人類生存の危機をもたらす「新型コロナウイルス問題」の一刻も早い収束を目的として行われた安倍首相による「休・失業の補償支援」から全国民に対する「一律10万円支給」への政策変更は、政権維持のための景気回復を目的とする許しがたい蛮行です

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 「新型コロナウイルス問題」の一刻も早い収束を目的として、緊急事態宣言の適用範囲の全国拡大を決めた安倍首相は、同時に、すでに決まっていた「休・失業の補償支援」から全国民に対する「一律10万円支給」対策への変更を決めました

⓶  今回の「休・失業補償支援」から「一律10万円支給」への政策変更では、その目的とされる「コロナ問題」の一刻も早い収束も、経済危機の回避も得られません。それどころか、そのための財政支出が、国家財政収支の赤字を積み増し、日本経済を破綻の淵に追い込むことになります

⓷ 「新型コロナウイル問題」の収束に成功するためには、また、その収束後の世界に生き延びるためには、この「新型コロナウイルス問題」による経済のマイナス成長を率直に受け入れて、この厳しい世界に生き残る知恵を持たなければなりません。それには、全ての国が、地球上に残された化石燃料を公平に分け合って大事に使いながら、再生可能エネルギーのみに依存するエネルギー資源を奪い合うことのない平和な世界にソフトランデングする以外にありません

 

(解説本文);

⓵ 「新型コロナウイルス問題」の一刻も早い収束を目的として、緊急事態宣言の適用範囲の全国拡大を決めた安倍首相は、同時に、すでに決まっていた「休・失業の補償支援」から全国民に対する「一律10万円支給」対策への変更を決めました

「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」の収束の目途が全く立たないで、人命に関わるとともに、経済危機をもたらす、この「コロナ問題」の一日も早い収束が求められています。この状況のなかで、安倍首相は、感染症の専門家の意見に従い、4月16日、この「コロナ問題」対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象区域を4月7日に決めた感染者数の多い7都道府県から、全国に拡大しました。

これにより、人と人との3 密(蜜集、密室、密接)の回避を目的とした、緊急時を除く外出自粛の政府による要請が全国的に実施されることになりました。この3密機会が、現状の8割程度に削減されないと、感染者数の増加が抑えられず、「コロナ問題」を収束することができないとの感染症の専門家の忠告に従ったものです。

この「コロナ問題」により直接経済的な損失を被るのは、外食産業や観光事業での休業、また、スポーツや娯楽などの各種イベントの休止などにより、事業の継続が困難になった経営者や失業者などです。政府は、これらの生活困窮者を救済するためとして、「休・失業補償支援」対策を決定し、その費用を支出するための予算を今年度の補正予算に組み入れることを、すでに閣議決定していました。

ところが、今回、感染者数の増加が止まらないことを理由にした緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大した機会を捉えて、3密回避対策のための緊急時以外の外出の自粛、学校や託児施設の休業などで、大きな不便や経済的な不利益を受ける全国民の救済を行うことがより必要だとして、安倍首相の独善的な主導で、急遽、決められたのが、所得制限無しでの全国民への「一律10 万円の支給」政策です。

この「コロナ問題」での政策変更で、その代償として廃止されたのが、すでに閣議決定されていた「休・失業補償」対策です。問題は、この政策変更により、下記(⓶)するように、国家財政の赤字を積み増すことになるだけで、「コロナ問題」の収束を早めることになるとの保証は得られていないことです。

 

⓶  今回の「休・失業補償支援」から「一律10万円支給」への政策変更では、その目的とされる「コロナ問題」の一刻も早い収束も、経済危機の回避も得られません。それどころか、そのための財政支出が、国家財政収支の赤字を積み増し、日本経済を破綻の淵に追い込むことになります 

今回の「コロナ問題」に関連した非常事態宣言措置の対象地域の全国拡大に伴って決められた「休・失業の補償支援」から「一律10万円支給」政策への変更を主導したのは、安倍政権与党の公明党の山口党首でした。もともと、この「一律10万円支給」の対策案は、立憲民主党などの野党が提案していました。この「コロナ問題」で経済的な損失を被る日本経済を救済するためには、生活と産業に政治による金銭的な支援を行う必要があることは、与野党の共通した考えでしたが、問題は、その金額と、支給のタイミングでした。

すでに政府が閣議決定した、「休・失業補償支援」対策案では、この「コロナ問題」による支給対象者の逸失金額の算定が難しいため、その査定に時間がかかり、支給のタイミングが遅れると懸念されていました。この懸念を払しょくするために野党が提案しており,与論の支持もあるとされた「一律10万円支給」案の採用を安倍首相に強要した公明党山口党首の背後には、世論の重視を訴える創価学会がありました。一方の安倍首相には、憲法改正のために公明党の言うことを聞かなければならない事情があったのです。すなわち、政権与党として、政治権力を維持するために、世論を重視しているように見せかけなければならなかったのです。

この「コロナ問題」の政策変更の理由として、安倍首相が挙げた支給時間の短縮は、国民の立場から見ると、「コロナ問題」収束までに要する時間の短縮でなければなりません。したがって、この「一律10万支給」と、「休・失業の補償支援」のどちらが、この「コロナ問題」の収束を早めることに役立つかが、先ず、問われるべきなのです。この観点からすると、「休・失業補償支援」は、「コロナ問題」の収束を早めることを目的とした3密を回避するための政府による休業要請に応えることに役立ちます。これに較べて、「一律10万円支給」対策では、3密を避けるための自主的は外出制限努力への報償と考えることができますが、このような謝金の支出が、3密の回避にどれだけ貢献するかを定量的に知ることはできません。結局、この安倍首相が主導する「一律10万円支給」対策は「コロナ問題」の収束を早める直接的な効果がないだけでなく、経済危機対策としての貢献も期待できない全く筋の通らない対策以外の何ものでもないのです。この「一律10万円支給」対策について、菅官房長官は、「常識的には、これを受け取るための申請は行わない」との態度を表明しています。本当にこの「一律10万円支給」対策が「コロナ問題」の収束に効果があるのなら、官房長官自らが進んで、10万円を受領すべきではないでしょうか?

今回の「コロナ問題」に対処するための「休・失業補償支援」から「一律10万円支給」対策への変更によって、より大きく問題になるのは、両者の政策の実行に伴う国の財政支出金額の大きな違いです。前者の「休・失業補償支援」の実行に必要な国家財政の支出額は  4兆円程度とされているのに対して、後者の「一律10万円支給対策」では、一人10万円に人口の1.2億を乗じた12兆円の支出が必要になります。これらの財政支出は、ともに国家財政の赤字となるのです。この金額は、今回の非常事態宣言区域の対象地域の全国への適用によって、「コロナ問題」が完全に収束した場合の値です。この収束までの期間が長引いて、財政支出の期間が増えれば、支給金額はさらに増加します。それに伴う国家財政の赤字に伴う基本財政収支(プライマリーバランス)の破綻は、日本円の国際的な信用を失わせ、第2次世界大戦の敗戦時のような恐ろしいインフレを引き起こすことになります。このインフレでは、現役の職のある人は給料が高くなるからいいのですが、年金生活者の年金額は上がりませんから、結局、年金生活の老人の生活のための預金を取り崩されることになり、預金の無い年金生活者が生活困窮者にならざるを得なくなります。すなわち、政治権力維持のための選挙の票を稼ごうとするアベノミクスのさらなる成長戦略に支えられる「一律10万円支給」の対策は、先行きの短い年寄りいじめの政策と言わざるを得ません。恐ろしいことです。

なお、いま、国が、この「休・失業補償支援」対策を放棄した代わりに、自治体が、感染防止のための休業要請への協力金の支給・支援を行おうとしているようですが、行わないところもあり、また、協力金の金額が自治体により異なるなど、一部の自治体からは、これは、本来、国が行うべきだとの不満が出ています。

 

⓷ 「新型コロナウイル問題」の収束に成功するためには、また、その収束後の世界に生き延びるためには、この「新型コロナウイルス問題」による経済のマイナス成長を率直に受け入れて、この厳しい世界に生き残る知恵を持たなければなりません。それには、全ての国が、地球上に残された化石燃料を公平に分け合って大事に使いながら、再生可能エネルギーのみに依存するエネルギー資源を奪い合うことのない平和な世界にソフトランデングする以外にありません

夕方になると、TVで放映される、今日の感染者の増加数を聞いて一喜一憂する毎日です。しかし、まだ、国内においても、また世界においても、ごく一部の国を除いては、「コロナ問題」の収束が得られるとの顕著な兆しは見られていません。すなわち、この「コロナ問題」が収束しない限り、世界経済のマイナス成長が加速して行くでしょう。

この世界経済のマイナス成長の加速を止めるには、全ての国が協力して、それぞれの国の「コロナ問題」を一刻も早く収束させるために全力を尽くす以外にありません。その具体策としては、全ての国が、自国の経済力に合わせた3密の回避による感染対策を実行することが求められます。比較的経済力の大きい日本では、爆発的な感染の増加(パンデミック)を防ぐ手段として、私どもは、上記(⓶)したように、国が、「休・失業補償支援」対策を行うべきと考えますが、それが成功するとのとの保障はありません。もし、この「休・失業支援」対策の実行が成功しなければ、パンデミックが起こった西欧諸国で実施されているような、政治的な強制力を持った、ロックダウン(都市封鎖)が強行されるかもしれません。いずれにしろ、アベノミクスのさらなる成長につながる景気回復を目的とした全国民に対する「一律10万円支給」対策の実施は必要ありません。と言うよりも、経済のマイナス成長の継続が強制されるなかで、日本では、そんなお金を支出できる財政的な余裕はないのです。「コロナ問題」での感染の増加が止まらないなかで、医療崩壊が言われています。そんなお金があるのなら、それを防ぐために使うべきです。

幸いにも人類が、この厳しい今回の「コロナ問題」を収束に導くことができたとしても、その後に、安倍首相が言うような、経済のV字回復は、あり得ないのです。人類は、このマイナス成長の継続を率直に受け入れて、そこで、生き残るための知恵を働かせなければなりません。

やがて確実に枯渇する化石燃料のエネルギーに支えられてきた経済成長の継続を前提とした資本主義社会は終焉したのです。この資本主義の終焉に引導を渡したのが、今回の「コロナ問題」なのです。この今回の「コロナ問題」が収束した世界に、人類が生き残る道は、世界の全ての国が協力して、地球上に残された化石燃料を公平に分け合って大事に使いながら、再生可能エネルギーのみに依存する世界にソフトランデングする以外にありません。

詳細は、私どもの近刊(文献1 )をご参照下さい。

 

<引用文献>

  1. 久保田 宏、平田賢太郎;温暖化物語が終焉します いや終わらせなければなりません 化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります 電子出版 Amazon Kindle 版 2019 年、9 月

 

ABOUT  THE  AUTHOR

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

Add a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です