制度開始後まる7年、その目的が達成されないまま、「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」は、実質的に廃止されようとしています。いや、この「FIT 制度」は、温暖化対策としても、化石燃料の枯渇後、その代替としての再エネの利用・拡大のためにも必要がなかったのです

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減のためとして、その利用・拡大を促す目的で導入された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」の適用が、いま、転換点を迎えようとしています。

⓶ 電力料金の値上げを問題にするのであれば、FIT制度の除外対象は、大規模太陽光発電(メガソーラー)だけでもよかったはずでした。このメガソーラーがFIT制度の除外対象にされたことは、再エネ電力のFIT制度適用自体が必要なかったことになります

⓷ 温暖化対策としてのFIT制度は、本来不要だったのです。枯渇する化石燃料の代替としての再エネ電力の利用は、残された化石燃料の価格が高くなってから、その代替としての利用が経済的に有利になってからでよいのです

 

(解説本文);

⓵ 温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減のためとして、その利用・拡大を促す目的で導入された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」の適用が、いま、転換点を迎えようとしています。

朝日新聞(2019/08/06)に、“固定価格買取り 転換点” と報道されました。

これは、地球温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減を目的として、その導入の促進が図られようとしている再生可能エネルギー(再エネ)電力を、現用の化石燃料を用いる火力発電の発電コストに較べて何倍も高い価格で電力会社に買い取らせる「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」が、いま、転換点を迎えているとするものです。

具体的には、このFIT制度の適用で電力会社に購入された再エネ電力の買取金額は、市販電力料金の値上げの形で電力会社により回収されますから、この“家庭・企業の負担増を抑制”するために、経済産業省が、FIT制度を見直すとして、一部の再エネ電力に対してFIT制度適用の除外を有識者会議に諮り了承を得たとされています。

2012年7月にFIT制度が導入されてから、この制度の適用対象とされているのは、太陽光、風力、中小水力、地熱、バイオマスの各発電ですが、今回、このFIT制度の除外の対象とされているのは、大規模太陽光と風力です。同じ太陽光発電には、FIT制度が導入される以前から用いられてきた家庭用の小規模太陽光発電がありますが、この家庭用太陽光発電は、中小水力やバイオマス、さらに、地熱発電などとともに、地域での活用に必要だとして、現行のFITの枠組みを維持するとされています。

ところで、今回、FIT制度の適用除外の対象とされた事業用の大規模太陽光発電(メガソーラー)は、既成の発電設備を購入して設置すれば、簡単に電力生産事業が開始でき、その生産電力が、設備設置認定時の買取価格が、決められた設備の使用期間(寿命、メガソーラーで20年)中保証されるので、安定したリスクの少ない収益事業として、FIT制度の導入直後から、急速にその利用量を伸ばしてきました。

日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献 1 )と略記)に記載のFIT制度導入後6年の2017年度の再エネ電力の発電量と買取金額の値を表 1 に示しました。

 

表1 FIT制度認定6年後(2017年度)の再エネ電力種類別の発電量と買取金額 

(エネ研データ(文献 1 )に記載のFIT制度認定の発電量と買取金額の値をもとに作成)

この表 1 に見られるように、太陽光発電のFIT制度認定の発電量は、再エネ電力合計の72.7 % にも達しています。しかし、昼間しか発電しない太陽光発電ではこの出力変動を調整するための揚水発電や火力発電の補助設備が必要となるので、FIT制度適用の太陽光発電の設備容量が大きくなった地域では、電力会社は、FIT認定の太陽光発電量の全量を買取ることができなくなりました。さらには、FIT制度認定の再エネ電力の買取量が増えるにつれて、表1 に示すように、その買取金額が大幅に増加し、これが市販電力料金の値上がりにつながります。これが、今回、メガソーラーがFIT適用除外の対象にされた理由と考えてよいでしょう。

しかし、もう一つのFIT適用除外の対象になっている風力発電では、事情は全く違います。FIT対象の風力発電には陸上用と洋上用と両者の合計での風力発電の導入可能(ポテンシャル)量は、2011年に発表された環境省の調査報告書の発電可能設備容量の値をもとに、発電量に換算した表2 に示すように、風力発電の導入可能量は現状の国内総発電量の4.7倍(471 %)以上もあります。

 

表 2 「再エネ電力種類別の導入ポテンシャル」の推定値 (環境省報告書の設備容量のデータをもとに発電量に換算して作成したものを私どもの近刊(文献 2 )から再録しました。)

注 *1;環境省調査報告書には記載がありません。国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、用材の生産、使用の残りの廃棄物を全量発電用に利用した場合の推算値です  *2 ;各再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの値の国内合計発電量(2010 年)1,156,888百万kWhに対する比率です。

 

にもかかわらず、先の表 1 に示したように、2017年度の風力発電量は、同再エネ発電量合計の8.9 %しかありません。FIT制度での買取金額も、再エネ電力合計の5.7 %、太陽光発電の1/14 程度にしかなりません。すなわち、この風力発電は、電力料金値上げの理由になっていませんから、FIT除外の対象になる理由を見出すことはできません。

 

⓶ 電力料金の値上げを問題にするのであれば、FIT制度の除外対象は、大規模太陽光発電(メガソーラー)だけでもよかったはずでした。このメガソーラーがFIT制度の除外対象にされたことは、再エネ電力のFIT制度適用自体必要がなかったことになります

エネ研データ(文献 1 )に記載のFIT制度認定の再エネ電力(発電量)の年次変化を図 1 に示しました。 ただし、太陽光発電量は、家庭用と事業用(メガソーラ)両者の合計になっていますが、この 図 1 に見られるように、太陽光発電が、FIT制度導入後の再エネ電力(合計)のなかで、圧倒的な割合を示しています。

 注;再エネ電力種類別発電量年次変化曲線の2017年度の値の上から順に電力種類を記入してあります。

図 1 FIT制度導入後の再エネ電力種類別発電量の年次変化

(エネ研データ(文献 1 )記載のFIT制度認定の買取発電量データをもとに作成)

 

この再エネ電力種類別の発電量に、それぞれの再エネ電力種類別のFIT制度での買取価格を乗じて与えられるのが、再エネ電力の買取金額です。エネ研データ(文献 1 )に記載の再エネ電力種類別の各年度ごとの買取金額のデータを、図1 に示すそれぞれの発電量の値で割って得られるのが、各再エネ電力種類別のFITでの買取価格で、その年次変化を図 2 に示しました。

 注;エネ研データ(文献 1 )に記載の再エネ電力種類別の各年度のFIT制度認定の買取金額を、図1 に示すそれぞれの発電量で割って求めました。

図 2 FIT制度導入での再エネ電力種類別の買取価格の年次変化

(エネ研データ(文献 1 )に記載のFIT制度認定での発電量と買取金額から計算して作成)

 

再エネ電力種類別のFIT制度での買取価格は、各再エネ電力設備のFIT制度適用の認定時に決められ、その値は、国が決めた使用期間中一定に保たれます。一方、科学技術の進歩とともに、再エネ電力の発電コストを支配する設備製造価格が低下するので、再エネ電力の生産事業が収益事業として成立するように決められるFIT制度での生産電力の買取価格が見直され、低下する仕組みになっています。したがって、この図2 に示した再エネ電力種類別の買取価格は、各年度における、FIT認定時の異なった買取価格を平均した値になっています。

この 図2 に見られるように、FIT制度適用での買取価格が最も高く設定されたのが、太陽光発電でした。すなわち、上記(⓵)したように、既成の発電設備を購入して設置し、FIT制度適用の認定を受ければ、電力生産事業が、安定した収益事業となる大規模太陽光発電(メガソーラー)では、FIT制度導入時には、他の再エネ電力に較べて2 倍近くもの高い買取価格が設定されました。その後、世界的な太陽光発電ブームに乗った太陽光発電素子の大量生産で、特に中国では、発電素子メーカーが倒産し、捨て値で売られた中国製発電素子の輸入がEUで禁止され、日本国内のメガソーラーの発電設備にも安価な中国製が使われるなどでメガソーラー電力の発電コストが大幅に低下し、現在の値下げされた生産電力の買取価格でも、FIT制度の認定を希望する事業者数が多くて、メガソーラーの発電量を減少させることができない状態が続いています。それだけでなく、メガソーラー生産事業者が、設備建設用地を森林に求めるようになり、この森林でのメガソーラーの建設による環境破壊に対する地域住民の反対運動が全国的に拡大しています。これが、今回のメガソーラーのFIT制度適用除外につながったと考えることができます。

上記(⓵)のエネ研データ(文献 1 )に記載のFIT認定後の再エネ電力種類別の発電量を示す表 1 に見られるように、2017年度の太陽光発電量は、FIT制度認定の再エネ発電量の合計の72.7 %を占めます。しかし、この太陽光発電量を主体とする再エネ電力発電量(合計)69,416百万kWhの同じエネ研データ(文献 1 )に記載の国内総発電量1,007,471 百万kWhに占める比率は、僅か7 %(=69,416/1,007,471)程度にしかなりません。にもかかわらず、この再エネ電力合計の買取金額は、すでに、2.435兆円(上記(⓵)の表1から)にもなり、もし、現用の電力量を全量再エネ電力で賄うとすると、買取金額の総量は、約35 兆円にもなると計算されます。また、このFIT制度での買取金額が市販電力料金の値上げで回収されていますが、その買取再エネ電力の発電コスト(買取金額を国内総発電量で割った値)は 35.0円/kWhと現在の火力発電コストの5~ 6倍にもなります。また、現在(2017年度)の国内総発電量の全量を現状のメガソーラーを主体とする再エネ電力で賄うと、この市販電力料金の値上幅(FIT制度での再エネ電力買取金額を国内発電総量で割った値)は、2.4 円/kWh(=24,752億円)/(1,007,471百万kWh)になっています。したがって、一家庭で月300 kWhの電力を消費するとして、FIT制度の適用で、これが、月720円の電力料金の値上がりで済むことになります。しかし、これは、FIT制度での再エネ電力導入量が、国内総発電量の僅か7%程度の現状での値ですから、この国内電力を、全量、FIT制度を適用した再エネ電力で賄うとしたときの電力料金は、2.4円/kWhの(1/0.07)倍の34.5円/kWhにもなってしまいます。したがって、化石燃料枯渇後の将来、この化石燃料を用いる火力発電の発電量の全量をFIT制度適用の再エネ電力で賄うことはできないとして、いま、その主力となっているメガソーラー電力がやり玉に挙げられ、上記(⓵)したように、FIT制度除外の対象とされたと考えるべきです。

しかし、そうであれば、いま、化石燃料を使用する火力発電の代替としての再エネ電力のいますぐの利用・拡大のためのFIT適用自体が問題にされるべきで、その全面的な即時廃止が求められなければなりません。

 

⓷ 温暖化対策としてのFIT制度は、本来不要だったのです。枯渇する化石燃料の代替としての再エネ電力の利用は、残された化石燃料の価格が高くなってから、その代替としての利用が経済的に有利になってからでよいのです

地球温暖化対策として、CO2を排出しないとされる再エネ電力の利用を促すために、EUにおいて先行して導入されたFIT制度が、日本に導入されるようになったのは、民主党政権の菅直人首相の下での2010年の暮れ頃でした。電力料金の値上げにつながると反対していた当時の経団連の米倉弘昌会長をはじめ産業界はこの制度に反対していました。もともと、このFIT制度に対して、産業界だけでなく、上記(⓶)したように一般国民の、特に、所得の低い人々に大きな経済的な負担を強いる不条理な制度だとして反対していた私どもは、このFIT制度の法制化に国民の意見を聴取するパブリックコメントに応募して反対意見を述べるとともに、この制度を検討する小委員会の長をなさっておられた先生に、同窓のよしみを頼りに、二度にわたって、私的に制度設立の停止への努力をお願いしましたが、これらのお願いには何のご返事も得られませんでした。その後、政府(資源エネルギー庁)は、電力消費量の多い産業については、電力料金を割引くことで産業界を説得して、このFIT制度の導入を閣議決定を行ったのが、奇しくも2011年3月11日の福島原発事故当日の午前でした。この原発事故の処理に苦労した後、脱原発に転じた菅直人首相は、首相の座との引き換えで、原発電力の代替に再エネ電力を導入するために、是非とも、この法案を国会で通して欲しいとの強い要請があって、FIT制度が施行されたのが、翌2012年7月でした。

しかし、地球温暖化の原因となるCO2を排出しない再エネ電力の利用のためにも、また、大きな事故リスクのある原発電力の代替としての再エネ電力の生産のためにも役立たないだけでなく、電力料金の値上で国民に経済的な負担を強いるFIT制度は、導入の必要が無いことは、私ども科学技術者の目から見れば余りにも明らかでした。したがって、もともと、このFIT制度の施行に反対だった私どもは、このFIT制度の施行後、17ヶ月の後(今から5年前)に資源エネルギー庁により発表されたFIT制度の施行状況のデータをもとに、このFIT制度は、即時廃止されるべきだとして、次のような意見を、国際環境経済研究所のウエブサイトに発表させていただきました。

久保田 宏:再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度の即時廃止を、ieei、2014/08/28

久保田 宏;再エネ固定価格買取制度の見直しでなく、廃止を訴えて欲しかった
書評;産経新聞金曜対談「孤影価格買取制度見直し 国民負担の抑制がが大事、ieei、2014/09/04

この私どもの主張の正当性は、本稿で上記(⓵)したように、今回の資源エネルギー庁による「大規模太陽光発電および風力発電のFIT制度適用除外」の措置で明確に支持されました。

さらに、この私どもの主張は、最近、同じieei に発表されたIPCCの第6次評価報告書総括代表執筆者の杉山太志氏の次の論考でも裏付けられていることを付記します。

杉山太志;「温暖化物語」を修正すべし、ieei、2019/07/01

 

<引用文献>

  1. 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;エネルギー・経済統計要覧、省エネルギーセンター、2008 ~2019年
  2. 久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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