何故、いま、「第5 次エネルギー基本計画」のなかで、2030 年度の電源構成の原発比率の20 ~22 % が必要なのでしょうか?(その2) 原発の開発・利用の当初からできていた、電力料金の値上で、国民に経済的な負担を強いて、原子力産業を政策支援する仕組みを使って、3.11で稼動を停止した「原発の再稼働」を進めています。いま、日本経済にとって大事なことは、「原発の再稼働」による経済成長エネルギーの獲得ではありません。化石燃料の枯渇後、国産の再エ電力に依存する社会での人類の生き残りの具体策を世界に向って訴えることでなければなりません

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

① 3.11福島事故の後、安全性のリスクが大きいとして稼働を停止している原発について、発電余力があるのにもったいないとして、その再稼働が進められていますが、この再稼働のための安全対策の投資費用を考えると、「費用対効果」の観点から、再稼働できる原発の数は限られます

② いま、政府は、再稼働に必要な安全対策費の支出額を回収するために、原発の法定使用年数40年を60年に延ばすとしています。しかし、この使用期間の延長は、原発の事故リスクを増加させるとともに、核燃料廃棄物の量を増やし、現在、発電コストのなかに含まれていない次世代国民の負担費用を増加させることになります

③ 化石燃料を用いる火力発電の代替としての原発電力の開発・利用では、原発電力の生産を収益事業として成立させるための「総括原価方式」と呼ばれる市販「電力料金」を決める仕組みが利用されて、火力発電を用いた場合よりも高い「電力料金」が国民に強いられてきました

④ 電力生産の収益事業としての成立を条件とした「総括原価方式」を適用して「電力料金」を値上げする「原発の再稼働」を含めた「続原発」のエネルギー政策の転換こそが、国民に安価な電力を供給する目的で進められるようになった「電力の自由化」の下で行われるべきです。しかし、原発を持たない新規事業者への買電契約の変更により、旧電力会社に「原発の再稼働」思いと止まらせようとの私どもの試みは成功していません

⑤ いま、日本経済にとって、大事なことは、「原発の再稼働」によって、経済成長のための電力を確保することではありません。当面の生活と産業用の電力は、化石燃料を用いた火力発電で賄われています。やがて、やってくる化石燃料の枯渇後、国産の再エネ電力に依存して、人類が生き残るための具体策としての私どもの提案:「国際的な合意で進められている「パリ協定」のCO2の排出削減を、化石燃料消費の節減に代えること」で、地球上の化石燃料消費を節減することを世界に向って訴えることでなければなりません

 

(解説本文)

① 3.11福島事故の後、安全性のリスクが大きいとして稼働を停止している原発について、発電余力があるのにもったいないとして、その再稼働が進められていますが、この再稼働のための安全対策の投資費用を考えると、「費用対効果」の観点から、再稼働できる原発の数は限られます

いま、安倍政権は、「原発の再稼働」のために、3.11のような過酷事故を起こさせない安全対策の新しい基準をつくり、原子力規制委員会が、この基準をクリアした原発について、その再稼働を進めています。一方、「原発ゼロ」を目指して、この「原発の再稼働」を阻止しようとする人々は、それぞれの原発の再稼働の差し止めを裁判に訴えています。これに対する司法の判断は、一見、五分五分のように見えますが、一度、差し止め請求を勝ち取った原発でも、結局は、上級審で、国家権力による再稼働の方針がまかり通ってしまうのではないかと考えざるを得ない状況が続いています。

ところで、原発の所有者(旧電力会社など)が、再稼働の可否を判断する際に問題にしているのが、この再稼働のための安全対策に必要な費用、すなわち、経済性です。今回の「第5次エネルギー基本計画」の原発問題についての政府の方針に批判的な朝日新聞(2018/5/13)も、この「原発の再稼働のための安全対策には、巨額の費用が要求され、原発を所有する電力会社でも、採算性を理由に、再稼働をあきらめ、廃炉を選択する動きも相次ぐ」と報じています。例として、「四国電力の伊方原発2号機について、法定使用期間40年にあと4年しかない原発の安全対策費として2000億円近くをかけることができない」との会社側の説明を挙げています。

この伊方原発2号機の最大出力は566千kWですから、再稼働のための追加安全対策費を2000億円とすると、単位設備容量当たりの安全対策費は35.3万円/kW-設備となります。したがって、残された4年間の使用期間しか持たない伊方原発2号機の再稼働後の発電量は、本稿(その1)⑤ の ( 2 ) 式から、年間平均設備稼働率y=0.70、使用期間Y=4年として、単位設備容量kW当たり

(1 kW/kW-設備)×(8,760 h/年)×(0.70)×(4年)=24,530 kWh/kW-設備

となり、

(原発の再稼働のための発電原価の「資本費」)=(35.3 万円)/ (24.53千kWh)

= 14.4 円/kWh

と計算されます。

この「資本費(電力生産が経済的に成り立つために必要な設備投資費用)」の値は、本稿(その1)④ の表2 に記した、資源エネルギー庁による、現在稼働を停止している原発の新設時の発電コストのなかの「資本費」3.1 円/kWhの4倍以上になります。これでは、この原発を再稼働する経済的なメリットは、全くありません。結局は、伊方原発2号機は、2016年5月に廃炉が決まりました。

いま、3.11福島の現実を直視して、「原発ゼロ」を目指すべきと訴えている人々の間でも、現在、稼動していない原発については、発電余力があるのだから「もったいない」、稼動を再開すべきだとしている方が居られるようです。確かに、それには一理があります。しかし、この「もったいない」ことを理由に、原発の再稼働を決めるのであれば、各原発ごとに、その原発の稼働による経済的な利益が評価されなければなりません。上記の伊方原発2号機のように、残された使用年数が4年しかない原発は、その再稼働のための安全対策の費用を考えると、その「費用対効果」の観点から、再稼働の対象になり得ません。すなわち、原発の所有者が、原発の再稼働を決めるのは、この再稼働対象原発に残された「使用年数」です。この「使用年数」を無視して、政府が原発の所有者に再稼働を強要することはできません。

 

② いま、政府は、再稼働に必要な安全対策費の支出額を回収するために、原発の法定使用年数40年を60年に延ばそうとしています。しかし、この使用期間の延長は、原発の事故リスクを増加させるとともに、核燃料廃棄物の量を増やし、現在、発電コストのなかに含まれていない次世代国民の負担費用を増加させることになります

いま、政府は、この「もったいない」の声を根拠にして、3.11 以前に47基あった原発のうちの30基程度の原発を再稼働しようとしているようです。いま、これらの原発の再稼働のために必要な安全対策の追加に要する設備費を、上記 (①) の伊方原発2号機の場合と同様、35.3万円/kW-設備と仮定します。この投資額を回収するためには、この原発の単位設備容量当たりの発電コストが、それぞれの原発に残された使用年数中に回収されなければなりません。

いま、再稼働予定の原発の(再稼働発電による発電利益の平均値)を、本稿(その1)⑤ で求めた(原発設備の「資本費」)1.51円/kWhに等しいとして、安全対策設備の投資額35.3万円/kW-設備を回収するために必要な設備の使用年数X は、本稿(その1) ⑤ の ( 1 ) および( 2 ) 式から、

X = (35.3 万円/kW-設備) / {(1 kW/kW-設備) ×(8.76 千h/年)×(0.70)×(1.51円/kWh))

= 38.1 年

と計算されます。

再稼動予定の原発の平均の残り使用年数は、せいぜい、15年程度と考えられますから、この再稼働のための安全設備投資額を回収できるようにするために、政府は再稼働予定原発について、この使用年数を法定の40年から60年に延長するとしています。しかし、政府のこの対応では、この再稼働対象原発の法定使用年数の延長に伴って生じる問題点が、一切考慮されていないことが指摘されなければなりません。

具体的に言うと、本稿(その 1 )④ の 表2に見られるように、原発の発電コストのなかに、本来、その推定が難しい事故リスク対応の費用が僅かに含まれてはいますが、その数値には科学的な根拠が無い上に、次世代の人類の生存にとって最大の問題になる核燃料廃棄物の処理・処分の費用が一切含まれていません。これでは、3.11 以前まで動いていた原発についても、その発電コストが、現在、電力生産の主力を占めている石炭火力発電よりも安価だとして、「費用対効果」の視点から、その開発・利用が認められてきたことに正当性が認められませんし、また、「第5次エネルギー基本計画」の求める「原発の再稼働」についても、当然、その正当性が認められないことになります。

 

③ 化石燃料を用いる火力発電の代替としての原発電力の開発・利用では、原発電力の生産を収益事業として成立させるための「総括原価方式」と呼ばれる市販「電力料金」を決める仕組みが利用されて、火力発電を用いた場合よりも高い「電力料金」が国民に強いられてきました

現在、日本で経済成長のために使われている電力の主体を担っているのは、輸入化石燃料を用いた火力発電です。この火力発電のコストのなかの燃料費は、この火力発電に使われる化石燃料の使用量に、この化石燃料の輸入価格を乗じて求められる輸入金額を発電量で割った値で計算されます。このようにして計算される「火力発電コスト(燃料費)」の値は、化石燃料の輸入価格の変動により年次変化します。この燃料費以外の電力使用での諸経費を加えた金額が、「電力料金」として、この電力の供給により恩恵を受ける国民から徴収されています。すなわち、電力が化石燃料を用いる火力発電主体で賄われている現状では、市販電力料金は、この発電コスト(燃料費)にほぼ比例すると考えてよいでしょう。

エネ研データ(文献1 )に記載の旧一般電力事業者データ(旧電力会社)の電力生産事業のデータを用いて「火力発電コスト(全燃料)(火力発電に用いる化石燃料の輸入金額で表わしました)」、「電力料金(産業用)(市販電力料金は、家庭用と産業用で違いがありますが、ここでは、両者の合計の約半分を占める産業用の値を用いました)」とともに、「原子力比率(総発電量中の原発電力の比率)」、および、参考として、「発電コスト(石炭)」の値とともに、これらの年次変化を図3 に示しました。

注; *1:「電力料金」は、エネ研データ(文献1 ) に記載のIEAデータとして与えられている(セント/kWh)の値を、各年度の通関レートを用いて、(円/kWh)の値に換算しました。 *2:「発電コスト(全燃料)」の値は、火力発電に用いた化石燃料(石炭、重油、原油、LNG)の使用量に、それぞれの燃料の輸入CIF価格を乗じて合計した値を、火力発電量の値で割って求めました。 *3:「発電コスト(石炭)」は、石炭火力発電についての注2 に用いた方法で計算した値、 *4 ; 「原子力比率」は、原子力発電量の総発電量に対する比率 % です。

3 「発電コスト(一般電気事業者(旧電力会社)のデータを用いて計算した)」と「電力料金」の年次変化 (エネ研データ(文献1 )に記載のデータをもとに作成)

 

この図 3 に示されるように、市販の「電力料金」は、発電量のなかで、最も大きな比率を占める火力発電の発電コスト(「発電コスト(全燃料)」にほぼ比例しているように見えます。さらに、この比例関係を確かめるために、

(「電力料金」/「発電コスト」比)

=(「電力料金(産業用)」/「発電コスト(全燃料)」)/(火力発電比率)      ( 1 )

ただし、

(火力発電比率)=(火力発電量)/(総発電量)                             ( 2 )

の値を計算して、図4に示しました。

注;縦軸の数値は、「電力料金(産業用)」/「火力発電コスト」比ではそのまま、「原子力比率」では、%の値とします。

旧一般電気事業者(旧電力会社)の「電力料金(産業用)/ 火力発電コスト(全燃料)」比と「原子力比率」の年次変化(エネ研データ(文献1 )に記載の電力需給データをもとに計算して作成)

 

この ( 1 ) 式で計算される(「電力料金」/ 「火力発電コスト」比)の値は、総発電量のなかの化石燃料以外の発電、具体的には水力と原発の発電コストが、火力発電のコストと同じであれば、ほぼ、年次的に変わらない一定値をとるはずです。ところが、この図4に見られるように、火力発電以外の発電量の比率、とくに「原子力比率(原発電力のの総発電量に対する比率)」の値が高くなるにつれて、この(「電力料金」/「火力発電コスト」比)の値が高い値をとるようになっています。

すなわち、科学的な方法を用いて推定することが困難な事故の賠償金額や、核燃料廃棄物の処理・処分の費用を次世代に先送りして、その発電コストを、現在、電力生産の主体を占める火力発電のコストより小さいとして、「総括原価方式」と呼ばれる市販「電力料金」を決める仕組みを利用して、火力発電代替の原発電力の利用が、その開発の当初から進められてきました。その結果、原子力比率が増えれば増えるほど、「電力料金」が高くなり、国民の経済的な負担が大きくなる仕組みができていたのです。

本来、「電力料金」は、国民が必要とする生活と産業用の電力を、安定に供給するために、実際の発電コストを基準にして、それに、電力生産事業が、一定の収益事業として成り立つような、利益を加えて政策的に決められています。これが、市販の「電力料金」を決める「総括原価方式」です。

この「総括原価方式」に守られた高い電力料金を利用して、原発電力の生産と、関連の原子力産業が、発展してきたのです。本来、原発電力の利用は、化石燃料の枯渇後、その代替として用いられれば良かったはずなのですが、それを、事故を賠償費や核燃料廃棄物および廃炉の処理・処分費を外して計算した原発の発電コストを、化石燃料を用いる火力発電の発電コストをより安いとする一種のトリックを使って、3.11以前の2010年度までは、総発電量のなかの原発電力が一定の比率を占めてきたのです。

結果として、図5 に示したように、化石燃料を用いた火力発電より「発電コスト」が安いと言われる原発電力を用いているにもかかわらず、日本で、世界一高い「電力料金」が国民に強いられてきたことです。ただし、この図5の電力料金の値は、図3とは違い、国際通貨の米ドルを用い、(米セント/kWh)で示してあります。また、この図5において、EU諸国での「電力料金」が、2000年以降、急増しているのは、地球温暖化対策としてCO2の排出削減のために再エネ電力の利用を拡大しようとした「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の適用で、政策的「電力料金」が吊り上げられた結果です。この「電力料金」の値上げが、自国の経済に悪影響を与えたとして、「FIT制度」での買取価格が下げられた結果が、2015年以後のEU諸国の電力料金の低下に現れています。

注; 「電力料金」の値は、国際通貨米ドルに換算した値で与えられています。

世界の主な先進諸国の「電力料金(産業用)」の値の年次変化

(エネ研データ(文献1 )に記載のIEAデータをもとに作成)

 

④ 電力生産の収益事業としての成立を条件とした「総括原価方式」を適用して「電力料金」を値上げする「原発の再稼働」を含めた「続原発」のエネルギー政策の転換こそが、国民に安価な電力を供給する目的で進められるようになった「電力の自由化」の下で行われるべきです。しかし、原発を持たない新規事業者への買電契約の変更により、旧電力会社に「原発の再稼働」思いと止まらせようとの私どもの試みは成功していません

以上が、3.11福島原発事故以前の日本における「電力料金」と「原子力比率(総発電量のなかの原発電力の比率)」の関係に対する私どもの考察です。この3.11以後(2011年度以降)の日本で、政府は、いま、事故後、多くの国民の反対で、その稼働の停止を余儀なくされている原発を再稼働させようとしています。では、この「原発の再稼働」によって、国民が求める安価な電力が供給されるのでしょうか?

3.11 以降(2011年度以降)、失われた原発電力代替の化石燃料の輸入量が増えて、図3に見られるように、「発電コスト(全燃料)」の値が高くなり、結果として、「電力料金」も一時的に高くなりました。しかし、今後、もし、「原発を再稼働」させて、「原子力比率」を増加させれば、電力料金は、化石燃料の輸入金額の減少を上回って、3.11以前(2010年度以前)のように、高い電力料金が強いられることが予想されます。それは、2010年度以前と同様、依然として、原発電力の発電コストが火力発電コストより安いとして、原発電力の採用を優先する「電力料金」を決める仕組みが、「総括原価方式」として残るはずだからです。

ところで、この「電力料金」を決める「総括原価方式」を残したまま、市場経済主義のなかで、電力生産方式を国民に選択させるとしたのが、2016年度以降導入された「電力の自由化」制度なはずです。この「電力の自由化」で、電力生産事業に新しく参加した事業体(企業)の電力生産方式には原発電力が含まれていません。したがって、国民の多数が、この「電力の自由化」を期に、買電の契約先を、いままでの一般電力事業者(旧電力会社)から、新しく参加した、原発電力を持たない事業体へ変更すれば、これが、「原発再稼働に対する反対運動」になるはずだと考えました。実際に、このような運動が、国民の一部のなかで起こり、私どもも、微力ながら、その努力を試みました。しかしながら、新規参入事業者の発電量が、旧電力会社のそれに較べて圧倒的に小さかったため、旧電力会社の発電量の2016年度の対2015年度の減少比率は、僅か3.5%に止まり、この買電契約の変更による「原発再稼働反対運動」の効果は殆どありませんでした。

この化石燃料代替の原発電力の利用の問題で、結論として言えることは、原発電力を多く使えば使うほど、「電力料金」が高くなり、原発を所有する電力会社が有利になるとともに、「電力料金」の値上で国民に経済的な負担を強いる「政策的な仕組み」ができていたことです。これは、必ずしも政治が意図的につくった「仕組み」とは言えないかも知れませんが、原発電力の利用・拡大を進めるなかで、その発電コストを最も安価な石炭火力発電のコストより安いとした一種のトリックを使って、原発電力を導入した結果が、このような、「電力料金」の値上になったと考えられます。したがって、これが、いま、原発を保有する電力事業者(旧電力会社)が、経営的に有利になるとして、政府に協力して、化石燃料を用いる火力発電代替の原発電力の利用を継続し、また、3.11以後のいま、稼動を停止している「原発の再稼動」を積極的に進める理由となり、さらには、原子力関連産業も、この「続原発」の政策を支援している理由になっています。これが、アベノミクスのさらなる成長が求める「第5次エネルギー基本計画の原発電力20 ~ 22 % にほかなりません。

 

⑤ いま、日本経済にとって、大事なことは、「原発の再稼働」によって、経済成長のための電力を確保することではありません。当面の生活と産業用の電力は、化石燃料を用いた火力発電で賄われています。やがて、やってくる化石燃料の枯渇後、国産の再エネ電力に依存して、人類が生き残るための具体策としての私どもの提案:「国際的な合意で進められている「パリ協定」のCO2の排出削減を、化石燃料消費の節減に代えること」で、地球上の化石燃料消費を節減することを世界に向って訴えることでなければなりません

国民の立場から見ると、電力料金の値上をもたらす原発の開発・利用は、これまでも進めるべきではなかったし、今後も進めるべきではありません。いま、日本経済にとっての「電力料金」の値を問題にするのであれば、図3に参考として示したように、火力発電用の燃料として、最も安価な石炭が、当面は用いられるべきなのです。 3.11以前の日本では、地球温暖化対策を理由として、CO2の排出比率が大きい火力発電用燃料の石油から石炭への燃料の転換が遅れていました。いまからでも遅くありません。本稿(その1 )③でも述べたように、化石燃料消費の節減を前提とした上での火力発電用の燃料の転換を、先ず進めるべきです。CO2の排出削減を理由にして、3.11以降、稼動を停止している原発を再稼働することではありません。すなわち、「第5次エネルギー基本計画が求める2030年の電源構成の原発比率20~22 %を実行する」ことではありません。

いま、世界の経済成長の継続により、化石燃料資源の枯渇が迫るなかで、人類にとって最も大事なのは、この化石燃料消費の節減でなければなりません。私どもが主張するように、「世界が協力して、今世紀中の一人当たりの化石燃料消費量の年間平均値を、2012年の世界平均値に抑えること」ができれば、すなわち、残された化石燃料資源を、世界の全ての国が公平に分け合って大事に使えば、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が主張するような地球温暖化の脅威は起こりません。これは、決して、夢物語ではありません。いま、国際的な合意の下で進められている、地球温暖化対策としての「パリ協定」のなかの各国のCO2排出削減目標を、それぞれの国の化石燃料消の節減目標に換えて頂けばよいのです。 その詳細については、私どもの近刊(文献2 )をご参照ください。

 

<引用文献>

1、日本エネルギー経済研究所編;EDMC エネルギー・経済統計要覧2018年、省エネセンター、2018年

2、久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――

電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

 

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