再生可能エネルギーの次段階導入はどうあるべきでしょうか? 学術会議主催の公開シンポジウム「再生可能エネルギー次段階の導入に向けて」を聴講させていただいて

東京工業大学名誉教授  久保田 宏
日本技術士会中部本部 事務局長 平田 賢太郎

(要約);

⓵ はじめに;再生可能エネルギーの次段階導入はどうあるべきでしょうか?

⓶ 現状の再生可能エネルギー(再エネ)の導入では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が政治に要求する地球温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減の目的が最優先され、「はじめに再エネありき」の国策として、再エネ導入に必要な課題の科学技術的な評価、経済性評価が行われないで進められていると言って良いでしょう

⓷ 日本におけるこれまでの再エネ電力導入計画では、再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの値が見落とされています

⓸ 赤井氏の講演のなかの技術開発課題として取り上げられている「地中熱の利用」では、その実用化のための社会システム構築の可能性を調査することが求められるべきだと考えられます

⓹ 赤井氏の「再エネ電力を用いたヒートポンプによる給湯用の熱供給」の課題では、かつて用いられた太陽熱温水器の利用について再検討をお願いします

⓺ 質疑応答で話題になった課題(その1); 「FIT制度に代わって再エネ導入を促進する方法はありませんか?」との質問ですが、いますぐの再エネ電力の導入を図る必要がないなかで、国民に経済的な負担を強いるFIT制度は、見直しでなく、即時廃止すべきです

⓻ 質疑応答で話題になった課題 (その2 ); 「水素エネルギー社会は来るのでしょうか?」との質問がありましたが、再エネ電力に依存すよる依存する水素エネルギー社会は幻想に終わると言わせていただきます

⓼ 質疑応答で話題になった課題(その3 ); 「中小水力の利用を拡大できないか?」との質問に関連して、既存のダム式の水力発電を含めて、使用期間(寿命)の長い水力発電の導入可能量を正確に予測する方法の確立が待たれます

⓽ 補遺(1); 質疑応答では話題になりませんでしたが、「再エネ電力の次段階導入に向かって」の重要な課題として、再エネ電力の種類別の「年間平均設備稼働率」の正確な値が求められるべきことを指摘させていただきます

⓾ 補遺(2);再エネ電力といっても、その設備には使用年数(寿命)があります。再エネ電力の発電コストは、この設備の寿命に版比例します

 

(解説本文);

⓵ はじめに;再生可能エネルギーの次段階導入はどうあるべきでしょうか?

今回、2019年3月8日、日本学術会議 総合工学委員会 エネルギーと科学技術に関する委員会 主催の表記の「再生可能エネルギー次段階の導入に向けて」が、次のプログラム内容で行われました。

シンポジウム趣旨説明 柘植綾夫

大和田野 芳郎; 再生可能エネルギー次段階の導入について、現状と課題

中島昭彦:建物一体型太陽光発電の普及に向けて

赤井仁志;再エネ先駆けの地、福島での地中熱利用・未利用熱利用の現状と展望

谷川徳彦;ゼロエミッション実践実例―コマツ製作所の実例―

質疑応答(司会 大久保泰邦) まとめ 大和田野芳郎

このシンポジウムを聴講させていただき、質疑応答にも参加させていただきました。そのなかで、この表記の「日本の再生可能エネルギーの導入のあるべき課題」について、私どもが普段考えていることを、述べさせていただきました。

 

⓶ 現状の再生可能エネルギー(再エネ)の導入では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が政治に要求する地球温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減の目的が最優先され、「はじめに再エネありき」の国策として、再エネ導入に必要な課題の科学技術的な評価、経済性評価が行われないで進められていると言って良いでしょう

いままでの再生可能エネルギー(再エネ)の導入は、前世紀末から顕著になった地球温暖化対策としての低炭素化社会の実現のための温室効果ガス(CO2)の排出削減を目的として、市販電力料金の値上げによる国民に経済的な負担を強いる、EUで開発されたFIT制度(再生可能エネルギー固定価格買取制度)を適用して、その種類を選ばず、やみくもに導入しようとするものだったと言って良いでしょう。

すなわち、「はじめに再エネ電力ありき」の国策として、この再エネ電力の導入の効用を決めるエネルギー収支計算、経済性評価などが一切行われずに、国連の下部機構のIPCCが各国の政府に要請する地球温暖化の脅威を防ぐために、何としても、いますぐの再エネの導入が図られるべきだとされています。具体的には、再エネ電力の導入に際して、その効用が、最も大きくなるように、その種類と、導入の時期が選ばれなければならないはずなのに、そういうこととは無関係に、導入の対象になっている全ての再エネ電力(の種類)について、そのFIT制度での電力買取価格が、それぞれの再エネ電力生産の事業が収益事業として成立するように、政治的に決められています。

 

⓷ 日本におけるこれまでの再エネ電力導入計画では、再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの値が見落とされています

これまでの再エネ導入計画のなかでは、もう一つ、これまでの再エネ電力の導入計画のなかで見落とされているのが、各再エネ電力種類別の導入可能(ポテンシャル)の値が知られないままに、その導入計画が進められていることです。例えば、いま、日本で再エネ電力として最優先で、その利用・拡大が進められている太陽光発電は、そのFIT制度での買取価格が最も高いだけでなく、私どもが、環境省の再エネ導入ポテンシャル調査報告書(文献1 )をもとに発電量に換算した再エネ電力の導入ポテンシャル量を示した 表1 では、太陽光発電の対国内発電量(2010年度)比率の値は、住宅と非住宅合わせても、12.7%にしかなりません。したがって、化石燃料の枯渇後、国内発電量を再エネ電力で賄うためには、導入ポテンシャルの対国内発電量比率が472 %  (4.7倍) もあり、世界で再エネ電力の主体を占めている風力発電の利用・拡大が望まれます。

 

表 1  「再エネ電力種類別の導入ポテンシャル」の推定値 (環境省報告書(文献 1 )

のデータをもとに計算して作成したものを私どもの近刊(文献 2 )から再録しました。)

注 *1;環境省報告書(文献 1 )には記載がありません。国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、用材の生産、使用の残りの廃棄物を全量発電用に利用した場合の推算値です  *2 ;各再エネ電力種類別の導入ポテンシャルの値の国内合計発電量(2010 年)1,156,888百万kWhに対する比率

 

3.11福島の過酷事故によって、原発電力の利用が否定されなければならなくなった日本で、やがて、確実にやってくる化石燃料枯渇後の生活と産業用のエネルギー源は、再エネしかありません。しかし、人口当たりの国土面積の狭い日本では、この再エネ電力の導入ポテンシャルの値を知ることが、再生可能エネルギーの種類別のエネルギー的、経済的な効用の評価とともに、今回のシンポジウム「再生可能エネルギー次段階の導入に向けて」の重要な課題と考えるべきです。

 

⓸ 赤井氏の講演のなかの技術開発課題として取り上げられている「地中熱の利用」では、その実用化のための社会システム構築の可能性を調査することが求められるべきだと考えられます

今回の赤井氏の講演内容は、今後、日本が、地球上の化石燃料資源の枯渇に備えて、その代替としての再エネの開発・利用を進めるに当たって、どのような技術的課題があるかを、福島県での再エネの導入を例にとって、ご指摘いただいた点、有用なものでした。であれば、この調査研究の目的を、単に2040年の福島県の再エネ自給率を100 % とするなどと矮小化することなく、国全体の再エネの利用・拡大のための基礎科学技術的な課題の調査研究にまで広げていただくことをお願いしたいものです。

具体例として、今回の講演(研究)のなかで取り上げられている再エネとしての「地中熱の利用」は、日本ではまだ余り注目されていませんが、欧米では、暖冷房用に、かなりの規模で、実用化が進められているようです。この「地中熱の利用」は、一度、その設備を作れば、その持続可能性が高く、化石燃料枯渇後の真の再エネ利用方式に近い設備として、その大きな効用が期待されます。

一方で、この「地中熱の利用」では、初期の設備建設の大きな投資金額が問題になります。したがって、現段階では、国費の支援による実証試験を行うことで、将来的な、日本における地中熱利用の実用化の可能性を検討するさいに必要な技術的、経済的な基礎データを収集するとともに、将来的な実用規模の住宅団地等に冷暖房用の地中熱利用の事業化の社会システムをどう構築するかの調査・研究が求められると考えます。

 

⓹ 赤井氏の「再エネ電力を用いたヒートポンプによる給湯用の熱供給」の課題では、かつて用いられた太陽熱温水器の利用について再検討をお願いします

赤井氏は、再エネ電力を用いるヒートポンプによる給湯用の熱供給を研究課題とされています。これに対して、私どもは、赤井氏に、同じ再エネの利用による給湯用の熱利用であれば、かつて用いられていた太陽熱温水器の利用を再検討して頂くことをお願いしました。私のお願いに対して、赤井氏は、福島県では雪が降るので、太陽熱温水器は利用できないとのお答えでした。しかし、この降雪の問題は太陽光発電でも同じです。かつての太陽熱温水器は、ピーク時(1990年度)には、家庭給湯用エネルギーの7.7 %程度を占めていましたが、太陽光発電が利用されるようになった現在は、ほとんど使われなくなっています。理由は、同じ太陽エネルギーの利用では、高価な太陽光発電設備の方が、販売店にとって利潤が大きいうえに、消費者にとっても、FIT制度の適用による太陽光発電の電力の売り上げが直接的な利益になると考えるからではないでしょうか? 太陽熱温水器は、太陽エネルギーの直接熱利用であるのに対し、給湯用のエネルギー供給に、太陽光発電の電力を利用したヒートポンプによる熱の生産・利用では、エネルギーの変換工程が二重になり、エネルギー利用効率が低下するだけでなく、消費者にとっての経済性でも太陽熱の直接利用の方が有利になることは明白です。これは科学の原理です。なお、現在の太陽熱温水器は、真空管の利用による大幅な技術的改良が加えられて、給湯用の熱エネルギー効率が非常に高くなっていて、寒冷地でも使えるようで、岩手県の大震災の被災者住宅に設置されていました。以上、太陽熱温水器の利用に関しては、私どもの一人、久保田の著書、脱化石燃料社会(文献 3 )をご参照下さい。

 

⓺ 質疑応答で話題になった課題(その1); 「FIT制度に代わって再エネ導入を促進する方法はありませんか?」との質問ですが、いますぐの再エネ電力の導入を図る必要がないなかで、国民に経済的な負担を強いるFIT制度は、見直しでなく、即時廃止すべきです

再エネ電力の導入を促進するためのFIT制度(再生可能エネルギー固定価格買取制度)は、IPCCが主張する地球温暖化対策としてのCO2排出削減を目的とした再エネ電力の導入を図るために、再エネ電力の生産事業に必要なお金を、市販電力料金を値上げする形で、広く国民全体から徴収する制度です。EUで始められたこの制度は、この電力料金の値上げに対するEU圏内諸国民の反対で、その買取価格の見直し(値下げ)が行われて、その効用が失われるようになり、その導入は大きく停滞しています。

再エネ電力の導入が、地球温暖化の防止が目的であれば、私どもの試算結果(文献 2 )が示すように、世界の全ての国の協力による化石燃料消費を節減すべきです。世界中の化石燃料消費の値を、今世紀いっぱい、いま(2012年)の値以下に止めることができれば、IPCCが主張する温暖化の脅威をもたらすCO2の排出は起こりません。すなわち、FIT制度の適用によるいますぐの再エネ電力の導入は必要がないのです。いま、電力生産の主体となっている火力発電の代替としての再エネ電力の導入であれば、やがて枯渇する化石燃料の国際市場価格が高くなって、再エネ電力を用いる方が、経済的に有利になってから、FIT制度の適用なしに、その導入を図ればよいのです。

いま、その買取価格が問題になっているFIT制度は、見直しではなく、即時、廃止すべきです。

 

⓻ 質疑応答で話題になった課題 (その2 ); 「水素エネルギー社会は来るのでしょうか?」との質問がありましたが、再エネ電力に依存すよる依存する水素エネルギー社会は幻想に終わると言わせていただきます

再生可能エネルギーとして、その利用の拡大が図られている水素が、いま、化石燃料(天然ガス)からつくられているのはおかしいのではないか?との質問に関連して、水素エネルギー社会の将来について議論がありました。いま、福島県を水素エネルギーの生産基地とするとの国のエネルギー政策に関連した質問かとも考えます。

この水素エネルギーについては、今回のシンポジウムを企画された福島県ハイテクプラザ所長の小和田野芳郎氏が、いま、日本で行われようとしている水素のエネルギー利用計画を例に挙げ、疑問を表明されました。すなわち、いま、政府により、中東のサンベルト地帯で、豊富な太陽エネルギーを使って電力を生産し、その電力で水素を製造して、これを、有機化合物と化学的に結合して日本まで輸送し、日本で、この有機化合物から分離した水素で、燃料電池を使って電力に再生する国策が進められていることを例に挙げ、これでは、電力から水素、水素から電力と、エネルギー変換工程が2段となり、エネルギー損失が大きくなるとして、再エネ電力の利用が、自動車を走らせることを目的とするのであれば、国内でつくった再エネ電力を直接用いて、電気自動車を走らせる方がエネルギー的にも経済的にも有利ではないかと、燃料電池車の利用のエネルギー社会の到来に疑問を呈されました。同感です、再生可能エネルギーは、国産できることで、その経済的な意味があるのです。国内で再エネ電力を生産できないとしたら、資源小国日本には、生き残る道はありません。

大和田野氏は、また、化石燃料(石油)の枯渇後の水素エネルギーの利用は、燃料用としてではなく、その化学的な利用が主体になるのではとのご意向のようでした。しかし、化学工学を専攻する私どもに言わせていただければ、化学工業原料の石油は、自動車燃料用の石油の消費が少なくなれば、まだ、当分は使えそうですし、また、化学工業用の製品としてのプラスチックのリサイクル利用、さらには、すでに、その開発技術が確立していますが経済的な理由で用いられていない、資源量が豊富な石炭の液化油の利用も考えられますので、この再エネ電力からつくった水素が化学工業で用いられるのは、遠い将来の話ではないかと考えます。いずれにしろ、720万円もの市販価格に200万円の補助金がついているトヨタの燃料電池車、ミライに試乗した安倍首相により、政治主導で始まった水素エネルギー社会は幻想に終わるでしょう。以上、私どもの考えについて、その詳細は、私どもの近刊(文献2)をご参照下さい。

 

⓼ 質疑応答で話題になった課題(その3 ); 「中小水力の利用を拡大できないか?」との質問に関連して、既存のダム式の水力発電を含めて、使用期間(寿命)の長い水力発電の導入可能量を正確に予測する方法の確立が待たれます

この質問は、赤井氏の講演のなかで、福島県での再エネ電力として、中小水力ではありませんが、在来のダム式水力発電の利用・拡大が訴えられていることに関連しての質問ではないかと考えます。このダム式の水力発電における発電量が拡大できるとする根拠としては、竹村公太郎著の「水力発電が日本を救う…今あるダムで2兆円超の電力を増やせる」が引用され、そのフクシマ版をつくるとしています。この竹村氏の著書では、ダム式の水力発電の設備では、台風襲来時に、下流の水害を防ぐための事前放流を行いますが、気象衛星による正確な降水量の予測ができる今日、この放流の時期と量を調整することによって、現在でも再エネ電力の主体を占めている既存のダム式水力発電量を、余りお金を使わないで大幅に増やすことができるとするものです。しかし、私どもによるこの著書の内容の検証の結果では、この発電の増加量は、「日本が救える」ほどではありませんが、この水力発電の増加量を、より正確に推定できる方法を確立して頂いて、日本の再エネ電力の導入計画に役立てていただくことを赤井氏にお願いします。

 

⓽ 補遺(1); 質疑応答では話題になりませんでしたが、「再エネ電力の次段階導入に向かって」の重要な課題として、再エネ電力の種類別の「年間平均設備稼働率」の正確な値が求められるべきことを指摘させていただきます

電力生産での発電設備容量と発電量との間には、次式の関係があります。

(発電量 kWh) =(発電設備容量kW)×(8,760 h/年)×(年間平均設備稼働率 y )            ( 1 )

いま、電力の生産方式として、火力や水力のほかに、原子力や、さらには再エネ電力が混合して用いられている現状で、国内、或いは地域ごとの生活や産業用のエネルギー源として使われている電力の生産量を表すには、電力生産方式ごとに ( 1 ) 式で計算される発電量を合計したkWhの値が用いられなければならないはずです。ところが、資源エネルギー庁などが発表している電力量の値として、各電力生産方式の発電設備容量kWを合計した値が用いられています。しかし、いま、再エネ電力の主力として用いられている太陽光や風力発電では、( 1 ) 式の(年間平均設備稼働率 y )の値が、火力や水力とは大幅に異なりますから、それらの個々の yの値が正確に与えられ、それぞれの電力生産方式にごとに(発電設備容量)の値から ( 1 ) 式を用いて計算した発電量を合計しないと、正確な電力量(発電量)の値が計算できません。異なった電力生産方式を混合して用いる電力生産の計画では、どうしても、この再エネ電力種類別のyの値が正確に求められる必要があります。

日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー・経済統計要覧(エネ研データ(文献 4 )と略記)に記載の「固定価格買取制度(FIT制度)認定設備容量、買取量」のデータから、( 1 ) 式を用いて試算した再エネ電力種類別の年間平均設備稼働率y の値は、表 2 に示すように与えられます。

 

表 2 再エネ電力種類別のFIT認定設備容量、電力量(発電量)および、年間平均   設備稼働率yの試算値(2016年度の値) (エネ研データ(文献 4 )に記載の「FIT制度認定設備容量、買取量」のデータから本文中の ( 1 ) 式を用いて試算しました)

注; *1 ;  2012年度から2016年度までの各年度の設備容量の新規認定分の積算値  *2; 2016年度の電力量(発電量)の値 *3; 本文中の ( 1 ) 式を用いて試算した年間平均設備稼働率 y の値

 

この 表 2 に試算された「再エネ電力種類別の年間平均設備稼働率 y」の値は、あくまでも、立地条件の異なる国内各地のFIT制度の認定を受けた再エネ電力の平均のyの値です。したがって、地域別の再エネ発電設備の建設を計画するに際しては、できれば、それぞれの立地条件に左右されるy の値を求めることが望まれます。

また、出力変動のある太陽光や風力発電を、化石燃料を用いる火力発電や水力発電と混合して使用している現状では、発電コストの高い再エネ電力の利用効率を高めるために、火力や水力発電の稼働率yの値を調整する(引き下げる)必要があり、総合のエネルギー利用効率が低下することになります。

 

⓾ 補遺(2);再エネ電力といっても、その設備には使用年数(寿命)があります。再エネ電力の発電コストは、この設備の寿命に反比例します

再エネ電力の発電コストは、金利などを無視して次式で概算されます。

(発電コスト \/kWh)=(単位発電設備容量当たりの設備価格 T \/kW)

/(単位設備容量当たりの発電量 P kWh/kW-設備)/(設備使用年数)     ( 2 )

ただし、

(単位設備容量当たりの発電量 P kWh/kW-設備)

=( 1 kWh/kW-設備)×(8,760 h/年)×(年間平均設備利用率 y )   ( 3 )

地球温暖化対策としての温室効果ガス(CO2)の排出削減のための再エネ電力のいますぐの導入が要求されていますが、本稿 ⓺ で述べたように、すなわち、CO2排出の原因となる化石燃料の消費量を、現在(2012年)の値に抑えれば、IPCCが訴えるような、温暖化の脅威は起こりません(私どもの近刊(文献2 )参照)。すなわち、いま、各国にとって、特に、先進国の一員としての日本にとって大事なことは、CO2の排出削減のためにお金のかかる再エネ電力のFIT制度の適用なしでの再エネ電力の利用・拡大ではなく、化石燃料の枯渇後に備えて、その消費の節減でなければなりません。

また、化石燃料の枯渇後の再エネ電力の導入では、その出力変動を調整するために火力発電を用いることができませんから、再エネ発電電力の利用率を向上させるために再エネ電力設備に蓄電設備を敷設することが考えられます。この場合の発電コストは、( 2 )式の右辺の(単位発電設備容量当たり設備価格 T )の値として、発電設備価格と蓄電設備価格の合計を用いて計算されることになります。現在、単位発電設備容量当たり製造コストの安価な蓄電設備の開発が行われています。化石燃料の枯渇に備えての再エネ電力導入の種類と選択と時期を決めるためには、このようなエネルギー収支と発電コストの試算による経済評価が行われるべきことを指摘させていただきます。

 

<引用文献>

1.平成22年度環境省委託事業;平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成23年3月

2. 久保田 宏、平田賢太郎、松田 智;改訂・増補版 化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉—科学技術の視点から、日本経済の生き残りのための正しいエネルギー政策を提言する、電子出版 Amazon Kindle版 2017年2月

3.久保田 宏;脱化石燃料社会、「低炭素社会へ」からのへの変換が日本を救い。化学工業日報社、2011年

4.日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー・経済統計要覧、2018年販、省エネセンター、2018年

 

ABOUT THE AUTHER

久保田 宏;東京工業大学名誉教授、1928 年、北海道生まれ、北海道大学工学部応用化学科卒、東京工業大学資源科学研究所教授、資源循環研究施設長を経て、1988年退職、名誉教授。専門は化学工学、化学環境工学。日本水環境学会会長を経て名誉会員。JICA専門家などとして海外技術協力事業に従事、上海同洒大学、哈爾濱工業大学顧問教授他、日中科学技術交流による中国友誼奨章授与。著書(一般技術書)に、「ルブランの末裔」、「選択のエネルギー」、「幻想のバイオ燃料」、「幻想のバイオマスエネルギー」、「脱化石燃料社会」、「原発に依存しないエネルギー政策を創る」、「林業の創生と震災からの復興」他

平田 賢太郎;日本技術士会 中部本部 副本部長、1949年生まれ、群馬県出身。1973年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了。三菱油化(現在、三菱化学)株式会社入社、化学反応装置・蒸留塔はじめ単位操作の解析、省資源・省エネルギー解析、プロセス災害防止対応に従事し2011年退職。2003年 技術士(化学部門-化学装置及び設備)登録。

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