やがて確実にやってくる化石燃料枯渇後の再生可能エネルギーに依存しなければならない世界は、富国強兵のための経済成長に必要なエネルギー資源の奪い合いのない平和が期待できる世界です。この理想の世界に、日本が、そして人類が生き残る道は、人類の恒久的な生存を追求する日本国平和憲法の理想を世界に訴え、それを実現する以外にありません。アベ政権による憲法改正の企てを絶対に許してはいけません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

① 世界の経済成長を支えてきた化石燃料の枯渇の時は確実にやってきます

② 化石燃料枯渇後の再生可能エネルギー(再エネ)電力に依存しなければならない世界は、経済成長が抑制されなければならない世界であることが厳しく認識されなければなりません。

③ 一方で、化石燃料枯渇後の再エネ(国産の自然エネルギー)電力に依存しなければならない世界では、各国の経済力に比例するエネルギー需給能力の違いによる、貧富の格差の無い平和な世界が期待できます。現在の化石燃料エネルギーの配分の不公平により生じる貧富の格差の大きい世界から、この貧富の格差の無い、恒久的平和が期待できる世界に移行するには、私どもが提案するように、世界の全ての国が、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使う「化石燃料消費の節減対策」の実行が必要となります

④ この私どもの「化石燃料消費の節減対策」の実行を可能にする具体的な方法は、いま、世界の全ての国が協力して実行しようとしている「パリ協定」の目標を、地球温暖化対策としてのCO2排出の削減から、化石燃料消費の節減に変えることです。この具体策を、世界の全ての国で実行可能とするには、世界の恒久平和を守るための戦争放棄を規定した「日本国平和憲法」の理想を全世界に広める必要があります。これが、日本が、人類が、化石燃料枯渇後の世界に生き残る唯一の道です

⑤ 日本が、人類が化石燃料枯渇後の世界に生き残るためには、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼し、人類の恒久的な生存を追求する「日本国平和憲法」の保持こそが求められます。いま、アベ政権により進められている、日本を戦争をできる国にするための改憲の企ては、絶対に許されません

 

(解説本文);

① 世界の経済成長を支えてきた化石燃料の枯渇の時は確実にやってきます

産業革命以降、科学技術の力を利用し、化石燃料をエネルギー源として、経済成長を続け、この経済力に支えられた軍事力を使って植民地を拡大していった西欧列強国間の軍事紛争に巻き込まれたのが、この富国強兵の競争に立ち遅れた貧乏な日本にとっての第二次世界大戦でした。西欧列強との間に一線を画して経済力を強めていた米国の参戦を促すことになった日本の無謀な世界大戦への参加が、圧倒的な経済力を持つ連合国の強大な軍事力に敗れたのは、当然の結果でした。この敗戦による経済破綻に陥った日本を、貧困の底から救い、奇跡の高度成長を遂げることができたのは、戦後、全ての国が使えるようになった、井戸を掘りさえすれば自噴する、採掘コストの安い安価な中東の石油のお蔭でした。

しかし、日本だけでなく、世界の経済成長のためのエネルギー源として使われてきた、この中東の石油を含む化石燃料資源量が枯渇に向っています。ここで、資源量の枯渇とは、現在の科学技術の力で、経済的に採掘可能とされる確認可採埋蔵量の値を、その値が査定された年の生産量の値で割って求められる「可採年数」の値で評価することができます。(財)日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー経済統計要覧(以下、エネ研データ(文獻1 )と略記)に記載のBP(British Petroleum) 社のデータをもとに作成した、この「可採年数」の値の年次変化を示す図1 に見られるように、石炭の2016年末における可採年数の異常な急増は、その原因は不明ですが、確認可採埋蔵量の値が、2015年末の値から28 % 近く急増したためです。この石炭を除いて、石油、天然ガスでは、最近、年次減少の傾向を示していると見てよいでしょう。これは、シェールガス・シェールオイルの生産が行われ、シェール革命が言われるようになったなかで、実際に掘ってみると、その採掘費用が高くついて、経済的に採掘可能な確認可採埋蔵量の値が殆ど増えなかったためと考えられます。すなわち、図1に示した「可採年数」の値に見られるように、少なくとも石油、天然ガスについては、よほど思い切った消費量の節減が行われない限り、これらの資源が今世紀中に枯渇することは、避けられないと考えるべきです。

図  1  化石燃料種類別の「可採年数」の年次変化

(エネ研データ(文獻1 )に記載のBP社のデータをもとに作成)

 

② 化石燃料枯渇後の再エネ電力に依存しなければならない世界は、経済成長が抑制されなければならない世界であることが厳しく認識されなければなりません。

このように、確実にやって来る化石燃料の枯渇後に、世界経済を支えるエネルギー源としては、第二次大戦後用いられるようになった原子力エネルギー(原発電力)と、最近、地球温暖化対策のためとして用いられるようになった再生可能エネルギー(再エネ)電力があります。しかし、第二次大戦を終戦に導いた原子爆弾(原爆)のエネルギーの平和利用を目的として、その開発・利用が進められた原発電力の利用では、その電力生産の際に生じる放射性核燃料廃棄物を処理・処分するための「核燃料サイクル」技術の完成の目途が立たないなかで、その実用化は完全に行き詰まっています。さらには、この核燃料廃棄物のなかのプルトニウムが原爆の原料になるとして、原発の利用は、世界の全ての国には許されてはいません。したがって、化石燃料の枯渇後に、世界の全ての国に、すなわち、人類の全てに利用可能なエネルギーは、再エネ電力以外に無いことになります。

ところで、この再エネと呼ばれるエネルギー(電力)は、現状では、再生可能とは言えません。それは、現状の再エネ電力の生産設備の製造には、有限の化石燃料エネルギーが使われているからです。すなわち、再エネ電力生産の設備をつくるためのエネルギーが、この再エネ生産設備で生産されるエネルギー(電力)のみで造られるようになった時に、はじめて、再生可能なエネルギーになるのです。

しかし、この化石燃料枯渇後の再エネ電力のみに依存する世界では、この再エネ生産設備で生産されるエネルギー(電力)から、この再エネ電力の製造・利用の際に使われるエネルギーを差し引いた、(再エネ電力の有効利用量)の(再エネ電力の生産量)に対する比率、私どもは、これを「再エネ電力有効利用比率」とよんでいますが、この値が、再エネ電力の種類別に、定量的に評価され、その値の大きいものから順次利用されなければなりません。私どもによる、この「再エネ電力の有効利用比率」の評価・推定値を表1 に示しました。その値は、再エネ電力の種類別に大きく違いますが、表2に示した化石燃料エネルギーを使った火力発電電力の「有効エネルギー利用比率」に較べるとかなり小さく、この再エネ電力のみに依存する世界は、現在の化石燃料エネルギー依存の世界におけるような経済成長が継続できないことが、厳しく認識されなければなりません。特に、現在、日本で多用されている太陽光発電での「再エネ電力有効利用比率」の値が小さいことに注意する必要があります。

 

再エネ電力種類別の「再エネ電力有効利用比率」の推定・試算値

(私どもの近刊(文獻2 )に記載の私どもによる推定・試算値)

 注; *1;再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の施行時(2012年)に用いられた再エネ電力の実用化の設備費、設備利用条件等の諸定数(資源エネルギー庁発表)の値を用いて推定・試算した値

*2;同上、生産電力の変動を平滑化するための蓄電設備の製造・使用のコストを発電設備の1/2と仮定した場合の「有効再エネ電力利用比率」の推定・試算値  *3;再エネ発電設備の製造・使用に、再エネ電力のみを用いた場合の「有効再エネ電力ネ利用比率」の推定・試算値 *4;同上、生産電力の変動を平滑化するための蓄電設備を用いた場合の推定・試算値

 

表2 化石燃料種類別の火力発電の「有効エネルギー利用比率」の推定・試算値

(私どもの近刊(文獻2 )に記載の私どもによる推定・試算値*1

 

注; *1;エネ研データ(文獻1)に記載の国内の電力需給データをもとに、化石燃料の種類別火力発電の発電効率と、輸入CIF価格の値を用いて計算した値

 

③ 一方で、化石燃料枯渇後の再エネ(国産の自然エネルギー)電力に依存しなければならない世界では、各国の経済力に比例するエネルギー需給能力の違いによる、貧富の格差の無い平和な世界が期待できます。現在の化石燃料エネルギーの配分の不公平により生じる貧富の格差の大きい世界から、この貧富の格差の無い、平和が期待できる世界に移行するには、私どもが提案するように、世界の全ての国が、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使う「化石燃料消費の節減対策」の実行が必要となります

化石燃料枯渇後に利用される再エネ電力の主体は、自然エネルギーともよばれる、自国産のエネルギー(電力)ですから、全ての国が、この再エネ電力を使わなければならなくなる世界では、自国の経済成長のエネルギー源としての化石燃料を奪い合うために軍事力を使うことの無い、平和な世界が期待できます。

問題は、現在の化石燃料消費の配分の不均衡から生じる貧富の格差の大きい世界から、この貧富の格差の無い理想の平和な世界へ、どうやって緩やかに連続的に移行(ソフトランデイング)するかです。これに反して、現状の化石燃料消費の増加が、いままで通りに継続すれば、その国際市場価格が高騰し、それを使えない人や国が出て来ます。結果として、貧富の格差がさらに拡大して、非民主化途上国の一部では、いまでも起こっている内戦が加速されて、いま、先進諸国で大きな社会問題になっている難民の受け入れを拒否する一国主義の台頭が促進されることになります。いや、すでに、以前から、この化石燃料の配分の不均衡による貧富の格差の拡大が、宗教と結びついて、アルカイダに始まるイラク戦争を契機としたIS(イスラム国)による国際テロ戦争にまで発展していたのです。これらのかつて安価だった石油の生産地の中東地域で始まった軍事的な紛争を解決する唯一の方法としては、各国が協力して、残された化石燃料を公平に分け合って大事に使うとする私ども提案「化石燃料消費の節減対策」を実行する以外に無いと私どもは考えます。

 

④ この私どもの「化石燃料消費の節減対策」の実行を可能にする具体的な方法は、いま、世界の全ての国が協力して実行しようとしている「パリ協定」の目標を、地球温暖化対策としてのCO2排出の削減から、化石燃料消費の節減に変えることです。この具体策を、世界の全ての国で実行可能とするには、世界の恒久平和を守るための戦争放棄を規定した「日本国平和憲法」の理想を全世界に広める必要があります。これが、日本が、人類が、化石燃料枯渇後に生き残る唯一の道です

この私どもの提案は、実行不可能な非現実的な理想論だと批判されるかもしれません。しかし、いま、トランプ米大統領以外の世界の全ての国が、協力して実行しようとしているIPCC(気候変動に関する政府パネル、国連の下部機構)が訴える地球温暖化対策としての「パリ協定」が目的としている、温室効果ガス(CO2)の排出削減を、私どもが訴える化石燃料消費の節減に変えることで、化石燃料枯渇後の再エネ電力のみに依存する平和な世界への移行が実行可能となるのです。と言うよりも、この私どもの提言する「化石燃料消費の節減対策」を実行する以外に、IPCCが訴える「パリ協定」の実行を可能とする方法は無いのです。

しかし、上記(③)したように、化石燃料消費の節減では、世界経済の成長を抑制せざるを得ません。これを、日本の場合で言えば、日本経済のさらなる成長を要請するアベノミクスを放棄しない限り、CO2の排出削減であれ、化石燃料消費の節減であれ、「パリ協定」の目標は実現できないのです。以上、詳細は、私どもの近刊(文獻2 )をご参照下さい。

さらに、この「パリ協定」の実行を可能にするためには、世界の全ての国に「戦争の放棄」を要請する必要があります。それは、「パリ協定」の実行が全ての国の協力の下で実行可能とするためには、大きなエネルギーを浪費する国際間の軍事紛争、すなわち、戦争は絶対に許されないからです。さらにこの戦争を防ぐための防衛費として、必要以上のお金を使うことも許されません。具体的には、日本が、第二次大戦の敗戦の反省から、二度と戦争に捲き込まれないようにと誓って創った「日本国平和憲法」の理想を、世界の全ての国に広めて頂くことを強く訴えさせて頂きます。この戦争放棄を規定した日本国憲法は、日本を戦争から守るための最大の武器であるとともに、この日本の平和憲法の理念を世界の全ての国に移行することこそが、人類の生存にとって必要な恒久平和への道なのです。

上記したように、化石燃料枯渇後の再エネのみに依存する恒久平和が保証される世界では、当然、防衛のための軍事費は必要がありません。すなわち、防衛のための軍事費がGDPの何 % が適正だなどの議論が不要になるのです。また、これも、上記(②)したように、再エネ電力のみに依存する世界では、現在の化石燃料エネルギーに依存する世界に較べて、経済成長が抑制される世界ですから、無駄な防衛のための軍事費に使うお金があったら、それを社会福祉のために使うべきです。

 

⑤ 日本が、人類が化石燃料枯渇後の世界に生き残るためには、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼し、人類の恒久的な生存を追求する「日本国平和憲法」の保持こそが求められます。いま、アベ政権により進められている、日本を戦争をできる国にするための改憲の企ては、絶対に許されません

繰り返しになりますが、人類が、化石燃料枯渇後の貧富の格差による争いの無い恒久平和の世界に生き残るための唯一の方法は、いま、残された化石燃料を、世界の全ての人や国が公平に分け合って大事に使うとする私どもの提案「化石燃料の節減対策」を、全ての国の協力のもとで実行しようとしている「パリ協定」の目標を、CO2の排出削減から、化石燃料消費の節減に替えることです。これが、いま、「パリ協定」の実行を訴えているIPCCに授与されたノーベル平和賞に応える道だと言ってもよいでしょう。

(補遺)として日本国憲法の前文を付記しました。この平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼し、人類の恒久的な生存を追求する日本国平和憲法の理想を世界に広めることこそが、日本が、人類が化石燃料枯渇後の世界に生き残る道です。いま、日本を再び戦争に捲き込まれる国にしようとしているアベ政権による憲法九条の改定の企ては、絶対に許してはなりません。

 

(補遺); 日本国憲法 前文

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和の成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民にあることを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。

 

<引用文献>

1.日本エネルギー・経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2018年版、省エネセンター、2018年

2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

 

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