「アベノミクスのさらなる成長」が求める「原発電力の保持」は、「温暖化物語の終焉」のなかで、はじめて、不要となります

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 本部長 平田 賢太郎

 

 (要約);

⓵ 原発避難訓練の実施を条件とする原発の再稼動を含む「原発電力の保持」が求められているのは、経済成長の継続による政治権力の維持を目的とした「アベノミクスのさらなる成長」のための要請からです

⓶ 安倍政権は、地球温暖化対策のために国民のお金を使ってもよいとする「温暖化物語」を実行するための国際的な要請を利用して、あり得ない「電源構成のベストミックス」をつくり出して、どうしても、原発電力の利用が必要だとしています

⓷ 化石燃料の枯渇が迫るなかで、その代替として、経済成長を支えるエネルギーを原発電力に依存したのでは、日本経済の成長が望めないどころか、やがて、日本経済を、破綻の淵に導きます

⓸ やがて確実にやってくる化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が生きのびるための「原発電力の保持」を必要としない「原発ゼロ」の平和な世界は、「温暖化物語の終焉」のなかの「世界経済の抑制」のもとで、はじめて、実現可能となります

 

 (解説本文);

⓵ 原発避難訓練の実施を条件とする原発の再稼動を含む「原発電力の保持」が求められているのは、経済成長の継続による政治権力の維持を目的とした「アベノミクスのさらなる成長」のための要請からです

 11月8、9の両日(2019 年)、東京電力の刈羽原発が立地する新潟県の柏崎市、刈羽村で16.55万人の住民のバスやヘリコプターによる避難訓練が行われたと報道されました。これは。原子力総合防災措置法に義務づけられた都道府県の原発事故リスクを避けるための訓練です。3.11福島の原発事故後、稼働を停止している原発の再稼動を実施するための条件として、このような訓練が実施されています。これを言い換えると、政府が原発の再稼動を含めた原発保持の政策を破棄すれば、このような避難訓練を実施する必要はなくなります。

では、何故、いま、政府は、原発避難訓練の実施を、道府県に押し付けてまで、原発を再稼動しなければならないのでしょうか? それは、いま、現代文明社会の成長を支えてきた化石燃料が枯渇して、経済成長が抑制される時代に備えて、政府は、何としても、アベノミクスのさらなる成長を達成するためのエネルギーとしては。原子力エネルギーしかないと考えているからではないでしょか?

私どもの近刊(文献1 )に記したように、この化石燃料の枯渇に伴う世界経済の成長の抑制は、すでに始まっており、先進国の一員としての日本経済も、その流れのなかに巻き込まれています。このなかで、経済のさらなる成長を求めるアべノミクスには、成長の継続のために、化石燃料の代替のエネルギーの獲得の必要に迫られています。バブルの崩壊後、永く続いたデフレ対策に苦しんでいるなかで、東日本大震災に見舞われ、その復興のための経済政策に苦しんでいた民主党から、経済最優先を掲げて、政治権力を奪い返した安倍第2次政権が、その政治権力を維持するために掲げたのが、「アベノミクスのさらなる成長戦略」です。

このアベノミクスの成長戦略のなかに入り込んできたのが、いま、世界中で大騒ぎされている地球温暖化の脅威を防ぐための、いますぐの再生可能エネルギー(再エネ)電力の導入ととともに、化石燃料の枯渇後に、その代替として期待され、すでに、開発・利用がすすめられてきた「原子力エネルギー(原発電力)の保持」でした。

しかし、現代文明社会が、エネルギー需給のなかでの電力の比率を増加させる電力化社会へと移行するなかで、その電力生産を、化石燃料を用いる火力発電主体から、再エネ電力主体に切り替えることは、その発電コストの比較からも、経済的に難しく、時間的にも、いますぐの切り替えには大きな困難があり、思うように進んでいません。それに較べて、原発電力は、3.11 福島事故の前まで、国内発電量の25 % 程度を担っていましたから、それが、事故後、運転停止に追い込まれたものを、せめて、とりあえず、元の値に戻そうとしているのが、いま、安倍政権が進めている原発の再稼動なのです。もちろん、それを踏み台にして、アベノミクスのさらなる成長のためのエネルギーとしての原発電力のさらなる利用の拡大も図られています。

 

⓶ 安倍政権は、地球温暖化対策のために国民のお金を使ってもよいとする「温暖化物語」を実行するための国際的な要請を利用して、あり得ない「電源構成のベストミックス」をつくり出して、どうしても、原発電力の利用が必要だとしています

いま、世界で、経済成長のために使われてきた化石燃料の代替として、政権の維持を目的とした、アベノミクスのさらなる成長のためのエネルギーとして、国民のお金を使う「温暖化物語」として進められているいるのが、再生可能エネルギー(再エネ)電力の利用・拡大のエネルギー政策です。しかし、この再エネ電力だけでは、到底、化石燃料代替の必要電力量が賄えないので、安倍政権は、2017年7月、温暖化対策としての「パリ協定」での2030 年の日本の自主的な温室効果ガス(その主体はCO2で以下、CO2と略記)の排出削減の目標を対2013年比で26 %と決め、この値を達成するための「第5次エネルギー基本計画」での2030年の「電源構成のベストミクス」を、表 1 に示す値を発表しました。

 

表 1 政府が決めた2030年度の「電源構成のベストミックス」の値

(政府が決めた2030年度の電源構成案および2010年度の電源構成の値は2018年3月の資源エネルギー庁資料「2030年エネルギーミックス実現へ向けた対応について~全体整理~」のデータをもとに作成しました)

この表1に示した2030 年の「電源構成のベストミックス」の値は、同表に参考として示した3.11 福島の原発事故の前年の2010年の電源構成の比率と余り変わりがありません。これなら、十分、実現可能な値になっていると考えられます。特に、原発電力について見れば、3.11 以降運転を停止した原発の大部分を再稼動させようとの政府の意図が明白に示されています。

さらに問題になるのは、原発の再稼動による電力の増加で、政府が求めている景気回復のためのアベノミクスが求めるさらなる成長が実行可能になることはないと考えるべきです。すなわち、化石燃料資源枯渇後のエネルギーと期待されている再エネ電力の将来的な利用の伸びが、その発電コストが高いとの経済的な理由から、殆ど見込めないことになります。したがって、アベノミクスのさらなる成長を実行可能にするには、電源構成のなかの再エネ電力の比率を3,11以前より大幅に引き上げざるを得ません。ということは、温暖化防止のためのCO2の排出削減と、政治権力の維持のための景気回復を求める「アベノミクスのさらなる成長」と、二つの異なった目的を満たす「電源構成のベストミックス」など絶対にあり得ないのです。

この科学の非常識としか言いようのない、表1に示す原発電力の比率を含む「電源構成のベストミックス」を実現するためのエネルギー政策を、「温暖化物語」として、多額の国民のお金を使って実行しようとしているのが、「アベノミクスのさらなる成長」を実現するための原発電力に利用・拡大を求める安倍政権による「エネルギー戦略」なのです。

 

⓷ 化石燃料の枯渇が迫るなかで、その代替として、経済成長を支えるエネルギーを原発電力に依存したのでは、日本経済の成長が望めないどころか、やがて、日本経済を、破綻の淵に導きます

やがて、確実にやってくる化石燃料の枯渇後、その代替として大きな期待が持たれた原発電力の開発・利用でしたが、実際に使ってみたら、日本の場合、原発の立地に反対する住民対策としての「原発立地給付金」の支出などにより、日本エネルギー経済研究所編;エネルギー・経済統計要覧(以下、エネ研データ(文献 2 )と略記)に記載のIEA(国際エネルギー機関)のデータをもとに作成した図 1 に示したように、日本の市販電力料金の値が、世界一高くなりました。

図 1  世界の主要国の電力料金(産業用)の年次変化

(エネ研データ(文献 2 )に記載のIEAデータをもとに作成しました)

 

この図 1 に見られるように、各国の市販市販電力料金は、それぞれの国のエネルギー政策により大きく変動しますが、EU諸国における2000年以降の市販電力料金の高騰には、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減のために政治が決めた「再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度」、すなわち、高い発電コストの再エネ電力を電力会社に買い取らせ、それを市販電力料金の値上に反映させる制度が大きく影響しています。このEU諸国における「FIT制度」の適用による電力料金の高騰が、2013~2014年頃から再び低下したのは、この電力料金の値上げに國民が反撥して、この「FIT制度」での電力の買取価格が見直され、低下したからです。さらには、この制度自体が廃止されることになるようです。

これに対して、産業界の反対で、EU諸国に較べて、この「FIT制度」の導入が大幅に遅れて、2012年7月に施行された日本では、この「FIT制度」の適用以前にら、上記したように、原発電力の利用によると考えられる世界一高い電力料金が国民から徴収されていたのです。

ところで、いままで、日本経済が、図1に示す世界一高い市販料金の電力の使用に耐えることができたのは、貿易立国日本の高い科学技術の力と、石油危機以降、高くなったとは言え、この技術力を支えるには、まだ安価な化石燃料を使い続けることができたからです。しかし、いま、「温暖化物語」の実行を促す政治の要請によって、この安価な化石燃料(特に石炭)を用いた火力発電の電力に代わって、発電コストの高い再エネ電力や原発電力を、いますぐ用いようとしているのです。これでは、いま、政府が掲げるアベノミクスが求める日本経済の成長を望むことはできなくなるのです。

それどころか、高い事故リスクを避けるための安全設備の強化のための投資金額や、使用済み核燃料廃棄物の処理・処分や廃炉の費用などの算定不可能な費用を次世代に先送りする原発電力の使用では、日本経済成長の継続を望むことはできないだけでなく、将来的には、日本経済の破滅を招きかねない大きなリスクが存在するのです。

 

⓸ やがて確実にやってくる化石燃料の枯渇後に、日本が、そして人類が生きのびるための「原発電力の保持」を必要としない「原発ゼロ」の平和な世界は、「温暖化物語の終焉」のなかの「世界経済の抑制」のもとで、はじめて、実現可能となります

上記(⓷)したように、世界の経済成長を支えてきた化石燃料の枯渇後、その代替として期待されてきた原発電力の使用が、経済成長に貢献するどころか、却って、日本経済を破滅の淵に導く大きなリスクを背負っています。さらに、特記しなければならないのは、現在の軽水炉型原発の利用では、その原料の濃縮ウランが、人類の破滅を招きかねない原子爆弾(原爆)の原料となるだけでなく、この原発電力生産に伴って、同じ、原爆原料のプルトニウムを使用済み核燃料廃棄物として多量に排出されることです。すでに稼働している原発から、人類を何回も破滅させるプルトニウムが生産されていると言われています。また、この使用済み核燃料廃棄物を処理して、プルトニウムを抽出し、これを高速増殖炉で、エネルギー利用するとともに、核廃棄物による放射線量を低減する目的で開発が進められた高速増殖炉の実用化の目途は全く立っていません。したがって、日本が、そして人類が、化石燃料枯渇後の世界に生きのびるには、「原発ゼロ」の世界を創る以外にありません。

原発事故のリスクの問題と、この使用済み核燃料廃棄物の処理・処分の問題について考えると、地震大国日本だけでなく、世界の全ての国が、原発を持ってはいけないのです。また、すでに持ってしまった原発は動かしてはいけないのです。原発についての安全を言う限り、絶対の安全は、原発を持たないことです。これが科学の真理です。こう言うと、自動車や飛行機はどうだと言われるかも知れません。しかし、これらは、すでに、現代文明社会のなかでは、一定のリスクが許容された範囲内で受け入れられているのです。これに対し、成長のための化石燃料代替の原発電力は、使用しなくとも、私どもが訴えてきたように、化石燃料消費の節減で対応できるのです(私どもの既刊行(文献3 )参照)。さらに、将来的には、化石燃料代替の再エネ電力を利用すれば、原発電力を使わないで済むのです。もちろん、その代償は、成長の抑制となりますが。それが、放射能汚染拡散のリスクを免れることになるとともに、日本が、そして人類が持続可能な世界に生き残ることのできる唯一の道になるのです。

この「原発電力の保持」を不要とする「原発ゼロ」の世界は、いま、世界を騒がせている地球温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減のために求められる再エネ電力のいますぐの利用に、無駄に国民のお金を使う「温暖化物語」の終焉のなかの「世界経済の抑制」のもとで、はじめて、実現可能となるのです。

 

<引用文献>

1.久保田 宏、平田 賢太郎 ; シェール革命は幻想に終わり、現代文明社会を支えてきた化石燃料は枯渇の時を迎えます、Amazon 電子出版、Kindle、2019年11月

2.ネルギー経済研究所計量分析ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2017 ~ 2019、省エネセンター、2017~ 2019年

3.久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉――科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する――電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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