再稼働の必要のない原発の再稼働を裁判が認めようとしています 安全性を争点にした裁判では政治が求める原発再稼働は止められません

東京工業大学 名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部・副本部長 平田 賢太郎

原子力規制委員会が安全基準をクリアと判断した原発の再稼働を裁判が認めています
3月28日(2017年)、大阪高裁が、関西電力の高浜原発3、4号機について、先の大津地裁が出した運転差し止め仮処分の決定を取り消したのに続いて、3月30日、広島地裁は、伊方原発についても運転差し止め仮処分の要請を却下しました。
いずれも、国の原子力規制員会が決めた安全性の新基準について、合理性があると認めた上で、この基準を決めた規制委員会が、この基準が守られていると認めた原発について、裁判官が、再稼動を許すとするものです。
司法による問答無用の原発再稼働容認の決定と言ってよいと思いますが、裁判で認められた「安全性」の根拠は、原子力の専門家の規制委員会の先生方が安全だと言っているから安全ですと言うに止まっています。と言うよりもそれ以外に原発の安全性を示す根拠は存在しません。しかし、安全性の新基準のなかには、事故時の避難体制の整備も含まれていますが、これは、新しい安全基準が絶対安全とは言えないことを規制委員会自身が認めている証拠ではないかと思います。

 

科学技術の視点からの絶対の安全は、脱原発を持たないことです。原発電力が無くとも、国民は電力に不自由していないことぐを知って頂ければ、裁判の結果は変わります
科学技術の視点から、原発の絶対の安全性を言うのであれば、それは原発を持たないことです。さらに、すでに持ってしまった原発についての絶対の安全は、それを稼働させないことです。
ただし、いま、原発を再稼働させなければ、国民にとっての生活と産業用の電力に不自由するのであれば話は違ってきます。安全性のリスクを冒しても、原発の再稼働を考えなければならないかも知れません。しかし、そんなことはありません。原発無しでも、国民は、少なくとも、いま、電力の供給に不自由を感じていません。
したがって、この裁判の争点を、安全性の問題から、電力供給のための原発の必要性の問題に変更すれば、国民のための原発の再稼働の是非を判断する裁判官の方の判断は違って来るでしょう。

 

さらなる成長を求めるアベノミクスの政治の要請が無ければ、原発再稼働の必要はありません
原発の再稼働是非を問題にするとき、大きな問題が見落とされています。それは、何故、国民の多数の反対を押し切ってまで、政治が原発を再稼働しようとしているかが明らかにされていないことです。
3.11 福島の過酷事故から6 年経ったいま、上記したように、私どもの生活と産業用の電力は、原発の再稼働無しで供給されています。この現実を無視して、安倍首相が、原発の再稼働を強行しようとしているのは、アベノミクスのさらなる経済成長を掲げて獲得した政治権力を維持するためです。
その代価として、あの忌まわしい過酷事故を再発させるリスクと、処理・処分の方法がない核燃料廃棄物の増加が、次世代以降の国民に、予測困難な経済的な負担を背負わすことになるのです。このような、不条理は、それこそ、絶対に許されるべきでないと考えます。繰り返しになりますが、原発無しでも、国民に必要な電力に不自由はありません。

 

地球温暖化対策としての原発電力の使用は必要がありません
いま、政治が再稼働を必要とするもうひとつの理由に、国際的な合意になっている地球温暖化対策としてのCO2の排出削減のための原発の使用が挙げられます。これに対して、小泉元首相をはじめ、原発の再稼働に反対する人々の多くが、原発電力の代わりに、自然エネルギー(国産の再エネ)を用いるべきだと主張しています。しかし、現状では、この再エネのいますぐの利用では、3.11事故前の原発電力量を賄うことができない上に、国民に大きな経済的な負担をかけることになるから、政府に、原発再稼働の口実を与えることになります。
もともと、再エネは、化石燃料が枯渇してその価格が高くなってから、化石燃料の代わりに使えばよいのです。私どもの解析・検討の結果に示すように、世界各国が協力して、化石燃料の消費を節減すれば、IPCCが主張するような地球温暖化の脅威は起こりません。したがって、地球温暖化対策としての原発電力の使用の必要はありません。詳細については、私どもの近刊(文献1)を参照して下さい。

 

どう考えても、再稼働を含めた原発の利用の必要は認められません。国民の利益を最優先する原発裁判の結果を願っています
私どもは、3月28日に、「脱原発への道」として、下記の小論を、本シフトムで訴えました。
“久保田 宏、平田賢太郎;脱原発の実現こそが、化石燃料枯渇後の世界で日本が生き残ることのできる唯一の道である、もったいない学会、シフトム、2017/3/28 ”
その直後に知ったのが、高浜原発 3、4号機、さらには伊方原発の再稼働に関する裁判の結果です。上記したように、この原発裁判が、安全性を争点とする限り、今後も同じような裁判結果がでることが予想されます。したがって、ここは、原点に戻って、日本の電力供給にとって、原発再稼働の電力が果たして必要なのかどうかを、原発裁判に関わる方々に考え直して頂きたいと考え、敢えて再度の脱原発を訴えることにしました。
原発裁判の争点を、安全性ではなく、原発の再稼働電力の必要性へと変えて頂いて、国民の利益が最優先されるように裁判の結果を導いて頂くことを切に願って止みません。

<引用文献>
1.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月5日:https://kdp.amazon.co.jp/bookshelf?ref_=kdp_RP_PUB_savepub

 

 ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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