御節料理のフードマイレージ

お正月と御節
お正月は、最も日本人らしくなれるお目出度い日本の文化、風俗習慣の原点である。
その原点が、いつのまにかかなり変質してきた。
年賀状交換、子供にとっての正月習慣のお年玉は続いているが、近所の子供にあげる人は、殆どいなくなったのではないか。面倒が先にたって、正月にとなり近所に挨拶しあうこともなくなった。
 
量販店や居食屋など多くの店が、元日から商売している。暮に、A量販店の店員が、「B量販店は元日は休業だが、当店は休まずオープンです。ご来店ください。」と自慢げにいっていた。元日に電気製品を買うものか!そして、この店の経営者には、店員さんに、ふつうに安らぐ正月を与えないのだろうかと、思った。警察や消防、交通機関などはともかく、仕事始めは2日からに決まっていた。丁稚も、番頭も、旦那もである。
 元日には、全職場祝日で、団欒と初詣で家族の健康と絆を確かめ合い、日本社会の基礎をなす家族・家庭をメンテナンスしたいものである。多忙な勤労者にはなおさらである。
御節料理はもともと、主婦が正月に台所に立たないですむように、との心遣いから生まれたものだと、子供のころに聞いた。晦日に家族が協力してまとめて作る御節料理は、家庭の味になる。そして、心がこもって作られる分、自然な心の働きによって、家庭の好み、地元の素材、伝来の味付けで、「我が家の御節」が出来上がる。婚姻で家族の質が徐々に変わることによって、御節がそれに合わせて進化していく。楽しいことである。
ある御節料理重箱のフードマイレージ
我が家でも御節を作るが、友人との関わりで、数年前から小さな市販の御節重箱を買っている。
そこで、今年のある御節(佐賀県で製造)のフードマイレージ(原材料産地と製造地の差異)を、商品の中に入っていた品質保証書のデータでチェックしてみた。お品書き33種類、主原料34種である。お品書き33の加工地は、佐賀県から岩手県まで11箇所に散らばっており、佐賀県で重箱に詰め合わせている。佐賀県内での加工品は15種類と少ない。
 主原料34のうち、14が輸入品である。もちの上新粉が米国、数の子がカナダ、あわびがセネガル、タコがモーリタニア、ソラマメがポルトガル、インゲン豆がミャンマー、イカ・エビと魚のすり身ががタイである。近場の中国からは穴子に牛蒡と筍、韓国からはさわらと金柑。
なぜ、そんな遠くから?と、信じがたいほどグローバルである。フードマイレージが非常に大きいと思う。
残りの20種は国産原料だが、加工地そして商品製造地までのマイレージがけっこう大きい。例えば、長崎県産のダイコンを京丹波で加工し、佐賀県に運ぶ。北海道産のほたてを島根県で加工し、佐賀県に運ぶ。青森県産のごぼうを佐賀県で加工、など。
御節料理市場の行く末
御節は、少子・高齢・小家庭、多忙家庭をターゲットにした新たな商品として、市場は急成長しているようである。ホテル、レストラン、デパート、スーパー、それにコンビニと、御節を扱う業種・業態が急に増えている。
 重箱のメニューは多品種で手が込んでいるが、よく味見すると、品質の割には高すぎ、しかも心の通わない正月料理だと思う。御節を作る時間を買って、正月文化を廃棄しているようなものである。
 御節料理製造会社の社長、役員は、商品として自社で作った御節の重箱で、お正月を寿いでいるだろうか。

 石油ピーク到来である。御節業者が御節市場で生き残っていくには、フードマイレージを圧縮せねばならない。原料の種類や量、お品書きの種類や量を、そんなに減らすわけにはいくまい。
 消費者の懐は寒くなる一方だし、世界の食料価格は人口増、途上国の経済発展、異常気象などで、上昇傾向である。結局、輸送距離の短縮して輸送コスト削減でしか生き延びていけまい。
石油ピークが減耗へと転換すると、御節の生産・流通のビジネスは、グロバリゼーション、長距離輸送が、急速に、ローカリゼーション、地産・地消型に転換するであろう。
 それが、都市でも、農村でも、仲間やとなり近所で、人手を出し合って作業をシェアして御節作りをするようになれば、世の中は大きく変わるような気がする。

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