経済優先のアベノミクスが終焉のときを迎えます。それを加速している「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」でのアベノミクスの継承は、日本経済を破綻の淵に導きます。日本経済を破綻させないためにも、世界平和の維持のためにも、「コロナ問題」を速やかに収束させる「PCR検査の徹底」が求められます
|東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎
(要約);
⓵ 経済優先のアベノミクスは、成果を上げることなく、終焉のときを迎えます。それを加速しているのが、「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」です
⓶ 化石燃料の枯渇が迫るなかで、「コロナ問題」の収束対策としての「PCR検査の徹底」が実行されれば、経済活動の再生のためとして、日本経済を破綻に追い込む国家財政の赤字の積み増しは不要となります
⓷ 「コロナ問題」の収束に、「PCR検査の徹底」の方法が用いることが、化石燃料の枯渇が迫り、経済成長のマイナスを強いられる世界で、人類が生き延びる唯一の道です
(解説本文);
⓵ 経済優先のアベノミクスは、成果を上げることなく、終焉のときを迎えます。それを加速しているのが、「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」です
日本の憲政史上最長の首相の座を記録した途端に、安倍晋三首相が、健康上の理由から、突然、首相の座を退くことを決めました。その後継として、いままで、「首相になる気はない」と言っていた菅義偉官房長官が、アベノミクスを継承するとして総裁選に立候補しました。
この安倍首相の突然の退陣によって、朝日新聞のアンケート調査での内閣支持率を、安倍首相退陣の原因にもなった36 %の低い値から、20 % 近く引き上げたアベノミクスですが、日銀総裁に黒田東彦氏を起用して、超低金利政策による円安の誘導と株価の上昇によって景気を回復させるために必要なお金を赤字国債の増発に頼ってきたアベノミクスは、法律で決められた国の財政規律を踏みにじってきました。
このアベノミクスは、それが、始まった第2次安倍内閣の発足の当初から、著名な経済学者の伊東光晴氏の著書(文献 1 )で、厳しく批判されていました。この著書で、伊東氏が主張していた通り、それから6年後のいま、安倍首相の退陣表明とともに、アベノミクスは、それを支援する人々の期待とは逆に、さらなる成長を実現できず、終焉のときを迎えたと言ってよいでしょう。
それだけでありません。今年になって、急に起こった「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」による経済の落ち込みを防ぐためとしての財政規律を無視した大幅な赤字国債の積み増しで、伊東氏が予言したように、日本経済を破綻の淵に追い込もうとしています
具体的には、安倍政権は、「コロナ問題」で落ち込んだ日本経済を救済するためとして、この「コロナ問題」による失業や休廃業を強いられた人々の救済、および、民間の収益事業での経済的な損失を補償するとして、50兆円を超える金額が今年度の補正予算として計上されています。これにより、今年度の赤字国債の発行額は、90兆円を超すとされていますが、「コロナ問題」が収束されなければ、赤字国債の発行に伴う国家財政の赤字は、来年度以降も積み増されることになります。
一方で、この「コロナ問題」を速やかに収束させることができれば、少なくとも、「コロナ問題」に関連した国の財政赤字の積み増しを、最小化することができるのです。いや、政府は、何としても、この「コロナ問題」を収束させる責任があるのです。
これが、いま、政界に余り期待されていなかった安倍首相の後継を予定されるようになった菅官房長官が引き継ごうとしているアベノミクスの経済優先の「コロナ問題」対策なのです。
⓶ 化石燃料の枯渇が迫るなかで、「コロナ問題」の収束対策としての「PCR検査の徹底」が実行されれば、経済活動の再生のためとして、日本経済を破綻に追い込む国家財政の赤字の積み増しは不要となります
いま、百年に一度の国難とさえ言われている「コロナ問題」では、今回、退陣を決めた安倍首相の後継者とされる自民党総裁選での3人の候補者の「コロナ問題」への対応が、日本経済の将来を大きく左右することになると言ってよいでしょう。すなわち、いま、安倍政権が行っている、経済再生を優先して、この「コロナ問題」による経済の落ち込みに対処するための国債を発行して、国家財政の赤字財政を積み増せば、上記(⓵)したように、日本経済は、破綻の淵に追い込まれる大きなリスクを背負うことになります。これに対して、誰が総理になっても、「コロナ問題」を迅速に収束することができれば、「コロナ問題」で落ち込んだ日本経済を「コロナ問題」が起こる前に戻すことができるのです。
これを言い換えれば、安倍首相の後継者には、安倍政権の「コロナ問題」対策をはっきりと否定して頂いたうえで、私どもが、本シフトムコラム(文献 2 )で主張している「コロナ問題」の一刻も速い収束を実施することが求められると言わざるを得ません。
この「コロナ問題」を迅速に収束させる唯一の方法は、「コロナ問題」の発祥の地、中国、および、「コロナ問題」の第一波の収束に成功したEU諸国で用いられていた「PCR検査の徹底」なのです。すなわち、コロナウイルスへの感染の有無を調べる「PCR検査」を全ての国民に実施し、感染者を隔離して、その重症化を防ぐ方法を実行することなのです。ところが、「コロナ問題」の第一波を、中国やEU諸国におけるような、[PCR検査の徹底}を行わないで、緊急事態宣言を発令して、国民への3密回避の「外出の8割自粛の要請」で解決できたと思い込んだ安倍政権は、この緊急事態宣言を解除して、「外出自粛要請」などの緩和を行った途端に、感染者の増加に歯止めがかからない深刻な「コロナ問題」の第二波に襲われているのです。
この「コロナ問題」の収束のための「PCR検査の徹底」の実施を妨げる課題がいくつかあります。その一つは、「PCR検査」の精度が 7 割程度で、「PCR検査」で陰性と判断された無症状の感染者が感染源となって、感染者数を増加させることです。第一波の収束のために、この「PCR検査の徹底」と、3 密の回避のために、日本の「外出自粛」に較べて強制力の強い(違反者に罰則を科す)「ロックダウン(都市封鎖)」方式を採用している中国やEU諸国でも、この「検査精度の不足」から、第二波の襲来を招いているようですが、この第二波の感染者の増加は、「PCR検査の徹底」を行わなかった場合に較べて少ないようです。「PCR検査の徹底」の実施を阻んでいるより深刻な課題は、その実施による感染者の急増に医療設備がついていけない医療崩壊の問題と、PCR検査の費用負担の問題です。しかし、政府は、この「コロナ問題」を一刻も速く収束する義務があることを厳しく自覚して、必要な費用を含め、これらの課題を責任をもって解決すべきです。ちなみに、PCR検査に要する費用を1件当たり3 万円として、これを日本の人口 1.25億人に2 回実施するとして、その費用の総額は、約 7.5 兆円となりますが、この金額は、上記(⓵)したよ「コロナ問題」が収束できなかった時の失業や休業などの逸失利益の補償金額の推定値50兆円の15 % 程度で済むのです。
すなわち、「コロナ問題」が収束できれば、その必要が無くなるGo to トラベルやGo to イートなどのGo to 事業を即時廃止するとともに、「コロナ問題」対策として、ノーベル賞学者の山中伸弥先生も主張しておられる「PCR検査の徹底」を、万難を排して実行する方に、次期首相になって頂ければ、日本経済を破綻の淵から救うことができるのです。
⓷ 「コロナ問題」の収束に、「PCR検査の徹底」の方法が用いることが、化石燃料の枯渇が迫り、経済成長のマイナスを強いられる世界で、人類が生き延びる唯一の道です
現代文明社会を支えるエネルギー源の化石燃料は、やがて確実に枯渇します。この化石燃料の枯渇に伴うエネルギー価格の高騰が、いま、日本だけでなく、世界の経済成長を阻害しているのです。日本エネルギー経済研所編のエネルギー・経済統計要覧(エネ研データ(文献3 )と略記)に記載の世界および各国の経済成長の指標となっている「一人当たりのGDP(国内総生産)」の年次変化を示す図 1 に見られるように、先進諸国での一人当たりのGDPの年次変化は、2000年以降、伸びが小さくなっているように見えますが、世界人口の80 % 余りを占める中国を含む途上国では、依然として、経済成長の指標としてのGDPの増加が継続しており、世界平均では、その伸びが緩やかになっています。
図1 世界および各国の一人当たりの実質GDPの年次変化
(エネ研データ(文献 3 )に記載のWorld Bankデータをもとに作成)
この図には示しませんが、今回の「コロナ問題」の発生による経済の落ち込みにより、今年の世界のGDPの伸びがマイナスに転じることは確実でしょう。すなわち、「コロナ問題」が、化石燃料資源の枯渇による世界の経済成長のマイナスへの転換を速めたと言ってよいでしょう。
「コロナ問題」は、世界の問題です。化石燃料の枯渇が迫る世界で、全ての国が協力して、「コロナ問題」のできるだけ速やかな収束を図るには、上記(⓶)した「PCR検査の徹底」により、それぞれの国が使うお金を最小限に止める方法を採用する以外にありません。特に、経済的な理由から、現在、「コロナ問題」について、何の対策も講じることのできないでいる貧困な途上国のなかには、この「PCR検査の徹底」の実施でも、先進諸国の経済的な支援を受けなければならない国が存在します。
このように、「PCR検査の徹底」により、世界の全ての国の「コロナ問題」が解決できることが、化石燃料の枯渇が迫る世界で、残された化石燃料を分け合って大事に使って、国際的な貧富の格差を解消し、平和な世界に人類が生き延びる道に通じます。
その具体的な方法については、私どものシフトムコラムの最新の論考(文献 4 )ご参照下さい。
<引用文献>
- 伊東 光晴 著; アベノミクス批判、四本の矢を折る 岩波書店 2014年
- 久保田 宏、平田賢太郎; 「PCR検査の徹底」による「新型コロナウイルス問題(以下「コロナ問題」と略記)」の速やかな収束こそが、この「コロナ問題」で、経済活動の再生を優先させて、財政赤字を積み増している日本経済を破滅の淵から救う唯一の道です、シフトムコラム、2020/08/30
- 日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2019、省エネルギーセンター、2020年
- 久保田 宏、平田賢太郎; 化石燃料の枯渇が迫り、「新型コロナウイルス問題(以下「コロナ問題」と略記)」により経済が落ち込んだ世界で、経済活動を再生させるには、「PCR検査の徹底」で、一日も速く「コロナ問題」を収束させる必要があります。この「PCR検査の徹底」で「コロナ問題」を収束させることは、全ての国が協力して、残された化石燃料を大事に使って、国際的な貧富の格差を解消し、平和な世界に人類が生き延びる道に通じます、シフトムコラム 2020/09/02
ABOUT THE AUTHOR
久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。
著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。
E-mail:biokubota@nifty.com
平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。
E-mail: kentaro.hirata@processint.com