(第6章) ポスト石油のエネルギー争鳴            (要約)現代石油文明の次はどんな文明か


(要約)現代石油文明の次はどんな文明か
  (第6章) ポスト石油のエネルギー争鳴

1.文明のEPR
EPR
の概念を文明の評価に適用します。文明のEPRの入力はヒトの摂取カロリー、出力はヒトが文明活動に使うエネルギーと置きます。日本人一人当たりが使う年間エネルギー消費量は、石油換算で平均4000kgです。また、摂取カロリーは廃棄分を含めて4,000kcal/日・人とします。よって、日本文明のEPR27.4と計算されます。一次エネルギーの中で最高質の石油の現在のEPR1520程度ですから、このEPRの差は何を意味するのかです。日本人の勤勉さもありますが、構造的にエネルギーを浪費している部分もあります。

 

2.代替エネルギーで石油文明の延命はあるか

現代社会は石油なしでは成り立たない構造です。日本の一次エネルギー消費量のうち石油の占める割合は、それでも第一次石油危機のときの77%が、2010年には42%まで、消費割合が削減されてきました。石油使途の中で、鉱工業、電力・ガスはしばらくの間、石炭、天然ガスで大方、代替が可能です。輸送動力の代替エネルギーはあるでしょうか。欲望漬けの現代文明人は、石油代替を技術とマネーで何とかならぬかと求めています。工学の目的は技術開発だけでなく、安全性、経済性等の価値評価もあります。そのツールとして、エントロピーとEPRを使えば、「技術で何とかなる」と深入りする無駄が省かれます。

 

.シェールオイル/ガスの限界

高いエントロピーの状態で存在するシェールオイル/ガスを生産するには、水平坑井掘削し、水圧破砕で導通路を作り、薬物投入して石油/ガスの流動を良くして地上へ運びます。しかし地層破壊・地下水汚染を起こして、環境の修復にエネルギーを追加使用しなければなりません。シェールオイル/ガスの生産は、初日産から指数関数的に減少し、1年で70も減衰します。総じて、明らかにEPRが小さいです。非在来型のシェールオイル・ガス開発は、石油価格が60ドル/バーレル以上になると採算がとれると予想されていました。すでに石油が100ドルの時代であり、インフラの整っている米国でビジネスになっても不思議ではありません。シェールオイルがイージーオイルを代替して文明の主役になれません。

 

4.メタンハイドレートの運命 

メタンハイドレート(MHと略称もします)は、低温高圧の環境下でメタン分子の周りを水分子が囲んだ安定した結晶体でエントロピーの高い状態で地下に存在しています。

それより高温低圧ではメタン分子と水に遊離していますMHからメタンガスを採取するにはエネルギーが必要です。先ず、メタン分離に直接的に必要なエネルギーです。MH層の孔隙にかかる圧力を相平衡圧力まで減圧して結晶の化学的安定を壊すために、水中ポンプのエネルギーで坑井内の水を揚水します。しかしハイドレートを分解する化学変化は吸熱変化なので、プロセスの安定のために熱供給が必要です。この2つのエネルギーとも、自噴する在来型ガス田の生産には必要としません。

次に生産能力です。MH層から遊離したメタンガスは、バブルの形で回収されます。自噴するガスと比べて生産能力は桁違いに低いです。海底環境リスク抜きでも、MH生産のEPRが1以下であろうと推測され、日本の消費量の100年分の皮算用は不可能です。

 

5.オーランチオキトリウム藻から石油製造の 夢想
オーランチオキトリウム藻による人工的な石油生成の研究があります。この藻は、光合成でなく、栄養培養で石油を生成します。専門研究者の「紹介記事」から製造概要を解釈すると、「広さ1ha、深さ1mの藻を培養する池を用意し、それに有機排水培養液を満たすと、藻の培養速度は非常に早く、藻から排出される石油の年収量1万トン」ということです。この石油製造をエントロピー則で表現しますと、エントロピーの高い有機排水を原料とし、藻という生体システムでもって、石油を促成生産する工程です。有機排水よりさらにエントロピーが高い下水が「原液」であるため、その分多量のエネルギーが必要です。そして石油生産によってエントロピーの高い廃棄物が排出され、エネルギーを使って処理します。
 次に、生産の量的な考察ですが、
10,0003の培養池の上流側に下水処理前貯水槽、下水処理後貯水槽を、下流側に分離装置、石油貯留層、残滓貯留層を設けます。下水の「原液」はヒトの糞尿を含む生活雑排水です。ヒトが生活で排出する有機廃物量を、1,300万人都民が出す原液は、1,300万トン/年です。これはオーランチオキトリウム藻が石油1万トン生成に必要とされる培養液量1500万トン/年に満たない量です。

流体の移動にポンプを使います。1,230kWhの電力量が試算されます。オーランチオキトリウム藻石油生産量10,000トンの火力発電所から得る電力量は、発電効率30%として、約3,500kWhです。結局、約3分の1以上が運転電力量として内部消費されます。藻石油生産のエネルギー収支比は、理想的な場合でEPR=2、実際には1以下でしょう。

 

6.狂想の宇宙太陽光発電

ソラ―パネルの宇宙での発電効率は地上での10倍とのことです。宇宙で発電し、地上へ送るシステムを宇宙太陽光発電システム(SSPSSpace Solar Power System)といいます。

その仕組みは、静止軌道上の発電衛星で太陽光発電し、その電力をマイクロ波に変換して地上に送り、地上の受信施設で受信して、再び発電するシステムです。変換ロスを考えると総合発電能力は約1.26倍と計算されます。地上でのパネル発電の、たった25%増しです。

 「日本版宇宙太陽光発電」の基本仕様は、静止衛星軌道36000km、衛星重量:約21干トン、太陽電池面積:2km×2km、宇宙発電能力:2GW、送電アンテナ直径:1km、無線送電方式マイクロ波:245GI、海上受電方式:10m×13kmのレクテナとのことです。技術的に極めて難しいですが、衛星打ち上げを含むコストを試算すると、ワンセットが100兆円になります。この非現実的なプロジェクトが進められると、税金の浪費の極みです。

 

7.エントロピーに逆らう海水ウラン収集

最近、海水中のウランを採集するための、実用的に有望な新捕集材が開発された、との報道(日経ビジネス2010/12/14)がありました。その記事が伝える試算によれば、深さ100メートルの海底に少なくとも173万本の捕集材を係留すると、年間1200トンのウランが捕集でき、その年間コストは400億円とのことです。しかし、私の試算では、現場作業の様々な要素を加味すると約1,600億円になります。しかし、これは理想的な最低コストだと思われます。この20%増しで1,920億円。操船の現実性から173万本もの新捕集材の配列余裕、重油の高騰・品不足に対する手当て等を加味すると、5,000億円をくだらないでしょう。

ウラン取引価格は201011月初旬のスポット価格(イエローケーキの転換工場渡し)は1ポンド58.5ドル、即ちkg130ドルです。すると、1200トンは、1.5億ドル=150億円ということになり、5000億円の海水ウランが、この市場価格と競争することになります。石油減耗の時代であり、「そのうち技術で何とかなる」では済まない価格差です。

 

 

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文明のEPR

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