全世界が協力して「新型コロナウイルス問題」で問われている困難な感染症対策に成功する道を拓くことこそが、化石燃料資源枯渇後のマイナス成長を強いられる社会に人類が生き延びる道を教える唯一の方法です

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」がもたらす世界の経済危機が、人類の生存に大きな試練を与えています。この「コロナ問題」による経済危機によって生活の困窮を訴えるようになった人を支援するとして、政府や自治体は、いま、失業および休業補償金として、現金給付などを含む、経済的な支援対策を行おうとしています

⓶ この「コロナ問題」で、日本経済を破綻させないようにするためには、世界の全ての国と協力して、この世界経済に危機をもたらしている「コロナ問題」を一刻も早く解決することですが、この難しい問題を解決できる目途は立っていません

⓷ この「コロナ問題」の収束に成功するためには、現代文明社会を支えてきた化石燃料資源の枯渇が迫るなかで、日本経済を破綻の淵に追い込もうとしているアベノミクスのさらなる成長のための景気回復を目的とした財政支出は避けなければなりません

⓸ この「コロナ問題」の収束に成功した後の世界は、経済の成長が抑制される世界です。このマイナス経済成長の世界に人類が生き延びるためには、大きな社会構造の変革が必要です。この変革の実行のためにも、人類は心を合わせて平和な世界を創らなければなりません

 

(解説本文);

⓵ 「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」がもたらす世界の経済危機が、人類の生存に大きな試練を与えています。この「コロナ問題」による経済危機によって生活の困窮を訴えるようになった人を支援するとして、政府や自治体は、いま、失業および休業補償金として、現金給付などを含む、経済的な支援対策を行おうとしています

第2次大戦以来の人類の生存にとっての危機とも言われる「新型コロナウイルス問題(以下、「コロナ問題」と略記)」は、その収束の目途が全く立たない状態のなかで、1929年以来の世界経済恐慌を上回る大きな経済危機を招くのではと懸念されています。

いま、国内では、この経済危機をもたらしている感染症の蔓延を防ぐために、人と人との接触を最小限に止めるための外出の自粛が、国民に強く求められています。具体的には、外食産業や娯楽施設の休業や、スポーツなど含む各種イベントなどの中止により、多くの一時的な休業を余儀なくされる事業家や失業者が発生し、これが、大きな社会問題に発展することが予想されます。

日本の場合、いま、この「コロナ問題」に関わる休業および失業による生活困窮者への生活費の補償に使われるお金は、国家財政の赤字のなかで支出されようとしています。この「コロナ問題」の発生と同時に、日銀の黒田総裁は、この補償に必要なお金を、国債の発行で賄うとの方針を表明しました。しかし、この赤字国債の発行額が多額になると、日本円に対する国際的な信用が失われ、日本経済が破綻の淵に追い込まれるようなハイパーインフレが起こることが懸念されます。ところが、日本では、政府も、日銀も、経済の専門家と呼ばれる人の多くも、この財政赤字の積み増しの問題に対して、楽観的な対応をとっているように思えてなりません。今回の「コロナ問題」の発生に対しても、麻生財務大臣は、2025年までに、基本的財政収支(プライマリーバランス)がとれるようになると言っています。しかし、それは、この「コロナ問題」が、比較的短期間に終了する場合を想定してのことではないでしょうか? 現在、その収束の目途が全く立っていない、この「コロナ問題」の収束までの時間が長引けば、当然、この休業や失業による生活費の補償金額が増加し、このプライマリーバランスがとれるまでの時間が長くなります。

もう一つ、このプライマリーバランスの問題に関して、重要なことが指摘されなければなりません。それは、日本では、この「コロナ問題」が起こる前から世界最悪とも言われてきた財政収支の赤字を抱えており、今回の「コロナ問題」での財政赤字が、これに加算されることです。第2次世界大戦の敗戦後、インフレに苦しむ日本経済を、高度成長によって救ってくれた、安価な中東石油はもうありませんから、今後の経済成長により、プライマリーバランスがとれるとの期待は許されないのです。さらに怖いのは、この「コロナ問題」による国内消費の減少を防ぐために、政治権力の保持を求めて、景気回復のためのアベノミクスのさらなる成長を目的として、多額の財政支出が行われ、国家経済を破綻の淵に陥れようとしていることです。

 

⓶ この「コロナ問題」で、日本経済を破綻させないようにするためには、世界の全ての国と協力して、この世界経済に危機をもたらしている「コロナ問題」を一刻も早く解決することですが、この難しい問題を解決できる目途は立っていません

この新しい感染症の蔓延をもたらした「コロナ問題」を国内問題として解決する方法としては、この「コロナ問題」の発生地の中国の湖北省の武漢市で行われたような、人口の流入を完全に阻止する、法的な拘束力を持った、ロックダウンとよばれる方法が用いられるべきかもしません。しかし、この方法によっても、その蔓延を防ぎ得なかったヨーロッパ諸国の例に見られるように、その適用のタイミングが非常に難しいと考えるべきです。

中国のウイルスによるクルーズ船での発症で、比較的早く、この「コロナ問題」の恐怖に気付いた日本では、現在、人口当たりの感染者数、そのなかの死者数の比率は、幸運にも、他国に較べて、低水準をキープしています。しかし、この中国のウイルスを持ち込んで、その初期対応の遅れから、感染者数の爆発的増加(パンデミック)を引き起こした西欧からの持ち込まれたウイルスによると考えられる感染者数の急激な増加を示すようになった日本でも、感染症の専門家の意見では、このパンデミックが何時起こってもおかしくない危機的な状況にあると言われています。これを防ぐ対策として、国内でも、やや遅ればせながらも、海外の人の交流の制限措置を採るとともに、感染症の専門家の意見に従い、感染の媒体になるクラスター(感染者の集団)の発見による感染防止対策を採用していますが、思うように効果が上がっていません。

この現状で、世界および日本における「コロナ問題」に恐怖を抱いた日本政府も、法律的に、ロックダウン方式を採れないなかで、4月7日、大都市地域の住民に対し、緊急時以外の外出の自粛を要請する「非常事態宣言」を発令しました。感染を有効に減らすために、何とかして、人と人の接触を8割以上削減することを住民に求めています。感染症医学の専門家によれば、この接触節減比率が7割程度に止まれば、日本においてもパンデミックが阻止できず、恐ろしい医療崩壊が起こるとされています。いや、すでに、起こりつつあると言ってよい状態が続いています。

 今回の国内の「非常事態の宣言」の期限は、5月の6日とされていますが、都市住民にとっては、厳しい制限と言ってもよい3密(密集、密室、密接)を避けるために、7割程度の在宅勤務も要請されています。これらの方法によっても、感染者数の顕著な減少が見られなければ、さらなる外出自粛や在宅勤務の期間延長も予定されいて、この「コロナ問題」による日本経済の落ち込みはさらに深刻なものになると想定せざるを得ません。

 

⓷ この「コロナ問題」の収束に成功するためには、現代文明社会を支えてきた化石燃料資源の枯渇が迫るなかで、日本経済を破綻の淵に追い込もうとしているアベノミクスのさらなる成長のための景気回復を目的とした財政支出はゆるされません

上記(⓵)したように、この「コロナ問題」が解決されるまでは、休業や失業補償などに使われるお金が国家財政の赤字で賄われることになるので、この財政赤字分が国の借金となり、経済成長が抑制されることになります。

ところで、人類の歴史のなかで、この「コロナ問題」のような感染症の恐怖は何度かやってきたと考えられます。医学が発達していなかった時代でも、多分、この感染症に耐えて生き残ったのが私どもの先祖なのではないでしょうか? 今回も、進歩した医学の助けを借りれば、やがて、この「コロナ問題」の収束はやって来るはずです。しかし、それまでに失われる人命を可能な限り少なくするには、なんとかして、この問題が収束するまでの時間を短くする必要があります。そのためには、地球上の全ての人間が、心を合わせて、この「コロナ問題」の一刻も早い収束のために最大限の努力を払わなければなりません。

この新型コロナウイルスによる感染症問題を完全に収束するためには、適応するワクチンの開発が必要とされていますが、その完成には時間とお金がかかります。この「コロナ問題」が収束して、はじめて、この問題に伴って発生した、世界経済の危機を救うことができます。しかし、いま、現代文明社会の成長のエネルギーを支えている化石燃料資源の枯渇が迫る世界では、この世界経済の回復に必要なエネルギー供給のお金に限りがあります。したがって、日本では、日本経済を破綻の淵に追い込まないためにも、政治権力の保持のためのアベノミクスのさらなる成長を目的とした景気回復に、無駄な財政赤字を積み増すことは許されないのです。

 

⓸ この「コロナ問題」の収束に成功した後の世界は、経済成長が抑制される世界です。このマイナス経済成長の世界に人類が生き延びるためには、大きな社会構造の変革が必要です。この変革の実行のためにも、人類は心を合わせて平和な世界を創らなければなりません

人類が、幸いにも、この「コロナ問題」の収束に成功することができたとして、その後にやって来る世界は、経済のマイナス成長が強いられる世界です。したがって、人類は、やがて確実にやってくる、このマイナス成長の世界に生き残る知恵を持たなければなりません。具体的には、マイナスス経済成長の世界に、明日の不安を最小限に止める精神的に豊かな生活を送っていくためには、物質的な豊かさを追求してきた、現代文明社会での社会構造の大きな変革が要請されなければなりません。

先ず、現代文明社会の豊かさのシンボルとなっている人口密度の大きい都市生活のなかでは、上記(⓶)したように、3密(密集、密室、密接)が避けられないために、今回の「コロナも問題」に見られるような、深刻な感染爆発(パンデミック)が起こることを厳しく認識すべきです。この人類の生存を脅かしかねない感染症の脅威は、必ずまたやってきます。この感染症の脅威を最小限に止めるには、科学技術としての医学の進歩が必要ですが、この医学が、この感染症の蔓延を防ぐためには、人間同士の接触をできるだけ少なくすることを要求しているのです。したがって、この感染症対策としても、大都市での生活を大きく制限する社会構造の変革が求められるのです。

この都市人口を分散させる変革の要請は、感染症対策のためとは限りません。日本のように、地震や風水害が頻発する国においては、これら自然災害の防止対策としても、この都市改造が求められなければなりません。ところが、いままで、政治が要請するGDPを指標とする経済成長第一の資本主義社会のなかで、その見直しがなおざりにされてきたのです。

いままで、経済成長のエネルギーを支えてきた化石燃料資源の枯渇が迫り、水野和夫氏(文献 1 )が言うように、資本主義社会が終焉しようとしているいま、私どもは、マイナス経済成長のなかで生き延びる知恵を持つ以外にありません。しかし、例えば、都市生活を避けて、みんなが田舎暮らしをするとしても、このような社会構造をつくるには時間とお金がかかります。このお金をつくるための最も簡単な方法は、国家財政の赤字につながる無駄なお金を使わないようにすることではないでしょうか? その典型例として、日本では、先ず、政治が、その権力を維持するための景気対策として、不必要に個人消費を煽るようなことは止めるべきと考えます。より大きな無駄としては、軍事的な安全保障のためとして、防衛費を増大させることがるのではないでしょうか?。世界中が協力しなければ、今回の「コロナ問題」は解決できないのです。そのための平和な世界の樹立のためには、軍事力の増強は不必要なのです。

もちろん、この「コロナ問題」は、世界の問題ですから、日本だけの感染の防止では、完全な収束が得られません。すなわち、世界の「コロナ問題」の完全収束のためには、この私どもが提案する「世界平和の樹立」こそが必須の要請であること、すなわち、日本が世界に誇る「平和憲法」を世界に広めることが必要になることを付記させて頂きます。

 

<引用文献>

1 . 水野和夫;資本主義の終焉と歴史の危機、集英社新書、2014年

 

ABOUT  THE  AUTHER

久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。

著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail:biokubota@nifty.com

 

平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。

E-mail: kentaro.hirata@processint.com

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