森林を破壊するメガソーラー建設の反対運動が全国規模で広がっています。 FITの適用除外で、何の役にも立たなくなったメガソーラー(大規模太陽光発電)に引導を渡す時が来ました

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ 森を破壊するメガソーラー(大規模太陽光発電)の設置に、いま、全国各地で、大きな反対運動が起こっています

⓶ 発電コストが高いメガソーラー事業では、一部の施設で倒産も起こっているようで、これが、FITでの買取価格の低下のせいにされていますが、これは、FIT制度の持つ矛盾から発生するもので、FIT 制度の適用が無ければビジネスが成り立たないメガソーラーは、化石燃料代替の再エネとしては、その利用が進められるべきではありませんでした

⓷ FIT制度による高い買取価格を適用して導入された太陽光発電(その主体はメガソーラー)は、市販電力料金を大幅に上昇させ、消費者の反撥を買い、EUに次いで日本でも、FITの適用が除外されることになりました。温暖化対策として貢献しないだけでなく、化石燃料代替としての再エネの利用・拡大にも貢献しないFIT制度は速やかに廃棄すべきです

⓸ 化石燃料枯渇後、その代替の再エネ電力は、世界でも太陽光発電に較べて、はるかに多く用いられているうえに、国内でも大きな導入ポテンシャルを持つ、発電コストの安価な風力発電がFITの適用無しで利用されるべきです

 

(解説本文);

⓵ 森を破壊するメガソーラー(大規模太陽光発電)の設置に、いま、全国各地で、大きな反対運動が起こっています

朝日新聞(2019/7/12)夕刊に、“メガソーラー望みません宣言、福島・大王村 農村の景観に「著しく違和感」”の表題で、世界遺産になっているペルーのマチピチューと友好都市提携を行っている「日本で最も美しい村」連合に名を連ねる福島県大王村の村議会が、「メガソーラーの設置を望まない宣言」をしたと報じました。この報道では、さらに、この宣言は、メガソーラーが、自然景観に著しい違和感を与えるほか、(森林の)伐採による土砂災害や、事業終了後の(発電設備の)廃棄物処理を心配する内容になっている。と報じています。

再生可能エネルギーとしての太陽光発電の大規模生産(メガソーラー)事業が、リスクの少ない安定な新規収益事業(ビジネス)として広く受け入れられるようになったのは、地球温暖化対策としての温室効果ガス(その主体はCO2で、以下COと略記)の削減のための新エネルギーともよばれる再生可能エネルギー(再エネ)の利用・拡大のためでした。前世紀の後半頃から顕著になった気温の上昇が、人類の生存に大きな脅威をもたらすとして、これを防ぐために、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が温暖化の原因としているCO2の排出削減のために、使えるものは何でも使おうとして選ばれた再エネのなかに太陽光発電がありました。発電素子を買ってきて、それを組み立てれば、いますぐ電力を生産できる利点は、いま、すでに現実となっている地球温暖化対策用の用途には最適でした。その上で、現時点で、発電コストが高い欠点には、「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」を設けて、このFIT制度での電力買取価格が、この再エネ電力の生産事業がビジネスになるように設定されたので、この甘い汁に群がった人々によって担ぎ上げられてブームになったのがメガソーラー事業でした。

しかし、その設備設置面積当たりの発電量が小さい太陽光発電での大規模電力生産のためには、広い敷地面積を必要とします。単位人口当たりの国土面積の狭い日本では、この国土面積の7割近い比率を占める森林が、メガソーラー設備の用地として求められるようになったのは当然のことでした。

一方、森林の側にも,現状では、その森林が有効に利用されていないという事情がありました。すなわち、建設用の木材や製紙原料のチップなどの林産物原料の生産用地としての役目を担っている日本の森林には、これらの国内需要を満たすに足る面積があるのに、その利用のための木材の生産や、森林管理のコスト(主として人件費)が高いために、需要の7割程度の林産物原料が輸入に依存しています。したがって、日本経済の将来を考えると、できるだけ速やかに、林産物原料の自給体制をつくることが必要です。と同時に、この森林は、治山・治水とともに、生活と産業用の水源の涵養にも重要な役割を果たしていますから、この貴重な森林をメガソーラー用地に提供することは、国土保全の観点からも許されないと考えるべきです。以上、詳細は、私どもの「林業の創生に関する著書(文献 1 )」をご参照下さい。

このような現状のなかで、いま、起こっているのが、地域住民のメガソーラー建設による森林破壊に対する反対運動です。再生可能エネルギー(再エネ)の利用・拡大を図るために設けられた「再生可能エネルギー固形価格買取制度(FIT制度)」が施行された2012年7月以降に急増したメガソーラーが、次第にその規模を増大するにつれて、長野県霧ヶ峰高原の例に見られるように、地球温暖化問題がエコとされ、そのエコを守るための自然エネルギー(再生可能エネルギー)を生産するメガソーラーの建設が、自然然環境とともに観光資源も破壊するとして起こった反対運動は、全国各地に広がり、2019年1月には、「全国メガソーラー問題中央集会」が開かれるまでになっています。本来市民の側に立ってこの反対運動を支持すべき地方自治体には、国のエネルギー政策として進められている再エネ電力生産事業としてのメガソーラー事業を中止させる権限がないようです。

この再エネ電力の利用・拡大を目的としたFIT制度での買取価格が年次低下し、2020年には、メガソーラーへのFIT制度の適用除外が予定されているなかで、FIT制度での設置認定を受けた時の高い買取価格でこの収益事業を開始したいと焦る事業者と反対住民の間のトラブルが続いているのです。

 

⓶ 発電コストが高いメガソーラー事業では、一部の施設で倒産も起こっているようで、これが、FITでの買取価格の低下のせいにされていますが、これは、FIT制度の持つ矛盾から発生するもので、FIT 制度の適用が無ければビジネスが成り立たないメガソーラーは、化石燃料代替の再エネとしては、その利用が進められるべきではありませんでした

メガソーラーを含む再生可能エネルギー(再エネ)の利用でのFIT制度の適用は、上記(⓵)したように、地球温暖化対策としてのCO2の排出削減を目的としたものでした。そのために、いますぐ、使える再エネであれば、それを使うためのコストとは無関係に、何でも使おうとして設けられたのが、FIT制度でした。発電素子を購入して、設備を組み立てれば、いますぐ発電できる太陽光発電に、FIT制度での高い買取価格を設定することで、その利用の拡大が急速に進められました。

FIT制度の適用での再エネ電力の売り上げ金額は、

(再エネ電力の売り上げ金額)= (発電量)×(FIT制度での買取価格)    ( 1 )

で与えられ、この値と、次式で計算される

(発電コスト)=(発電設備コスト)+(設備の維持管理費)         ( 2 )

の差

(再エネ発電事業利益)=(再エネ電力の売り上げ金額)-(発電コスト)  ( 3 )

がプラスになって、再エネ電力がビジネス(収益事業)になるように、(FIT制度での買取価格)が決められています。

ところで、このFIT制度の適用を受けた再エネ電力の(FITでの買取価格)は、FIT制度での認定を受けた時の値が、この再エネ電力設備の使用期間(メガソーラーでは20年)中変わりませんから、FITの適用による再エネの電力生産は、安定した、損失リスクの少ない収益事業だったはずです。したがって、FIT制度の買取価格の高いメガソーラーには、電力生産事業に経験の無い事業者までが、(発電設備コスト)分の金額を借金してまでこの事業に参入したようです。この借金の返済には、生産電力の売り上げ金が当てられますが、メガソーラー電力の生産に不慣れな事業者の場合、発電設備のトラブルの発生などで、電力生産量が減少するとともに、設備の維持管理費が増加し、結果として、借金の返済ができなくなり、FIT制度開始から数年でメガソーラー事業での倒産に追い込まれるケースが出てきたのではないかと想像されます。他にも、出力変動の大きいメガソーラー電力が、在来の系統電源に多量に導入されるようになった一部地域では、これを平滑化する機能にトラブルが生じて、メガソーラー電力の買取ができなくなったりすることが起こりました。そこで出てきたのが、今回のメガソーラーへのFIT制度の適用除外です。

 

⓷ FIT制度による高い買取価格を適用して導入された太陽光発電(その主体はメガソーラー)は、市販電力料金を大幅に上昇させ、消費者の反撥を買い、EUに次いで日本でも、FITの適用が除外されることになりました。温暖化対策として貢献しないだけでなく、化石燃料代替としての再エネの利用・拡大にも貢献しないFIT制度は速やかに廃棄すべきです

上記(⓵)したように、再エネ電力の利用・拡大の目的は、地球温暖化を防止するためでした。そのために、電力料金の値上げで国民に経済的な負担をかけるFIT制度での高い買取価格を設定しても、設備を購入して組み立てれば、いますぐ再エネ電力が生産できる利便性が優先されて、太陽光発電の利用・拡大が世界的に進められました。しかし、この太陽光発電(主体はメガソーラー)電力の高い買取価格による利用は、その利用量が拡大するとともに、日本エネルギー経済研究所編;エネルギー・経済統計要覧(以下エネ研データー(文献 2 )と略記)のIEA(国際エネルギー機関)のデータをもとに作成した図 1 に示すように、市販電力料金の大幅な高騰をもたらしました。この電力料金の高騰が消費者の反撥を買い、FIT制度を先行適用してきたEUにおいて、その買取価格の値下げが行われるとともに、いまや、制度自体が廃止されようとしています。

図 1 世界の主要国の電力料金の年次変化

(エネ研データ(文献 2 )に記載のIEAデータをもとに作成)

 

結果として、ドイツ、イタリア、英国などのEU諸国においては、エネ研データ(文献2 )に記載のBP( British Petroleum )社の 世界の新エネルギー供給データをもとに作成した図 2 に見られるように、日本が再エネ電力の生産にFIT 制度を適用した2012年頃には、すでに、太陽光発電の利用量の伸びが停滞し始めていました。

図 2 世界各国の太陽光発電の年末累積設備容量の値の年次変化

(エネ研データ(文献 2 )に記載のBP社の新エネルギー供給のデータをもとに作成)

 

これに対して、日本での再エネ電力としての太陽光発電量は、この図 2 に見られるように、FIT制度の施行ととともに、急速な伸びを開始し、それが継続しているように見えます。それは、日本での太陽光発電(メガソーラ―)の利用には、温暖化対策の要請とともに、2011年に起こった福島原発事故によって稼働を停止した原発電力の代替としての役割があったためと考えられます。また、EUに較べて、FIT制度の適用が遅れた日本では、再エネ電力の利用量がまだ少なかったので、FIT制度の適用による電力料金の値上げが、それほど顕著でなかったこともありました。しかし、上記(⓶)したように、このメガソーラーについてのFIT制度適用での問題点が顕在化して、少し見にくいですが、図 2 に見られるように、2016年頃から、その伸びが、やや停滞し始めています(図中の緑の線)。これが、今回の政府によるメガソーラーのFIT除外の決定につながっているとみてよいでしょう。これを契機に、地球温暖化対策としてだけでなく、やがて枯渇する化石燃料代替の再エネ電力の利用・拡大にも貢献しないFIT制度は、速やかに廃止されるべきです。

 

⓸ 化石燃料枯渇後、その代替の再エネ電力は、世界でも太陽光発電に較べて、はるかに多く用いられているうえに、国内でも大きな導入ポテンシャルを持つ、発電コストの安価な風力発電がFITの適用無しで利用されるべきです

やがて、確実にやってくる化石燃料の枯渇に備えて、その代替としての再エネが必要となります。エネ研データ(文献 2 )に記載のBP社のデータの新エネルギー供給のデータとして与えられている発電設備容量の値をもとに作成した世界の再エネ電力種類別の発電量の推定値の年次変化を図 3 に示しました。ただし、再エネ電力の発電量の推定値は、

(発電量kWh/年)

=(発電設備容量kW)×( 2,760 h/年) ×(発電設備稼働率 y )       ( 4 )

で計算し、世界平均の設備稼働率 y の値を、

風力; y=0.25、 太陽光;y = 0.11、 地熱; y = 0.70              ( 5 )

と推定しました。

図 3 世界の再エネ電力種類別発電量の年次変化

(エネ研データ(文献 2 )に記載のBP社による新エネルギー供給データをもとに作成)

 

この図 3 に見られるように、世界の再エネ電力で、発電量が圧倒的に大きいのが風力発電です。この風力発電は、EU諸国において、FIT制度が導入される以前から、一定の発電量を持っていました。これに対して、世界の太陽光発電は、FIT制度が導入されるようになってから、その発電量が急増しました。しかし、このFIT制度での高い買取価格によって、電力料金が高騰して、この買取価格が下げられて以降、EUにおける太陽光発電での発電量の伸びは、上記(⓶)の図 2 に見られるように停滞しています。したがって、この図 3 の太陽光発電量の伸びは、主に、中国と日本での伸びによるものです。しかし、日本でのメガソーラーのFIT制度の適用除外と同様のことが、最近、中国でも起こっているようですから、FIT制度の適用がなければ成り立たない、化石燃料代替としての世界の太陽光発電の利用は、やがて、終焉の時を迎えると考えるべきでしょう。ただし、同じ太陽光発電でも、小規模で、出力変動を平滑化する蓄電設備を備えたものが、送電線を必要としないことで、現在、電力供給が行われていないへき地での生活用に特化した利用の可能性があるかもしれません。

ところで、この図3に示すように、再エネ電力として世界で圧倒的なシェアを示す風力発電ですが、エネ研データ(文献 2 )に記載されたBP社の新エネルギー供給データをもとにして作成した図 4 にみられるように、日本では、その発電量が極めて僅かです。

図 4 世界各国の風力発電の年末累積設備容量の値の年次変化

(エネ研データ(文献 2 )に記載のBP社の新エネルギー供給データをもとに作成)

エネ研データ(文献 2 )に記載の国内の2017年度のFIT制度認定の風力発電の発電量は、太陽光発電の1/8 程度です。原因は、風力発電の適地が、北海道の北部や九州の南部で、その電力の利用のためには、送電線の新設が必要だからとされています。しかし、注意して頂きたいことは、この風力発電の国内における導入可能量(ポテンシャル)が、環境省が、FIT制度の導入のためのデータとして、2011年3月に発表した再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書をもとに、私どもが作成した表 1 に示すように、洋上風力を含めた風力発電の発電量は、現在の国内発電総量の約4.7倍もあるのです。温暖化対策としてのいますぐの利用でなくてよいのです。化石燃料の枯渇後、その代替としてのFIT制度の適用無しでの再エネ電力としての風力発電の利用であれば、慌てることはありません。この風力発電の技術開発をじっくりと育てて頂きたいと私どもは願っています。

一方、太陽光発電の導入ポテンシャル量は、住宅、非住宅合わせても、国内発電量の13 % 程度にしかなりません。この導入ポテンシャル調査報告書では、太陽光発電設備用地として、森林は含まれていませんから、FIT制度の適用によるメガソーラの利用では、森林が使われなければならなくなったのです。

 

表 1 再エネ電力種類別の国内導入ポテンシャルの推定値  

(環境省;「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書(平成22年 3月)のデータをもとに作成、私どもの近刊(文獻3 )から摘録)

 

注 *1;環境省調査報告書では、発電設備容量で与えられていますが、これに再エネ発電の種類別の設備稼働率の推定値を乗じて、発電量に換算しました。 *2;環境省調査報告書には記載がありません。国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、用材の生産、使用の残りの廃棄物を全量発電用に利用した場合の私どもによる推算値です  *3 ;各再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの値の国内合計発電量(2010 年)1,156,888百万kWhに対する比率

 

なお、再エネ電力の利用・拡大を目的としたFIT制度の施行後、資源エネルギーギー庁の担当者に、この環境省の調査報告書について尋ねたところ、知らないと言われ驚いたことを覚えています。お役所の縦割り行政の欠陥と言えばそれまでですが、本来であれば、この欠点を正す役割を担っている有識者とよばれる先生方が、その役割を果たしていません。なお、当時、私どもが資源エネルギー庁に伺いたいと申し出たところ、忙しいから来ないでくれと断られたことを付記します。

これが、日本の余りにもづさんなエネルギー政策の実態なのです。

 

<引用文献>

  1. 久保田 宏、中村 元、松田 智;林業の創生と震災からの復興、日本林業調査会、2013年
  2. 日本エネルギー経済研究所計量ユニット編;EDMCエネルギー・経済統計要覧 2019、(財)省エネセンター 2019年
  3. 久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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