化石燃料の枯渇が迫り、世界経済が抑制されるなかで、アベノミクスのさらなる成長のために策定されようとしている地球温暖化対策としての脱炭素化社会の実現を求める「パリ協定長期成長戦略」が、「パリ協定」が本来求めている人類の生き残りの道を閉ざすことになります。地球温暖化対策としての脱炭素化ではなく、残された化石燃料を、公平に分け合って大事に使うことが、人類が、世界平和のなかで生きのびる道です

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ いま、「パリ協定長期成長戦略」策定案に対する意見の募集(パブリックコメント)が求められています。しかし、このパブリックコメントは、以前に行われた、地球温暖化対策としての脱炭素社会の実現のための政策に対すると同様、混迷する日本のエネルギー政策を、国民の同意で進めているように見せかけるのが目的と言ってよいでしょう

⓶ 今回のパブリックコメントの対象になっている「パリ協定長期成長戦略案」では、地球温暖化対策としての脱炭素化社会の実現のための日本のCO2排出削減目標の達成が求められています。しかし、地球温暖化は、地球すなわち世界の問題ですから、世界の全ての国の協力で実行できる対策案を提示することが求められます。それが私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減対策案」です

⓷ 「パリ協定長期成長戦略案」が主張する低炭素化事業を、世界経済の成長を促すビジネスにすることができるイノベーション(技術革新)は存在しません。それは、産業革命以降の世界経済の成長を支えてきた化石燃料が枯渇を迎えようとしているなかで、その代替として期待されている再生可能エネルギーの利用・拡大では成長ができないからです

⓸ 「パリ協定長期成長戦略案」のなかで、石炭火力発電のフェーズアウトが求められています。しかし、いま、人類にとって、温暖化より怖いのは、成長のエネルギー源として使われてきた化石燃料の枯渇です。世界の全ての国が協力して、化石燃料消費を節減するなかで、最も安価で供給量が安定している石炭火力発電の効率の良い利用が、当面は、重要な役割を果たします

⓹「パリ協定」のCO2排出削減目標を、私どもが訴える「世界の化石燃料消費の節減」に替えることで、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使いながら、化石燃料枯渇後の再エネ電力のみに依存する平和な世界にソフトランデイングする、これが、人類の化石燃料枯渇後に人類が生きのびる道です

 

(解説本文):

⓵ いま、「パリ協定長期成長戦略」策定案に対する意見の募集(パブリックコメント)が求められています。しかし、このパブリックコメントは、以前に行われた、地球温暖化対策としての脱炭素社会の実現のための政策に対すると同様、混迷する日本のエネルギー政策を、国民の同意で進めているように見せかけるのが目的と言ってよいでしょう

インターネットのグーグルの検索のWikipediaで、パブリックコメント(略してパブコメ)とは、「公的機関が規則などを定める前に、その影響が及ぶ対象者の意見を事前に聴取し、その結果を反映させることによって、よりよい行政を目指すものである。」とあります。例として、欧米で、遺伝子組み換え医薬品の市販に際して、国民の声が、このパブコメを通して反映されたとありました。

私どもの一人の久保田が、政府のエネルギー政策に関連して、このパブコメに応じたのは、地球温暖化対策として、温室効果ガス(その主体は二酸化炭素 CO2で、以下CO2と略記)の排出削減に貢献するとして進められたバイオ燃料利用の国策についてでした。バイオマスは、大気中のCO2を利用して成長するから、それを原料としたバイオ燃料の利用では、大気中のCO2を増加させないとする「カーボンニュートラル」が成立するとして、日本の最高学府の長をなさっていた先生が主導して進められていた「バイオ燃料」の開発・利用を主体とする国策「バイオマス・ニッポン総合戦略」を批判するものでした。しかし、このバイオ燃料の製造・利用工程のエネルギー収支計算結果から、カーボンニュートラルが成立しないとして、その開発およびブラジルからの輸入・利用の政策に反対する久保田のパブコメでの主張は、完全に無視されました。なお、当時、多くのメデイアにも全面的に支援された、この「バイオマス・ニッポン総合戦略」が、3.11 福島第一原発の過酷事故が起こった2011年3月、総務省により発表された、この国策事業の評価報告書に、6 年間に6.5兆円強もの国費(税金)が浪費されたとあることが、殆ど国民には知らされていません。

この経験に懲りなかった久保田のパブコメへの応募は、EUが先行実施している地球温暖化対策としてのCO2の排出削減を目的とした再生可能エネルギーの開発・利用を促進するための「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の成立を目指す政府の政策を批判するものでした。市販電力の値上げで消費者に経済的な負担を強いる「FIT制度」を適用しても、温暖化問題を解決できるCO2の排出削減は行えないとする数値解析結果に基づく反対意見でした。この時のパブコメ要請への応募に際しては、この制度成立の諮問に与る小委員会の長を務められた学識経験者の先生にも直接、この制度の否を二度にわたって訴えましたが、何のご返事も頂けませんでした。

ところで、この「FIT制度」が施行されると、この先生は、NHKのテレビで、何の根拠も示さずに、この制度の適用による電力料金の値上げ額は僅かだから、我慢して欲しいと、政府を代弁して国民に訴えていました。しかし、この「FIT制度」を先行、実施していたEUで、このFITで最も高い買取価格がつけられた太陽光発電で、その利用・拡大が進むにつれて高騰した電力料金に反発して、この太陽光発電での買取価格を値下げせざるを得なくなり、結果として、太陽光発電の利用・拡大の停滞が起こりました。いま、世界で開発・利用されている再エネ電力の主流は風力発電です。それは、風力発電のコストが太陽光に較べて低いだけでなく、その導入可能量(ポテンシャル)が大きいからです。この世界の潮流に逆らって、発電コストの高い太陽光にFITでの高い買取価格を設けて、その利用・拡大を進めてきた日本でも、やがて、EUと同じようなことが起こることが推定されます。いや、すでにそれが起こっています。

上記のパブコメについての久保田の経験から、いま、日本政府が行っているパブコメとは、政府が定めようとする政策について、国民の同意を得ていると見せかけるための道具にされているに過ぎないと考え、それ以後、久保田は、政府のエネルギー政策についてのパブコメ要請は無視することにしてきました。したがって、今回の地球温暖化対策としての脱炭素社会の実現を目指すとする「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)」(以下。「パリ協定長期成長戦略案」と略記)に対するパブコメの募集に対しても、当初、私どもは、これに応じるつもりはありませんでした。しかし、この政府による有識者懇談会がまとめたとされる「パリ協定長期成長戦略案」が、これから確実にやってくる化石燃料枯渇に備えなければならない人類の未来における、世界各国のエネルギー政策のあるべき姿と、余りにも大きく乖離していると判断される以上、これに批判的な私どもの意見を公表するとともに、科学技術者としての正しい代替案を示す責任があると考えました。

以下、日本と世界のエネルギー需給のデータを提供してくれている、「日本エネルギー経済研究所編;エネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献 1 )と略記)」のエネルギー・経済関連のデータをもとに、「パリ協定」が本来目的としている、世界の正しいエネルギー政策についての私どもの提案を記させて頂きます。なお詳細については、私どもの近刊(文献 2 )をご参照下さい。

 

⓶ 今回のパブリックコメントの対象になっている「パリ協定長期成長戦略案」では、地球温暖化対策としての脱炭素化社会の実現のための日本のCO2排出削減目標の達成が求められています。しかし、地球温暖化は、地球すなわち世界の問題ですから、世界の全ての国の協力で実行できる対策案を提示することが求められます。それが私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減対策案」です

今回パブコメの対象になっている「パリ協定長期成長戦略案」が目的とする地球温暖化対策としてのCO2の排出削減は、世界の問題です。したがって、現在、世界のCO2排出量の3.5 % しか排出していない(エネ研データ(文献 1 )から)日本が、CO2の排出を大幅に減らしても、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が主張する地球温暖化の脅威を防止するために必要だとされている世界のCO2の排出削減を行うことができません。すなわち、「パリ協定」が求めるCO2の排出削減は、世界の全ての国の協力で実行できるものでなければなりません。

例えば、いま、IPCCは、CO2排出削減に有効な方法として、CCS技術の採用を推奨してます。このCCS技術は、いま、世界の経済成長を支えている化石燃料消費の増加の継続を容認しながら、この化石燃料、特にCO2排出量が大きい石炭の燃焼排ガス中からCO2を抽出、分離して埋め立てる技術ですが、その適用にはお金がかかります。したがって、安価であることを理由に成長のための電力生産のエネルギー源として石炭を多量に使用している途上国(非OECD諸国)でのこのCCS技術の利用は、現在だけでなく、将来的にも不可能と考えるべきです。

そのためと言ってよいでしょうか、いま、IPCCの主導で、米国のトランプ大統領以外の全ての国の協力の下で進められている「パリ協定」のCO2排出削減対策では、その排出削減の具体的な方法が示されないままに、世界各国が自主的に、それぞれの国のCO排出削減目標を、例えば、2030年に2005年に較べて30 % 減、さらに2050年に80 %減、或いは、ゼロにするなどとCO2排出削減目標数値を決めて、それを達成することが求められています。

しかし、この各国の目標数値を集計した値が、IPCCが求めている温暖化の脅威を防止するために必要なCO2排出削減目標に達するとの保証はありません。特に、世界第一のCO排出大国の中国と第2の米国(2016年に中国が27.8 %、米国が15.9 %、合わせて43.7 %(エネ研データ(文献1)から計算値))の協力が無ければ、有効な世界のCO2排出削減は実行できません。さらには、この「パリ協定」の世界のCO2排出削減目標を決めるためのCOP 21の協議の場では、資金力のある先進国が、CO2を吸収する植林を途上国で実施した場合、その量が自国のCO2消費の削減量に加算される見返りとして、そのために必要なお金を、先進国が途上国に提供する「排出権取引」が認められて、「パリ協定」の協議が、途上国と先進国の金銭取引の場にされているのです。これが、一国主義を唱えるトランプ大統領の「パリ協定」からの離脱の原因になったと考えてよいでしょう。

ところで、IPCCが地球温暖化の原因となると訴えるCO2の排出源は化石燃料です。この化石燃料の確認可採埋蔵量(現在の科学技術の力で、経済的に採掘できる資源量で、エネ研データ(文献 1 )に記載のBritish Petroleum(BP)社のデータとして与えられています)を全て使い尽くした時のCO2排出量は 3.23 兆㌧(エネ研データ(文献 1 )をもとに私どもが計算した値)となります。この値であれば、IPCCが科学の原理だと主張する温暖化のCO2原因説が正しかったとしても、地球気温の上昇は1.6℃程度に止まります(私どもの近刊(文献 2 )参照)。もちろん、確認可採埋蔵量の値は今後も増加する可能性がありますから、CO2の排出量を、より確実に抑制するために私どもが考えたのが、今世紀中の化石燃料消費の年平均値を2012年の値に止めることです。さらに、これを実現する各国の化石燃料消費の節減量を決める具体的な方法として提案しているのが、2050年に世界の全ての国の一人当たり化石燃料消費の値を2012年の世界平均の値に等しくすることです。これが、私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減対策案」で、これを図解したのが、図 1です。

注; 1)世界および各国の一人当たりの化石燃料消費の2016年までの値は、エネ研データ(文献 1 )に記載のデータをもとに計算して求めた値です。 2)2050年の世界および各国の一人当たりの化石燃料消費の値は、2012年の世界平均の値に、世界および各国の2050年の2012年に対する人口増減の推定値による補正を行った値です(本文参照)。 3)2100年の値はゼロとしました。

 図 1  私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減対策案」の図解

(私どもの「世界の化石燃料消費の節減対策案」の値(本文参照)に、2016年エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに計算した値を加えて作成しました)

 

この図1 に見られるように、この私どもの「世界の化石燃料消費の節減対策案」は、現在の一人当たりの化石燃料消費が世界平均を上回っている先進諸国(OECD諸国)では、その実行には大きな困難が伴うことが予想されます。しかし、その実行にはお金がかかりませんから、地球温暖化対策にお金を出すことを嫌っているトランプ大統領も反対できない案だと考えてよいでしょう。

一方で、中国を除く非OECD諸国では、当分の間、経済成長の継続が許されることになり、十分、実行可能な「パリ協定」のCO2排出削減対策になると考えられます。さらに、この私どもの「世界の化石燃料の節減対策案」は、いま、地球温暖化よりも大きな脅威になっている世界各国のエネルギー消費の不均衡に伴う貧富の格差の拡大を確実に防ぐことができるだけでなく、IPCCが訴える温暖化防止のためのCO2排出削減も実行できるのです。すなわち、いま、懐疑論のあるIPCCのCO2原因説が正しいと仮定しても、世界の温暖化防止のためのCO2の排出削減を実行する方法は、この私どもの提案する方法以外にないのです。

 

⓷ 「パリ協定長期成長戦略案」が主張する低炭素化事業を、世界経済の成長を促すビジネスにすることができるイノベーション(技術革新)は存在しません。それは、産業革命以降の世界経済の成長を支えてきた化石燃料が枯渇を迎えようとしているなかで、その代替として期待されている再生可能エネルギーの利用・拡大では成長ができないからです

今回の「パリ協定長期成長戦略案」では、地球温暖化対策のためのCO2排出削減による低炭素化が、経済成長を促すビジネスになるとされています。これは、この「パリ協定長期成長戦略案」を作成された有識者会議の皆さんが、いま世界の問題になっている地球温暖化対策としてのCO2の排出削減に有効に機能しているとされる「再エネ電力」の利用・拡大で、いままでの化石燃料に依存してきた世界の経済成長を継続できると錯覚しているからです。

いま、このような錯覚がまかり通るのは、温暖化対策としての脱炭素化社会の実現のために用いられるべきとされている「再エネ電力」を、いままで、世界の経済成長を支えてきた化石燃料を用いる火力発電電力の代替として用いたのでは、その利用の効率が低くなるために、火力発電を用いた場合のような経済成長ができなくなることが一般に、認識されていないからと考えてよいでしょう。

ところで、現状の「再エネ電力」は、まだ安価な化石燃料、特に石炭主体のエネルギーでつくられていますが、化石燃料の枯渇後の再エネ電力は、自分で生産した再エネ電力(産出エネルギー)でつくられなければなりません。したがって、現在、および将来にける「再エネ電力」は、次式で表される(再エネ電力の有効エネルギー利用比率 i )の値を用いて、いま、電力生産の主体となっている化石燃料を用いた火力発電との効用(利用効率)が比較される必要があります。

(再エネ電力の有効エネルギー利用比率 i )

= 1 - 1 / (産出/投入エネルギー比 μ)                              ( 1 )

ただし、

(産出/入エネルギー比 μ)= (産出エネルギー)/(投入エネルギー)    ( 2 )

この(再エネ電力の有効エネルギー利用比率 i )の値を計算するためには、再エネ電力生産設備の製造のための(投入エネルギー)の値を推定する必要がありますが、その簡易な方法がありませんでした。この推定の方法として、あくまで概算値を求める方法ですが、私どもは、次式を用いる方法を提案しています。

(再エネ電力生産設備の投入エネルギー kcal )

=(再エネ電力生産設備の製造・使用のコスト円 )

×(国内一次エネルギー消費 kcal)/ ( 国内総生産GDP 円 )        ( 3 )

 

FIT制度が適用されるようになってすぐ( 2012 年)の資源エネルギー庁により公表された再エネ電力設備の価格等を用いて、私どもが試算した(再エネ電力の有効エネルギー利用比率 i )の値を表 1 に示しました。ここで、太陽光発電以外で、(再電力の有効エネルギー利用比率 i )の値に幅があるのは、この試算に用いた資源エネルギー庁の(再エネ電力生産設備の製造・使用のコスト)の値に幅があるためです。

 

表 1 再エネ電力種類別の「再エネ電力の有効エネルギー利用比率 i 」(%)の試算値

(資源エネルギー庁によるFIT制度の認定時に用いられた再エネ電力の設備費、設備の使用条件等の諸定数を用いて試算した値、文献 2 からの摘録)

注; *1; 投入エネルギーとして化石燃料を主体とした現用のエネルギーを用いた場合の本文 ( 1 ) 式を用いて試算した「再エネ電力の有効エネルギー利用比率 i 」の値、 *2;化石燃料枯渇後に、再エネ電力の生産に、自身の再エネ電力のみを用いた場合の「再エネ電力の有効エネルギー利用比率i 」の値、* 3;出力負荷の変動の大きい太陽光および風力発電に、その変動を平滑化するため蓄電設備を用い、その設備の製造コストを再エネ電力の生産設備と同じと仮定した場合のiの値、 *4 ; 同上(*3 )の蓄電設備を用いた場合のio(*2)の値

 

一方で、現用の化石燃料の国際市場価格(輸入CIF価格)を用いて上記の再エネ電力の場合と同様に( 1 ) ~ ( 3 )式を用いて計算した化石燃料使用の火力発電の(有効エネルギー利用比率)の値は、

石炭火力 98.1 %   石油火力 94.8 %  LNG 火力 96.5 %

と試算されます(文献 2 から)から、生産された電力のほぼ全量が生活や産業用に有効に使われるとして、その(有効エネルギー利用比率)の概念が無視されていると考えられます。

これに対して、再エネ電力を用いた場合には、表 1 に見られるように、この(有効エネルギー利用比率)が、火力発電を用いる場合より低くなります。これが、この再エネ電力を、いますぐ現用の化石燃料を使用する火力発電の代替として用いるときに、FIT制度を適用して、市販電力料金の値上げで国民に経済的な負担を強いなければならない理由です。特に、表1 で、太陽光発電での(有効エネルギー利用比率)の小さい値が目立ちます。これは、太陽光発電が、日中しか稼働しないので、その設備容量(kW)当たりの稼働率が小さいことと、設備の製造コストが高いことが、この(有効エネルギーの利用比率)の値を小さくして、結果として、その利用・拡大のためのFIT制度での買取価格を再エネ電力のなかで、当初、42円/kWhと高くせざるを得なかった原因になりました。その後、この設備製造コストが大幅に低下して、FIT制度での買取価格も半分程度に下がりました。このFIT制度を先行実施して、太陽光発電の利用・拡大を図ってきたEUでは、同様な買取価格の低下で、その利用量の増加が停滞し、FIT制度自体が廃止されようとしているようです。国内でも、

いずれ、同じ道をたどることになりますから、FIT制度が無ければ成り立たない再エネ電力のビジネスは、いずれ淘汰されることになるでしょう。

もちろん、地球上の有限の資源である化石燃料の枯渇が迫り、その輸入市場価格が高騰すれば、再エネ電力を利用しなければなりません。しかし、この化石燃料枯渇後の再エネ電力のみに頼らなければならない社会は、成長のエネルギー消費が抑制される社会ですから、その社会に人類が生きのびるためには、再エネ電力の種類別に、より利用比率の大きいものを選択・利用する必要があります。このように考えると、いま、日本で、世界の流れに逆行して利用されている太陽光発電の利用には、未来がないと考えるべきです。

 

⓸ 「パリ協定長期成長戦略案」のなかで、石炭火力発電のフェーズアウトが求められています。しかし、いま、人類にとって、温暖化より怖いのは、成長のエネルギー源として使われてきた化石燃料の枯渇です。世界の全ての国が協力して、化石燃料消費を節減するなかで、最も安価で供給量が安定している石炭火力発電の効率の良い利用が、当面は、重要な役割を果たします

今回の「パリ協定長期成長戦略案」の実行計画のなかで、COの排出量削減を目的とした石炭火力発電のフェーズアウトが要請されています。これは、もともとは、「パリ協定」のためのCOP 21の協議の時、集まった世界の環境保護団体に攻撃の標的とされた日本での石炭火力発電所の新増設計画を対象としたものと考えてよいでしょう。3.11福島第一原発の過酷事故のために、稼働停止を余儀なくされた国内原発が生産していた電力を賄うために、3.11事故後の日本では、節電を徹底する一方で、すでに法定使用年数を終えた石油火力発電設備を稼働するなどして高価な石油火力の発電量を増やしたため、火力発電用燃料の輸入金額が、一時、3.11の前年度(2010年度)の値に較べ、3兆円を超えるほど増加し、この輸入金額を減少させるために安価な石炭火力発電量を増やすとともに、経産省の主導で、石炭火力発電所の新増設が計画されました。この計画に反撥している環境省や、環境保護団体などの意見を反映したのが、この日本における「パリ協定長期成長戦略案」の中の日本の石炭火力のフェーズアウトです。上記(⓶)したように、世界のCO2排出量の3.5 %しか排出していない日本が石炭火力を止めて見ても、世界のCO2の排出削減への貢献は知れたものです。

したがって、「パリ協定」での石炭火力のフェーズアウトを言うならば、それは、2016年の値で、世界の石炭消費量の76 % 、世界の石炭火力発電量の69 % を占めている途上国(非OECD諸国)での石炭火力発電(エネ研データ(文献 1 )から計算値)のフェーズアウトでなければならないはずです。

しかし、先進国に追いつくための安価なエネルギー源を必要としている途上国にとっては、いま、かけがえのないないエネルギー源となっているのが、この石炭です。もちろん、今後、途上国の石炭火力発電量を増やせば、CO2の排出量の増加を招きますが、上記(⓶)したように、私どもが提案する「世界の化石燃料消費の節減」を実行した上での石炭火力の使用であれば、IPCCが訴えるような温暖化の脅威をもたらすようなCO2の排出は起こりません。それだけではありません。いま、世界の電力生産の主力を占めている石炭火力の技術として、日本で開発された超臨界火力発電技術を用いれば、地球温暖化を促すとされる世界のCO2の排出を削減させることができるのです。それは、この超臨界火力発電技術が高い発電効率(火力発電用燃料が保有するエネルギーに対する生産電力エネルギーの比率)を持つからです。さらに、この発電効率の値で言えば、石炭のガス化コンバインドサイクル発電技術では70 % に近い値が期待できます。まだ、コスト面からまだ実用化されていませんが、このような技術の開発こそが、当面の「パリ協定」のCO2排出削減目標を化石燃料消費の節減目標に替えた時に求められるイノベーション(技術革新)になるのではないでしょうか?

 

⓹「パリ協定」のCO2排出削減目標を、私どもが訴える「世界の化石燃料消費の節減」に替えることで、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使いながら、化石燃料枯渇後の再エネ電力のみに依存する平和な世界にソフトランデイングする、これが、人類の化石燃料枯渇後に人類が生きのびる道です

現在のままの世界の化石燃料の消費を継続すると、地球大気中に排出される温室効果ガス(CO2)によって、取り返しのつかない温暖化の脅威が起こるとされ、この温暖化の脅威を防ぐためのCO2の排出を削減するのが「パリ協定」で求められている「脱炭素化社会」の実現でした。しかし、IPCCが主張するこの「温暖化のCO原因説」は、「科学の仮説」ですから、この「脱炭素社会」の実現によって、温暖化の脅威を防ぐことができるとの科学的な保証はありません。

これに対して、現代文明を支えている化石燃料の消費を継続すると、やがて、確実に、その枯渇の時が来ます。このエネルギー資源としての化石燃料の枯渇とは、その資源量が少なくなり、その国際市場価格が高騰して、その供給に国際的な不均衡が生じ、現存する先進国と途上国との間の貧富の格差が一層拡大することです。この国際間の貧富の格差が、いま、大きな問題になっている国際テロ戦争による世界平和の侵害を激化させることになります。すなわち、化石燃料消費の継続による温暖化の脅威より怖いのは、この化石燃料の枯渇による世界平和の侵害と言ってよいでしょう。これを防ぐことのできる唯一の方法は、上記(⓶)した、私どもが提案する「世界の全ての国の協力による化石燃料消費の節減」です。

この「世界の化石燃料消費の節減対策案」が実行されれば、IPCCが主張する、「温暖化のCO2原因説」が正しかったとしても、温暖化の脅威になるとされているCO2の大量排出を防ぐことができます。

すなわち、いま、トランプ大統領以外の世界中の全ての国が批准を約束している「パリ協定」のCO2排出削減目標を、私どもが訴える「世界の化石燃料消費の節減」に替えることで、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使いながら、化石燃料枯渇後の再エネ電力のみに依存する平和な世界にソフトランデイングする、これが、化石燃料枯渇後に人類が生きのびる道です

 

<引用文献>

  1. 久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月
  2. 日本エネルギー経済研究所計量ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧 2019、(財)省エネセンター 2019年

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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