すべての人生が輝く縮小社会の作り方 高齢者・障碍者が健常者とともに住みやすい「もったいない社会」

2017年1月  田村八洲夫

1. 序 言

【成長から縮小へ】
20世紀は石油文明が発展・成熟した時代。世界も日本も、エネルギー収支比の高い安価な石油(1バーレル20ドル程度以下)で経済規模が拡大し、文明構造が高度化した。21世紀になって間もなく、05年に世界の石油生産がピークプラートーに突入して今日に至っている。その間、主要国ではマネーゲームに依存しても実体経済の縮小が常態的になり、貧困格差による中間層の縮小、地球環境収容力の縮小、国によっては人口減少が進んでいる。
この傾向は、ローマクラブ「成長の限界」(1972年刊)の予測と大局的に符合するものと考える。「成長の限界」では、石油・石炭・鉱物を含む地下資源の生産、および工業生産、農業生産は、すべて2020年ころにピークアウト、そして地球環境汚染は2035年にピークに達し、世界人口は2050年まで増え続けて100億人にいたり、それぞれが縮小していくとの予測である。地下資源と工業生産のピークアウトが同調することは分かりやすい。
同時に石油依存の農業生産もピークアウトする
のも明らか。すでに世界の大農業生産地域の地下
水盆の縮小が著しい。そして遺伝子組み換え作物では持続可能な農業はできない。環境汚染の急増によって生物の絶滅危惧種が急増し、食物連鎖の頂点の人類の生存が不安定になる。

図1:ローマクラブ「成長の限界」(1972年刊)の中の予測図(編集後の図を引用)

 

2、人類がレッドリストに

【人類生存危機の到来】
予測では、2020年から21世紀の第二四半期の30年間は、どんな世界になるか。それは、生存に欠かせない食料・エネルギー・消費財の生産は縮小するが、人口は2050年まで増加するということ、そして地球生態系の変質も加わって、「人類生存危機」に直面することになる。年代の予測にズレが生じても、いずれ「人類生存危機」が露わになり、人類は飢餓恐怖の中で生き残りを賭けて食料を奪い合い、殺し合うのではないか。ジェノサイドに核兵器が飛び交うことになれば、地球は人類どころか、白亜紀末に次いで生物絶滅に至ろう。
残された年月は限られている。我々の子と孫の時代である。
国によって、社会縮小の主なファクターがなんであるかは異なる。多国籍企業を利するグロバリゼーションでは何の解決の糸口が見出せない。国々によって風土も歴史も異なるがゆえに、自国で「縮小社会」の形を作っていくのが近道である。米国は「米国第一」を掲げるトランプ大統領に率いられるが、民主党サンダース候補の草の根的な支持も、路線は異なるものの、米国社会が既成の体制を変革する時代に入ったことの現れといえる。EU諸国も自国第一の傾向を強めよう。グロバリゼーション(TPP)と日米同盟深化に傾倒し、国民とともに「日本第一」を探求しない為政者の今日の選択は間違っていないだろうか。

【生存危機の日本の課題】
日本の「成長の限界」の特徴は何だろう。2008年人口ピーク1億2800万人になった。そして少子高齢化は変わらず進んでおり、それ以上のスピードで減少する生産労働人口が全人口の食糧・エネルギー・消費財を充足させなければならない。
しかし、「人類生存危機」の時代になったら、食糧、エネルギー、消費財の輸入依存が困難になろうことは、誰もが予感することである。食糧とエネルギーの自給自足を急がねばならない。人類史の中で化石エネルギーはせいぜい300年の一過性のもの。地域自然エネルギーの開発利用を積み重ねるのが人類の本来的な姿であろう。大都市過密と地方過疎という石油文明によって極端に歪んだ国土利用の現状は、食糧、エネルギー自給と並行して是正されるべきことである。
生産労働人口によって、高齢者、障碍者を含む全人口の健康な生活を守るには、食料・エネルギー・消費財を継続的に生産できるように科学技術による「生産人口一人当たり生産力」を不断に向上させること、しかも長く使えるモノを生産する。浪費と贅沢を抑えて「もったいない生活」を取り戻すことである。そして、国民すべてに「衡平な生産物分配」できるシステムを構築することが必要である。

人類生存危機に日本の生き残りの道を設計する手順を以下のように考える。

1 日本列島の地形と風土正しく理解し、過密過疎解消の国土利用再構築の基礎とする。
2 日本の全人口、および生産労働人口の縮小を予測する。
3 日本の100%食糧自給について、シミュレーションする。
4 日本の自然エネルギー100%自給の方法を示す。
5 日本の科学技術の進歩による「一人当たりの生産力」向上を予測する。
6 科学技術の進歩による「技術的失業」に対する労働移動の社会的システムを作る。
7 国民へ「衡平な生産物分配」できる流通システムを構築する。
8 高齢者・障碍者、健常者のすべてが生き生きする社会の現実的なイメージを提案する。

本稿では、上述の項目のうち、②の予測を基本にして、⑤~⑧について試論する。

 

3.災いが福に転じる日本の人口縮小

【生産労働人口縮小の特徴】
今日から2050年に向かって、日本の人口構造、中でも生産労働人口はどのように変化していくと予想されているだろうか。「変化」には、2つのファクターがある。ひとつは、少子高齢化の進行による総人口と生産労働人口の縮小であり、もうひとつは、ロボット・人工知能による「技術的失業」による生産労働人口の大幅な縮小である。

図2は、少子高齢化の進行による総人口と生産労働人口の推移予測のグラフである。総人口は、2008年にピークを打った後、2015年に1億2千7百万人、2025年に1億2千万人、2050人に1億人を割り込むと推計されている。そして生産労働人口は、2015年の7700万人が、25年に7千万人余り、50年に5300万人余りに縮小する。そして、非常に特徴的なことは、2050年に向かって総人口の減少が生産労働人口の減少によるものであり、従属人口の増減は小さいく、4千万のオーダーで推移する。明らかに、少子化が生産人口の維持回復を阻害している。

【ロボット・AIが日本を変えるか】

次に、図3はロボット・人工知能の普及がもたらす「技術的失業」による大幅な生産労働人口の縮小の推移を示す。2015年に野村総研が公式に発表した研究報告の内容を筆者が図化した。研究報告のポイント「技術者失業が、2035年には2015年の生産人口の約半分に及ぶ可能性」を表現したものである。もし日本の各産業分野でロボット化・AI化が非常に進めば、今の生産力維持するAI生産人口は20年後には生産人口は4千万人で事足りることになる。そして3千万人に及ぶ技術失業者という「災い」をどうするか、「福」に転じることができないかどうかが、日本を変えるテーマになる。

【ロボット・AIはライフスタイルを変える】

図4は、総人口を扶養するために「生産労働人口」、およびロボットとAI普及による「AI生産労働人口」による生産倍率(2015年が基準で相対的)を、筆者が図化したものである。2015年の倍率は夫婦共働きで子供一人がイメージされる。AI生産労働人口が「技術的失業者」を含む全人口を養うに必要な生産力を確保することになる。そのAI生産人口一人当たりの生産力倍率は、2035年に3倍に至ることになる。夫婦共働きで子供4人の養育がイメージされる。または労働時間を短縮して、子供2人程度を養育しながら自由時間を活かす夫婦像がイメージされる。

4.ロボット・AIが導く経済革命
【時代の申し子】
科学技術の発展は「創造性ある精神構造」を有するホモサピエンスの成せる本質である。その知恵の限りない進化が、ロボット・AIの普及という時代になってきた。それが、人類文明が「拡大から縮小」に転換する時代、「人類生存危機」の時代と重なりあっている。ロボット・AIは人類の創造性の累積が産んだ「時代の申し子」といえるのではないか。この機に、人類の知恵が人類救済の創造性を発揮するには、経済学用語でいう「生産力」と「生産関係」がまともにリンクして機能するものでなければ、「人類生存危機」、日本国内に焦点を当てれば「高齢化・生産人口減少の危機」を、世界と日本は乗り越えられない。

【生産力の質の向上】
国家・社会が、高齢化・生産人口減少に負けないための生産面での条件として、2つある。ひとつは「財の生産量の向上」であり、もうひとつは「財の耐久性の向上」と考える。
「財の生産量の向上」とは、全人口すべての人々の生活に必要な財(商品やサービス)を十分にまかなうことができるだけの国内の生産能力を強化維持することである。生産力が十分にあれば、高齢化が進んでも人々が貧しくなる心配はないし、少子化を克服することができる。科学の発展と技術革新で、全ての産業で生産力向上を確保していけば、財の充足を継続的に図っていくことができる。
日本の生産力の場合、工業製品の消費財を確保する能力は十分にあると考える。しかし、最も大事な食糧自給、エネルギー自給が余りにもお粗末なのが現状である。工業製品の輸出に溺れた経済政策の付けである。食糧とエネルギーは、ともに国民生活の安全保障の基盤をなすものであり、どのように自給化していくのか、ポスト石油文明の日本にとって、100年、500年、さらに先を見通した国民的な課題である。
ロボット・AI技術は、「財の生産量の向上」のために、生産力の革命的な質的転換をもたらすものと考える。少子高齢化で労働人口が減っても、高度なロボットとAIが開発されて人間の身体と技能の代わりに働けば、図4の生産力倍率から推量できるように、全人口すべての人々の生活に必要な財を生産しうる生産力を継続的に維持できると考える。
次に、「財の耐久性の向上」とは、財の耐久性を延ばし、良いものを長く使うということである。消費財の中でも、耐久消費財の住宅、家具、自動車、家電、水回り設備などの品質と耐久性を高めることが基本だと考える。すなわち大量生産・大量消費・大量廃棄を価値観とする浪費社会と決別する。耐用年数が2倍になれば、生産能力は半減できる。エネルギーと資源を節減し、本物のモノづくり、人々の知恵の発揚をベースにした「もったいない社会」に転換することであると考える。

【生産関係の転換】
資本主義あるいは市場主義経済において、企業は収益、とりわけ「株主利益が第一」で動く。そのために企業経営にとって生産コストの削減、とりわけコストウェイトが比較的大きな人件費削減が大きな関心事である。
今世紀になって人件費の削減は、主として正社員の削減と非正規社員への置き換え、労働規制の緩和と労働強化によってなされてきており、同時に大量生産製造工程のオートメーション、ロボット導入も進められてきた。そしてここへきて高度なロボットとAIの全産業分野への導入が現実的に可能な時代になってきた。
企業活動にロボット・AIが導入され生産力向上を図られると、日本の場合、2035年までの20年間に、最大3000万人の技術的失業者、年平均で150万人がでることになる。とても各企業内の人事異動で処理できる員数でない。また各地のハローワーク任せで個別処理できる員数をはるかに越えており、社会に乱れと不安が増すだけである。
失業者の増加は消費者の減少であり、企業が生産(供給)しても消費(需要)が伴わないので経済が回らなくなる。資本主義経済の根幹をなす「拡大再生産」が成り立たなくなる。従って、国の経済の好循環が壊れないうちに、社会的に解決を急ぐべき問題である。
大量に排出される技術的失業者の救済の問題は、21世紀第二四半期に露わになる「人類生存危機」を日本でどう解決するかという道すじと同調して、少子高齢化問題とともに解決していくことだと考える。その「災いを福に転じる」方策を以下のように考える。
1 高齢者・障碍者の生活保障と合わせて、技術的失業者と家族の健康な生活の水準を速やかに救済する。そのために必要とされる消費財の生産量に見合う消費行動ができるように適切なヘルコプターマネーあるいはベーシックインカムを国が提供し、国民経済の循環を維持すること。
2 大量の技術的失業者の再就職先の領域を、日本社会に不足している分野に十分に拡充して確保する。とりわけ、地域自然エネルギー自給、食糧自給、そして教育と福祉などの公共的な充実が非常に重要であり、社会の求人ポートフォリオを充実させる。
3 技術的失業者が再就職先を選択するにあたって、社会のニーズと本人の希望をもとに十分に話し合い、ミスマッチを防ぐ。

【経済体制の合目的的な移行】
ロボット・AIによる技術的失業者の問題を軸にして日本の21世紀第二四半期問題を解決するには、株主利益がミッションの市場自由主義的な資本主義の枠内では無理である。社会的にシステマティックに解決するしかない。すなわち国レベルによる社会主義的な政策しかないという考えに帰結する。
社会主義といっても、様々なタイプがあろう。ソ連や東欧諸国が失敗したような全体主義と変わらないような社会主義ではない。現在の中国も社会主義国ではない。
まともな社会主義が成り立つ条件は何か。さまざまな考え方があろうが、筆者の立場は、
第一に、個人の尊厳、民主主義と基本的人権が成熟している社会であり、諸国との平和友好関係が維持されている国である。
第二に、国民の創造的な能力が発揚され、ロボット・AIなどの永続的な技術革新によって、消費財などの生産力が全人口を十分に養えるほどある。そのためには生産と消費が分断されやすい「交換」取引でなく、全国民に財を衡平に「分配」できるシステムが受け入れる国民的な合意が得られる社会である。

5.結 言
序言で言及したように、世界はすでに縮小の時代に入っている。縮小時代に、拡大に固執するようでは、人類は絶滅の危機を深める。各国によって社会の縮小のファクターが異なり、よって対策が異なる。グローバリズムでは失敗は明らかである。
日本の縮小のキーファクターは、少子高齢化と産業のロボット・AI化による生産労働人口の急速な縮小にある。日本社会の歪みは、極端な大都市過密・地方過疎、エネルギーと食料の海外依存にある。
産業のロボット・AI化による「技術的失業」は2035年までの20年間に最大3000万人に及ぶという。この大量の余剰生産労働人口は、過密過疎の解消、食料と自然エネルギーの自給化、および福祉事業の拡充に活用するのが最適である。その活用を、利益優先の企業や財界にできる能力や資格はない。国の大事業として、社会的にシステマティックに、スピーディに取り組むしかない。この判断と選択いかんによって、日本の将来社会の明暗が決定づけられる。
その結果、全人口に対して必要な消費財を十分に供給できる生産能力の水準を維持することができる。一方で、消費財を国民のすべてに衡平に分配するシステムを築き、生産と消費がスムーズに循環する経済システムが成立させる。
将来的に産業のロボット・AI化がさらに進み、国民一人当たりの生産力がいっそう向上しよう。よって、国民の大多数は、労働時間が大幅に短縮されるだろうし、「メシのためのみに働く」ことから解放されよう。国民の多くが、複雑な非定型的な仕事、知的創造的な科学技術の仕事、哲学・文化・芸術・スポーツなどの活動にシフトしていくことになろう。子育ても十分に保護され、子供は親の貧富に影響されることなく、国民のタカラとして大切にされる。
以上が、国民ひとり一人の叡智が科学技術を高度に発展させることによって、その見返りに、高齢者・障碍者・健常者のすべての人生が輝く、「縮小社会、もったいない社会」の日本に対するイメージである。

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