政治が要請する「原発保持」のために、女川2号機 新基準「適合」とされました

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 東北電力女川原発2 号機の再稼動の目途がつきました

⓶ 女川原発2 号機の再稼動での経済性は、みかけ上はなんとか成立するように見えます。しかし、使用済み核燃料の処理・処分のコストが含まれない限り、この女川に限らず、国内の全ての原発の再稼動の経済性は整理しないと考えるべきです 

⓷ 3.11 以後の政府による原発再稼動計画は破綻しています。 原発に依存しないエネルギー政策の創造こそが、日本のエネルギー政策を混迷から脱し、化石燃料枯渇後の世界に日本経済が生き残る道を創ります

 

(解説本文);

⓵ 東北電力女川原発2 号機の再稼動の目途がつきました

少し前になりますが、朝日新聞(2019/11/28)の朝刊第1面に、

“女川2号機 新基準「適合」 規制委 地震 津浪対策を了承”

と報道されました。さらに、この東北電力女川原子力発電所が立地する自治体の 宮城県、女川町、石巻市などの首長が反対していないので、小見出しで、

″来年度後半にも再稼動か“

とされています。

この女川原発は、東日本大震災の地震と13mを超す津波に何とか耐えて、福島第1原発のような過酷事故を免れました。今回の再稼動に際しても、23.1 mを超す防潮堤の嵩上げを行うなど、防災対策に、国内の他の原発の再稼動のための安全対策に要した費用1,300 ~ 2,300 億円よりかなり多額の3倍近い4,000億円もの巨費を投じて、政府の再稼動の要請に応えてきました。

この朝日新聞(2019/11/28)の第2面にもあるように、この女川原発が立地する地域は、“想定超す地震 過去3 度” とあるように、1923 ~ 2010 年までの間に、M 7級の地震が3度も発生しており、今後30年間の同程度の大地震の発生確率は90 % と想定されています。

しかし、今回、原子力規制委員会が「適合」と認めた地震対策のための費用は、規制委の更田委員長が、「十分な余裕をもった値だ」と認めています。

問題は、先ず、4,000億円もの巨額の費用を使って、この女川原発を再稼動させることで、東北電力が採算がとれるかどうかとともに、この地域自治体の首長が女川原発の再稼動に対して、肯定的な態度を示していることです。後者の問題に対しても、同じ朝日新聞は、

“地元「原発ないと限界集落」”

として、現状では、地域住民の女川原発再稼動擁護の姿勢を認めざるを得ないのではないかと記しています。それは、この原発城下町とよばれていた地域には、3.11福島の事故以前には、約1 万人が住んでいたのが、現在、人口が5,000人に減少しました。すなわち、この地域住民にとっての震災からの復興のためにも、原発の再稼動が必要だと考えられるからではないでしょうか。

 

⓶ 女川原発2 号機の再稼動での経済性は、みかけ上はなんとか成立するように見えます。しかし、使用済み核燃料の処理・処分のコストが含まれない限り、この女川に限らず、国内の全ての原発の再稼動の経済性は整理しないと考えるべきです

東北電力の女川原発は、3.11 福島の過酷事故を引き起こした東京電力の福島第一原発と同じ沸騰水型(BWR)で、日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2019によると、 1 ~ 3号機、それぞれ最大出力、稼働開始年月、および、法定使用年数40年に対する残余使用年月(運転開始年月から計算)が

とされています。

いま、再稼動の対象になっている女川原発2号機について、資源エネルギー庁により公表されている原発の発電コストに関する資料を参考にして、再稼動開始後の経済収支の概算を行ってみます。

先ず、再稼動のために必要な設備費用を回収するための単位発電量当たりのコストは、一般に、

(原発再稼動後の単位発電量当たりの発電コスト 円/kWh)

=(原発の再稼動の最大出力当たりの設備価格 K 円/kW-設備)

/ (原発の最大出力当たりの運転期間中の発電量 F  kWh/kW-設備)    ( 1 )

ただし、

(原発再稼動後の最大出力当たりの運転期間中の発電量 F  kWh/kW-設備)

=(原発の最大出力 T  kW)×(8,760 h/年)

×(原発設備稼働率 y )×(原発使用年数 Y 年)          ( 2 )

となります。

したがって、女川原発 2 号機について、( 2 ) 式で、T = 825 kW、y =0.70、Y = 15 年とすると、F =250.8 億kWhと計算されますから、この値と、K = 4,000 億円を ( 1 ) 式に代入すると、女川原発2 号機の再稼動のための設備償却の発電コストは 5.33 円/kWhと計算されます。

次いで、資源エネルギー庁の推定として、再稼動後の原発の運転コストを、この設備償却コストと同程度とすると、(原発の設備償却および運転のコスト)は、10.66(=5.33 ×2 )円/kWhとなり、さらに、同じ資源エネルギー庁の資料により(原発の社会的コスト)1.6 円/kWhをプラスすると、再稼動後の女川原発2 号機の総発電コストは、12.26 円/kWhとなり、現状の再エネ電力の利用と較べて、やや高くつきそうですが、何とか、再稼動の経済性が成り立つことになると考えられます。

しかし、この原発の再稼動の経済性の計算には、原発の再稼動によって、積み増される使用積み廃棄物の処理・処分のコストが算定できないとして入れてありません。いま、政府は、この使用済み核燃料廃棄物の処理、処分地を国内に求めることに躍起になっていますが、全くその目途が立っていません。ということは、この使用積み核燃料の処理・処分費を考慮すると、原発の再稼動の経済性は成り立たないことになります。

この現状のなかで、政府は、何とか、再稼動できる原発は再稼動して、需要を満たせない分の電力を再エネ電力で補えばよいと考えているのではではないかと思われます。その考えの根底にあるのは、やがて枯渇する化石燃料の代替となる再エネ電力と原発電力の利用・拡大に、温暖化対策としてお金をかけててもよいとする世界の政治の流れが存在するからだと考えられます。

これに対して、再稼動後の使用年数が5 年程度となる1号機は、安全対策設備投資にお金をかけるメリットは見当たらないとして、昨年、既に廃炉にすることが決まっているようです。また、再稼動後の使用年数が20 年以上と見積もられる3号機は、2 号機の再稼動が許されれば、その再稼働のための安全性の審査には問題はないとして、現在、その使用済み核燃料廃棄物量の増加を積み増さないためにも、再稼動を急がない方針をとっているのではないかと考えられます。

 

⓷ 3.11 以後の政府による原発再稼動計画は破綻しています。 原発に依存しないエネルギー政策の創造こそが、日本のエネルギー政策を混迷から脱し、化石燃料枯渇後の世界に日本経済が生き残る道を創ります

3,11 福島の事故以前、57基あった原発のうち、27基が新しい規制基準の下での再稼動に向けた審査を申請し、女川原発の2 号機を含む16 基が「適合」になりました。残る11 (= 27 – 16 ) のうち、中国電力の島根原発を除く15 基は審査が難航しています。

政府は、原子力規制委員会が適合と認めた原発は再稼動させる方針ですが、今までに実現したのは、9 基に止まっています。一方で。3.11 以後、廃炉が決まったのは、倍以上の21基に上ります。政府のエネルギー政策では、2030年度までに、国内総発電量の20 ~22 %を原発電力に頼るとしていますが、総発電量が3.11 以前と変わらないとすれば、今後、新らしく原発を建設しなければならないはずです。

しかし、3.11 以後、国民の多数に原発ゼロへの願望が広がるなかで。政府は、そんなことが言い出せず、結局は、成り行き任せの状態を継続せざるを得ないのが、混迷する日本のエネルギー政策の現状だと言ってよいでしょう。とは言っても、僅か9基程度に止まるとしても、再稼動を許された原発が、今後とも、どこにも持って行きようのない使用積み核燃料廃棄物を排出し、禍根を将来に残し続けるのです。上記(⓵)の女川原発2号機 「適合」の記事を掲載した朝日新聞(2019/11/28)の大見出しに “想定を超す地震 過去 3 度” とありますように、地震国日本にとっての今後の経済成長を促すためのエネルギー源としての原発電力は、絶対の安全は、原発を持たないことだとの科学の原理からも不要とすべきなのです。

現代文明社会を支えてきた化石燃料資源の枯渇が迫るなかで、全ての国が求める平和な世界に生き残るためのエネルギーとしては、世界経済の成長を抑制するための私どもが提案する「化石燃料の節減対策」を実行するなかで、現用の化石燃料を用いる火力発電のコストより安くなった時の再生可能(再エネ)電力を利用すればよく、その中に原発電力が含まれる必要はありません。

詳細は、私どもの近刊(文献 1 )を参照頂きますが、これが、3.11 福島の過酷事故を経験した日本が、世界に先駆けてとらなければならない脱原発のエネルギー政策でなければなりません。

 

<引用文献>

1.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――
電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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