中国発の「新型コロナウイルス問題」が世界経済のマイナス成長への対応要請の時期を早めました。化石燃料資源の枯渇に伴う世界経済の成長抑制の到来を率直に受け止め、人類が生き延びるための「化石燃料消費の節減対策」を実行しましょう
|東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎
(要約);
⓵ 中国初の新型コロナウイルス問題が、中国経済のマイナス成長を通して、世界の経済成長をマイナスに導く時期を早めようとしています
⓶ この新型コロナウイルス問題による世界経済のマイナス成長を、人類は率直に受け入れて、このマイナス成長社会に人類が生き延びる道を、「化石燃料消費の節減対策」の実行に求めるべきです
⓷ 日本経済が、世界のマイナス成長のなかで生き残るためには、何としても、世界中の全ての国の協力のもとで、今回の新型コロナウイルスの問題が解決できる目途を立てることが最優先で要請されます。それができて初めて、次年度へのオリンピックの開催の延期が可能となります
(解説本文);
⓵ 中国発の新型コロナウイルス問題が、中国経済のマイナス成長を通して、世界の経済成長をマイナスに導く時期を早めようとしています
中国の湖北省で始まった新型コロナウイルス問題(以下「この問題」と略記)は、いまや、世界中に広がり、その感染者数の増加が継続し、何時、収束するのか、その見通しが立っていません。
今回の「この問題」については、いままでのところ、感染者のなかの死者の数がそれほど高くなく、人類の生存に脅威を与えると懸念されたペストなどの感染症に較べると、人類にとっては、それほどの脅威にならないのではないかとの見方もあるようです。しかし、グローバル化による世界中の人的交流の拡大による感染速度の速さを考えると、その防止対策の技術的な困難とともに、この感染防止対策として採られている産業界での人的交流阻止の措置などによりもたらされる世界経済成長の抑制が大きな社会問題どころか、政治問題になっています。
特に、「この問題」が、いま、世界の経済成長を支えて、製造業における世界の工場の役割を担うようになった中国で発生したことが注目されなければなりません。すなわち、「この問題」が発生して以来、僅か2月ほどで、中国の輸出産業の収益が17 % 減ったと報道されており(朝日新聞(2020/3/8)より)、また、製造業の部品の製造を中国に依存している先進諸国の経済にも大きな影響を与えることは確実ですから、「この問題」の動向が、今後の世界経済を大きく抑制するとの懸念が、朝日新聞の夕刊(2020/3/10)の見出しの
に見られるように、世界全体の株価の下落など、世界の金融市場を大きく揺さぶっています。
実は、「この問題」が起こる以前から、「この問題」と同じような騒ぎが起こっていたのです。それは、人類の生存を脅かすとされている地球環境問題です。すなわち、このまま人類が、経済成長のためのエネルギーとしての化石燃料消費の増加を継続すれば、地球大気温度の大幅な上昇により、生態系に不可逆的な変動が生じ、人類の生存が脅かされるとの説が、国連の下部機構のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によって訴えられ、この温暖化の原因とされている温室効果ガス(その主体は二酸化炭素、以下、CO2と略記)の排出削減が世界の政治に強く求められていました。これが、いま、トランプ米大統領以外の世界のほぼ全ての国の合意のもとで進められている「パリ協定」の世界のCO2排出削減の要請なのです。
しかし、私どもの試算によれば、人類が、地球温暖化対策のためとして、その実行にお金のかかるCO2の排出削減のための石炭火力発電との決別や再生可能エネルギー(自然エネルギー)の一層の拡大ではなく、私どもが提案する、お金のかからない「化石燃料消費の節減対策」を実行すれば、このIPCCが主張する温暖化の脅威が起こりません。その詳細については、私どもの近刊(文献1 )を参照して下さい。
したがって、今回の「この問題」の発生によってもたらされる世界経済成長の抑制は、化石燃料の枯渇後にもたらされる世界経済成長がマイナスになる時期を、多少早めたと考えることもできるのです。これを言い換えれば、「この問題」の解決が、世界経済の成長の抑制を制御することにもなるとして、政治的にも大きく注目されています。
⓶ この新型コロナウイルス問題による世界経済のマイナス成長を、人類は率直に受け入れて、このマイナス成長社会に人類が生き延びる道を、「化石燃料消費の節減対策」の実行に求めるべきです
このように考えると、今回の新型コロナウイルス問題に対処することは、人類が生存のために必要とされている経済成長を抑制することになる点では、IPCCが主張するCO2の排出削減のために、私どもが主張する「化石燃料消費の節減対策を実行すること」と同じになるのです。
すなわち、上記(⓵)したように、科学的に起こらないことが明確に示されているのに、その対策に無駄な金をかければ、国際的な貧富の格差を増大させ、世界平和の侵害を助長しかねないのです。と言うことは、もし、IPCCの主張が正しかったとしても、温暖化対策としてのCO2の排出削減の代わりに、その実行により確実にCO2の排出を削減できる「私どもが訴える化石燃料消費の節減対策」の実行を、COP 26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)が求める、新しい「パリ協定」の実行課題とすべきことになります。
具体的には、いま、トランプ米大統領以外の全ての国の政治が協力して推進しようとしている「パリ協定」のCO2排出削減目標を、私どもが訴える「2050年の一人当たり化石燃料消費の節減目標を2012年の世界平均の一人当たりの化石燃料消費の値に代える化石燃料消費節減対策」を実行して頂けばよいのです。
もちろん、今後、また確実に起こるであろうと予測される世界規模の新しい感染症対策に対応するためにも、未だ、その正体が掴めていないこの新型コロナウイルス問題(「この問題」)を収束させるための対策としても、世界中の全ての国が協力して、全力で、「この問題」の解決に最善を尽くす必要があります。
なお、ここで留意すべきは、「この問題」の解決は、自国だけが、この感染症の蔓延から逃れればよいとの一国主義を離れた、人類の生存に関する世界の問題であることを厳しく認識することです。例えば、感染拡大の防止についての特定の2国間の出入国制限の問題でも、両国間の友好関係を損ねないような協議が前提になるべきです。さらに言えば、いま、経済成長のエネルギーとして用いられてきた化石燃料資源の枯渇が迫るなかで、その消費の公平な配分を目標として、世界の平和を侵害しようとしている国際的な貧富の格差の解消こそが、人類の生存を保証するために求められなければならないのです。
⓷ 日本経済が、世界のマイナス成長のなかで生き残るためには、何としても、世界中の全ての国の協力のもとで、今回の新型コロナウイルスの問題が解決できる目途を立てることが最優先で要請されます。それができて初めて、次年度へのオリンピックの開催の延期が可能となります
この世界の新型コロナウイルス問題(「この問題」)は、世界経済を確実にマイナス成長に追い込みます。これに対して、世界の殆ど全ての国では、政治権力者が、その権力を維持するために、何とか経済成長の維持を継続しようとしています。その典型例が、日本におけるアベノミクスのさらなる成長の維持です。
「この問題」による日本経済への負の影響が報道されるとともに、日銀の黒田総裁は、経済成長の維持のために、アベノミクスの異次元の低金利政策をさらに強化するとしています。しかし、世界経済を支えている化石燃料資源の枯渇が迫るなかで、こんなことをすれば日本は、財政赤字を積み増すことになり、経済を破綻の淵に追いやることになります。
今回の「この問題」による 世界経済成長の減退に対処できる唯一の方法は、全ての国が、「この問題」による世界経済のマイナス成長を素直に受け入れること以外にありません。いま、「この問題」によって、日本経済のなかで、直接、大きな被害を受けるのは、海外からの入国を制限することによる観光事業でしょう。しかし、これは、「この問題」が解決するまでの一時的な問題です。政府による融資なども加えて、何とか頑張って貰う以外にないのではないかと考えられます。
いま、日本にとってのより大きな問題は、東京オリンピックが開催できるかどうかではないでしょうか? 政府は、何としても、オリンピックを開催したいために、「この問題」が始まった当初、「この問題」を大きな問題にしたくないとの願望から、その初期対応が遅れた結果、現状の緊急事態を招いたと言ってよいでしょう。国民の努力で、何とか国内での「この問題」が解決できたとしても、イタリアを始めとする世界中に拡散した「この問題」が完全に収束しない限り、日本政府の希望だけで、東京オリンピックを開催することは困難と考えるべきでしょう。
いずれにしろ、世界の全ての国の協力により、「この問題」の完全解決の目途が立った時点で、もし可能であれば、例えば、来年度へのオリンピック開催の延期があってもよいと考えます。
いま、人類の生存にとって、最も大事なことは、世界の全ての国が協力して、今後、再び起こるかもしれない地球規模の感染症問題に対応する体制をつくることができるとの科学的な実証を得ることです。それが無ければ、世界中の人が集まるオリンピックは開催できないことが厳しく認識されなければなりません。
<引用文献>
1.久保田 宏、平田賢太郎;温暖化物語が終焉します いや終わらせなければなりません 化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります 電子出版 Amazon Kindle 版 2019 年、11 月
ABOUT THE AUTHER
久保田 宏(くぼた ひろし)
1928年生まれ、北海道出身。1950年、北海道大学工学部応用化学科卒業、工学博士、
東京工業大学資源化学研究所 教授、同研究所資源循環研究施設長を経て、1988年退官、
東京工業大学 名誉教授、専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会 会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして、海外技術協力事業に従事。中国同済大学、ハルビン工業大学 顧問教授他、日中科学技術交流により中国友誼奨賞授与。
著書に『解説反応操作設計』『反応工学概論』『選択のエネルギー』『幻想のバイオ燃料』
『幻想のバイオマスエネルギー』『原発に依存しないエネルギー政策を創る』(以上、日刊工業新聞社)、『重合反応工学演習』『廃棄物工学』(培風館)、『ルブランの末裔』(東海大出版会)、『脱化石燃料社会』(化学工業日報社)、『林業の創生と震災からの復興』(日本林業調査会)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。
E-mail:biokubota@nifty.com
平田 賢太郎(ひらた けんたろう)
1949年生まれ、群馬県出身。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年、三菱化学株式会社退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。現在、Process Integration Ltd. 日本事務所および平田技術士・労働安全コンサルタント事務所代表。公益社団法人日本技術士会 中部本部 本部長。著書に、『化学工学の進歩36”環境調和型エネルギーシステム3.3 石油化学産業におけるシナリオ”』(槇書店)、『改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月』、『シェール革命は幻想に終わり現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます-科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する―、電子出版 Amazon Kindle版 2019年10月』、『温暖化物語が終焉しますいや終わらせなければなりません-化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が、平和な世界に生き残る道を探ります-電子出版 Amazon Kindle版 2019年11月 』他。
E-mail: kentaro.hirata@processint.com