っているからです。これが、いま。貧富の格差をもたらす原因になって、世界の平和を侵害しているのです。
表 3 世界の一人当たりの化石燃料消量、石油換算トン/人、2015年
(エネ研データ(文獻 1 )に記載のIEA データ(化石燃料消費)およびWorld Bank(人口)の値をもとに計算して作成)
注;括弧内数値は、世界平均に対する比率
全ての国が協力して、地球上に残された化石燃料の消費量を公平に分け合って大事に使う具体策として、私どもは、2050年を目標にして全ての国の一人当たりの化石燃料の消費量を現在(2012年)の世界平均の値1.54 石油換算トン/人にすることを提案しています。ただし、国別に、将来人口の増減がありますから、それに応じた補正を行う必要があります。
現在(2015年)の各国の一人当たりの化石燃料消費の値を示した表3に見られるように、先進諸国にとって、この化石燃料消費の節減目標は、いままでの経済成長の継続が否定される非常に厳しいものです。一方で、一人当たりの化石燃料消費量が世界平均に達していない途上国の多数は、中国を除いて、経済成長の継続が許されることになります。すなわち、この私どもの提案は、やがて、確実にやって来る化石燃料の枯渇に備えて、残された化石燃料を、全ての国が、いや地球上の人類の全てが、公平に分け合って大事に使い、今世紀末まで長持ちさせる方策だと考えてよいのです。
先進諸国の人々にとって、これは、非現実的な提案だと思われるかも知れません。しかし、いま、世界で、化石燃料の節減ではなく、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減のための「パリ協定」の実行で、この化石燃料消費の節減と同じことが行われようとしているのです。すなわち、2050年に、全ての国が一人当たりの化石燃料消費量を現在(2012年)の世界平均の化石燃料の消費量に等しくすれば、いま、トランプ米大統領以外の全ての国が合意している「パリ協定」のCO2排出削減目標が達成できるのです。いや、「パリ協定」の国際的な合意を実行できる方法は、この私どもが提案する化石燃料消費の節減策以外に無いのです。
地球温暖化対策としてのCO2排出量の削減の実行は、図3 に示すように世界一CO2排出量を持ち、かつ、さらに、その増加を継続している中国にとっては、すでに、その値が減少に転じている米国や日本に較べて、より困難が強いられることになります。すなわち、世界各国の現在(2015年)の一人当たりCO2排出量を示した表4 に見られるように、中国の一人当たりのCO2の排出量は、すでに、世界平均の1.41 倍に達しているのです。
図 3 中国、米国、日本のCO2 排出量の年次変化
(エネ研データ(文獻1 )に記載のWorld Bank データをもとに作成)
表 4 世界の一人当たりのCO2排出量、CO2トン/人、2015 年
(エネ研データ(文獻1 )に記載のIEAデータをもとに作成)
③ 高度経済成長によって、世界第1 の化石燃料消費大国になった中国は、その資源の枯渇に備えた化石燃料資源の保全を目的にしても、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減を目的としても、先進諸国におけると同様、経済成長を抑制しない限り、化石燃料消費を節減することができません。なお、この経済成長の抑制による化石燃料消費の節減は、中国だけでなく、世界の全ての国が、「パリ協定」が求めるCO2排出削減の国際的な合意を達成するためにも求められるのです。
上記(①)したように、中国は、地球上に残された化石燃料の消費を増やすことによって、経済を高度成長させた結果、世界第2 の経済大国になりました。しかし、それは、これも上記(①)したように、人口が多いからです。一人当たりの実質GDPの値で見ると、表1 に見られるように世界平均の63 %でしかありません。すなわち、世界各国が、経済的な公平を主張する権利があるとすると、中国には成長を継続する権利があります。また、都市住民と農民との間の貧富の格差の解消のためにも、経済成長の継続が要求されています。
しかし、化石燃料消費大国の中国が、今後も化石燃料消費を増加させることは、地球上に残された化石燃料の公平な分配を妨げるだけでなく、いま、世界の全ての国が合意して進められている地球温暖化対策としての「パリ協定」CO2排出削減目標の達成も困難になります。
実は、経済成長のためのエネルギー消費の増加を続けながら、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減を継続することは、中国に限らず、どこの国でもできないことなのです。ところが、中国では、図4 に示すように、実質GDP当たりのCO2排出量の値が、1980年頃から急速に減少してきたので、中国政府は、今後も、この傾向が続けば、やがて、経済成長を継続しながら、CO2の排出量を減らすことができると思っているのではないでしょうか? そんなことはありません。経済成長のためにはエネルギーが必要ですから、そのエネルギー源として化石燃料を使えば、CO2排出量が増加するのです。すなわち、CO2排出量を減らすには、経済成長を抑制する以外に無いのです。これは、実質GDP当たりのCO2排出量の大きい中国だけに限ったことではありません。図4に示すように、実質CDP当たりのCO2排出量の値が小さい国を含めた世界中の全ての国に言えることなのです。
なお、この図4 の各国の実質GDP当たりのCO2排出量の値での中国における異常に高い値について考えて見ます。CO2の排出量は化石燃料の消費量に比例しますから、中国でのGDP当たりのCO2排出量が大きいことは、GDPの高い値を得るのに、すなわち、経済成長のための産業の振興に大きなエネルギーを必要としていることになります。これは、いまや、世界の工場になって、世界経済の最後の成長を支えている中国が、表 1 に示すように、先進諸国に較べて圧倒的に低い一人当たりのGDPに比例する労働力を利用して、エネルギー消費の大きい重化学工業などを、引き受けてきた結果だと考えることができます。これは、新興途上国共通の特徴かと考えて見ましたが、同じ新興途上国でも、ブラジルの値は、全く違います。考えられる原因としては、世界の基準通貨とされている米ドルとの為替交換レートの国別の違いによる結果で、これが、いま、トランプ大統領が主張する米中間の貿易摩擦の大きな原因になっているのではないでしょうか? この問題は、二国間の話し合いで、円満な解決が図られることが、世界経済の安定化のためにも必要だと考えます。
図4 各国の実質GDP当たりのCO2排出量の値の年次変化
(エネ研データ(文獻1 )に記載のWorld Bankのデータを用いて作成)
④ 化石燃料の枯渇後、その代替として用いられる自国産の自然エネルギーのみに依存する世界は、現在の化石燃料に依存する世界に較べて、経済成長が抑制される世界です。反面、各国が、自国の経済成長のために必要な化石燃料エネルギーを奪い合うことの無い平和が期待される世界です。現在の国別の一人当たりの化石燃料消費の大きな違いによる貧富の格差の大きい世界から、この格差の無い平和な世界へのソフトランデイングのためには、化石燃料消費の削減を目的とした私どもの提案の実現こそが求められます。その実現のカギは中国が握っています。
世界各国が経済の成長を求めて、現在、そのエネルギー源となっている化石燃料の消費を続ければ、やがて、それは、確実に枯渇の時を迎えます。この化石燃料の枯渇後の世界を支えると期待されていた原子力エネルギーの利用は、原爆の利用とつながって世界の平和を侵害しますから、人類の持続可能な生存のためのエネルギー源は、水力、風力、太陽光、地熱などのいわゆる自然エネルギーの電力への変換利用しかないはずです。しかし、この自然エネ電力の利用では、いままでの化石燃料をエネルギー源としてきた世界の経済成長は望めません。一方で、世界中の全ての国が、自国産の自然エネルギーのみに依存しなければならない化石燃料の枯渇後の世界は、いままでのような、各国が、自国の経済成長のための化石燃料エネルギー資源を奪い合うために、軍事力に頼ることのない恒久平和が期待できる世界なのです。
問題は、いま、まだ、化石燃料が使えて、その一人当たりの使用量の違いによって生じる大きな貧富の格差が現存する世界から、全ての国が自然エネルギーのみに依存することで、エネルギー資源を奪い合うことのない、恒久平和が期待できる平和な世界に、どのようにしてソフトランデイングするかです。
それは、上記(③)した、私どもが提案する方法、すなわち、全ての国が、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使うこと、具体的には、各国が、2050年の一人当たりの化石燃料消費量を2012年の世界平均の値に近づけるように努力すること以外にありません。化石燃料の種類(石炭、石油、天然ガス)別の消費量比率が、今後も余り変ることがないと仮定すると、化石燃料消費量は、CO2の排出量にほぼ比例しますから、この私どもの化石燃料消費の節減案は、地球温暖化対策としての「パリ協定」における2050年の各国のCO2排出削減目標を、2012年の世界平均の値に置き換えることで実行可能となります。この私どもの「パリ協定」実行の具体案を図示したのが図5です。実は、現在の「パリ協定」の各国のCO2排出削減目標は、それぞれの国が自主的に決めるとされています。そのために、先進国が、途上国でのCO2排出削減を行って、その排出量を自国の排出削減量加算することで、その対象国にお金を払う「排出権利取引」方式を用いるなど、非科学的な、先進国から途上国への資金援助額の交渉がこの「パリ協定」の事前協議の対象になりました。これに対して、私どもが提案する「パリ協定」でのCO2排出削減案では、図5に見られるように、各国が、一人当たりのCO2排出量の年次変化の延長線上に2050年の世界共通の達成目標値(図中の十字印)を据えて削減努力をすればよいことを具体的に示しています。
注; 1) 2050年の十字印は、2012年の世界の一人当たりのCO2排出量4.53CO2トン/年/人 の値(ただし、国別の人口の増減に応じた補正を行う)です。 2) 2020年および2030年の各国のCO2排出量は、各国が発表しているCO2排出量の自主的な目標値です。
図 5 各国の一人当たりのCO2排出量の年次変化と、私どもが提案する世界の化石燃料消費量の節減によるCO2排出量の削減目標値 (私どもの近刊(文獻 3 )から)
この「パリ協定」の実行への科学的な根拠を与える私どもの提案が、世界の全ての国、特に、エネルギー消費大国、中国、米国に受け入れられて、やがて、確実にやって来る化石燃料枯渇後の自然エネルギーのみに依存する恒久平和が期待される世界にソフトランデイングすることが、化石燃料枯渇後の経済成長が抑制される世界に人類が生き残る唯一の道だと私どもは信じています。その実現のカギは化石燃料消費大国の中国が握っています。
<引用文献>
1.日本エネルギー・経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2018年版、省エネセンター、2018年
2.川島博之;古関アパルトヘイト国家・中国の崩壊、講談社+α新書、2017年
3.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月
ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他
平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。