IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)が主張する地球温暖化の脅威は起こりません。これは、科学の常識から私どもが導いた結論です。したがって、温暖化対策としてIPCCが主張している2050年までの温室効果ガス(CO2)の排出ゼロを求める「脱炭素化社会の実現」の必要はありません。人類にとっての文明社会を支えてきた化石燃料資源の枯渇が迫るいま、地球上に残された化石燃料資源を公平に分け合って大事に使いながら、やがて、この化石燃料(石炭)の利用より安価に供給されるようになった再生可能エネルギーが利用されるべきです。

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ いま、世界の政治は、地球温暖化の脅威を訴えるIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)の主張に洗脳されて、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスCO2の排出量ゼロを2050年までに達成しようとしています

⓶ 地球温暖化対策として、IPCCは、慌てる必要のない化石燃料の消費により排出されるCO2の排出量のゼロを目的とする脱炭素化社会の実現を達成するための再生可能エネルギーによる電力(再エネ電力)のいますぐの利用の推進を世界の全ての国に要求しています

 ⓷ 温暖化の脅威を防ぐために脱炭素化社会、すなわち「CO2ゼロ社会の実現」を達成しなければならないとするIPCCの訴えには科学的根拠がありません。世界の全ての国が、協力して、化石燃料の消費量を節減して使えば、IPCCが訴える地球温暖化の脅威が起こることはありませんから、世界の各国民に経済的な負担を強いる「脱炭素化社会の実現」は、人類にとっての不必要なエネルギー政策というべきです

⓸ 脱炭素化社会の実現を目的としたCO2ゼロ社会が亡国の危機を招くとする私どもの主張と同様のIPCCのエネルギー政策への批判がIPCCの国内委員のお一人である杉山太志氏により、最近、精力的に発表されています

 

(解説本文);

⓵ いま、世界の政治は、地球温暖化の脅威を訴えるIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)の主張に洗脳されて、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスCO2の排出量ゼロを2050年までに達成しようとしています

「新型コロナウイルス問題」で世界中が大騒ぎになる直前の一昨年、IPCCが主張する地球温暖化の脅威に備えなければならないとして、世界の若者たちとの共闘を訴えたスウエデンの少女グレタ・トウンベリーさんの呼びかけに共鳴して立ち上がった世界の若者たちの活動もあり、世界の政治は、IPCCが訴える地球温暖化防止対策としての温室効果ガス(その主体は二酸化炭素(CO2))の大気中への排出ゼロを求める「CO2ゼロ社会の達成」の声一色に染め揚げられた状態にあると言ってよいでしょう。

このIPCCが主張する地球温暖化の脅威は、人類文明社会を支えている化石燃料の消費によって排出されるCO2による地球大気温度の上昇で起こるとされています。すなわち、人類社会が、現在、経済成長を維持するために必要なエネルギー源としての化石燃料の消費を継続すれば、この化石燃料の消費に伴って地球大気中に排出されるCO2によって、地球大気中のCO2濃度が、したがって、それに伴って地球大気温度が上昇して、結果として、地球生態系に取り返しのつかない変化を及ぼし、人類生存の危機がもたらされるとするものです。

この人類生存の危機をもたらすとされる大気温度の上昇幅の限界値として、IPCCは、人類が化石燃料を使うようになった産業革命時の大気温度を基準として、2 ℃以内、できれば、.5 ℃以内に抑え込むべきことを世界の政治に要求しています。

しかしながら、この地球温暖化が、大気中へのCO2の排出量の増加に起因するとの主張は、IPCCによってつくられた科学の仮説とみなしてよく、この仮説を立証する観測データは存在しません。したがって、地球上におけるCO2排出量の削減、すなわち、世界各国が協力して、「CO2ゼロ社会」を実現すれば、地球温暖化の脅威を防止できるとの科学的な保証は得られていません。

にもかかわらず、いま、IPCCは、上記したように、地球上で進行していると見られる地球大気温度の上昇を、地球温暖化の進行とみなし、今後、起こると推定される地球温暖化の脅威を防止するために、地球大気中へのCO2の排出量を削減することを、すなわち、「CO2ゼロ社会の実現」の達成を、世界の政治に訴えています。具体的には、2050年までに、大気中へのCO2排出量をゼロにする、「脱炭素化社会の実現」を目的とした、「パリ協定」での世界各国のCO2排出削減目標数値の提出を世界の「パリ協定」の締約国の全てに要求しています。

 

⓶ 地球温暖化対策として、IPCCは、慌てる必要のない化石燃料の消費により排出されるCO2の排出量のゼロを目的とする脱炭素化社会の実現を達成するための再生可能エネルギーによる電力(再エネ電力)のいますぐの利用の推進を世界の全ての国に要求しています

地球温暖化の脅威を防ぐための脱炭素化社会実現の方法として、IPCCは、現代文明生活を支えている化石燃料の代替として、再生可能エネルギーによる電力(再エネ電力)の生産・利用を世界の全ての国に推奨しています。しかし、現在、最も安価な電力として、世界中で広く利用されている石炭火力発電の代替としての再エネ電力の利用では、EUで発案された「再エネ電力の固定価格買取制度(FIT制度)」の適用により、この再エネ電力を利用する国民の市販電力料金の値上げによる大きな経済的な負担を広く国民に強いることになります。また、貧困な非産油途上国で、この石炭火力発電の代替に再エネ電力を利用したのでは、この貧困国で必要とされている経済成長ができなくなるので、世界の温暖化防止対策を実行する「パリ協定」での脱炭素化社会の実現に必要な資金が先進国に要求される仕組みが適用されています。アメリカファストの一国主義を掲げた米国のトランプ前大統領は、この仕組みの不条理を理由に、「パリ協定」からの離脱を表明しました。世界のCO2排出量の15 %程度を排出する世界第2位CO2排出量を持つ米国が離脱したのでは、「パリ協定」が目的とする「CO2ゼロ社会」は成立しません。今回、米国でバイデン大統領が誕生したことで、IPCCが訴える「CO2ゼロ社会の実現」が可能となったとして、バイデン米大統領は、この「CO2ゼロ社会の実現」に懸命の努力を払っています。

しかし、このIPCCが訴える「CO2ゼロ社会」の実現は、地球温暖化の脅威を防ぐことが目的です。したがって、いま、このIPCCの地球温暖化のCO2原因の仮説に対する懐疑論者が主張するように、このIPCCの地球温暖化のCO2原因説が正しくなかったら、あるいは、私どもが主張するように、このCO2原因説が正しかったとしても、人類が、化石燃料の消費量を節減して使えば、IPCCが主張する温暖化の脅威は起こらないのです。いや、経済力のある大国が、一国主義に走り、経済性を無視して、有限の化石燃料資源を採掘・利用すれば、現存する国際間の貧富の格差が拡大し、いま、大きな問題になっている国際的なテロ戦争の増加を招き、世界平和を大きく侵害することになるでしょう。

 

⓷ 温暖化の脅威を防ぐために脱炭素化社会、すなわち「CO2ゼロ社会の実現」を達成しなければならないとするIPCCの訴えには科学的根拠がありません。世界の全ての国が、協力して、化石燃料の消費量を節減して使えば、IPCCが訴える地球温暖化の脅威が起こることはありませんから、世界の各国民に経済的な負担を強いる「脱炭素化社会の実現」は、人類にとっての不必要なエネルギー政策というべきです

いままで人類は、現代文明社会を維持し、さらに発展させるために、そのエネルギー源として、有限の化石燃料資源に依存してきました。産業革命以来、このエネルギー源として世界の経済成長を支えてきた化石燃料資源量は、確実に枯渇に向かっています。すなわち、化石燃料の採掘可能量としての資源量は年次減少し、その国際市場価格は高騰しています。これが、水野和夫氏の言う資本主義社会の終焉です(文献 1 、文献 2 参照)。

地球上の化石燃料資源量の値は、その「確認可採埋蔵量」として与えられています。確認可採埋蔵量とは、現状の科学技術の力と、経済性を考慮した採掘可能な資源量です。日本エネルギー経済研究所編の「エネルギー経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献 3 )と略記)に記載されたBP (British Petroleum)社の公表数値による「確認可採埋蔵量」の値の年次変化を図1に示しました。

 図 1 化石燃料の確認可採埋蔵量の年次変化

(エネ研データ(文献 3 )に記載のBP社のデータをもとに作成)

 

化石燃料の確認可採埋蔵量の値が、科学技術の進歩と世界経済の発展により、生産量を上回れば、資源量が枯渇することはありません。しかし、シェールガスやシェールオイルのように、経済性を無視して採掘すれば、資源の枯渇を心配する必要がないかのように言われていますが、実際には、その採掘コストは年次上昇しますから、図1 に見られるように、その可採埋蔵量はゼロに近づき、いずれは枯渇します。したがって、人類は、その生存を維持するために、この化石燃料の代替のエネルギー源を確保する必要があります。それが、いま、IPCCが、その必要性を訴えている再生可能エネルギー(再エネ電力)です。 IPCCが訴える温暖化がすでに起こっていて、再エネ電力の使用によって、それを防止できるのであれば、いますぐの「脱炭素化社会の実現」の必要がありますが、その必要が無いのであれば、IPCCの訴える「脱炭素化の実現」は不必要と言わざるをえません。

しかし、この有限の化石燃料資源の代替としてその使用が期待される再生可能エネルギーですが、その使用の目的は、あくまでも温暖化対策のための「パリ協定」のCO2排出削減ではなく、化石燃料消費の節減でなければなりません。化石燃料の枯渇後、その代替として利用されるのは、上記したように、再生可能エネルギー(再エネ電力)でしょう。しかし、安価な化石燃料(石炭)を用いた火力発電よりはるかに高価な電力しかできない再エネ電力を、国民に経済的な負担を掛けて、いますぐ利用する必要はありません。

これを、言い換えると。IPCCが訴える2050年までにCO2ゼロ社会を実現する必要はありません。再エネ電力は。石炭火力発電より安価に供給できるようになってから利用すればよいのです。

 

⓸ 脱炭素化社会の実現を目的としたCO2ゼロ社会が亡国の危機を招くとする私どもの主張と同様のIPCCのエネルギー政策への批判がIPCCの国内委員のお一人である杉山太志氏により、最近、精力的に発表されています

いま、日本で、アベノミクスの経済成長戦略を継承する菅政権が実行しようとしているエネルギー基本計画は、上記したように、IPCCが主張する温暖化対策のための「CO2ゼロ社会の実現」に国民の経済的な負担を強いることです。このような世界各国のエネルギー政策と歩調を合わせないと、国際貿易の面で不利を受けると考えられるからだとされています。

これに対して、IPCCの国内委員の一人であるキャノングローバル戦略研究所の杉山太志氏は、この国民に経済的な負担を強いる「CO2ゼロは亡国の危機だ(文献 4 )」の他、菅政権のエネルギー政策批判の論考(文献4 )を多数発表しています。IPCCの国内委員のお一人として、いわば国策研究として進められている温暖化の研究費を受けながら、温暖化のCO2ゼロ原因説について、科学の常識から解析、検討を加えた場合、この国策研究の実施を積極的に批判せざるを得ないとしておられる杉山氏の責任感の強さに深甚の敬意を表します。

人類の平和的な共存のためにも、IPCCが訴える世界各国に亡国の危機をもたらす「脱炭素化社会の実現の不要」を世界の政治に訴える杉山氏の声が世界の政治を動かすことを願って止みません。

 

<引用文献>

  1. 水野和夫;資本主義の終焉と歴史の危機、集英社新書、2014年
  2. 水野和夫;閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済、集英社新書、2017年
  3. 日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2021年版」、省エネルギーセンター、2021 年
  4. 杉山太志;「CO2ゼロ」は亡国の危機だ、ieei 、2021,1,27

 

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久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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