国民の願いを聞き入れた脱原発の歩み 韓国と台湾における民主的な政治による脱原発宣言に学ぶ

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・事務局長 平田 賢太郎

(要約)

① 台湾の蔡英文総統に続いて、韓国文在寅新大統領が脱原発を宣言しました。この両国で政治が脱原発を決断しなければならない理由は、日本にこそ存在します
② 3.11以前の日本、および、現状の韓国、台湾の化石燃料資源量換算の一次エネルギー消費のなかの原発電力の比率は15 % 程度で、経済成長を抑制すれば、原発無でも国民の生活と産業を支えるエネルギーは確保できます
③ 韓国、台湾での温暖化対策に捉われない安価な石炭火力主体の電源構成が、両国での脱原発を可能にしていると見てよいと思います
④ 日本の原子力エネルギー政策は、原発保有の継続による大きな経済的な負のリスクを次世代送りにしたまま継続されてきたし、これからも継続されることになります
⑤ 韓国、台湾の脱原発宣言は、20世紀末の原子力政策が残した次世代国民への負の遺産を少しでも減らすための民主政治家の勇気ある決断と言ってよいでしょう。これに対して、日本での政治権力の維持を目的としたアベノミクスのさらなる成長戦略のための原発の再稼働は、次世代国民の蒙る災厄リスクを際限もなく膨らませることになります。恐ろしいことです。

 

(解説本文)

 ① 台湾の蔡英文総統に続いて、韓国文在寅新大統領が脱原発を宣言しました。この両国で政治が脱原発を決断しなければならない理由は、日本にこそ存在します

朴前大統領の罷免により、5月9日に新しく韓国の大統領に選ばれた革新系の文在寅氏が、6月19日、韓国の脱原発宣言を行ったことが報じられました。
日本エネルギー経済研究所編のEDMCエネルギー経済統計要覧(以下エネ研データ(文献1 )と略記)に記載のIEA(国際エネルギー機関)のデータをもとに作成した図1に見られるように、韓国の原子力エネルギー政策は、日本より約10年遅れで、その開発が進められました。この韓国では、つい最近、40年の設計稼働期間を経過して運転を停止した古里原発1号機を含めて25基の原発を保有し、原発の発電量は国内総発電量のなかの約30 % を占めています。
この現状のなかでの今回の文新大統領による脱原発宣言は、これまで、極東で原子力エネルギー政策で先進的な役割を果たしてきた日本での3.11福島の過酷事故を直視したうえでの、原発の安全性についての懸念から、脱原発を訴えるようになった多くの韓国国民の要望に応える先の大統領選の選挙公約の実行です。具体的には、原発電力を重視した韓国の在来のエネルギー政策を破棄し、前政権による原発の新設計画を白紙に戻すとともに、設計使用期間(寿命)を終えた原発を廃炉にすることです。文氏は、その理由として、「原発は、安全でも、安くも、環境にも優しくない」としています。
この韓国に先立ち、本年1月11日、台湾でも蔡英文総統も、日本列島に続く台湾の地理的な事情から、地震による原発の安全性への懸念が大きいとして、脱原発を決めています。すなわち、2025年までに、全ての原発を廃炉にするとしています。図1に示すように、韓国とほぼ同じ1980年以降に開発が進められた台湾の原発の大部分は、2025年には、その設計稼働期間40年を終えることになりますから、この台湾の脱原発政策は、韓国のそれとほぼ同じだと考えられます。

注; 原発発電量は、化石燃料資源の消費量(石油換算量)で表しました
図 1 日本、韓国、台湾の原発電力発電量の年次変化
(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに作成)

韓国にしろ、台湾にしろ、過酷事故を引き起こした日本に先がけて、エネルギー政策のなかでの脱原発を宣言できたのには、原発無でも、それぞれの国のエネルギー需要を賄うことができるとの条件があったはずです。実は、この条件は、3.11 以降の日本における原発ゼロでエネルギーが賄えている条件と共通しています。
さらに、この条件のなかで、脱原発を宣言するのには、両国の政治が、両国にとっての隣国日本における3.11福島の事故の厳しい現実を直視することで、原発の保有が自国にとって、特に、次世代国民にとって、大きな災厄をもたらす恐れが大きいとの厳しい認識に基づいた、国民重視の正しい政治的な判断が、今回の両国の勇気のある脱原発の宣言であったと考えるべきです。すなわち、この韓国、台湾のこの勇気ある政治的な決断に学ぶことこそが、いま、3.11事故の後始末さえ出来ないなかで、原発の再稼働を進めようとしている日本が学ぶべき政治の姿勢でなければならないと私どもは考えます。

 

② 3.11以前の日本、および、現状の韓国、台湾の化石燃料資源量換算一次エネルギー消費のなかの原発電力の比率は15 % 程度で、経済成長を抑制すれば、原発無でも国民の生活と産業を支えるエネルギーは確保できます

日本、韓国、台湾3国、それぞれの化石燃料資源量基準の一次エネルギー消費(原子力)の年次変化は、上記の図1に見られるように、2000年代に入り、ほぼ、飽和状態にあります。日本の場合は、3.11以前に、すでに、明確な減少傾向にありました。
また、3.11福島の事故により、日本のエネルギー供給の危機が起こったかと言えば、そうとは言えません。確かに事故の直後、東京電力管内の一部地域で、電力供給のひっ迫から緊急停電の要請などがありましたが、これは、原発電力とともに、電力供給の主体を担っていた火力発電設備が地震による被害を受けて、発電を一時停止していたためです。
ここで、日・韓・台 3 国のエネルギー需要について比較して見るために、エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータから、それぞれの国の一人当たりの化石燃料資源量換算の一次エネルギー消費量の年次変化を図 2 に示しました。

図 2 日本、韓国、台湾の一人当たりの一次エネルギー消費量の年次変化
(エネ研データ(文献 1 )記載のIEAデータをもとに作成)

この図2に見られるように、日本では、今世紀に入ってから、はっきりしたエネルギー需要の減少傾向を見ることができます。そのなかで起こったのが3.11福島の事故による原発電力の喪失です。しかし、この原発電力の喪失による日本の一次エネルギー消費の減少傾向の加速は、ほんの僅かと見てよさそうです。
一方、先の図 1 に見られるように、日本に較べて、約10年遅れて原発電力の開発・利用を進めてきた韓国と台湾でも、原発電力量は2005年頃以降、増加を停止しているように見えます。
これら3国における原発電力の需要の停滞の原因として考えられるのは、これら原発の保有国においても、経済成長を支えているエネルギー(化石燃料資源量換算で表される一次エネルギー)のなかの原子力エネルギー(一次エネルギーで表される原発電力)の比率が一定の制約を受けるからです。
その理由は二つあります。その一つは、原子力エネルギーは、現状では、電力にしか変換、利用されていません。現代文明社会を支えている一次エネルギーのなかの電力の比率の値(一次エネルギー基準の電力化率で、通常使われている最終エネルギー基準の電力化率の値とは違います)は、国により違いがありますが、日・韓・台の3国で、2014年の値は次のように与えられます(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに計算)。
日本; 49.3% 韓国; 46.6 % 台湾; 50.6 %
もう一つ、電力のなかのエネルギー源種類別の発電量の総発電量に対する比率で表される電力構成のなかの原子力エネルギーの比率の制約です。すなわち、需用負荷の変動に弱い原発電力は、現在、需要負荷の変動に強い火力発電の電力でバックアップされています。2014年の一次エネルギー基準の電源構成のなかでの原発電力の比率は、
日本(2010年);33.6 %  韓国; 33.3 % 台湾; 26.1 %
と計算されます(エネ研データ(文献 1 )に記載のIEAデータをもとに計算した値)。
この(一次エネルギー基準の電力化率、約50 % )と(電源構成ののなかの原発電力の比率、約30 % の積、約15 %(=0.50×0.30)として与えられるのが、エネ研データに記載されているIEAデータ(一次エネルギー消費)のなかの同(原子力)の値として計算される、一次エネルギー消費のなかの原子力の比率の値です。3ヶ国における、この値の年次変化を図3に示しました。

注;各国の(一次エネルギー消費(原子力))/ (一エネルギー消費)として計算
図 3 日本、韓国、台湾の一次エネルギー消費のなかの同(原子力)の比率の年次変化
(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに計算し作成)

この図3 に見られるように、経済成長のエネルギーとしての原子力エネルギーの寄与は、15 % 程度と決して大きくないことが判ります。これが、日本において、3.11以降の現在、原発電力無でエネルギー需要を賄えている理由になっていますし、韓国、台湾両国の政府が、今回、脱原発を宣言することができた理由と考えるべきです。

 

③ 韓国、台湾での温暖化対策に捉われない安価な石炭火力主体の電源構成が、両国での脱原発を可能にしていると見てよいと思います

エネ研データ(文献 1 )に記載のIEAデータから、2014年の日・韓・台3国の電源構成を表 1に示しました。ただし、この電源構成は、通常用いられている発電量基準の電源構成の値です。したがって、原子力についての上記(③)の一次エネルギー基準の電源構成の値とは違って、韓国で28.6%、台湾で16.5%と小さくなっています。日本でも3.11事故前の2010年の値は25.9 % でした。この電源構成のなかの原子力の比率の低い値をカバーするために、韓国では71.1 %、台湾では79.4 % が火力発電で賄われられ、そのなかで安価な石炭火力の比率が韓国では42.5 %、台湾で48.7 %となっています。これに対して、日本では、同じ2014年、原発電力が失われて、火力発電の比率が86.5 %と高くなっているなかでも、石炭火力の発電量比率は33.6 %と低く、その代りに、高価な石油や液化天然ガス(LNG)が火力発電用の燃料として用いられることで、世界一とされる高い電力料金が国民に強いられています。

表 1 日本・韓国・台湾の電源構成(発電量基準)%、2014 年
(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに計算して作成)

注; *1 ; 新エネともよばれる再エネ電力、

日本が、どうして、こんなことになっているかと言うと、先ず、日本が高度成長を遂げた1960年代から1970年代の初期には、中東から輸入される石油の値段が石炭よりかなり安かったから、新設の火力発電所用の燃料が石油で賄われました。もったいないことに、原油の生焚きまで行われました。1993年以降に起こった石油危機で、輸入石油の値段が一挙に一桁以上も高くなり、その対応策として、発電用燃料を石油から石炭に変換しているなかで、1990年代以降、地球温暖化問題がでてきて、温室効果ガスのCO2の排出量が大きい石炭が嫌われ者になりました。結果として、火力発電の代わりにCO2を排出しないとされる太陽光発電などの再生可能エネルギー(再エネ)電力の開発・利用に大きな期待が集まりました。しかし、国の補助金の支給による太陽光発電の利用・普及には大きな経済性の壁があり思うように進みませんでしたので、火力発電用の石油の代替としての安価な石炭の代わりに、温室効果の少ない石炭より高価なLNGが火力発電用に使用されるようになりました。これが、表1 に見られるように、世界の趨勢と大きくかけ離れた、経済性を無視した特異な日本の電源構成となっています。因みに、電源構成のなかで、こんな高い比率で石油を使っている国は産油国以外にはありません。もったいないことです。
一方、経済の高度成長が日本より10年以上遅れた韓国と台湾では、火力発電用の安価な燃料は初めから石炭でした。この石炭が嫌われ者になった1990年代以降も、地球温暖化対策用の再エネ電力は高価で使えなかったので、結果として、表 1 に見られるような石炭を主体とする世界のそれに近い電源構成が現在に至っていると見てよいでしょう。
すなわち、本来、エネルギー問題とは無関係にCO2の排出削減が要求されている地球温暖化対策としての再エネ電力の利用に捉われないで、当分の間は、原発電力を安価な石炭火力頼ることで、韓国、台湾の両国が、脱原発に踏みきったと考えるべきです。

 

④ 日本の原子力エネルギー政策は、原発保有の継続による大きな経済的な負のリスクを次世代送りにしたまま継続されてきたし、これからも継続されることになります

ところで、いま、日本で原発電力の殆どが失われたままになっている状態のなかで、日本経済は、エネルギーに特別の不自由をしているとは言えません。そのなかで、いま、一時的に失われている原発電力の代替として、再エネの利用開発が、電力料金の値上げで国民に大きな経済的な負担をかける理不尽な「再エネ固定価格買取制度(FIT制度)」の適用によって進められています。いま、日本で、安倍政権は、この再エネ電力の利用のコストが、3.11以後に運転を停止している原発の運転、利用のコストより高いことを理由にして、何が何でも運転停止中の原発の再稼動を進めようとしています。
本来、再エネ電力の利用は、現在、経済成長の主役を担っている化石燃料資源の枯渇が近づき、その価格が高くなって、再エネ電力を利用する方が経済的に有利になってから利用すればよかったはずです。すなわち、原発電力の代わりに化石燃料、なかでも、安価な石炭を使用した火力発電を利用できる現状では、今すぐ、高価な再エネ電力を用いることを脱原発のための必要条件とすべきではなかったのです。
原発の発電コストの大きな部分は、原子炉及びその関連の設備償却のコストとされていますから、すでに建設を終えた、原発の再稼働による発電コストは、原発代替の火力発電の新設のコストに較べても、安価になると期待できます。しかし、ここで、見落としてはいけない再稼働のコストが3種あります。
その第一は再稼働のための新しい安全基準を守る目的でつくられた設備の安全性の強化に必要なコストです。これは、確かに再稼働によって得られる電力生産の利益に較べれば、さほど大きいとは言えないかもしれません。しかし、図1から推察できるように、日本の原発のなかには、再稼働しても、電力生産の利益が得られる前に、設計時に決めた使用年数40年を迎えるものが多数あるはずです。2017年7月、再稼動のために必要な安全対策のための設備投資のコストが、すでに3兆8,280億円に達したと報道されています(朝日新聞2017/7/7)。いま、安全対策のための設備投資コストが7円/kWh以下であれば、再稼働の採算が採れるとして、再稼働による発電量を計算してみると、その発電総量は、547 TWh(=(3,828×109円)/( 7円/kWh))と計算されます。この値は、後述する現存の原発を設計使用年数40年まで稼働させた時に得られる概算推定発電可能総量 1,953 Mtoe(百万石油換算トン)を、IEAデータの一次エネルギー消費(原子力)の発電量換算係数 0.26 Mtoe/TWhで割って計算される発電可能総量7,512 (= 1,953 / 0.26 ) TWhの僅か7.3 % にしかなりません。すなわち、設計使用年数40年を守るとした時、再稼働により採算の取れる原発の数は現存の原発の一割にも満たないことになります。このような計算が妥当なものであるかどうかは別にしても、原発の再稼働に当たっては、このような試算を行った上で、採算のとれるものについてのみ稼働が許されるべきです。
原発再稼働のコストの第二は、今までの原発の発電コストのなかに含まれていなかった核燃料廃棄物の処理・処分のコストです。国内に処分地が見出せない核燃料廃棄物は、止むを得ず、六ケ所村の再処理工場内、および、各原発立地の敷地内に一時保管されていますが、これらの保管場所はすでにほぼ満杯だと聞いています。したがって、原発を再稼働するためには、新たに、保管設備を設置しなければなりませんが、再稼働を行わなければ、そんな設備投資は不要になります。
第三の問題は再稼動による安全性のリスクに伴うコストです。これは、福島の例に見られるように、殆ど金額として見積もることのできない大きなコストです。科学技術の視点からの原発についての絶対の安全は、原発を保有しないこと、すでにある原発はそれを稼働させないことです。
日本において、原発を再稼働させなければ、上記の3種の原発再稼動関連のコストは一切不要になります。もちろん、原発再稼働を行わないことで、国民の生活と産業用に必要な電力が不足するのであれば困りますが、少なくとも、現状の日本では、そのような心配は不要です。
結局、原発の再稼働は、日本経済にとって不必要なアベノミクスのさらなる成長のための財政出動に必要なエネルギーを得るために原発電力を生産、販売してきた在来の一般電力事業者(旧電力会社)の目先の利益を守るために、その方法が確立されていない核燃料廃棄物や廃炉の処理・処分の費用、および万が一の事故に伴う費用とともに、大きな不安を次世代の国民の負担として先送りするものです。すなわち、原発の再稼働は次世代の国民に対する政治権力者の許し難い犯罪行為以外の何ものでもありません。

 

⑤ 韓国、台湾の脱原発宣言は、20世紀末の原子力政策が残した次世代国民への負の遺産を少しでも減らすための民主政治家の勇気ある決断と言ってよいでしょう。これに対して、日本での政治権力の維持を目的としたアベノミクスのさらなる成長戦略のための原発の再稼働は、次世代国民の蒙る災厄リスクを際限もなく膨らませることになります。恐ろしいことです。

日本と違い、韓国と台湾では、いまでも、電力生産のなかの一定割合が原発電力で賄われています、そのなかで、国民の多数が、日本における3.11福島の過酷事故が自国でも起こり兼ねないとの懸念から脱原発を政治に訴えてきました。今回の、両国政府の脱原発の宣言は、両国の次世代国民の利益を優先させた民主国家における勇気のある政治的な決断であったと思います。
しかし、両国とも、現存の原発を直ちに、廃炉にするとはしていません。これは、3.11の直後に脱原発を決めたドイツと同じ対応です。したがって、原発の事故リスクは残ります。特に問題になるのは、日本と同じに、原発の発電コストに含まれていないと考えられる核燃料廃棄物の処理・処分の費用が次世代送りになっていることです。
いま、この核燃料廃棄物の量が原発電力の総量に比例するとして、各国の原発発電量の年次変化を示す図1から、それぞれの国の、その値を概算してみます。
先ず、日本で、今後、原発の再稼働が行われないとしたときの、これまでの原発の発電総量は、図1 の一次エネルギー消費(原子力)の年次変化の曲線の積分値として2,080百万石油換算トン(Mtoe)と概算されます。これに対して、もし、建設された全ての原発が設計使用年数の40年稼働したとした時の総発電量は、原発の年間平均稼働率を80 %と仮定して、
(図1のピーク発電量 85 Mtoe/年)×(40年)/ ( 0.80 ) = 4,250 Mtoe
と概算されます。この値から、2011年までの発電量を差し引いた発電可能量2,170 (=4,250 – 2,080 ) Mtoe のうち、3.11 事故の影響で、1 割が稼働できなくなったとして、残りの原発の再稼働による発電可能量は 1,953(=2,170×0.9)Mtoeと概算されます。すなわち、処理・処分しなければならない核燃料廃棄物量が、現存の2 倍近くになります。
一方、韓国では、新規の原発の建設は認めず、また、40年以上の稼働は認めないとして、図1 から、上記同様にして概算される原発電力の総発電量は1,935 Mtoeとなり、上記の日本で再稼働が許されなかった場合と余り変わらない値になります。また、台湾では、2025年までに、全ての原発を廃炉にするとしていますので、この場合の原発発電総量は506 Mtoeと概算され、現有の全ての原発を設計使用年数40年で廃炉にした場合の値540 Mtoeと余り変わりませんが、上記の日本の原発の再稼働が許されなかった場合の約1/4に止まります。
これら、核燃料廃棄物の処理・処分の費用は、両国にとっても次世代送りになる大きな経済的な負担になりますが、両国は、日本と違い、すでに、政府が脱原発を宣言しています。したがって、両国政府は、今後、この原発関連の次世代負担を減らすためにも、また、事故リスクを小さくするためにも、現在の台湾では2025年、韓国では2045年頃と見積もられる脱原発実現の目標期限を、国民との合意により、前倒しすることもできるはずです。
すなわち、韓国、台湾の脱原発宣言は、次世代国民の要望に応えるための民主政治国家の勇気のある決断と言ってよいでしょう。これに対して、日本での政治権力の維持を目的としたアベノミクスのさらなる成長のための原発の再稼働は、この次世代負担を際限もなく膨らませることになります。恐ろしいことです。

 

<引用文献>
1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2017, 省エネルギーセンター、2017年
2.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉——科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する——電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月5日

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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