学術研究における「軍民両用」の検討での見直しを要請する菅政権によって、学術会議の存立が否定され、安倍前首相による憲法改正の目的が、形を変えて実行されようとしています。菅首相の手によって行政改革の対象にされた学術会議が消え去ってもよいのでしょうか ?

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 日本を軍備を持てる普通の国にしようとする安倍前首相の改憲政策に反対する学術会議は、安倍前内閣が要求していた学術研究者の軍事研究への参加に反対する声明を出しました

⓶ 菅政権が進める学術会議のあり方の見直しのなかで、学術会議が否定する軍事研究を、「軍民両用」の研究とすべきことが、学術会議に押し付けられています

⓷ 自身の政治権力を維持するために、安倍前首相の憲法改正の執念を引き継いだ菅首相は、軍民両用の軍事研究を否定し、学問の自由を訴える学術会議を、行政改革の対象として、抹殺しようとしています。恐ろしいことです

 

(解説本文);

⓵ 日本を軍備を持てる普通の国にしようとする安倍前首相の改憲政策に反対する学術会議は、安倍前内閣が要請していた学術研究者の軍事研究への参加に反対する声明を出しました

多くの学術研究者が、第2次世界大戦への協力を強制され、京大滝川事件に見られるように、政府の軍事国家建設方針に反対する学術研究者が放逐され、結果として、みじめな敗戦に追い込まれた苦い経験から、戦後、学術研究者の戦争反対への熱い思いを実現するために、1949年に設立されたのが学術会議です。

戦後の高度経済成長の結果、つい最近、人口の多い中国に追い抜かれるまで、GDP(国内総生産)の値で、世界第2の経済大国になった日本国を、国家安全保障のための軍事力を備えた普通の国にする目的で、戦後にできた平和憲法の改正を目論んだのが安倍晋三前首相でした。この安倍前政権による軍事研究への学術研究者の参加に大きな懸念を持った学術会議は、第2次安倍内閣の成立後、防衛装備庁が創設した研究助成制度による軍事研究に、学術研究者の参加を禁じる声明を、2017年以降、2度にわたって発表しました。

この学術会議の軍事研究反対声明に対して、安倍前首相の突然の退任の後を継いだ菅新首相は、この安倍前首相による憲法改正政策に反対する研究者を学術会議から追放する目的で、学術会議が推薦した新会員候補者のなかから6人を、首相権限によって任命拒否しました。学術会議は、この菅首相による6人の任命拒否理由の説明を要求していますが、菅内閣は、この要求に応じないだけでなく、今回の任命拒否問題をきっかけにして、学術会議のあり方の見直しを始めました。

 

⓶ 菅政権が進める学術会議のあり方の見直しのなかで、学術会議が否定する軍事研究を、「軍民両用」の研究とすべきことが、学術会議に押し付けられています

菅政権と自民党は、今回の学術会議のあり方の見直しの検討において、わが国を取り巻く安全保障環境の変化に対応して、学術研究における成果が、民生と軍事の両面で使われる「デユアルユース(軍民両用)」であるべきことを、軍事研究に反対する学術会議に要請しています。

しかし、上記(⓵)したように、学術会議が、先の第2次世界大戦への参戦と敗戦による苦い経験を踏まえて設立された経緯を考えると、その成果を「軍民両用」で享受できるような学術研究を行うことは排除すべきとの態度を崩していません。戦争に巻き込まれないために設立された国家機関ですから、軍民両用に使われる学術研究の推進を研究者に認めることはできないのです。

学術研究の研究者が、その研究に必要な研究費を、軍事費に依存しなければならないとしたら、それは、現在、その推進のために支給される研究費の額が不足しているためと考えられます。

軍事研究とは、他国との軍事紛争(戦争)に勝つための軍事設備の充実と、その効率を上げるための研究です。しかし、憲法九条で戦争を放棄した日本では、侵略のための戦争に必要な軍事設備の充実と効率アップのための軍事研究は行うべきでありません。また、防衛のための最小限の軍備の保有は憲法でも許されるとしていますが、その防衛のための費用は、国会で決められた範囲内で賄われるべきで、必要な軍事研究が、公共機関であれ民間であれ、外部の研究機関に委託して行うことは、許されないと考えるべきです。日本には、国家安全保障のための唯一、最大の武器、「憲法九条」があるからです。

 

⓷ 自身の政治権力を維持するために、安倍前首相の憲法改正の執念を引き継いだ菅首相は、軍民両用の軍事研究を否定し、学問の自由を訴える学術会議を、行政改革の対象として、抹殺しようとしています。恐ろしいことです

朝日新聞(2020/11/18)は ” 学術会議に「軍民両用検討を」 井上担当相、見直し巡り会長に“ の見出しの記事で、井上信治科学技術担当相の学術会議の梶田隆章会長との会談で、学術会議のあり方の見直しに、上記(⓶)の学術研究に対する「軍民両用」の検討を学術会議の梶田新会長に伝えたと報じています。しかし、学術会議側は、軍事研究には一貫して否定的な立場を崩していないようです。

したがって、これは、私どもの考えですが、いずれ、菅首相は、国家安全保障のための軍事研究を否定する学術会議の政治姿勢に大きな不満を持つ自民党や経済界の有力者などの一部の主張に背を押されて、日本のため、国民のためではなく、突然、手に入れた自身の政治権力を維持するために、邪魔な存在の学術会議を行政改革の対象にして、その存在を否定するのではないかと懸念されます。

すなわち、学術会議が主張する、学問の自由が否定され、日本が世界に誇る平和憲法が廃棄されるか、あるいは、安保法制の成立に見られるように、解釈改憲で骨抜きにされて、国家安全保障のためとして、国民の福祉のために使われるべきお金が軍事費の増強に浪費される戦前の軍国主義国家への回帰の時がやって来るのではないでしょうか? 恐ろしいことです。

なお、この日本学術会議に対する菅政権の不当な対応について、私どもは、本稿と同じ「もったいない学会のシフトムコラム」に、批判的な下記の論考(引用文献 1、2 )を発表しているので、参考にして頂ければ幸いです。

 

<引用文献>

  1. 久保田 宏、平田賢太郎;憲法改正を訴える安倍前首相の強権政治を継承した菅新総理による日本学術会議の人事への介入は、学問の自由を奪い、戦後の日本が創り出した平和憲法に守られた民主主義政治を崩壊しようとしています  もったいない学会シフトムコラム 2020/10/09
  2. 久保田 宏、平田賢太郎;学問の自由を守るために設立された日本学術会議が、行政改革の対象とされ、日本の民主主義政治の根底が揺るがされています、もったいない学会シフトムコラム 2020/10/20

 

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久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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