地球温暖化対策としてのCO2排出削減に代わって、私どもが提案する「化石燃料消費の節減対策」の実行に、世界の全ての国の協力を得ることが、新しい日本の、そして世界のための正しいエネルギー基本計画を創ります
|東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎
(要約);
⓵ 日本のエネルギー基本計画のなかに、人類の生存に脅威を与える地球温暖化を防止 するためとして、温室効果ガス(その主体は二酸化炭素(CO2)で、以下、CO2と略記)
の排出削減対策が、官僚の手によって、当然のように入っています
⓶ 温暖化対策としてのCO2の排出削減は、エネルギー基本計画のなかに入り込むべきではなかったのです。新しいエネルギー基本計画を創るには、いままでの第5次エネルギー基本計画のなかで中心的な役割を果たしている電源構成のエネルギーミックスが排除されなければなりません
⓷ 第5次エネルギー基本計画の根本的な変革として求められる新しい日本のエネルギー基本計画では、私どもが提案する「化石燃料消費の節減対策」が、世界の全ての国の協力のもとで実行されることが求められています
(解説本文);
⓵ 日本のエネルギー基本計画のなかに、人類の生存に脅威を与える地球温暖化を防止 するためとして、温室効果ガス(その主体は二酸化炭素(CO2)で、以下、CO2と略記)
の排出削減対策が、官僚の手によって、当然のように入っています
日本のエネルギー供給政策を決める「エネルギー基本計画」は、3年ごとに更新されています。2018年につくられた第5次エネルギー基本計画は、資源エネルギー庁の資料(文献1 )に見られるように、3 E+Sを基本として、官僚主導で進められていると言ってよいでしょう。ここで、3 E とは、安定供給(Energy security)、経済性(Economic efficiency)、環境(Environment)で、S は安定供給(Safety supply)です。この3 E+S を一つのエネルギー源で賄うことができないとして、エネルギーの中長期供給計画では、エネルギーミックスの考えが出てきます。
資源エネルギー庁の資料(文献 1 )から、このエネルギーミックスの具体的な数値を表 1 に示します。この表 1 のエネルギーミックスの値としては、発熱量換算の石油の質量で表したエネルギー源種類別の「一次エネルギー消費」の値の「一次エネルギー消費(合計)に対する比率(%)の値とともに、現代文明社会のなかで便利に使われるようになって、「一次エネルギー消費」のなかの電力の比率(電力化率)が45 % 程度になった現状での各電源種類別の「一次エネルギー消費(電力)」の、その合計に対する比率で与えられる電源構成(%)の値も示されています。
表 1 第5次エネルギー基本計画のなかのエネルギーミックスと電源構成、%
(資源エネルギー庁 (文献1 ) に記載のデータから)
この表 1 のエネルギーミックスの値や電源構成の2030年の目標値が、エネルギー基本計画のなかの3E+S とどのように定量的に関係づけられて求められているのかが、資源エネルギー庁の資料(文献 1 )には明らかにされていませんが、私どもが、ここで指摘したいのは、このエネルギーミックスの値や電源構成の2030年の目標値が、いま、世界で大きな問題になっている環境問題(地球温暖化問題)を考慮してつくられたとされていることです。すなわち、現代文明社会の経済成長を支えているエネルギー源としての化石燃料の使用により排出される温室効果ガス(その主体は、二酸化炭素(CO2) で、以下、CO2と略記)の大気中への排出をできるだけ少なくすることが、人類の持続的な生存のために必要だとされているのは理解できます。しかし、それが、日本のエネルギー基本計画のなかのエネルギーミックスの値や電源構成の2030年の目標値とどうつながるのかが私どもには理解できません。
この地球温暖化がCO2 に起因するとする「温暖化のCO2の原因説」に対しては、日本だけでなく世界でも、いわゆる懐疑論として異論を唱える有識者も多数居られます。しかし、この「温暖化のCO2原因説」を主張してノーベル賞を授与されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)は、世界中の気象学者の多数による結論だから間違いのない「科学の原理」だとして、温暖化防止のためのCO2の排出削減対策の実施を訴えて、世界の政治を動かしています。
具体的には、いま、国連の主導のもとで進められている「パリ協定」でのCO2排出削減の国際的な取り決めの実行が進められています。すなわち、1997年のCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)京都で批准された「京都議定書」で決められたCO2の排出削減目標値の提出が、世界の全ての国に義務付けられました。しかし、ここで、私ども科学技術者には信じられない不思議なことが起こっているのです。それは、IPCCに参加している世界中の気象学者がつくったモデルシミュレーションの計算結果としてのCO2の排出量と地球気温の上昇幅との相関関係が正しいと証明できる観測データが、前世紀後半の温暖化データしかないままに、「科学の原理」だとされて、世界のエネルギー政策を決める先進諸国の政治が動かされていることです。
すなわち、CO2の排出量を削減しても将来の人類生存の脅威を防ぐことができるとする科学的な保証が得られていないのです。また、いま考えられているCO2排出削減のコストと、このCO2排出量削減による温暖化の防止効果としての経済的なメリットが比較されるべきなのに、それがなされていません。さらに、この温暖化対策実施の経済性に関してのより重要な問題は、お金を使わないでもCO2排出を削減できる方法があることです。それは、私どもの近刊(文研 2 )で提案しているように、CO2を排出している化石燃料消費を節減すればよいだけの幼児にも判る「科学の原理」です。
確かに、いま、日本で、化石燃料消費を節減すれば、安倍政権が、政治権力の維持のために進めている景気の回復、すなわち、アベノミクスのさらなる成長は継続できなくなります。いや、これは、日本だけの問題ではありません。世界経済の成長を支えてきた化石燃料資源の枯渇が迫る地球上で、より安価な化石燃料代替のエネルギーが開発・利用されるようになるまでは、このような状態が、今後、しばらく継続するのです。
このような状態のなかで創られるべき、日本の「新しいエネルギー基本計画」は、現在の世界の温暖化の脅威を避けるためのCO2排出削減を訴えるIPCCの主張に従って、世界のエネルギー政策をリードするとして、官僚主導でつくられた、これまでの第5次エネルギー基本計画に根本的な変革を迫るものでなければなりません。
⓶ 温暖化対策としてのCO2の排出削減は、エネルギー基本計画のなかに入り込むべきではなかったのです。新しいエネルギー基本計画を創るには、いままでの第5次エネルギー基本計画のなかで中心的な役割を果たしている電源構成のエネルギーミックスが排除されなければなりません
日本の第5 次エネルギー基本計画では、この計画が、3.11 福島の原発事故の後につくられたためもあって、それまで、国内発電総量のなかの約1/4を担うようになっていた原発電力の大部分が一時的に失われたことで、温暖化対策としてのCO2の排出削減に有効な役割を占めていた原発電力を、将来の電源構成のなかで、どのように位置づけるかに重点が置かれていました。これに対して、世界の地球温暖化対策では、いますぐCO2 の排出削減を行わないと地球が大変なことになるとのIPCCの主張にしたがって、現在、世界のCO2排出量のなかで大きな寄与を占めていると考えられる石炭火力発電の利用の削減が主要な課題になっています。
2019年暮れのCOP 25(第25回気候変動枠組条約締約国会議)では、上記の3.11福島の事故で失われた原発電力を代替するとして進められている日本の石炭火力発電所の新増設計画がやり玉に挙げられました。さらに、EU諸国での石炭火力発電の廃止の決定のなかで、日本の石炭火力発電技術の輸出にも厳しい批判が寄せられました。これらの批判に対して、日本政府の代表として会議に出席していた小泉新次郎環境相は何の反論もできませんでした。
しかし、上記 ⓵ したように、現代文明社会を支えているエネルギー源の化石燃料の消費を節減して使えば、IPCCが訴えるような温暖化の脅威は起こらないのです。いま、地球上の人類にとって、温暖化より怖いのは、地球上に残された化石燃料消費の配分の不均衡に伴って生じる貧富の格差による世界平和の侵害です。この恐怖を防ぐ唯一の方法は、地球上に残された化石燃料を全ての国で公平に分け合って大事に使うことです。これが、私どもが、その実行を訴えている、地球温暖化がCO2に起因すると仮定した場合、そのCO2の排出を削減するための「化石燃料消費の節減対策」なのです。
ところで、エネルギー政策のなかに入り込んだ地球温暖化対策を考えるとき、温暖化の原因とされている温室効果ガス(CO2)の排出削減と同時に、いま、CO2を排出している化石燃料の代替としてのエネルギーの供給についても考えなければなりません。例えば、いま、CO2排出削減の最も確実な方法として、IPCCも、その利用を推奨しているCCSとよばれる技術があります。現在、CO2の排出量が最も多いとされる石炭火力発電での燃焼排ガス中からCO2を抽出・分離して地中深く埋立てる技術です。日本政府も、この技術の開発に実証試験を含めて多額の国費を使っています。しかし、このCCS技術の利用では、エネルギー資源としての石炭が、いままでどおりに使われることが前提とされていますから、この石炭資源の枯渇後の経済成長のエネルギーとして、石炭代替のエネルギーの利用・開発が進められなければなりません。それがCO2を排出しないとされる再生可能エネルギー(再エネ)あるいは自然エネルギーともよばれる風力、太陽光、地熱などを用いた新エネルギー(新エネ)電力です。この新エネ電力の開発・利用が進められれば、その利用にお金がかかるCCS技術は必要が無くなるのです。しかし、この化石燃料代替の新エネ電力のいますぐの利用では、経済性が問題になります。したがって、この新エネ電力の利用は、単位発電量当たりの発電コストが、現在、最も発電コストが安い石炭火力との比較で、電力料金の値上で国民に経済的な負担を押し付けている「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の適用無しでも、石炭火力発電より安価になる新エネ電力が見つかるまでは、その利用の拡大は認められるべきでなかったのです。その再エネ電力は、私どもが主張しているように、諸外国でも、現在、最も利用量の多い風力発電の利用でなければなりません。この問題についても詳細は私どもの近刊(文献 2 )をご参照下さい。
これを言い換えれば、温暖化対策としてのCO2の排出削減は、エネルギー基本計画のなかに入り込むべきではなかったのです。したがって、これから創られる新しいエネルギー基本計画には、いままでの第5次エネルギー基本計画のなかで中心的な役割を果たしている電源構成のエネルギーミックスは、排除されなければならないことになります。
⓷ 第5次エネルギー基本計画の根本的な変革として求められる新しい日本のエネルギー基本計画では、私どもが提案する「化石燃料消費の節減対策」が、世界の全ての国の協力のもとで実行されることが求められています
やがて確実に枯渇する化石燃料代替の再エネ電力の利用・拡大に際しては、政治権力者が、その権力の維持のために求める経済成長ができると考えているようです。アベノミクスのさらなる成長を訴える日本の安倍晋三首相や、アメリカファーストを唱えるトランプ米大統領にその典型例をみることができます。いや、経済の専門家と言われる人々の多くもそう思いこまされているようです。このような考えの根底にあるのは、科学技術の進歩への妄信があります。確かに、再エネの利用効率の向上には、科学技術の進歩が必要です。しかしながら、科学技術の進歩によって、新エネ電力の発電コストを、現在、最も発電コストの安い石炭火力発電のコストより安価にするためには時間とお金がかかります。
したがって、IPCCが主張する温暖化のCO2原因説が正しいと仮定した場合、温暖化対策としてのCO2の排出削減のための実行可能な方法として、私どもは、今世紀末までの世界の平均年間化石燃料消費量の値を2012年の値に等しくする方法を提案しています。この方法は、また、いま、その枯渇が迫っている化石燃料資源を、今世紀いっぱい大事に使い、やがてやって来る、再エネ電力のみに依存する世界へソフトランデイングする人類生存の方法でもあります。
この化石燃料消費節減の方法を、国別の節減量についてみると、エネ研データ(文献 1 )に示す、全ての国の一人当たりの化石燃料消費量の値の年次変化の延長としての2050年の値を2012年の世界平均の値とした図 1 で示すことができます。ただし、この図 1 での各国の2050 年の一人当たりの化石燃料消費の値は、2012年の世界平均の値をそれぞれの国の人口の2050年の予測値の2012年の値に対する比率で補正した値として与えられます。詳細は、私どもの近刊(文献2 )をご参照下さい。
図 1 私どもが提案する「化石燃料消費の節電対策」の図示
(私どもの近刊(文献2 )から再録しました)
この図 1 に示される私どもの「化石燃料消費の節減対策」での化石燃料消費量をCO2排出量に換算した値が、いま、「パリ協定」として、各国に義務付けられる脱炭素(CO2 排出削減)量にそのまま置き換えることができます。これを言い換えれば、いま、米国トランプ大統領以外の全ての国の合意の下に進められている「パリ協定」の各国のCO2排出削減の目標値を、図 1 を参考にしながら、化石燃料消費量に換えて頂けばよいのです。
この私どもの「化石燃料の節減対策」を、世界の全ての国で実行して頂くためには、「新型コロナウイルス問題」で、来年に延期になったCOP 26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で、この「私どもの提案」を正式に日本国の提案として、各国に批准して頂くことが必要になります。
すなわち、これが、世界をリードする日本の第5次エネルギー基本計画に代わる「新しいエネルギー基本計画」にならなければなりません。
<引用文献>
- 資源エネルギー庁資料;2030年エネルギーミックス実現に向けた対応について―全体整理、平成30年3月
- 久保田 宏、平田賢太郎;温暖化物語が終焉します いや終わらせなければなりません 化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります 電子出版 Amazon Kindle 版 2019 年、9月
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久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。
著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。
E-mail:biokubota@nifty.com
平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。
E-mail: kentaro.hirata@processint.com