今なぜ岐路なのか

よくある質問は、「子供の頃から石油はなくなるといわれつづけて40年。今でも変わらず石油がある。一体石油はいつまであるのか?」である。

中東で石油会社の現地所長として5年間の駐在経験がある村山隆平氏からの「事実」を要約すると以下の通り。

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石油の寿命の指標にR/PReserve/Production)がある。R/Pとは、ある年に世界で確認されている埋蔵量をその年の生産量で割った値である。これを見てみると、過去40年くらいの間、30年から40年という数字になっており、現在も40年くらいである。なぜいつまでも減らないのかというと、毎年新しく油が発見されているからである。

新しく発見される油とは、(1)全く新たに発見された油田、(2)すでに発見された油田で、それまで技術的に回収できなかったものが回収できるようになったもの、(3)オイルサンド、オイルシェールなどの技術的に開発が困難、あるいは経済性が無いとして開発されていなかったものが、状況の変化で開発されるようになった非在来型の石油、である。

オイルサンドは油まみれの砂であり、その油は粘性が高いために普通では流動しないのだが、蒸気を入れて暖めると流動性が出て地上に取りだすことができる。いわば「欠陥品の油、できそこないの油」も油の埋蔵量として期待すると、その量は膨大なものであり、これがR/Pが減らない一番の原因となっている。

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石油鉱業連盟によれば、オイルサンドやオイルシェールなどの非在来型石油のR/P220年と見積もられている。このように見てくると、将来的には技術の進歩によって、油の埋蔵量はかなりの年月確保されるように思える。

しかし石油開発の実態をもっとよく知る必要がある。カナダ東部のアルバータ州では北方林の森が幾つもある原野にオイルサンドが大量に賦存している。これを露天掘りや天然ガスを燃やして蒸気を作り、それを地下に送り、同時に蒸気注入坑井の直下に設置してあるもう一本の水平坑井から液状化したオイルサンドを取り出す方法などで採取している。その大部分が米国向けであり、カナダ東部では利用されない。

この方法では多量の天然ガスなど膨大なエネルギーを必要とし、エネルギー収支比(EPR)は悪くなる一方であって、中東のイージーオイルとは対極の高価な石油である。

さらにオイルサンドの生産に使った大量の水が流れ込んだ尾鉱池は、発がん性物質などの有毒物質を含んでいる。これが地下水系を通って周辺の土壌や地表水に漏れ出し、周辺住民の健康に害を与え、環境を脅かしている。

2010
420日のメキシコ湾における石油流出事故も、開発が難しい新しい石油を技術に頼って無理に開発した結果である。

ではなぜEPRが悪く、環境も破壊するにも拘わらず、オイルサンドや危険な石油を開発するのであろうか。

米国などにおける移動手段は、ガソリンで動く自動車である。つまり長期的には電気自動車を開発し、天然ガスで動く自動車も増やす方向であろうが、現実問題として今現在ガソリンが必要である。企業は短期的視点から、環境を破壊しても、EPRが悪くても、この需要を満たすためにオイルサンドを開発し、消費者はコストが高くても購入するのである。

村山氏いわく、「このように大量のエネルギーを使い、環境も汚染しながら、回収率の向上や非在来型石油の開発によって油の供給を行い、経済の発展を継続させようとするのか、それとも考えを改めてエネルギーの消費を抑え、生き方や社会のあり方を変えようとするのかを、真剣に議論していただく場としてもったいない学会があると理解している。」

「大量のエネルギーを使い、環境も汚染しながら、経済の発展を継続させる」果ては、ピカピカの車が走り、高層ビルが林立するクリーンな大都会と、その一歩外にある泥まみれの汚染された環境が広がる「暗黒」の世界だ。

しかし実際には我々は「エネルギーの消費を抑え、生き方や社会のあり方を変えよう」とはしない。なぜならまだ、エネルギー大量消費社会の先は決して「暗黒」の世界だとは信じていないし、むしろ低エネルギーの社会が「暗黒」の世界と映るからである。

我々はどちらが本当の「暗黒」の世界かを考え、そしてどちらを選択するかの岐路に立たされているのである。

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