「温暖化物語の終焉」(その2 ); 国連が決めた「持続可能な開発目標(SDGs)」から、このSDGsの理念と相反する項目13「温暖化対策」は排除すべきです
|東京工業大学名誉教授 久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎
(要約);
⓵ 国連加盟国が決めた「持続可能な開発目標(SDGs)」は、平和な世界に、全ての国が協力して生き延びる理想的な理念とそれを実現できる具体策を示しています。しかし、このなかに、このSDGsの理念と相反する項目13 の温暖化対策が含まれています
⓶ SDGs のなかの項目13 の「温暖化対策」の実行では、いま大きな問題になっている先進国と途上国との間の貧富の格差の拡大が促され、世界平和を侵害するリスクが含まれています
⓷ 化石燃料の枯渇が迫り、世界経済の発展が抑制を強いられる中で、いま、「温暖化物語」として、世界平和のために、貧富の格差を解消することを目的としたSDGsの実践に必要なお金を無駄に使っているSDGsのなかの項目13「温暖化対策」は、SDGsから排除されるべきです
(解説本文);
⓵ 国連加盟国が決めた「持続可能な開発目標(SDGs)」は、平和な世界に、全ての国が協力して生き延びる理想的な理念とそれを実現できる具体策を示しています。しかし、このなかに、このSDGsの理念と相反する項目13 の温暖化対策が含まれています
2050年に国連に加盟する全ての国の合意で、世界の平和を維持するための規範として決められた「持続可能な開発目標(SDGs)は17 の項目からなっています。これらの各項目には、主として、現代科学文明の発展に後れをとった後進国、および発展途上国とよばれる国々の貧しい生活の向上に寄与する開発目標が具体的に示されています。同時に。このSDGsの目標の達成のために、私ども日本を含む経済先進国の果たすべき役割が明確に示されています。
ところが、このSDGsの崇高な理念と実践目標に相反するとしか見られない項目が一つ含まれています。それが、このSDGsのなかに入り込んだ項目13の「温暖化対策」です。
⓶ SDGs のなかの項目13 の「温暖化対策」の実行では、いま大きな問題になっている先進国と途上国との間の貧富の格差の拡大が促され、世界平和を侵害するリスクが含まれています
SDGs の項目13 では、いま、世界中の全ての国が地球温暖化の原因になるとされている温室効果ガス(その主体は二酸化炭素で、以下、CO2と略記)の排出をいますぐ削減しないと、地球上の生態系が重大な被害を受けて、人類の生存に大変な脅威が及ぼされるとして、「温暖化対策」の実行を世界の全ての国に要請しています。
しかしながら、この「温暖化対策」要請のもとになっている「地球温暖化の脅威」は、SDGsを決めた国連の下部機構としてのIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が主張する科学の仮説なのです。確かに、いま、地球気温の上昇が継続しているようですが、これが、IPCCが主張するように、産業革命以来続いている大気中へのCO2の排出量の増大に起因するものだとの科学的な証拠は得られていないとする多くの科学者による懐疑論が存在します。すなわち、この温暖化が、人類の生存に大きな脅威を与える地球生態系へのダメージを与えることになるのかどうか、本当のことは、判っていないのです。さらに、その上に、詳細は、私どもの近刊(文献 1 )をご参照頂きますが、もし、このIPCCによる温暖化のCO2原因の仮説が正しかったとしても、私どもが主張しているように、中国を含む世界の化石燃料消費大国が、このCO2の排出源である「化石燃料消費の節減対策」を実行すれば、温暖化の脅威をもたらすとされるCO2の排出は削減できるのです。いま、地球上の化石燃料資源の枯渇が迫り、この化石燃料のエネルギーに依存して成長を続けてきた世界経済が抑制されるなかで、世界が協力して、「温暖化対策」としてのCO2の排出削減を、お金を使わないで実行できる方法はこれしかないのです。具体的には、いま、トランプ米大統領以外の世界の全ての国の協力で進められている「パリ協定」のCO2排出削減目標を、「化石燃料の消費の節減」に代えて、その目標値を、2050年の各国の一人当たりの化石燃料消費量を2012年の世界平均の値にすればよいのです。
ところが、いま、世界各国の政治は、IPCCの主張を真に受けて、例えば、温暖化対策としてCCS技術(化石燃料の燃焼排ガス中のCO2を抽出・分離して地中深く埋立てる技術)、さらには、CO2を排出しないとされる再生可能エネルギー(再エネ)電力を用いた場合に、その利用量を拡大するための「再生可能エネルギ―固定価格買取制度(FIT制度)」を適用することで、市販電力料金の値上の形で、必要なお金を国民から徴収するなど、お金のかかる温暖化対策が利用されています。
しかし、このような金のかかる温暖化対策の実行では、全ての国に大きな経済的な負担を強いることになりますから、いま大きな社会問題になっている貧富の格差を縮小することを目的としているSDGsの実践を妨げることになるのです。
⓷ 化石燃料の枯渇が迫り、世界経済の発展が抑制を強いられる中で、いま、「温暖化物語」として、世界平和のために、貧富の格差を解消することを目的としたSDGsの実践に必要なお金を無駄に使っているSDGsのなかの項目13「温暖化対策」は、SDGsから排除されるべきです
いま、世界は、人類の生存のためには、何としても温暖化の脅威を防がなければならないと、国連を中心に、躍起になって温暖化対策としてのCO2排出削減のための実践行動が行っていると言ってよいでしょう。しかし、上記(⓶)したように、私どもが主張する「化石燃料の節減対策」を実行できれば、温暖化の脅威は起こりません。人類の生存にとって、この温暖化より怖いのは、いままでの世界経済の発展のエネルギー源となってきた化石燃料消費の配分の不均衡に伴って拡大してきた貧富の格差による世界平和侵害の脅威です。
この貧富の格差の拡大を防ぐためには、いま、「温暖化物語」として進められている「温暖化対策に多額の国民のお金(税金)を使わせているこの国のエネルギー政策を根本的に改めなければなりません。この「温暖化物語」とは、国内のIPCCの一員を務めておられ、地球気候変動の歴史に関する著作(文献2 )もある杉山太志氏による造語ではないかと考えられます。杉山氏は、国際環境経済研究所のウエブサイト(杉山太志;「温暖化物語」を修正すべし、ieei 2019/07/01)のなかで、いま、国策として進められている「温暖化物語」を、要約、次のように厳しく批判をされています。
いま、温暖化対策は待ったなしとされているが、それは、政府が、温暖化対策に必要な予算を獲得するためである。温暖化は起こったとしても、過去の地球上の気候変動の歴史から見て、さほど厳しいものではない。IPCCのCO2原因説に基づく気候変動のシミュレーションモデルの計算結果としての予測結果が不確実なのに、温暖化対策としてのいますぐのCO2の排出削減のために再エネ電力の大量導入が必要だとして、「FIT制度」の適用による市販電力料金の値上で2兆円を超えるお金が国民から徴収されている。これは科学に対する犯罪で、政治がつくった「温暖化物語」は修正すべきである。“
IPCCの国内委員の一人として、自分が所属するIPCCの地球温暖化のCO2原因の仮説を厳しく批判しておられる杉山氏の指摘は、いま、化石燃料の枯渇が迫るなかで、私どもが提案する「化石燃料消費の節減対策」を実施すれば、温暖化の脅威は防止できるとする上記(⓶)の私どもの主張を支持して下さるものです。いま、私どもは、杉山氏の「温暖化物語を修正すべし」を、さらに「温暖化物語は終焉すべし」としています(文献1 )。これにより、いま、世界の全ての国の合意で進められている「パリ協定」のCO2排出削減目標を、お金を使わないで実行できる「化石燃料消費の節減目標」に替えることになり、SDGsが要請している貧富の格差が解消されることになります。すなわち、国連の主導によるSDGsが目的としている貧富の格差の解消と相反する項目13 を、SDGsから排除して頂くことが、人類の生存のための世界平和の維持を訴える国連の正しい対応ではないかと考えます。人類の生存にとって不要な温暖化対策に無駄なお金を浪費する代わりに、そのお金を世界平和の実現目的とするSDGsの理念の実践のために役立てて頂くことをお願いしたいと考えます。なお、本稿の表題を、私どもの前稿(文献1 )の続きとして、「温暖化物語の終焉」(その2 )としたことを付記します。
<引用文献>
- 久保田 宏、平田 賢太郎 ; 温暖化物語が終焉します、いや終わらせなければなりません、化石燃料の枯渇後に、日本が、いや人類が生き残る道を探ります Amazon 電子出版、Kindle、2019年11月
- 杉山太志;環境史に学ぶ地球温暖化、エネルギーフォーラム、2012年
ABOUT THE AUTHER
久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他
平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。